
この2体のガンダムは、どこの所属(商品カテゴリ)なのだ!?
さてさて。
今回紹介させていただく二つの「1/144 ガンダム」は、正規流通ガンプラとは、金型も原型も全く異なるオリジナル商品でありながら、店頭や通常流通には一切乗ることがない(ヤフオク等の個人転売は別にして)、ガンダムフロント東京、もしくは全国各地の模型店や家電量販店で開催されているイベントなどで、主に模型作り初心者の子ども達に、ガンプラの楽しみ方と作り方を学んでもらって、ガンプラユーザーに育ってもらおうという意図の基に生産された、特殊な立ち位置のガンプラなのである。

このキットをステップに、HGへ必死にいざなおうとするバンダイの姿勢が涙ぐましい。っていうか、加減を知らない父親がHGデンドロビウムとか買ってきたらどうするつもりなんだ家庭破壊
しかし、出自がどうであれ「バンダイのガンプラの1/144 ガンダム」であることに間違いはなく、またその完成度も、HGUCやRGとまでは比較できないものの、あえて子ども初心者向けに低く設定したハードルが生み出す味わいや、それでもバンダイがうまく先回りして用意した完成度の高さなどが伺える異色作ではあるので、シミルボンの再現画像には登場しないが、この連載でも紹介しておくことにした。
商品のコンセプトの入口が狭いので、ミドルエッジ世代のガンプラユーザーには、なかなか手に入りにくい商品かもしれないが、機会があればぜひ手に取って欲しい逸品である。
1/144 GFTガンプラファクトリー RX-78-2 ガンダム 2015年5月1日頒布開始 500円

……あれ? 生産前のガンプラの箱……?

さすがガンプラ“ファクトリー”だ。箱まで自分で組み立てる構造で、箱絵も塗り絵になっているハンドメイド仕様!
ガンダムフロント東京(以下GFT)に2016年に新設された(当時)ガンプラファクトリー体験会で購入できていたキット。
ガンダムフロントの閉店と、コンセプトを変えずに全国のイベントで頒布できる、上位互換の「ガンダム 組立体験会Ver.」が生産頒布されることになったため、現在ではこのガンダムは入手困難になっている。

クリアカラーだからバリューっぽいのか、安っぽいのか。90年代のiMacじゃないんだからさ……とはいえ、棒立ち状態であればカッコいい
この商品は、通常カラーで頒布された2015年バージョンと、2016年最後の時期に頒布されたクリアバージョンが存在していて、それぞれ多少の頒布システムの違いはあるが、型としては同じ商品に分類されるため、今回用意できたのはクリアバージョンだが、まずは通常バージョンの解説から入りたいと思う。

ガンダムフロント東京に入場して、ガンダムヘッドをもらって(左)その上でガンダムファクトリーに参加すると配布されるのが首から下一式(右)
2015年5月から、GFTでは、入場者全員に「1/144 ガンダムヘッドのパーツ」が配布されるようになった。
今回紹介する1/144 ガンダムのキットは、それとは別個に500円を支払うと、残りの全身のパーツと組み立て式の箱、説明書等のセットが買えるというシステムであり、総じてGFTオリジナルアイテムの趣が強かった。

これが中身の全て。本当にこれで全パーツ。森永チョコスナックという単語が脳裏をかすめる
フルセットにするには別個500円と今記載したが、そもそもGFTに入場するには1200円の入場料が必要であり、このキットだけ目当てでGFTに行くのであれば、実際の入手価格は1700円ということになり、キットの出来や仕様を見ると、お高く思えるのは無論、GFTの入場料メインバリューがこのキットではないからである。

付属の組み立て説明書。本当にこれ一枚。いやがうえにも記憶の中で首をもたげてくる森永チョコスナック感
キットの出来や仕様はこの後でまとめるが、このGFTキットの扱いが2016年4月から変わり、そのタイミングでキットもクリアバージョンになった。
クリアバージョンに代わったタイミングで「ガンプラデザインファクトリー体験会」というイベントが催されるようになって、このアイテムがもっと推し出されるようになったのである。

基本、無料で配布されていたガンダムヘッドパーツを使うので、単色な上にクリアパーツなので、造形の良し悪しどころか、ひょっとしたらこれはガンダムではなく、バルディオスのヘッドかもしれないと疑い出すぐらいに確認が難しい
「ガンプラデザインファクトリー体験会」は基本的に無料ゾーンイベントなので、この時点でこのキットは、直接対価自体は無料扱いになった。
その上で、それまでは「組み立てはお家に帰ってからね」だったこのキットが、専用ブースで組み立て前提という風にコンセプトが変わった。

横から見ると悪くはないプロポーション
さてさて、肝心のキットの出来は、というと。
そもそもからして「ガンプラ未体験の幼児層に、ガンプラを完成させる楽しみを体験してもらおう」がメインのコンセプトであり、そこに「無料でガンプラが手に入る」「GFTの外にある1/1ガンダムの模型」というサブコンセプトがあるので、ガンプラとしてのスタンドアローンの評価としては、どこを軸に評価してよいものなのか非常に迷う出来に仕上がっている。

背後から見ても、バックパックがボディの青と同じという違和感以外は、これといって不満はない。動かさなければ……
まず、可動に関してだが、ここは徹底的に「組み立てやすさ」が優先されていて、パーツの分割のついでといった感じで可動するのは、首・肩付け根・腕ロール・手首・腰・股関節・足首といった分割部分だけ。肘や膝は曲がらず伸び切ったまま。ここまで清々しくデクノボーだと、往年の森永チョコスナックのオマケガンプラを思い出させてもらえる仕様だが、ある意味「1/1立像のミニチュア」としては正しいのかもしれない。

これが精一杯、ダイナミックにポーズをとらせた状態。肘と膝に関節がないので、見事にデクノボー
その代わり、最小限の組み立て工程と最小限のパーツ構成という制約の中では、色分けは頑張っているといえる。そもそも無料頒布の頭部部分はまったく色分けはされていないが、胸の青、襟元(元々配布されていた頭部についていた無色クリアパーツと交換)と胸ダクトと前腰ブロックの黄色、腰回りとふんどしとスリッパの赤は成型色で分けられていて、ここはバンダイの意地が見える。

逆向きで必死に動かしてコレ。足首のボールジョイントってなんのためにあるの?
もっとも、バックパックが背中と一体成型なのでボディの青のままだったり、スカートの後ろ腰ブロックの黄色はオミットされていたり、イマドキのソフビのように「背面は手抜き仕様」ではあるが。
1/1立像のミニチュアであるからか、オプションは一切付属しない。ライフル、シールドはおろか、サーベルも背中から抜くようにも出来ていない。
もっとも、ポージングがいっさいできないガンダムに、何を持たせろというのかという意味では英断であろう。

肘にはゆるい角度がついてはいるが、捻ってみたところで、不自然な腕の角度にしかならないので、結果的に固定ポーズと思った方が良い
GFT閉鎖と共に、入手難易度だけはさらに上がってしまったが、筆者のように「1/144 ガンダムは全て集める」とかいう酔狂なモチベーションでもない限り、このキットにバリューを認める人は殆どいないと思われる。
いわゆる「土産物屋のご当地土産」のガンプラ版である。
多分、お台場1/1ガンダムを再現することを目的に、これを徹底的に弄る時間と手間とスキルがあるのであれば、RGガンダムをストレートに組んだ方が絶対に効果と効率は良いと思われる。

こうすれば少しはマシだが、ガンダムは正拳突きはしない。拳も埋まってる造形なので、他のガンダムのライフルやサーベルを持たせることもできない
パーツ構成のカサマシは、あくまで色分割が主な目的であって、可動面に関しては、昔懐かしい70年代の100円プラモを思わせる思い切りの良さが清々しい。
歴代の1/144 公式ガンダムの中に、一つぐらいこんな変わり種が混じっていても良いと筆者は思う。
1/144 RX-78-2ガンダム 組立体験会Ver. 2016年8月6日配布開始 中学生以下無料

こちらのガンダムは、しっかり箱があり、ボックスアートもある。モノトーンが少しプレバン風の味わいを醸し出す
こちらは上記した「ガンプラデザインファクトリー体験会」を、改めて再構成してコンセプトを改めた、「ガンプラ組立体験会」でのみ配布されている1/144 ガンダムキット。

完成した「ガンダム 組立体験会Ver.」の全身。シールを貼っただけの状態だが、色分けと素立ちで見るだけなら、最新のHGUCと見栄えは変わらない
「ガンプラ組立体験会」は、全国のヨドバシカメラや模型店、ガンダムEXPOなどで開催されている子ども向けのイベントで、参加してくれた子ども(中学生以下)にオリジナルのこのキットを無料で渡して、その場でガンプラの組み立てを体験してもらって、持ち帰ってもらおうというのがメインのコンセプトである。

キットのパーツの全て。色分けもレベルが高い上に、カメラアイ等はシールで補う仕様になっている
ここでのポイントは、「ガンプラ組立体験会」イベント参加自体は無料で、そこでのこのキットも無料で配布されるが、基本中学生以下でないと参加できないということと、その場で組み立てて完成させないと(未組立状態では)持ち帰れないということ。
大人でも、手に入れることは不可能ではないが、基本的にはメインの参加者の子どもの同伴保護者に限られるということなどが挙げられる。


組み立て説明書を見ても、足首のパーツ構造などはHGUCに近い
GFT版とは違い、全国のイベント等で手に入れることが出来るため、入手難易度は下がったように思えるが、子どもがいない大人のガンプラモデラーが未組立状態でコレクションしようと思うと、実は地味にGFT版よりも難易度は高くなる。

サイドビュー。ゆるやかなS字立ちが成り立っている
キット構造は、この連載の先で紹介することになる、HGUC 191 ガンダムREVIVE版を、初心者向けに改めて、パーツ数を減らして、組み立てやすく安価に再設計した物へと進化している。
色分けはGFT版と似たり寄ったりだが、完成した状態での可動はGFT版のような棒立ちではなく、かといってHGUCほどにぐりぐり動きはしないが、ビームライフルは付属するという、どの角度から見ても「GFT版以上HGUC版以下の簡易キット」という立ち位置(というか、このキットは最初からそこが目標)。

バックショット。背面の成型色も努力の跡が伺えるが、リアスカートのスクウェアブロックが白いままなのが惜しい
初心者の子どもでも作りやすいようにと、パーツのランナーへの接続がタッチゲート方式で配置されているため、組むだけであればニッパーもいらない親切設計に仕上がっている。

ヘッドパーツのアップ。顔の造形は本当に良い出来。たった一つの赤のパーツの配置が絶妙。
このキットを、そうしたコンセプトを理解した上で、既存の1/144 ガンダムと同じ土俵でレビューしようとするならば(GFT版だと、土俵に自力で登れないという現実がまずあるので(笑))、かなり厳しい評価を下さざるを得ないので、そこはそこそこ、甘い採点方式で今回は見ていきたいと思う。
まず、造形の方向性としては、やはりこのキットも、お台場1/1ガンダム立像のミニチュア版という方向性のアレンジが随所に見られる。
もっとも、ベースになったのはHGUC 191 REVIVE版のガンダムであり、それをパーツ分けや造形で廉価版にしつつ、バックパックなどの細かい部分に、お台場1/1ガンダム立像要素を加えていったという印象。
口さがない言い方をしてしまえばどっちつかずではあるが、もはやここまで増えてしまったガンダムに「正解」などありはしないのだから、これはこれでアリ、と割り切ってしまうことが、精神衛生上一番よろしかろうというのが筆者の結論。

ガンダムファクトリー版とは一線を画すレベルの可動が可能なのだが……
次に可動。
簡易組立体験用キットにしては、必要最低限のパーツ分けで、かなり可動も考えられている。
肘などは二重関節で、初期のHGUC 021版よりも優れているし、手首、足首などはボールジョイントが採用されている辺りは、簡易キットとしては革新的とも言えるだろう。
その代わり、このキットはポリキャップを装備していないので、関節部のヘタリが気になってしまうが、それは簡易キットなので高望みしてはならない。

肩、肘、膝、足首、動きそうなところは一応一通り可動して、自然なポーズも可能だが……
むしろ気になるのは、肩関節の構造で。
肩関節は、なぜか肩アーマーと内部肩ブロックが一体成型の1パーツで成立していて、肩アーマー内で上腕部が独立して開く動きが出来なくなっているという謎の構造。

問題の肩ブロック。アーマーの外装に肩フレームのブロックが一体成型の1パーツで成り立っている
確かに簡易キットなのだから仕方がない、GFT版よりははるかにマシだろうと言われてしまえばそれまでだが、一方で他所箇所にはさまざまに、ボールジョイントや二重関節まで装備したキットでありながら、「肩アーマー内で腕が開けません」は、それこそ先のGFT版を除けば、少なくとも正規商品版の1/144 RX-78 ガンダムでは、ガンプラの歴史の中で初めての珍事となる。
面白いのはその謎仕様のフォローの仕方で、肩アーマーとボディの接続が、HGUC 191 REVIVE版と同じボールジョイント構造(ただし、ジョイント受け部はポリキャップではなくプラ材質だが)になっているので、そこで角度をつけることで、左右方向斜め上に向かっては脇を広げることが出来、しかしその角度は惜しいところで水平までは届かないという、なんともチグハグなフォーマットに落ち着いた(いや、パーツ分割的にもプレイバリュー的にも、普通にここはアーマーと上腕肩ブロックを、パーツ分けしておけばいいのにとは本気で思うが)。

肩の構成。ボディ側のボールジョイント受け部が上方向にはかなり動くので、これで肩脇の開きをカバーする。上腕はただ、肩アーマーに刺さるだけで、肩の動きはボールジョイントのみ頼り
股関節も、スカート分割がされていないだけではなく、両脚の付け根の接続が一軸関節(要は、初代1/144 ガンダムと同じ)なので、開脚も出来ず、スカートが固定なので前後にもあまり動かせず、足首がボールジョイント接続である意味性が全くなくなってしまっていて、ここもチグハグ。

簡易キットなのに肘が二重関節なのは、驚かされるところ
色分けも、GFT版以上に、白、赤、青、イエローはもちろんのこと、そこに手首やバックパックや関節、ビームライフス用のグレーが加えられて、ランナー内パーツ単位で色分けされている。
その中でも特筆すべきは、額のメインカメラが、カメラアイ下の隈取と、顎と、三位一体で赤い1パーツで構成されているために塗装不要で、これまでの1/144 ガンダムの多くでは、メインカメラはカメラアイとセットでクリアパーツで造形されることが多かっただけに、ここは密かに評価に値する部分と思われる。
その分、ふんどしのフロント部分が、ここは普段、赤成型パーツでV字マークだけシールや塗装というケースが多いが、このキットではフロントスカートの四角いブロックと共にイエローの1パーツで成型されているので、付属のシールを貼るか塗装しないと、そのままだと違和感が半端ないという弱点もあり。チグハグだなぁ。

足の前後可動幅(開脚は出来ない)。スカートアーマーは固定なので開かないが、クリアランス的にはまずまずだろう
合わせ目は、HGUC 191 を意識して、脛パーツなどは簡易キットなのに前後アーマー分割でパーツ分けをしていたりする一方、腕やボディや太腿は、ガッツリ接続線が出るようになっているなど、こちらもやはり、チグハグ。

肩のボールジョイントを活用することで、ボックスアートのようなポーズもギリギリ可能に
武装は、ビームライフルこそ付属しているものの、サーベルどころかシールドがない。
ないない尽くしだったGFT版よりはマシかもしれないが、ライフルだけ握って、シールドがないガンダムという姿もなかなかしまらない(しかも、ライフルを両手で構えられるわけでもない)。
しかもそのビームライフルも、1パーツなのは簡易キットなので仕方がないにしても、なまじHGUC 191 REVIVE版を基にしてしまったため、同じ1パーツライフルでも、初代1/144やFG1/144と比較して、肉厚に作られてしまったため、逆に右片面に肉抜き穴が多数発生してしまって見栄えが悪くなるという、あぁチグハグ。やっぱりチグハグ。

左側面から見ると普通に出来の良いビーム・ライフルだが……

右側は肉抜き穴だらけで見る影もない。このキットを徹底改修するのであれば、ここはぜひ手を加えたい部分
……とまぁ、ところによっては最新HGUC以上、ところによっては初代キット以下と、まぁチグハグ連呼の、なんともおかしな設計概念のキットなのだが、それもこれも、GFT版のように、ゼロから簡易キットを設計したのではなく、HGUC 191 REVIVE版をベースに、よりHGシリーズに近い仕上がりで、なおかつ初心者の子どもでも組み立てられる難易度で、なおかつ無料で頒布してもバンダイに負荷がかからないコストで……と、様々な要素が絡み合い過ぎた結果、このなんともいえない「チグハグガンダム」が出来上がってしまったというのは、ガンプラの歴史を見渡していく中では、ある意味珍事でありながらも、決して失望やイライラを呼ぶような現象ではなく、実に微笑ましい状況であるとも言えるわけだ。

トリックアートのようだが、こちらの角度から、こういうポーズをとらせれば、肩のボールジョイントの可動範囲のおかげで、ライフルを両手で持っている「ように」見せることは可能
その“状況”とは、現状「1/144のガンダム」の選択肢がこれだけ広がっていることそのものであって、確かに2017年現在で、手に入る1/144 ガンダムが、このキットしか選択肢がないとなれば、ふざけるなバンダイ、責任者出てこいという気分にはなってしまうかもしれないが、上記したGFT版と共に「イベント限定」で「ガンプラ未体験の子どもに、ガンプラの楽しさを体験してもらおう」という主旨で配布される素材としてのみ見た時には、どちらもそれなりの、拘りと割り切りがあって趣深いのではないだろうか。
なんにせよ、今回紹介した2つも、れっきとした「バンダイ」の「1/144 RX-78 ガンダム」の「ガンプラ」のバリエーションである。
今回は、そうした「背景の事情」「商品成立の事情」を体現するため、どちらも未塗装、素組で組み上げたものを撮影に用いている。
市川大河公式サイト