
今、お台場に立つガンダムの雄姿!(の即興再現)
今回紹介するのは、 6度目の商品化となった、お台場ガンダムの1/144 キットと、雑誌の付録についていた、モビル・スーツのベッドでもあ るMSハンガーです!
ガンダム 1/144 HG Ver.G30th 2009年7月 1200円

ハードディテールHG 1/144 ガンダム第1号のVer.G30thのボックスアート
ガンダム放映30周年記念のこのガンプラ。
一番最初の旧1/144から数えて、旧1/144 旧1/144Gアーマー版、絶版HG、FG、HGUC 021と、さすが元祖の主役で初代で始祖。
1/144スケールだけでプラモデル化されること、この時点で6回目(ここから2016年までで、テレビアニメ版だけであと、4種類が追加される)。

新生1/144 HG Ver.G30thガンダムの全身
なんどめだがんだむ

こちらは実際のお台場1/1ガンダム
本当に、何度「これが1/144ガンダムの決定版です」と謳う気なのかバンダイと、ツッコミたくもなるが、今回ばかりはちょいとコンセプトが異なっているのだ。
ホラ、皆さんも知っているでしょう?
2009年から東京お台場潮風公園に展示され、50日で400万人の観光客を招いた、1/1 実物大ガンダムの立像を。
今回紹介する、1/144ガンダム HG Ver.G30thは、『機動戦士ガンダム』(1979年)放映30周年を記念して建てられたその立像の、正確な1/144プラモデルという触れ込みで、つまり、ガンプラ史上初の「モデル元の実物が存在するスケールキット」として開発、発売がされた代物なのである。

Ver.G30thガンダムのリアビュー
立像のお披露目と、このプラモデルの発売タイミングにあまり隙間がないことからも、当初から立像と模型化はリンクしてプロジェクトが進んでいたようで、この1/144 HG Ver.G30thの発売時も、以下のようなアナウンスがバンダイから発せられた。
「機動戦士ガンダム放映30周年を記念し、新規に起こされたデザイン。現在のガンダムは、これまでの30年を支えてくれたファンのおかげであることに感謝し、ファンの持つイメージを変えないことを基本にしつつ、アニバーサリーイヤーにふさわしいアレンジを追加し、新しいバランスを目指したデザインである」
言っている意味がよくわからないが、要するにバンダイ的には、30周年で区切りもよいし、大枚はたいて1/1立像まで作っちゃったから、もうこれからのガンダムのスタンダードデザインは“コレ”でいきますという、そういう意思表示なのだと受け止めざるを得ないのだが、一応“2009年当時”はそのつもりだったのだろう。後述するがその後バンダイは、このHG Ver.G30th版を使って、様々な企業やイベントとタイアップして「決定版ガンダムプラモデル」の印象をアピールし続けるのである。
もっともこの説は、翌年、いきなり1/144で、さらにデザインが複雑変化したリアルグレード・RG版1/144ガンダムが登場する流れの時点で怪しいが。

1/144 ガンダムとしては、久々にバーニア装備のバックパック
まぁ、RGとの共存可能性としては、RGが1/144スケールなのに、半端なく細かいパーツとディティールと可動で、初心者一切お断りの勢いでハードルをガンガン上げていったのに対して、こちらのHG Ver.G30thの方は、難易度もパーツの大きさも初心者向けにわざと緩めに設定されていて、付録冊子や組み立て説明書なども、露骨にガンプラ初心者への入門ガイド的な立ち位置を見せている。
マニア相手ビジネスだけだと先細りするだけなのだから、もう一度ガンプラを一般層にも認知してもらおう、購買層を広げよう、そう思えばこそのガンプラ販促を目的とした、1/1立像だったと思えばいろいろ納得がいくのだが、一方でこのHG Ver.G30thは、そういうアレコレで「初心者でもだいじょうぶ!」を謳っている上に、それこそスケールモデルとしての模型元となる1/1ガンダム立像が「ただ立っているだけのデクノボー」であるためか、ガンプラの29年の積み重ねの上での、大事なテクノロジーアピールポイントであるべき、可動性とその練りこみが、見た目を大きく裏切るレベルで、残念な範囲で終わっているのである。

白く塗りつぶしてはいるが、HG Ver.G30thの肘関節のディテール
だって、この関節部のディティールを見せられれば、誰だって肘と膝は二重関節だと予測するでしょう?
確かにこの1/144 HG Ver.G30thは、ディティールは1/1立像に果てしなく近づけようと頑張ってはいるんだけれども、可動面では、8年前に発売された、HGUC 021と同等か、それより少し上程度なのである!

実際の肘は、一軸可動としてはよく曲がる方ではあるが……

同じく膝関節。こちらも一見すると二重関節のように見える

膝関節の実際の可動範囲。シルエットを壊す二重関節よりは、この方がまだ自然だという意見には頷ける
それも含めて、筆者の私見だけでこの1/144 HG Ver.G30thの短所・欠点を挙げていくとこうなる。
「さすがに1/144スケールサイズで、1/1ガンダムのディティールの全てを再現することが不可能なので、アイテムのコンセプトから鑑みると非常に中途半端な仕上がりに落ち着いている」
「肘や膝など、デザイン的には二重関節に見える部分が、なぜか現行HGUCクオリティに逆行するかのように、一軸関節でしかない」
「手首が左右で4種類しかない(しかも、そのうち3種類は、右手である)」
「シールドが、二の腕と背中にマウントできるだけで、左手で掴んで握ることが(シールドの接続方式的にも、左手が握り拳1種類しかない的にも)出来ない」
「2009年のHGブランドなのに、ビームサーベルが柄と一体成型の白一色仕様。8年前のHGUC 021版でさえクリアパーツだったのに。2010年の1/1立像ビームサーベル(当然実物なので、三次元の固体で成型されている)持ちVer公開に合わせたのか?」

HG Ver.G30thの顔アップ。顔立ちはここまでの歴代1/144 ガンダムの中ではトップクラスではある

左手首は、この、穴もない握り拳一つしか付属してこない
等々。どないせーっちゅうんじゃ的な。
要するに、もはやこのキットは、HGUCブランドの基本フォーマットから大きく外れていて、あえて言い切るのであれば、1/1ガンダム立像のスケールキットとして、なおかつ殆どの色単位でパーツが分けられた、その完成状態は、むしろ10年前に発売された、FG(ファースト・グレード)のハイエンド版とも受け取れる仕様になっているのだ!
(……もっとも、それならそれで、このキットの中に付属品として入っている、ビームライフルやハイパーバズーカ、ましてやガンダムハンマーなんぞは、「なにをスケールダウンさせたミニチュアなのだ?」という話にはなってしまうのだが……)

なので、ビームライフル自体の造形と出来は悪くないのだが……

肩のスライド可動で、しっかり左手は、フォアグリップまでは届いてはいるのだが……握れないのは致命的か
それだけではない。
当時、よほどバンダイは、予想以上の立像への反響の大きさに、調子の乗りすぎたのか、今が稼ぎ時だと判断したからなのか、なんとこの1/144 HG Ver.G30thは、この手のフィギュア商法の基本でもある、メッキ仕様やクリア仕様から始まって、やれセブンイレブンカラーだ、やれ三井住友VISAカードVer.だ、SANKYO ORIGINAL Ver.だ、様々なタイアップのバージョンや成型色を変えただけのバリエーションが増殖し、最終的には2015年までに、25種類のバージョンを出すという、前人未到の謎ビジネスを見事に展開してしまったのだ!

左手が何も握れないので、シールドの保持も、前腕のスリットに軸を刺し込むだけの仕様なのだが……ここだけ観るとFGレベルにまで接続ギミックが後退している
だがしかし、「これがバンダイが決め打ちした、1/144ガンダムの決定版です!」は、上記したようにいきなりRG新発売で、翌年には上書き修正されてしまうわけで、挙句の果てには2015年には、オールガンダムプロジェクトと称した「全主人公ガンダム 統一フォーマット HGUC 再新規商品完全展開」のビジネスの中で発売された、「デザインやプロポーション的には、HG Ver.G30thやRG版の流れを汲みつつ、最新のHGUCの可動領域を確保した、再・再・決定版」たるHGUC 191 ガンダムの登場により、いきなりもう「あのお台場ガンダムのミニチュア版」としてのアイディンティティ以外は残らなくなってしまい、なおかつこのたびバンダイは、2017年にはガンダムフロント東京とともに、ガンダム立像を撤去する決定をしてしまったものだから、もはやなんの値打も残らない代物になってしまったぞ、HG Ver.G30th。
まぁ、25種類もバリエーションを展開したのだから、金型の減価償却なんかはとっくに黒字で採算はとれたのだろうし、もうそろそろ“いつもの”黒歴史になるのではないかと、心配することはやぶさかではない。

一軸可動構成ではあるが、ポージングの幅はそれほど狭くはない。しかし、シリーズ、いやジャンルの主役のガンダムの決定版としては……
今回、筆者がこのHG Ver.G30thを手に入れたのも“最新技術で使い勝手の良いガンダムハンマーが欲しかったから”だけだという……。
1/144武器セットにガンダムハンマーはついているんだから、使いたければそれを使えば良かったんやと、そう思うぐらいには本当にコレ、後悔してますんで、どうかお許しください。

本商品の付属武器一覧。なんでこの取捨選択でガンダムハンマーだったのか。ガルマ専用ザクのマゼラトップ砲のような隙間商売を思い出させる
一応、キット本体も組んで、いつものように、関節と首をクールホワイト、青部分をUG14 MSライトブルー、手首を濃緑色で、それぞれ塗装して組んではみたが、HGUCの021と191に挟まれると、個性もアイディンティも中途半端でなんというか……。
少なくとも、これの発売時点でHGUC 021とFGがなければ、「アニメ版とリアル版の間を上手く掬い取った、良好なバランスのガンダム」としての存在感は確保できたんだと思うんだけどなぁ……。
あ、頭部の造形は、この後も続く歴代1/144ガンダムの中では、一番「精密で」「アニメ版の安彦作画版」に似ております。
これを、HGUC 021や191に乗せるミキシングはアリじゃないっすかね。

コスパ狙いだったのか、作りやすさ優先だったのか。今となってはバリューが絞り込めない仇花ガンダムとなってしまった。
まぁ、それはアリなんですが、一方で大河さんの『機動戦士ガンダムを読む!』再現画像では、いつか出そう、いつか出そうと思っておきながら、この1/144 HG Ver.G30thは、解像度はアニメ版から一番遠いくせに、可動範囲はその後のHGUC 191 ガンダムに遠く及ばないという中途半端さが仇になって、『機動戦士ガンダムⅢ めぐりあい宇宙編』(1982年)再現は全てHGUC 191 ガンダムで演じさせてしまったため、この1/144 HG Ver.G30th版、関節部分と拳や武器を、わざわざ『機動戦士ガンダムを読む!』統一レギュレーションで塗装したのだが、最後まで登場させるに至らなかった(汗)
なので、今回はお台場ダイバーシティ東京前の画像を、造形モチーフ元になぞって画像を一枚だけ作ってみたが、これをやるなら関節や拳は塗らない方が良かったという、大河さんの「後先考えなさ」が満載の結果と相成りました。
電撃ホビーマガジン 2010年 9月号 付録 1/144 HGUC 機動戦士ガンダム ホワイトベース MSハンガー

電撃ホビーマガジン付録のパッケージ。付録らしく、あえて段ボールの質感を活かした包装がこの付録シリーズのお約束
MSハンガー! ハンガーっつうても、『刑事物語』(1982年)で武田鉄矢がカンフーで振り回してたアレじゃないぞ! 木の奴とか関係ないからな!
MSハンガー! 役割としては『機動警察パトレイバー』(1988年)のレイバーキャリアみたいに「主役ロボットを乗せる台」なんだけど、別に自走するわけでもないし、専用キャラがいるわけでもなく、本当に「1/144 ガンダムを飾る台」でしかないぞ、MSハンガー!

完成したMSハンガー。今回は2セット用意したが、いつぞやのガンダムトレーラー以上に、ガンダムがいないと「なにがなんだか分からない代物」扱いになる
いきなりですが、これを読んでいる女性の皆さん(え、いるの?)。10年ぐらい前から、女性向けファッション雑誌で、ブランド物のポーチやアクセが付録についたりして、そっち目当てで雑誌を買ってしまうというような現象、ありませんでしたか?
いや、いきなり過去形で書いてしまうのもなんなのだけれども、今回紹介する「機動戦士ガンダム ホワイトベース MSハンガー」も、電撃ホビーマガジンという角川書店の模型雑誌の2010年9月号についてきた付録であり、こと模型雑誌は、この時期こういったオリジナルの模型を付録につけたり、既存のキット金型改修版を付録につけたり、そういった事例がいきなり増えてきていた時期だったのである。

正面から見たMSハンガー。とりあえず、アニメの設定どおりの構造とディテールではある
それにはそれで、ちゃんと裏付けと法的根拠があって。
まずは、「雑誌業における景品類の提供の制限に関する公正競争規約」が2006年に改正されたというのがある。
また、付録の提供は景品表示法の規制をうけることになるのだが、以下がその付録(出版物の付録は、「雑誌購入者全員プレゼントの景品」と解釈される)に関する制限事項。
一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限
1一般消費者に対して懸賞(「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」(昭和52年 公正取引委員会告示第3号)第1項に規定する懸賞をいう。)によらないで提供する景品類の価額は、景品類の提供に係る取引の価額の10分の2の金額(当該 金額が200円未満の場合にあつては、200円)の範囲内であつて、正常な商慣習に照らして適当と認められる限度を超えてはならない
簡単にいえば、それまでは窮屈だった「雑誌の付録」に対する規制緩和である。
これらの改正、法整備を受けて、雑誌類はそれこそ2000年代中盤から、ホビー雑誌からファッション雑誌まで、付録合戦の様相を呈してきたのだ。
それはまぁ、エンドユーザー的にはありがたいこと他になしな流れであるのだが、一度「そっち」でビジネスが風向きを変えると、今度は読者の期待を裏切ってはいけないと、その流れを止めようにも止められなくなるのも市場原理。
ここで、web版日経が宝島社にリサーチした、「付録付き雑誌の現状」のコラムを少し引用しよう。
女性誌の豪華付録を脅かす素材高 :日本経済新聞

せっかくなので、今回紹介した1/144 HG Ver.G30thガンダムを乗せて、モデリングベースに設置してみた。当たり前だがサイズはピッタリで、なかなか雰囲気も出ている
まぁ、ガンプラのコラムでお堅い文章を長々書いたり引用しても無粋、というわけで、この辺にするが、しっかり踏まえておきたいのは、2006年以降の出版不況で、豪華付録付き商法が、一気にバブル化を起こしてしまっていて、模型雑誌をくまなく俯瞰すると、そのバブルの間に、正規商品化されないようなレアアイテムが、こうして雑誌付録の形を借りて、商品化されていたりしたということ(それからたった数年で、、2011年には、そんな「雑誌付録バブル」も崩壊したという経済専門家の見方も増えている)。

『機動戦士ガンダムⅢ めぐりあい宇宙編』冒頭での、ガンキャノン出撃シーン再現の1コマより

MSハンガーを背景に、今、カタパルトから射出されようとする、ハヤトのガンキャノン109!
かくいう電撃ホビーマガジンでも、今回紹介するMSハンガーの前月、2010年8月号では(いずれこの連載でも紹介する)ガンプラならぬ「イデプラ」の、伝説となったアオシマ1/810スケールのイデオンのキット(当時価格300円)が、イデオンらしく深紅の成型色で、『伝説巨神イデオン』(1980年)放映30周年記念という触れ込みで、丸々キット一つが付録としてついていたほど。
そういった「模型雑誌の模型付録ラッシュの時代」を背景に、このMSハンガーの解説をしてみたい。
このMSハンガーは、『機動戦士ガンダム』劇中で何度か、ホワイトベースのモビル・スーツデッキの描写で登場していて、ガンダムやガンキャノンのメンテナンスハンガー、固定用ベッドとして登場していたサポートメカである。
特に、完全新作画で彩られた、劇場用映画『機動戦士ガンダムⅢ めぐりあい宇宙編』(1982年)冒頭での、ガンダムと2機のガンキャノン発進シークエンスでは、印象的に登場機能されていたので、今回の『機動戦士ガンダムを読む!』連載での再現画像でも、ぜひ『めぐりあい宇宙編』再現冒頭では欲しかったアイテムなのだ。

後部にはシリンダーがあり、ダミーではなく実際にハンガーの角度をここで変えることが出来る
なるほど、確かにこのMSハンガーは「あると嬉しいアイテム」であるが、単品で売り出して需要があるほどとも思えず(もっとも、いまやガンプラ最大の競合商品となった、同社のROBOT魂では、2017年になって、カタパルトデッキと共に商品化されたが)、何か他のガンプラのオマケでセット売りするにしても、前回のザク地上戦セットのように「巻き込み事故」を起こしそうなアイテム。
このMSハンガーは、パーツ数も10数個と適度で、雑誌の付録としては的確なチョイスである。

横から見たシリンダー2セット。左が最大に寝かせた状態であるが、最大までシリンダーを可動させても、あまり劇的な角度の変化は望めない。
一応ギミックとしては、後方から支えるシリンダーと連動して、ハンガーのベッド部分が後ろへ向かって角度をつけられるように出来ており、1/144のガンダムやガンキャノンを飾るときのベースとしては、ツボを押さえたバリューになるとも言えるだろう。

単品として見た時のMSハンガーは、やはり雑誌付録に相応しい
今回は、これを2つ揃えて、ホワイトベース内部のMSデッキを再現するのに役立ててみた。
雰囲気だけでも伝われば幸いである。
市川大河公式サイト