卍(まんじ)
「卍」は、谷崎潤一郎の小説が原作です。内容は簡単に言ってしまうと両性愛の女性と関係を結ぶ男女の愛欲の物語です。中でも官能的なレズシーンは大きな見どころといえます。
ビジュアル的な小説といえるのでしょうね、過去に5度も映画化されています。
・1964年 監督:増村保造。脚本:新藤兼人。出演:若尾文子、岸田今日子ほか
・1983年 監督:横山博人。脚本:馬場当。出演:樋口可南子、高瀬春奈ほか
・1985年 監督:リリアーナ・カヴァーニ。出演:グドルン・ランドグレーベ、高樹澪ほか
・1998年 監督:服部光則。出演:坂上香織、真弓倫子ほか
そして一番新しいのが2006年の監督・脚本:井口昇。出演:不二子、秋桜子などが出演したバージョンです。
どれもエロチックで刺激的ですが、お勧めは若かりし頃の若尾文子と岸田今日子が主演した最初の映画です。

卍(まんじ)
とにかくこの2人が美しい。エロチック全開でもあります。そしてひたすら情熱的。その様子は滑稽ですらあります。全て関西弁というところがこれまた独特のムードを醸し出していて実にいい感じです。

徳光光子と柿内園子
思っていた以上にと言っては失礼ですが、岸田今日子が可愛いです。色気とはこういったものなのでしょう。出来ることなら結婚したい!そう思わせるに十分な魅力を振りまいています。
そして、一方の若尾文子。これまた魅力的です。小悪魔的な難しい役どころだと思いますが、見事に演じ切っています。
この映画は、この2人の存在なくしては成り立たないと言っても過言ではないでしょう。
谷崎潤一郎
原作は谷崎潤一郎。言わずと知れた日本を代表する作家の一人ですね。

谷崎潤一郎
「卍」は、1928年3月から1930年4月まで断続的に雑誌「改造」に掲載され、1931年に単行本として刊行されました。
若尾文子と岸田今日子が出演した映画は、ほぼ原作に忠実に作られています。
あらすじ
若尾文子が演じる光子と岸田今日子の演じる園子の同性愛を軸に、園子の夫・柿内考太郎(船越英二)と光子の婚約者・綿貫栄次郎(川津祐介)の男性2人を絡めた、男女4人による性と官能に溺れたまさしく「卍」がらめの関係が目まぐるしく展開する愛欲のドラマです。

卍(まんじ)
物語は園子が先生に告白するという形式で進んでいきます。
美術学校に通い始めた園子はそこで徳光光子という美しく魅力的な若い女性と知り合うのですが、学校で「2人は同性愛者ではないか」という噂が広まります。

徳光光子と柿内園子
最初はただの噂に過ぎなかったのですが、2人は会うたびに互いに惹かれあい、遂に同性愛関係となります。このことはやがて園子の夫である孝太郎に知られてしまうのですが、園子は光子との関係を断つことを拒否するのでした。
幸せな日々を送っていたある日のこと、光子の妊娠が判明します。光子に裏切られたと思いながらも光子を忘れることが出来ない園子。
そんな最中に光子の婚約者である綿貫栄次郎が園子の前に現れ、光子との関係をお互いに続けていくために姉弟になろうと誓約書を持ってきます。
異常と思える行為ですが、園子は印を押すのでした。
園子と綿貫栄次郎を手玉に取る光子でしたが、綿貫栄次郎に嫌気がさし別れを決意します。園子も夫・孝太郎との仲がこじれていたこともあり2人で死なない程度に睡眠薬を飲むという偽装心中を行います。
園子の意識が混濁している最中、なんと光子は園子の夫・孝太郎と関係を結ぶのでした。
そして、関係は切れたものの、園子、光子、孝太郎の三角関係を綿貫栄次郎に知られてしまいます。

園子と孝太郎に睡眠薬を飲ませる光子
「好き言うたら絶対的な気持ちやから、死んでも後悔せん」というセリフが何とも印象的ですが、栄次郎によって三角関係を世間に暴かれた3人は心中を選びます。
しかし、園子だけが取り残されてしまうことに。
死んでしまった光子を憎いと思いつつも、今でも変わらない愛を感じる園子なのでした。
スタッフ
監督は増村保造。増村保造は東京大学法学部を卒業に東京大学文学部哲学科に再入学しているというインテリです。1952年にはイタリアに留学し、フェデリコ・フェリーニやルキノ・ヴィスコンティらに師事しています。

増村保造
溝口健二や市川崑の助監督をつとめた後、1957年に映画「くちづけ」で監督デビュー。勝新太郎主演の「兵隊やくざ」や市川雷蔵主演の「陸軍中野学校」など多くの映画をヒットさせています。
1970年代以降は、テレビドラマを中心に活躍し、「ザ・ガードマン」、山口百恵が主演した「赤いシリーズ」、「スチュワーデス物語」などが代表作です。
脚本を担当したのは、後に映画監督も務めるようになる新藤兼人です。

新藤兼人
脚本家としては、キネマ旬報ベストテンで1位にもなり大ヒットした「安城家の舞踏会」をはじめ、吉村公三郎監督とのコンビで多くのヒットを飛ばしました。
39歳の時に、念願の監督としての最初の作品「愛妻物語」を発表し、「偽れる盛装」、「裸の島」。「裸の十九才」、モスクワ国際映画祭で金賞を受賞した「生きたい」などがあります。