博多っ子純情
当時、東京の江戸っ子、大阪の浪速っ子と言う言葉に対する言い方が福岡にはありませんでした。博多っ子といういい方は、漫画「博多っ子純情」の作者である長谷川法世の造語です。

長谷川法世
博多っ子純情が週刊誌「漫画アクション」に連載され始めたのが1976年です。この漫画が、映画化にもなるほど大ヒットしたことで、「博多っ子」という言葉が定着しました。
当時、地方を舞台とした漫画はほとんどありませんでした。有名なところでは、土佐の小さな漁師町と大海原を舞台にした「土佐の一本釣り」の連載が始まったのは1975年で、大阪の下町を舞台とした「じゃりン子チエ」が同じく週刊誌「漫画アクション」に掲載されるようになったのは「博多っ子純情」連載開始から2年後の1978年のことです。
全国的に見れば福岡と博多の区別がつかない人が多いのではないかと思われますが、当時「博多っ子」と言われて福岡を連想される人はこれまた少数だったでしょう。
しかも、関西弁と違い博多弁はそれほど認知されていませんので、地元でもあまり使われない言葉が目一杯出てくるセリフには多くの読者が戸惑ったのではないでしょうか。
しかし、博多っ子純情はヒットしました。

博多っ子純情
ところで、単行本の表紙にある筆文字で書かれたタイトル博多っ子純情の博多の「博」に「﹅」がついていません。単純な見落としによるものだそうですが、当初は作者すら気づかなかったそうですよ。
増刷されてからは、訂正されています。
登場人物
主役を務めるのは、主人公の郷 六平(ごう ろっぺい)をはじめ、阿佐 道夫(あさ みちお)、黒木 真澄(くろき・ますみ)の悪ガキ3人組です。
郷 六平は男気があってナイーブな少年です。コミカルな阿佐 道夫、バンカラな黒木 真澄とそれぞれに個性があって魅力的。しかも、どのキャラクターも博多っ子といった感じです。

登場人物
この悪ガキ3人組は、映画化になった際、絶妙のキャスティングと言いますか、実にそっくりなのに驚かされます。
映画で主役の郷 六平を演じたのは光石研です。NHKの大河ドラマをはじめテレビ、映画に毎年何本も出演している売れっ子の俳優ですが、これがデビュー作になります。

光石研
ヒロインは郷六平と幼友達の小柳類子(こやなぎ るいこ)。何というか、やはり博多の女の子といった感じがとてもします。特に美人というわけでもないのですが、だんだんと可愛く見えてくるから不思議です。

郷六平と小柳類子
映画では小柳 類子を当時アイドルとして人気があった松本ちえこが演じています。

郷 六平と小柳 類子
いやぁ~、松本ちえこ可愛いですねぇ。今見ると70年代博多によくいた女の子といった感じで、とてもリアリティがあります。
因みに、光石研は福岡の出身ですが、松本ちえこは東京ですね。実は都会の女の子なんです。ここがこの映画のミソですね。素敵なキャスティングだと思います。
ところで、郷 六平と小柳 類子という名前は、福岡が生んだ有名人、郷ひろみと小柳ルミ子に由来しています。まだ藤井フミヤも松田聖子もデビューしていない時代です。10年後であったら主人公の名前も変わっていたのかもしれないですね。
物語
漫画は、主人公である郷六平たちの中学校時代から始まり、高校、予備校、大学時代を経て郷六平が父親の跡を継ぎ博多人形師になるまでを博多の四季を織り交ぜながら1年1年丹念に描いています。
郷六平と小柳類子は喧嘩したり仲直りしたりしながら、遠距離恋愛もありつつ結婚します。後日談的に子供にも恵まれ郷六平は尻の下にひかれている姿が描かれています。
映画の方は、中学生時代のエピソードを漫画に忠実に再現しています。
【映画版物語】
毎年7月は博多の男たちにとっては晴れ舞台である「博多祇園山笠」の季節。郷六平も勇んで参加するのですが、思うようにいきません。
山笠が終わり普段の学校生活に戻った郷六平たち悪ガキ3人組の興味は性のことでいっぱい!悶々とした日々を送ることに。
この三人組とヒロイン小柳類子を軸に、中学生たちの淡い恋、性への目覚め、悲しき別れ、大喧嘩など誰にでも起こりえる青春のエピソード満載のストーリーが展開されます。
そして1年後の山笠、郷六平は男の子から博多の男に成長を遂げます!

郷 六平と憧れのお姉ちゃん
音楽

WELCOME TO MY HOUSE
郷ひろみ、小柳ルミ子以外にも福岡は多くのミュージシャンを輩出したことでも知られています。70年代に限っても井上陽水や甲斐バンドなどの名前がすぐに思い浮かびますが、福岡で早い時期にブレイクしたバンドとして知られているのがチューリップです。
チューリップには福岡を題材とした曲がいくつかあり、「博多っ子純情」もそのひとつです。長谷川法世と、チューリップのドラムス担当の上田雅利の兄が親友ということもありこのタイトルが付けられたのでしょうが、ギターの安部俊幸が担当した詩が素晴らしいです。博多の男、女、街の特徴を全て言い表しています。
もしも一人でどこかに行きたくなったら、博多はきっと最高です。人情とか名物とか昭和という時代になくなってしまったものが今でもきっと残っていますよ。