鈴木雅之のソロデビューを成功させた極上バラード
ラッツ&スター(旧シャネルズ)のリーダー、鈴木雅之のソロデビュー曲『ガラス越しに消えた夏』。
毎年、夏になると聴きたくなる名バラードにまつわる意外なエピソードを懐かしい動画と共に紹介します。

『ガラス越しに消えた夏』鈴木雅之
セクシー&ダンディ路線に転向
ラッツ&スターでの顔を黒く塗り派手なスーツ姿、『め組のひと』など賑やかな曲の印象とは打って変わってダンディさを全開にした大人バラードでソロデビュー。
セクシーな歌声を引き立てる綺麗で繊細なメロディは多くの人を感動させ、ソロシンガー鈴木雅之を強く印象付けた。
レコーディングのギター演奏は布袋寅泰。
1984年から布袋寅泰は個人としてのスタジオミュージシャン活動を再開。
この時期、中島みゆき・小泉今日子・大沢誉志幸・吉川晃司・鈴木雅之・泉谷しげるのゲスト・ギタリストとしても活躍していた。

2016年、鈴木雅之のソロ・デビュー30周年&還暦記念コンサートに駆け付けた布袋寅泰。
作曲・プロデュースは大沢誉志幸
『ガラス越しに消えた夏』の作曲とプロデュースを行ったのは大沢誉志幸(現:大澤誉志幸)。
当時、大沢と鈴木は共にエピックレコードに所属しており、お互いのマネージャーが懇意であったことから関係が深まっていったという。
大沢誉志幸『そして僕は途方に暮れる』のアンサーソングだった…
大沢誉志幸が1984年にリリースしたヒット曲『そして僕は途方に暮れる』。
『ガラス越しに消えた夏』はこの『そして僕は途方に暮れる』のアンサーソングであったことが後に大沢自身から明らかにされている。
大沢誉志幸にとって最大のヒット曲である『そして僕は途方に暮れる』だが、この曲はもともと鈴木雅之に提供する目的で作られたものだった。
プロデューサーの木崎賢治が曲が足りないから「他人にあげたけど歌われていな曲ないの?」と大沢に聞き、出てきた曲が『そして僕は途方に暮れる』であったという。
※大沢は別のインタビューでは鈴木ヒロミツと山下久美子に提供したが戻ってきたとも語っている。
両曲とも大沢誉志幸が作曲であることを知っていても、『ガラス越しに消えた夏』が『そして僕は途方に暮れる』のアンサーソングであったということは意外に思える。
それは『そして僕は途方に暮れる』の作詞を女性である銀色夏生(ぎんいろ なつを)が手掛け、『ガラス越しに消えた夏』の歌詞を男性である松本一起(まつもと いっき)が手掛けているという違いが大きいのではないか。
詞の世界観と共通するのは、自分の道を進むため離れていった恋人を未練を残しながら想う男である。
『そして僕は途方に暮れる』と『ガラス越しに消えた夏』の歌詞比較
『そして僕は途方に暮れる』の歌詞
そして僕は、途方に暮れる 大澤誉志幸 歌詞情報 - うたまっぷ 歌詞無料検索
タイトルにもなっている一度聞いたら忘れない印象的なフレーズ「そして僕は途方に暮れる」や、「見慣れない服を着た 君が今 出ていった」など銀色夏生らしい繊細で生々しい表現が一人になった現実を残酷なほど意識させる。
さらに、歌詞の節々で表現されている絶妙な女々しさ加減が、恋人に出ていかれた男のやるせない悲しみと寂しさを際立たせている。
『ガラス越しに消えた夏』の歌詞
ガラス越しに消えた夏 鈴木雅之 歌詞情報 - うたまっぷ 歌詞無料検索
「君は先を急ぎ 僕は振り向き過ぎていた」というフレーズは、自分の道を強く歩もうとする女性と取り残される男性という『そして僕は途方に暮れる』からのつながりを感じさせる。
「サヨナラを繰り返し 君は大人になる」の部分しか知らなかった段階では、「大人の階段昇る 君はまだシンデレラさ」の歌詞でお馴染みH2O『想い出がいっぱい』みたいに少女の成長を温かく見守るような歌詞かと思っていた…。
2番の歌詞では「サヨナラを言えただけ君は大人だったね」というフレーズからは大人になっていく女性(君)とは対照的な自分の未熟さへの嘆きとも取れる。
抽象的な表現を抑え、シンプルな単語を並べながら、なぜか心に響く。
美しいメロディと歌い手である鈴木雅之に全てを委ねることを意識したかのような歌詞である。
『ガラス越しに消えた夏』では、「君がいないだけ 今は苦しくない」と途方に暮れるほどの失恋から立ち上がりつつあるものの、未練や後悔を滲ませている。
歌詞のテイストは大きく違うが、たしかに両曲の世界観は共通している。
なのに『そして僕は途方に暮れる』のアンサーソングだと理解しにくかったのは、ダンディすぎる鈴木雅之が女性に振られて途方に暮れている姿が想像できないというのが一番の理由かもしれない…。
大沢誉志幸がセルフカバーした『ガラス越しに消えた夏』を聴いてみると、また違った印象を味わえる。
貴重な鈴木雅之&大澤誉志幸の共演『ガラス越しに消えた夏』
「ラブソングの帝王」の始まり、それが『ガラス越しに消えた夏』
鈴木雅之は『ガラス越しに消えた夏』以降も、『もう涙はいらない』・『恋人』・『アダムな夜』などヒットを出し続け、姉・聖美や菊池桃子とのデュエットでも大ヒットを記録。
今では「ラブソングの帝王」とも呼ばれている。
そんな鈴木雅之も当時はソロとしてやっていけるか不安だったという。
デビュー楽曲を提供し、プロデューサーとして一緒にスタジオにこもっていた大澤誉志幸のことを「彼がいなければソロボーカリストの私は存在していない。盟友です」と感謝の気持ちを込めて語っている。
この『ガラス越しに消えた夏』で鈴木雅之は1991年に『紅白歌合戦』に初出場。
「ラブソングの帝王」代表曲の一つとして、そして夏の名バラードの一つとして、多くのファンに愛され続けている。