スバルが作ったスペシャルティカー、アルシオーネの個性に迫る

スバルが作ったスペシャルティカー、アルシオーネの個性に迫る

1980年代には、ホンダ・プレリュードのヒットを皮切りに、5ナンバーサイズ、2ドアクーペのスペシャルティカーが多数発売されました。硬派なスバルからも、個性的なクーペが発売されました。


技術力は高いがマニアックなメーカー

富士重工業は、1917年に設立された中島飛行機をルーツとするメーカーで、2017年4月に株式会社SUBARUに社名を変更しました。

今日ではレガシィが築いたブランド力の上に、レヴォーグやインプレッサなどが人気を集めていますが、レガシィ以前のスバルは非常に地味なメーカーでした。

1958年発売のスバル360で四輪車市場に進出し、1966年発売のスバル1000で普通車の発売にこぎ着けます。そして、1971年に初代レオーネを発売しました。スバル1000と比べ、大衆迎合したと言われましたが、水平対向4気筒エンジン、前輪駆動など、他社と比べると個性的な成り立ちをしていました。

富士重工は、日本空軍を支えた飛行機メーカーがルーツですが、戦後は苦渋の歴史をたどり、自動車メーカーとしては、特に普通車市場では小規模な存在であり続けました。

そんなスバルの方向性を決定づけたのが、1972年にレオーネエステートバンに設定された4WDです。それまで、四輪駆動といえばジープスタイルのものばかりでしたが、レオーネは量産乗用車タイプで初の四輪駆動車となりました。1975年にはセダンにも4WDを設定。1979年発売の2代目レオーネでは、ステーションワゴンやスイングバックと呼ばれる3ドアハッチバックも設定されました。

その後のスバル普通車の方向性を決定づけた、2代目レオーネのエステートバン4WD。

Subaru Leone Wagon (I) 1972 photos

XTクーペの名で北米から発売

1984年に3代目レオーネが発売され、4ドアセダンとステーションワゴン、エステートバンが設定されました。その2ドアクーペとして6月に発売されたのがアルシオーネです。同年1月にアメリカのデトロイトショーで初公開され、XTクーペの名で北米から発売されました。

当時、日本では1982年に発売されたホンダ・プレリュード(2代目)がスペシャルティカーとして人気を集めていました。排気量や価格帯が近いアルシオーネでも、開発にあたっては当然意識されたことでしょう。

決め手となる外観デザインは、直線基調のウェッジシェイプ(くさび形)をしていました。当時はフェラーリやランボルギーニといったスーパーカーも直線基調のデザインでしたから当然の流れなのですが、今見るとあまりのとんがり具合に驚いてしまいます。

それでも、ただ流行を追うだけでなく、空気抵抗係数CD値0.29という数値を日本車で初めて達成したあたりは、エンジニアリングを尊重するスバルらしいこだわりです。日本車に空気抵抗という概念を植え付けた最初のクルマ、とも言われています。

アルシオーネのベースとなった3代目レオーネ。

Pictures of Subaru Leone 4WD 1.8 GT Turbo (AA7) 1984–86

アルシオーネの特徴が一番現れているのがサイドビューだ。28度に設定された前後の窓の傾斜角、ドアハンドルの凹凸をなくし、ハイデッキ・ダックテール形状とするなど、空力対策が徹底された。

Subaru Alcyone (AX) 1985–91 wallpapers

フラッグシップにふさわしいメカニズム

ラインナップは4WDのVRターボと、FFのVSターボの2グレードのみ。変速機はVRターボは5速MTと3速AT、VSターボは5MTのみの設定でした。エンジンは、レオーネのターボモデルと共通の、水平対向4気筒OHCのEA82ターボ型、最高出力135PS、最大トルク20.0kgf・m(いずれもグロス値)を発揮。ボンネットを低くするため、レオーネではエンジンルームに積載していたスペアタイヤは、トランクルームに移されました。

先進的なメカニズムも積極的に採り入れられました。4WD車には電子制御エアスプリングによるエレクトロ・ニューマティック・サスペンション(EPIS)と称したオートレベリング、車高2段階調節、減衰力可変ショックアブソーバー、車高自動切り換え機構が組み込まれた。さらに4WDのAT車では、油圧多板クラッチ方式トランスファー(MP-T)、2WDと4WDの自動切り換えシステムを装備しました。これらの先進技術は、次代のレガシィで高級装備として開花しました。

スバルでは最初で最後のリトラクタブルヘッドライトとなったアルシオーネ。スペシャルティカーとはいえ、スバルらしさにあふれていた。

Photos of Subaru Alcyone (AX) 1985–91

ヒコーキ屋らしいインテリア

インテリアも特徴的でした。当時はホンダ・プレリュードを皮切りにスペシャリティ・クーペがブームになっており、アルシオーネでも低めの着座位置に高いセンターコンソールというデザイン文法が採用されました。

独特な形状のインストルメントパネル、ガングリップ・タイプのシフトレバー、L字型スポークステアリングといったデザインは、ヒコーキ屋のルーツを連想させました。また、各種レバーをボタンスイッチにしてパネルに配置したデザインも先進的でした。

また、VRターボのAT車には、「エレクトロニック・インストルメントパネル」と呼ばれる液晶デジタルメーターも用意されました。まさに、スバルのフラッグシップクーペにふさわしいデザインと装備だったのです。

通常ではコラムに付くライトやワイパーなどのレバー類を、スイッチにして配置。液晶デジタルメーターやATのシフトレバーの形状も先進的だった。

Images of Subaru Alcyone (AX) 1985–91

スバル初の6気筒・3ナンバー車を追加

1987年6月、マイナーチェンジが行われ、新開発の水平対向6気筒2700ccエンジン搭載車が追加され、7月4日から発売されました。この新グレード2.7VXに搭載されるエンジンは、既存のEA82型に2気筒を追加したもので、ボア・ストロークはEA82型と共通でした。最高出力150PS、最大トルク21.5kgf・m(ともにネット値)を発生。変速機は電子制御OD付4速ATのみで、スバル初の3ナンバー車となりました。

メカニズム面では、新開発の電子制御アクティブトルクスプリット4WD(ACT-4)を搭載。電子制御パワーステアリング、電子制御EP-Sサスペンション、専用の大型バンパー、高級シート、高級オーディオが装備されました。

1800ccにおいてもATの4速化、エンジンの電子制御燃料噴射システムの改良などが行われました。

1989年にレガシィが登場し、塗料の一部にレガシィと共通のものが採用されました。スバルのフラッグシップがレガシィに移行し、アルシオーネは全車受注生産となりました。そして1991年9月、2代目となるアルシオーネSVXにモデルチェンジし、6年に及ぶ生産を終了しました。

今のスバルには、アルシオーネ以来の2ドアモデルとしてBRZがラインナップされていますが、アルシオーネに憧れた長年のスバリストの皆さんには、個性が足りなすぎると思っているのではないでしょうか?

かくいう私は、小学校の社会科見学で群馬県太田市のスバルの工場を見学し、アルシオーネ2.7VXの写真が大きく印刷された下敷きを記念にもらい、毎日学校に持っていっていました。アルシオーネは、非常に思い入れがあるクルマです。

水平対向6気筒2700ccエンジンを搭載した2.7VXは、大型バンパーを採用したが、全長・全幅ともに5ナンバーの範囲内だった。

Subaru Alcyone (AX) 1985–91 wallpapers

2代目は、日本国内ではアルシオーネSVXと命名されたが、海外では単にSVXの名だった。デザインに関して、初代の面影はない。

Subaru SVX 1992–97 wallpapers

関連する投稿


レトロゲーム配信サービス「プロジェクトEGG」より『トラぶるCHASER 第1話』『3Dテニス』が配信スタート!!

レトロゲーム配信サービス「プロジェクトEGG」より『トラぶるCHASER 第1話』『3Dテニス』が配信スタート!!

レトロゲーム関連の復刻・配信ビジネスなどを行うD4エンタープライズが運営するレトロゲーム配信サービス「プロジェクトEGG」にて、新規コンテンツ『トラぶるCHASER 第1話 トラブルは空から未来から(PC-9801版)』『3Dテニス(MSX版)』の配信がスタートしました。


『オホーツクに消ゆ』と北海道紋別市がコラボ!ゲームに登場するシーンを使用したアクリルジオラマが「ふるさと納税返礼品」に!

『オホーツクに消ゆ』と北海道紋別市がコラボ!ゲームに登場するシーンを使用したアクリルジオラマが「ふるさと納税返礼品」に!

ジー・モードより、推理アドベンチャーゲーム『北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ ~追憶の流氷・涙のニポポ人形~』の世界観を再現したオリジナルグッズが、北海道紋別市のふるさと納税返礼品として提供されます。


抜群のスタイルで💦世の脚光を浴びた『広田恵子』現在は?!

抜群のスタイルで💦世の脚光を浴びた『広田恵子』現在は?!

高校時代からモデル活動を始め1986年に「カネボウ・スイムウエアイメージモデル」として脚光を浴びた広田恵子さん。現在は家族で〇〇を組んで活動している・・・。


完璧・無量大数軍の一人「完肉」の称号を持つキン肉マン『ネメシス』が、SpiceSeedキン肉マンシリーズに登場!!

完璧・無量大数軍の一人「完肉」の称号を持つキン肉マン『ネメシス』が、SpiceSeedキン肉マンシリーズに登場!!

ハイクオリティフィギュアの製造・販売で好評を博している株式会社SpiceSeed フィギュア事業部より、キン肉マンシリーズのフィギュア『ネメシス』が発売されます。


懐かしの名作が勢揃い!特製クリアしおりが貰える書店フェア「藤子・F・不二雄 S(すこし)★F(ふしぎ)な世界」が開催!!

懐かしの名作が勢揃い!特製クリアしおりが貰える書店フェア「藤子・F・不二雄 S(すこし)★F(ふしぎ)な世界」が開催!!

藤子・F・不二雄による名作の数々を紹介する書店フェア「藤子・F・不二雄 S(すこし)★F(ふしぎ)な世界」が、8月7日(木)より全国のフェア参加書店にて順次開催されます。


最新の投稿


プロレス界の歴史が動く今こそ読むべき一冊! 『ようこそ、プロレスの世界へ 棚橋弘至のプロレス観戦入門』2025年12月18日(木)発売!

プロレス界の歴史が動く今こそ読むべき一冊! 『ようこそ、プロレスの世界へ 棚橋弘至のプロレス観戦入門』2025年12月18日(木)発売!

新日本プロレスの“100年に一人の逸材”棚橋弘至氏による著書『ようこそ、プロレスの世界へ 棚橋弘至のプロレス観戦入門』が2025年12月18日にKADOKAWAより発売されます。引退が迫る棚橋氏が、26年の現役生活で培った視点から、プロレスの魅力、技の奥義、名勝負の裏側を徹底解説。ビギナーの素朴な疑問にも明快に答え、プロレス観戦をさらに面白くする「令和の観戦バイブル」です。


ウルトラふろく200点以上を一挙収録!『学年誌 ウルトラふろく大全』発売

ウルトラふろく200点以上を一挙収録!『学年誌 ウルトラふろく大全』発売

小学館クリエイティブは、ウルトラマンシリーズ60周年、『小学一年生』100周年の節目に『学年誌 ウルトラふろく大全』を11月28日に発売しました。『ウルトラQ』から『ウルトラマン80』までの学年誌・幼児誌のウルトラふろく200点以上を網羅的に掲載。組み立て済み写真や当時の記事も収録し、ふろく全盛時代の熱気を再現します。特典として、1970年の人気ふろく「ウルトラかいじゅう大パノラマ」を復刻し同梱。


伝説のプロレス団体 UWF40周年記念イベント“無限大記念日”開催!

伝説のプロレス団体 UWF40周年記念イベント“無限大記念日”開催!

伝説のプロレス団体『UWF(ユニバーサル・レスリング・フェデレーション)』が、設立40周年を記念し、特別イベント「無限大記念日」を書泉ブックタワー(東京・秋葉原)にて開催します(2025年12月24日~2026年1月12日)。第1次UWFの貴重な試合映像や控室、オフショットなど、4,000枚以上のアーカイブから厳選された写真が展示されます。復刻グッズや開催記念商品も販売され、当時の熱狂が蘇ります。


グラニフ×『幽☆遊☆白書』初コラボ実現!幽助、蔵馬、飛影など全21アイテム登場

グラニフ×『幽☆遊☆白書』初コラボ実現!幽助、蔵馬、飛影など全21アイテム登場

株式会社グラニフは、TVアニメ『幽☆遊☆白書』との初コラボレーションアイテム全21種類を、2025年12月2日(火)より国内店舗および公式オンラインストアで販売開始します。主人公の浦飯幽助をはじめ、桑原、蔵馬、飛影のメインキャラクターに加え、戸愚呂、コエンマなど欠かせないキャラクターをデザイン。11月26日より先行予約も開始され、ファン必見のラインナップです。


全長20cmの迫力!1/18スケール『国産名車コレクション』創刊

全長20cmの迫力!1/18スケール『国産名車コレクション』創刊

アシェット・コレクションズ・ジャパンは、隔週刊『1/18 エクストラスケール 国産名車コレクション』を2026年1月7日に創刊します。全長約20cm、1/18スケールのダイキャスト製で、日本の自動車史を彩る名車を精巧に再現。ボディラインやエンジンルーム、インパネなどの細部ディテールにこだわった「エクストラ」なコレクション体験を提供し、マガジンでは名車の開発秘話や技術を深掘りします。