本格投入前の徹底した準備
カムリ&ビスタの発売を前に、トヨタは相当な準備で臨みました。まず、カムリを扱うカローラ店には上級車種がなかったため、1980年1月に「セリカ・カムリ」という名のFR車を投入し、市場を開拓しました。車名にはカローラ店の取扱車種であるセリカの名を冠し、メカニズム的にはカリーナの姉妹車でした。
一方、ビスタの方は、同じく1980年4月に新たなディーラー網「トヨタビスタ店」を開設。セリカ・カムリのほか、クレスタ、ターセルなどを扱いました。

カリーナセダンの姉妹車、セリカ・カムリ。
Images of Toyota Celica Camry (A50) 1980–81 (640x480)

カローラ店で扱っていたセリカ。写真は1979年のモデル。
Toyota Celica GT Liftback JP-spec (A40) 1977–79 wallpapers
クラウンよりも広いミドルセダン
1982年、満を持して3月にカムリを、4月にはビスタを投入しました。初代カムリ&ビスタ(V10型)は、従来のトヨタ車の概念を打ち壊すようなクルマでした。駆動方式に前輪駆動を採用したため、走行系をコンパクトにまとめ、広大なキャビンを設け、「クラウンよりも広い」と評されました。
メカニズム面では、駆動方式は前輪駆動のみ、エンジンは新開発の直列4気筒1800cc(1S-LU型)を横置きし、変速機は5速MTのみの設定でした。
トヨタでは、新機軸を盛り込んだカムリを新たな国際戦略車と位置付け、コロナに代わって輸出の主役としました。
カムリはその後、1982年7月に4速AT車を、8月には2000ccが追加されました。さらに翌1983年8月には1800ccディーゼルターボ車が追加され、ラインナップを急速に拡大していきました。

本当の意味での初代といえるV10型カムリ。
Images of Toyota Camry JP-spec (V10) 1982–84

カムリの輸出仕様。北米向けのヘッドライトは当初、角形4灯だった。
Pictures of Toyota Camry US-spec (V10) 1982–84
リフトバックでスポーティな印象に
ビスタとは「展望」の意味ですが、大きなグラスエリアはビスタの名にふさわしいものでした。当初はカムリと同じく1800cc・5速MTのみの設定でしたが、1982年8月には5ドアリフトバックが発売されました。5ドアは、日本ではビスタのみに設定(カムリも海外向けには設定)され、セダンよりも車高が低いため、スポーティな印象を与えました。
併せて、1800ccの4速ATと、2000ccが追加されました。1983年8月には、カムリと同じく1800ccディーゼルターボも追加されました。
筆者が子どもの頃、初代カムリに乗っている親戚がおり、窓の大きなセダン、という印象が残っています。無駄のないデザインは、それまでのコテコテしたFRセダンを一気に古臭く感じさせました。また、友人の家ではビスタの5ドアリフトバックに乗っており、こちらも従来の日本車にない、進歩的なイメージがありました。

初代ビスタに追加された5ドアリフトバック。
Toyota Vista Hatchback (V10) 1984–86 wallpapers
マイナーチェンジでFF初のDOHC誕生
1984年6月、カムリとビスタは同時にマイナーチェンジを受けました。2000ccにはツインカム16V搭載車が追加され、横置きFF車では日本初のDOHCエンジン搭載車となりました。
また、1800ccエンジン(ガソリン車)には電子制御インジェクションが搭載され、グレードの見直しなども行われました。1985年8月には、ディーゼルターボ車のエンジンが2000ccに変更されました。
キャッチコピーは「長距離クルージングサルーン」。直列4気筒の2000cc車でありながら、広大なキャビンとFFの安定した走りを武器に、マーク2シリーズにはない、世界標準のサルーンをPRしました。

マイナーチェンジで引き締まったデザインになったカムリ。
Images of Toyota Camry JP-spec (V10) 1984–86
3代目以降は再びビッグキャビンに
カムリ&ビスタは、1986年8月に2代目に移行します。先進的な試みに満ちた初代はそれなりに売れましたが、トヨタでは充分な成功と評価されてはいないようです。2代目では、コロナの上、マーク2の下、という位置付けがはっきり分かるデザインになり、室内の広さを売りにした初代のコンセプトは消えてしまいました。
ビスタは5ドアリフトバックが消え、代わりに4ドアハードトップが設定され、セダンとの2本立てになりました。1987年4月にはV型6気筒2000ccエンジン搭載の「プロミネント」がカムリに追加され、プロミネントには4ドアハードトップも設定されました。
一方で、国際車としてのカムリは2代目で開花します。1987年にオーストラリアで、1988年にはアメリカで現地生産を開始し、特にアメリカではホンダ・アコードと並ぶ人気を二分し続けています。
3代目カムリ&ビスタは国内専用車種となりますが、設計ベースは国際車(のちにセプターの名で日本でも販売)のため、室内の広さというコンセプトは帰ってきました。
ビスタは5代目で終わってしまいましたが、カムリは8代目が発売中。そしてアメリカでは、2017年1月の北米国際自動車ショーで9代目が発表されました。日本でも9代目へのモデルチェンジが予定されています。
カムリは地味なセダンですが、前述の通り、親戚や友人の家が乗っていて、筆者にとって思い入れのあるクルマです。本稿で、革命的だった初代カムリ&ビスタを思い出していただけたら幸いです。

高級感を重視し、普通のセダンになった2代目カムリ(V20型)
Pictures of Toyota Camry Sedan JP-spec (V20) 1986–90