
Gアーマー 1/144 1981年9月 1000円

でかでか書かれた「ガンダム パワーアップ」のアオリ文字
もともとは『機動戦士ガンダム』(1979年)放送時のメインスポンサーだった、玩具会社クローバーからの要請で無理矢理登場させられた、クリスマス商戦用の新商品玩具用のデザインメカであったGアーマー。
富野監督は、業務としての割り切りと作劇への取り組み方の両立を成し遂げ、Gアーマーをうまく使って、シャアとアムロの戦いに割って入ってしまうセイラや、スレッガーの特攻死等の名シーンを生んだが、さすがにクローバーの目論んだ「ガンダムと、コアブロックシステムとが連動して、戦闘機や戦車など、変幻自在の合体変化で八面六臂活躍!」とはいかず、四苦八苦させられた挙句、映画版では上記の名シーンの役目を、全て映画版オリジナルメカのコア・ブースターに奪われ、なかったことにされた不遇なメカ。
確かに、ガンダムの玩具ギミックの、文字通り核となるコアブロック構想は、兵器として実際の戦場で運用するには、脱出ポッド用途以外は無理があり過ぎ、その上でGアーマーは、それでもなんとか演出上の必然性でだましだまし取り入れてきたコアブロックシステムを、ガンダムと連動させながら、さらに素敵なビックリドッキリメカにさせてしまったガジェットだけに、当時は少し大人びたガンプラユーザーや、明らかにスケールプラモデルから入ってきたモデラー諸氏や、アニメの現場の作画マンに至るまで、鬼子のように忌み嫌うべき存在になってしまったGアーマー。

これが完成したGアーマー。長っ!
アニメのディティールとは違いますよと割り切った、玩具であればこそ展開できる変幻自在合体も、いざスケールモデルテイストのガンプラで再現しろとなれば、いかにここまでベストメカコレクションで、ゴッドシグマやゴライオンの合体を再現してきたバンダイでも、そうそう手を出せるはずもない(逆説的に言えば、70年代最後半のアニメの合体ロボットシステム論でいけば、それだけポピーの村上天皇以下が送り出してくる合体ロボットのデザインが、玩具的技術論の範囲内で練り込まれていたのかが分かる)。

構造概念としては、限りなく「ガンダムの棺桶」に近い存在(笑)
なので、一応テレビシリーズでは後半のメインメカ扱いであったにもかかわらず、長らくガンプラでは「見えない、存在しない、だから商品化しない」で素通りされてきたGアーマーも、ようやく、というか、とうとう年貢の納め時とでもいうべきか、劇場用映画(本来の流れでいえば、それこそGアーマーがスクリーンデビューするはずだったタイミングの物語展開の)『機動戦士ガンダムⅡ 哀・戦士編』(1981年)公開や、モビルアーマー発売開始とタイミングを合わせる形で、1/144スケール1000円で発売された。

今にして思うと、Bパーツ左右のユニットって、前後ひっくり返さなくても、ガンダムは収納できるんだよね……
このGアーマーは、なんといっても、発売時期の遅すぎさ(Gアーマー自体は1979年放映TV版のメインメカなのに、ガンプラがTV版モビルスーツを、1/144で概ね模型化し終わったと判断して、モビルアーマーやサブメカ、キャラコレなどを展開し始めたタイミングでの発売)と、その仕様の、徹底した玩具イメージ払拭と完全再現という完成度に「うち(バンダイ)にはこれ(Gアーマー)がまだ、手付かずのまま残ってしまっている。こんなクローバーの遺産なんか模型化したくなかったけれども、出すからには完璧な物を出すぞ!」という気概があちこちに感じられて、いろいろ笑ってしまいたくなる逸品(苦笑という意味でも、爆笑という意味でも、高笑いという意味でも、満足度でニヤリという意味でも)。

映画版のコア・ブースターの元ネタになったGスカイ。でもこれ、ガンダムの下半身を無駄に緊縛しちゃってるだけのような……
そこはそれ、矛盾があったり、無茶があるのはうち(バンダイ ポピー)のせいじゃない、という開き直りと、しかし、各形態単位では、アニメで描かれた画をなんとしてでも再現するぞという意気込みは、Gブル時の「“むき出しのガンダム腹部ジョイント部分”に、無理矢理かぶせるだけの“コアブロックの前半分”パーツが付属している」や「シルエット優先のあまり、Gスカイ用に入っているコア・ファイターの大きさが、1/144なのにもかかわらずでかすぎる」などの、笑える弊害を多々生み出した事でも有名なガンプラである。

本文ではデカすぎると書いたけど、Gスカイ状態のシルエット的には、後のどんな商品版よりも、アニメに近い仕上がりなのはこの1/144だけ
ちなみに、この1/144 Gアーマー付属のコア・ファイター。
計測してみると全長が12cmほどあるが、現在の公式設定によると、コア・ファイターの全長は8.6mとなっている。そこで計算すると、この1/144キット、コア・ファイター部分だけでいうと、ぴったり1/72スケールなのだということになる(だからなんだとう話ではあるが)。

Gブル。これが登場した時の視聴者(子ども・思春期層含む)の100人中340人が「え!? “そっち”が前なの?」とツッコんだと記録されている(嘘)
もっとも、一つだけ擁護するのであれば、今現在21世紀になって統一された設定のコア・ファイターのサイズや全長などは、あくまでガンダムAパーツが、丸々コアブロックを包み込む構造だという前提での設定であり、アニメ企画当初のビジョンにあった「コア・ファイターが変形したコアブロックが、ガンダムの腹部の二段差の下段を、そのまま形成する」前提で値をはじき出せば、現状の設定より一回りは大きく計算が出るはずではある。まぁ、それでもこのキットのコア・ファイターを、1/144だと言い切ることに無理があるということは覆せないが(笑)

確かに、Gファイター機首を前にすると、見た目のバリエーションがどれも代わり映えしなくなるというのはあるけれども……
また、先ほども書いたが、このGアーマーはクローバーの要請(だか押し付けだか)で出さざるを得なくなったメカであることは明確なのだが、それを請けた富野監督は、ただ嫌がって出番を減らすなどという、子どもの我儘のような真似はせず、
やはりプロフェッショナルなのだというエピソードがある。

妥協の産物の、かぶせ式コアブロックだけど、いざ装着してみると、やはりこれもアニメイメージに非常に近い
Gアーマーの名シーンといえば、上でも書いた「スレッガー中尉の特攻殉職シーン」であり、ここも当然、映画版だとコア・ブースターと差し替えられているのだが。
ここでの、対ビグ・ザム戦の大まかな決着の流れから解説すると以下のようになる。
まずは、ビグ・ザムに向かって迂闊に近付けないアムロのガンダム。そこでスレッガー機が突破口を開くが、ビグ・ザムが、なぜか足の爪に装備していた対空防御(笑)によってスレッガー機が撃墜。しかし、その突破口を使ってガンダムがビグ・ザムに直接攻撃を仕掛けて倒す、と、こうなる。

Gファイター。皆勘違いしてるけど、映画版でコア・ブースターの出番に差し替えられたGメカ形態は、ほとんどがこのGファイター状態であって、Gスカイはあんま出番はなかった
この流れは、劇場版『機動戦士ガンダムⅢ めぐりあい宇宙編』(1982年)だと、コア・ブースターが登場するため、ただただ、スレッガーが突破口を開こうとして、いきなり突撃特攻をしただけにしか見えないのだが。
元のテレビ版だと、そもそもGアーマーはガンダムを格納して運搬するサポートメカでもあるという前提が最大限生かされ、驚異のビグ・ザムを倒せる戦力はガンダムしかないと的確に判断したスレッガーが、ガンダムを格納した状態のGアーマーでビグ・ザムへ向けて特攻を仕掛け、自らは犠牲になりながらも大破したGアーマーからガンダムを放出して、ビグ・ザム接近戦空域に送り込むことに成功。そこでガンダムが白兵戦でビグ・ザムを討つという、人間ドラマとメカニックギミックと戦術論が、見事に融合した名シーンなのである。

というわけで、あえてGファイターとGスカイを並べてみる。ちなみにGファイターのキャタピラ収納機能は、さすがに当時のプラモでは再現できなかったので、今回は2つキットを買って、片方をキャタピラ無しGファイターで固定制作!
富野監督は、伊達にロボット嫌い、玩具CM嫌いのロボット漫画監督ではないのだ。
嫌いであればこそ、業務として与えられた「玩具販促」を、どこまでハイレベルでやってみせながら、玩具屋の商魂を満たしつつ利用するのかの戦略の巧さである。
ガンダム以降の、ポストガンダムを狙ったリアルロボットアニメが、ことごとく失敗に終わったのは「実は冨野監督は、しっかりとロボット玩具のCMの役目も果たしつつ、高度な人間ドラマを撮ったから」という前提をガンダム大ヒットの分析に組み込まなかった人材しかいなかったからである。

なので、Gファイター、Gスカイ、Gブル3機のそろい踏みまでは再現可能! テレビじゃ絶対、富野監督がやらない絵面
閑話休題。
そういう、大人の事情やら、玩具会社のスキルの違いやら、CMを任されたカントクの才能とかが、山ほど詰まった素敵メカ・Gアーマー。
もう何が素敵かって、この1/144 Gアーマーの箱には、でかでかと「G・アーマー」と商品名が書かれてる脇に、「ガンダムパワーアップ」「変化合体精密設計」とのサブテキストが書かれていて、筆者が持っていたキットが当時品であったというのもあってか、懐かしのバンダイ万歳マークとワンフレームに収めて撮影してみると、うん、素敵なまでに、この箱の横には「童友社 宇宙戦車 アトラス」とか「アオシマ できるホビー 合体ロボット マッハバロン」とかを並べたくなってくる。
少なくとも、80年代の田宮MMシリーズやハセガワ製スケールモデルの棚の隣には、置いてはいけない気配がガンガン伝わってくるのだ(そりゃガンプラを毛嫌いするスケールモデラーさんも多かっただろうなぁと、察するしかない)。

今、格納庫から出撃するGアーマー!
肝心のキット内容の方は、これまで積み上げてきた「SFスケールモデルとしてのガンプラ」「アニメ劇中のギミックを全部再現する、アクションとプロポーションを完全再現するガンプラ」のスピリッツはハイテンションで維持されつつも、どうにもこうにも「玩具仕様にするしかない処理」に苦しんだ形跡が各所に伺える。
現代のガンプラならば、Zガンダムの変形もVガンダムの合体変形も再現できるほどの、超精密ハイテク組立てフィギュアと化している技術力と、アニメのデザインとギミックに辻褄が合わなければ、即座にデザインの方を“リファイン”や“解像度を高くする”という魔法の呪文を使う事とで、再現可能な立体にすることが可能である(実際、1/144 Gアーマーは、2005年にHGUCで発売されている)。
また、Gアーマーというメカ自体、ウルトラマンシリーズにおけるガラモンのように、各ブランドの技術アピールのフラッグアイテムにもなっており、GFFやMIAなど、既存のガンダムフィギュアシリーズでは、それぞれにデザインを今風にリファインしては「全形態を再現!」仕様で(しかし、だいたいのアイテムでは差し替えや、アニメとは違うギミックが使用されて)発売されている。

水中から発射された、グラブロのミサイルを避けて飛ぶGアーマー!
しかし、こと「アニメの各シーンで登場したGアーマー各形態の再現」に関しては、なんだかんだ言いつつ、このガンプラブームピーク時(ガンプラブーム社会現象を象徴する、千葉県松戸でのガンプラ購入将棋倒し事件が、翌1982年の年頭1月に起きる)の1/144(と1/250)の当時版Gアーマーが、最初にして頂点だとも言い切れる。
Gスカイ時とGブル時のコア・ファイター、コアブロックこそ差し替え式(Gブルのコアブロックは逆かぶせ式?)だが、それ以外はGアーマーAパーツ、Bパーツ、ガンダムAパーツ、Bパーツ、底面キャタピラの、基本5ブロック構造をアニメ設定を極力なぞりながら、全ての形態を再現しているのは流石というしかない(第32話『強行突破作戦』で登場した、“GアーマーBパーツを、前後逆に穿いたガンダム”は、アドリブすぎる運用であったためか、再現は出来ないが)。

内蔵する1/144ガンダムは、元々のガンプラ第1号ガンダムの金型製とはまた違ったものではあるが、そこで新規金型のガンダムを用意する理由が、AパーツとBパーツで分離できるようにするためと、下半身をBパーツに収納する際に、つま先を可能な限り伸ばさないと、内部で干渉してしまうからであり、多少各部のエッジがシャープになっていたり、顔の目つきも鋭くなっていたりといった改修はあるが(それゆえ、通常の1/144が蓄えていた“安彦っぽさ”は軽減されている)、基本コンセプトや造形スタンスそのものには変化は見られない。

Gファイターの2連装ビームキャノンの破壊力は、ガンダムのビームライフルをしのぐ!
Gメカ各形態も、Gファイターの時にキャタピラが収納されないので(というか、このキットの合体や変形のシステムの多くは、そのキャタピラユニットパーツが他のパーツを連結して成り立つ構造が多い)、どこか「空飛ぶ戦車」チックになってしまっているが、それ以外は概ねアニメ設定に準じたイメージで各形態が完成する。
キャタピラユニット部は、4か月前に発売した1/144ガンタンクのノウハウが活かされていて、ゴムパーツ製のキャタピラを動輪にぐるりと巻く方式。また、GアーマーBパーツの両サイドの主翼付可動部分は、Gファイター時とGアーマー時の、それぞれ180度逆の位置で固定できるように、接続部が工夫されている。

ゴッグ対策で、ベルファストの街に出撃するGブル。うん、戦車にしちゃでかすぎるぞ!
キットのランナー色分けもそこそこ優秀だが、ホワイトベース同様に赤ランナー部品の色味が安っぽいことと、本来ミディアムブルーで塗られるべき武装やノズル部分と、本来キャラクターブルーで塗られるべきメインボディ部分とが、その両方のちょうど中間のブルーグレー色のランナーで一括にまとめられていること、白いランナーはあるが、そのランナーの部品の殆どは、ガンダム用のパーツで占められていること、Gアーマーのビジュアル的に絶対外せない「機首の白」が白ランナーには無く、Aパーツメインボディで一体化され、ブルーグレーランナーに組み込まれていること、そもそもトリコロールカラーの一端を担うべき黄色のパーツが、全部白ランナーに放り込まれていること、等々から、今回もホワイトベースに引き続き全塗装を決意。
基本的には、キャラクターブルー、キャラクターレッド、イエロー、ミディアムブルー、クールホワイト、艶消し黒で、各部を塗り分けた。
今回は、同梱されているガンダムやコア・ファイターに別の使い道も思いつき、またキャタピラ収納状態のGファイターも、独立して別個に作りたかったため(AパーツとBパーツを連結するキャタピラユニットを使ってAパーツとBパーツを繋げないと、Gファイター形態にならない)、当時品とは別個に、最近再販されたもう一つを購入して、Gファイター単独形態を別に作っておいた。

というわけで、もう一度3形態揃ったところを別角度から。合体ロボット強化パーツって、オトコノコの夢だよなぁ!
ガンプラの驚くべきところは、36年前の商品が、36年前の値段のままで再販されるところにもあることはガンプラマニアには有名だが、ずっと現役でスパンを開けながらも再生産され続けているので金型の摩耗も激しいのか、砲身の可動や回転可動軸部分などは、今年の再販版よりも金型が新品だったころの当時品版の方が、保持力が高いという結論に今回は至った。
なんにせよ、意外とガシガシ変形させたり合体させたり遊べるのは、実はイマドキのハイエンドなキットではなく、こっちの方だというのが現実論。
まぁ、金型が劣化しているので、プラのへたりやヒケはひどいんですけどね(笑)
キャタピラユニットさえ破損しなければ、各形態、結構ピシッと決まってカッコいいです、ハイ。
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