Bob Dylan
ボブ・ディラン
「風に吹かれて」「ミスター・タンブリン・マン」「ライク・ア・ローリング・ストーン」「天国への扉」などで知られるボブ・ディランですが、2016年はそのボブ・ディランにとってもファンにとっても特別な1年となりました。
日本のファンにとっては8度目となる来日公演や、アルバム「フォールン・エンジェルズ 」のリリースも嬉しいものでしたが、何といっても世間を驚かせたのが歌手としては初めてとなるノーベル文学賞の受賞でしょう。
村上春樹ファンを落胆させ、ロック・ファンを狂喜させたこの賞の受賞は、それまでにもグラミー賞やアカデミー賞、ピューリッツァー賞など賞という賞を総なめにし大統領自由勲章などというものまで受章しているボブ・ディランにとっても特別なものだったに違いありません。
そして、ボブ・ディランのコアなファンでさえも度肝を抜かれた「THE 1966 LIVE RECORDIN」というCDで36枚組というとんでもないボックス・セットが発売されました。
THE 1966 LIVE RECORDIN
THE 1966 LIVE RECORDIN
THE 1966 LIVE RECORDIN
ディランのボーカルに絡みつくようなロビーのギター、ガースのオルガン、リックのベース、そしてリチャードのピアノも上手いんですよね。 やっぱりディラン&ザ・バンドの組み合わせは特別なんだなと思います。
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1966年にボブ・ディランは5月までアメリカ、オーストラリア、ヨーロッパを廻るツアーを行っていますが、このツアーはレコーディング並びにフィルム撮影が行われていて、「THE 1966 LIVE RECORDIN」には、そこから22公演分の音源が収められています。
この時のツアーは伝説となっていてファンの間では長らくブートレッグで聴かれていました(特にフリー・トレード・センターでのライブ)。なぜ伝説となっていたかと言いますと、当時はボブ・ディランがフォークからロックへと移行した時期で、ロックを変換させ大きな話題となっていたのです。
今や代表曲である「ライク・ア・ローリング・ストーン」が大ヒットし、歴史に残る名盤「ブロンド・オン・ブロンド 」のリリース直後、そしてこのツアーのバックを務めているのが後にザ・バンドとなるメンバーということで楽曲も演奏も非の打ちどころがないほど素晴らしいのです。
が、その一方でギター1本でフォーク・ソングを歌っていた頃のファンからはバッシングをうけていました。会場にはそうした以前のファンと新たなファンが入り乱れ、緊張感が漂っています。まさに歴史に残るライブとなっています。
それにしても36枚組とは。
いくら素晴らしい、歴史的価値があると言っても、このボックス・セットを購入するのはかなり勇気が要ります。当然と言えば当然なのですが、なんせ収録されている22公演の内容はほとんど同じなのですから。
しかし、初心者にも聴きやすい、ヨーロッパツアーの最終公演のみを収録した「リアル・ロイヤル・アルバート・ホール 」というアルバムも同時にリリースされています。
リアル・ロイヤル・アルバート・ホール
このアルバムはロイヤル・アルバート・ホール での公演を収録しているのですが、タイトルに何故リアルと付いているかといいますと、このツアーのフリー・トレード・センターで録音された音源が流出し、「ロイヤル・アルバート・ホール」と誤ったタイトルでブートレッグとして広く知られていました。
あまりにも有名なブートレッグだったからでしょう、1998年にブートレッグ・シリーズ第4弾として正式にこの音源をリリースする際にも「ロイヤル・アルバート・ホール」としていたのです。シャレてますよね。
ロイヤル・アルバート・ホール
実際にはフリー・トレード・センターで収録された「ロイヤル・アルバート・ホール」と、その10日後に実際にロイヤル・アルバート・ホールで収録された「リアル・ロイヤル・アルバート・ホール」。収録曲を比べると分かるとおり、同じです。
このツアーは前半がアコースティック・セット、後半がエレクトリック・セットとなっているのですが、この2枚も当然同じ構成です。アコースティック・セットは好意的に受け止められていて、エレクトリック・セットの方はブーイングが飛び交っているというののも同様です。
ではなぜ、ロイヤル・アルバート・ホール(フリー・トレード・センターの方です)が有名になったかといいますと、演奏の良さ、音の良さとは別に、「やせっぽちのバラッド」を歌い終わった後に客席から「ユダ‼(裏切り者の意)」の野次が飛び、ボブ・ディランが「お前なんて信じない。お前は噓つきだ」とやり返し、「でかい音でやろうぜ」の掛け声とともに「ライク・ア・ローリング・ストーン」が始まるという何ともスリリングな、何ともロック的な一コマが記録されているからです。
One Too Many Mornings
1966年のツアーで目を引くのがエレクトリック・セットで最初に演奏されている「テル・ミー・ママ」です。ものすごくカッコいいロックンロールですが、スタジオ・レコーディングはされていないためこの時のツアーでしか聴くことができません。
それからもうひとつ注目したいのが同じくエレクトリック・セットで演奏される「いつもの朝に」です。
オリジナルは、1964年にリリースされた3枚目のアルバム「時代は変わる」に収録されている曲です。
時代は変わる
フォーク界の貴公子だのプリンスだのともてはやされていた時の作品ですが、曲自体は名曲「時代は変わる」や「ハッティ・キャロルの寂しい死」などに埋もれている特にどうということのない印象の薄い曲です。アルバムをリリースするため、数合わせのために録音された曲と言えなくもありません。
それから僅か2年!ギターの弾き語りの地味な曲が、これほどカッコよくなるなんて。アレンジがどうのという問題ではなく、もう別物となっています。
ボブ・ディランのアレンジャーとしての才能が全開しているわけですが、天才というのはこういうものなのでしょう。アレンジすればいいというものではありませんが、、この時期の、ザ・バンドとの「 いつもの朝に」は素晴らしすぎます。
こうした曲が収められているからこそ1966年のツアーの模様はブートレッグでもてはやされたのでしょう。
そして、時は流れて1975年。ボブ・ディランは「ローリング・サンダー・レヴュー」と名付けられたツアーを行います。その時も「いつもの朝に」を歌っており、その模様はライブ・アルバム「激しい雨」に収録されています。
激しい雨
1976年にオフィシャルとしてリリースされたこのライブ・アルバムもまた名盤とされていますが、驚くべきは「いつもの朝に」がまた違ったアレンジになっており、しかも更にカッコよくなっていることです。
こんなことが起こり得るのかと、にわかには信じがたい思いがしますが、これこそがまさにボブ・ディランなんですね。あまりの素晴らしさに呆れるしかありません。