ジャッキー・チェンという新しいヒーロー
ジャッキー・チェンの『ドランクモンキー 酔拳』を初めて観たときの衝撃は今だに忘れられない。反プロレス系格闘技好きの僕にとってのヒーローは、大山倍達であり、ブルース・リーだった。空手やカンフーが世界最強だと思っていた。よくプロレスファンと口喧嘩になったものだ。そこに、ジャッキー・チェンが現れた。カンフーなんだろうけど、なんかブルース・リーとは違う感じ。はっきりいって男前じゃない。おまけに映画の始めのほうはあまり強くない。でも、それから運命的な師匠との出会いでどんどん強くなる。
ブルース・リーのように始めから強いのもいいけど、段々と強くなっていく感じが新鮮で、映画が進んでいくと何か自分も一緒に強くなっていくように思えたのだった。
そして、ジャッキー・チェンは、すぐに僕の、僕たちの新しいヒーローとなった。

『スネーキーモンキー 蛇拳』がもつ変身願望を満たすカタルシス
『スネーキーモンキー 蛇拳』の主人公は弱い。でも、そこが『ドランクモンキー 酔拳』よりも余計に面白いのだ。弱いものが強くなって悪い強者に勝つという筋書きは、少年のキラキラした変身願望、青年や大人たちの成功願望や勧進帳悪のカタルシスのようなものを満たしてくれたのだろう。そうして、多くの人がジャッキー・チェンのトリコになったのだ。
『スネーキーモンキー 蛇拳』は、日本ではジャッキーの2作目の扱いである。劇場公開は、1979年12月1日。『ドランクモンキー 酔拳』の公開が、1979年7月21日。ちなみに、『スネーキーモンキー 蛇拳』の同時上映は松田優作の『処刑遊戯』。『ドランクモンキー 酔拳』の場合は、菅原文太の『トラック野郎・熱風5000キロ』。作品タイトルを見ると、ため息が出るくらい昔のように思える。まあ、実際、同時上映の主演である昭和の名優2人はすでに亡くなっているのだから、そう思えても仕方がない。
<物語>
舞台は、清朝時代の中国。蛇形派、鷹爪派という拳法の二大流派が勢力争いを繰り返すなか、鷹爪派の凄腕拳士、上官(ウォン・チェンリー)は、蛇形派の拳士を次々と討ち取っていく。
主人公の簡福(ジャッキー・チェン)は大道場の下男として働くが、師範代(ディ-ン・セキ)にこき使われ、稽古の殴られ役をやらされ、みじめな毎日を送っていた。

そんなある日、簡福は町で老人を助ける。その老人は蛇形派の長老、白長天(ユエン・シャオティエン)だった。白は、簡福の散々な生活に同情し、蛇形拳を伝授する。


簡福は、白に伝授された蛇形拳をマスター。そんな折、大道場の本当の大先生が帰ってくる。そして、道場破りで門下生を横取りした他の道場に、その大先生とともに乗り込む。大先生、筋肉モリモリの男は倒したものの、蟷螂拳の使い手には返り討ちにされてしまう。そこで簡福が登場。なんと簡福は蛇形拳のその使い手を打ち負かしてしまう。一躍、大道場のヒーローになる簡福だった。
ところが、鷹爪派の凄腕拳士、上官にその姿を見られた簡福は、あっさりと負けてしまう。失意の中、自分の小屋に帰ってくると、猫がなぜかコブラに襲われている。しかし、猫は強く、コブラを一蹴。そこにヒントを得て、猫の動きを蛇拳に加え、オリジナルの拳法を体得する。
そして、ラスト・ファイト・・・。



<キャスト&スタッフ>
簡福(チエンフー)・・・ジャッキー・チェン {石丸博也}
白長天(パイ・チャンティエン)・・・ユエン・シャオティエン {小松方正}
上官逸雲(シャンカンイーユン)・・・ウォン・チェンリー {津嘉山正種}
師範代・・・ディーン・セキ ・・・石天 {及川ヒロオ}
{ }内は、ゴールデン洋画劇場1982年4月10日放送制作版声優
製作 ウー・スーユエン 呉思遠
監督 ユエン・ウーピン 袁和平
『スネーキーモンキー 蛇拳』は、ジャッキーのカンフーだけでなく、ストーリー展開もなかなか!
香港のカンフー映画というと、見ものはカンフー・シーンだけなんて言う人もいると思うけど、『スネーキーモンキー 蛇拳』は、意外とストーリーもよくできている(と思う)。意外というのは失礼だが、ジャッキー・チェンのキャラクターやカンフー・アクションだけでなく、ストーリーの面白さもあって、初期のジャッキー映画は人気があったのだと言えるかもしれない。
もちろん、突然の猫とコブラの闘いなど、ツッコミどころとはあるにしても、タイプの違ういろいろなキャラを登場させ、飽きさせないストーリー展開があり(僕が飽きないのは好きだから?)、いちおう最後にどんでん返し的なものも用意し、作り手の意欲と誠実さ(褒め過ぎか)を感じるのだ。
まあ、そんなの基本的なこと、と言われればそれまでだが、今回久しぶりに見直してそう感じた。とにかく、素直に楽しめたのだ。
とはいえ、主人公簡福の天才ぶりはすごい。短期間でどんだけ上達、進化したんだよ! という無駄なツッコミをしたくなるほどだ。まあ、どの世界でも、本物の天才とはこういうものなのかもしれないが・・・(と凡人はため息をつく)。

ちなみに、『スネーキーモンキー 蛇拳』公開の1979年はこんな年だった!
さて、1979年(昭和54年)はいったいどんな年だったか。
まずは、なぜかヒット曲から見ていきましょう。
1位 夢追い酒 渥美二郎 145.4万
2位 魅せられて ジュディ・オング 120.4万
3位 おもいで酒 小林幸子 99.7万
4位 関白宣言 さだまさし 99.0万
5位 北国の春 千昌夫 92.8万
6位 ガンダーラ ゴダイゴ 82.1万
7位 YOUNG MAN 西城秀樹 80.8万
8位 チャンピオン アリス 78.0万
9位 みちづれ 牧村三枝子 74.3万
10位 カメレオン・アーミー ピンク・レディー 70.8万
なんだろうか、今考えると、なんとなく良い時代だったような気がする。さすがに知らない曲は1曲もない。可愛かった久保田早紀の『異邦人』もこの年。八神純子さんも「ポーラー・スター」でブレーク。ホント、いい時代だったなあ、個人的にだけど。
邦画は『銀河鉄道999』、洋画は『スーパーマン』が興行収入1位。ソニーの「ウォークマン」や日本電気からパソコン、東芝からワープロが発売された。インベーダーゲームが流行したり、「3年B組金八先生」や「ドラえもん」が放送開始されたのもこの年だ。
それから、サッチャーが先進国で女性初の党首になり、東京でアジア初のサミットが開催され、アメリカと中国の国交樹立したのも1979年だった。

アジアでもっとも成功した俳優ジャッキー・チェン
ジャッキー・チェンは、今年63歳になるが、これまでほとんど休みなく精力的に俳優として活躍し続けている。出演本数も膨大だ。
ハリウッド作品にも数多く出演しており、アカデミー賞のプレゼンターを務め、アカデミー名誉賞を受賞するなど、アジアでもっとも成功した俳優といっても過言ではないだろう。
その主だった作品を紹介していこう。
『少林寺木人拳』
『クレージーモンキー 笑拳』
『ヤングマスター 師弟出馬』
『キャノンボール』
『プロジェクトA』
『スパルタンX』
『ポリス・ストーリー/香港国際警察』シリーズ
大ヒットした『ポリス・ストーリー』シリーズ。とはいえ、シリーズと言えるのは、基本的には下記の第3作まで。
『ポリス・ストーリー/香港国際警察』(1985年)
『ポリス・ストーリー2/九龍の眼』(1988年)
『ポリス・ストーリー3』(1992年)
その後の作品は、初めの3作とは関連のない単独シリーズとなっている。
『新ポリス・ストーリー』(1993年)※ノンフィクション・サスペンス
『香港国際警察/NEW POLICE STORY』(2005年)
『ポリス・ストーリー/レジェンド』(2013年)