実話を基にした映画 『レナードの朝』
医師・オリバー・サックス著作の医療ノンフィクションである『レナードの朝』。舞台作品、映画作品にもなっている。
今回紹介するのは1990年、米国でペニー・マーシャル監督の「Awakenings」として、内容を再構成したフィクションという形で映画化された作品。日本でのタイトルは『レナードの朝』。公開は1991年4月。

映画『レナードの朝』
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ノンフィクションである原作では登場する20名の患者全てに対する記述があるが、本作はあくまで原作に基づくフィクションであり、20名の患者の内の一人、レナードに対する描写がメインである。また、劇中で患者が示す症状は必ずしも医学的に正確ではない。
第63回アカデミー賞において作品賞、主演男優賞(ロバート・デ・ニーロ)、脚色賞の3部門でノミネートされたが、惜しくも受賞は逃した。
≪あらすじ≫ 新米医師と"眠り病"から覚めた患者の切なく、温かい物語
1969年、人付き合いが極端に苦手なマルコム・セイヤー医師(ロビン・ウィリアムズ)が、ブロンクスの慢性神経病患者専門の病院に赴任して来る。
医師といっても、そもそも研究専門であり、臨床の経験の全くないセイヤーだった。しかし、医師不足の解決が緊急課題だった病院にとっては、彼の医師としての経験よりも、病院として医師の人数を早く揃えるという経営面の理由により、なんとか採用されることとなった。
セイヤーの担当となった病棟には、全世界で大流行した嗜眠性脳炎(俗に言う"眠り病")患者が数多く入院していた。"眠り病"は一度発病するとまるで人形のように動かない状態になり、回復が極めて難しい病気であった。
案の定、セイヤーは患者との接し方で苦労するが、本来の誠実な人柄で真摯に仕事に取り組んでいく。

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患者たちは話すことも動くこともできないものの、自分に向かって飛んできたボールをキャッチするなど、まだ反射神経だけは残っていることを発見する。
セイヤーは研究畑出身だけあり、患者に対していくつもの実験を重ねていく。
その様子を同僚の医師たちは一笑に付すが、その熱意は治療をあきらめかけていた看護婦のエレノア(ジュリー・カブナー)の心をさえ動かしていった。

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セイヤーは患者の一見意味のないように思える僅かな動きから、ヒントを得ていく。
そんな彼の患者の中でも最も重症だったのがレナード・ロウ(ロバート・デ・ニーロ)。彼は11歳の時に嗜眠性脳炎を発病し、それ以来、母親がずっと付き添ってきた。30年前に入院してからは、意識こそあるものの半昏睡状態で寝たきりの生活なのであった…。

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セイヤーは何とか彼を救おうと奔走する。まだ公式に認められていない新薬、パーキンソン氏病患者用の「Lドーパ」を使用してのレナードの機能回復を病院に嘆願する。当然、断られるがしつこく可能性を訴え、なんとか投薬の機会を得た。
薬の容量を調整しながら、あきらめずに投薬をするセイヤー。効果がないように思われたが、ある朝ついにレナードが目覚めを迎えたのである。
セイヤーがレナードのベッドを訪れると、レナードが居なくなっていた。
焦るセイヤーだが、レナードは寝たきりだったベッドから抜け出し、病院の椅子に座っていた。
そして、穏やかな様子で、セイヤーと会話をするレナード。眠りの世界から現実世界に戻ったレナードは約30年ぶりに自己意識を取り戻していた。

L-ドーパ
レナードの朝 - Wikipedia
その後、ずっと見守っていた母に元気な姿を見せ、安心させる。
また、セイヤーに連れられて子供の頃以来、久しぶりに街に出るレナード。
彼にとっては見るものすべてが驚きだった。知らない世界に心を弾ませ、河に入ってはしゃいでセイヤーを困らせるなど、意識のなかった頃がウソのように現実世界を堪能するレナードだった。
セイヤーは薬の効果に意を強くし、上司に他の患者にも新薬を使うことを申し出る。病院のスタッフの協力を得て、投薬が始めていく。そして、ある夜、セイヤーは意識を取り戻し、ベッドから次々と起き上がる患者たちの姿を見るのだった。
完全に機能を回復したレナードは、病院に父親の見舞いにきたポーラ(ペネロープ・アン・ミラー)と出会う。
ポーラの父も重病で、頻繁に病院へきていたポーラ。病院でのランチ時に彼女と会話し、レナードは恋をする。自身の病気など赤裸々に語るレナードにポーラも心を開いていく。
しかし、この恋をきっかけに問題が起こる。
1人だけで外出したい訴えるレナード。しかし、医師団は反対し、セイヤーも賛成とは言えずに反対側に回ってしまう。
それに反発したレナードは怒り狂う。病院のドアを強行突破しようとして制止させられたり、患者に対して、病院の悪い部分をまるで指導者のように訴え、支持を得ていく。

原作 文庫本『レナードの朝』
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しかし、その頃から再び病状の悪化が始まってしまう。顔がひきつり、痙攣したように身体を震わせるレナード。段々と意識が遠のく事が増え、かつての"眠り病"の状態になる事が頻繁に起こっていく。
レナードはまだ意識のある内にと、ポーラに別れを告げる。
セイヤーは必死に症状の悪化を食い止めようとするが、次第に意識が失われていくレナードだった。
その様子を見ていた周囲の患者たちも自分の身にも起こるのではと心配する。その心配は無用と言い聞かすセイヤーだったが、レナード同様に他の患者たちも全て元の状態に戻ってしまった。
その後、自分のしたことは間違いだったのだろうかと自問自答するセイヤーをエレノアは優しい言葉を投げかけ慰めた。
最後のテロップでは、セイヤーはその後も彼らに治療を行うがこの年ほどの回復は見られなかった旨が記述されていた。
作品データ
原作 オリヴァー・サックス
監督 ペニー・マーシャル
脚本 スティーヴン・ザイリアン
俳優 ロバート・デ・ニーロ、ロビン・ウィリアムズ等
公開 1990年(※日本公開は1991年)
配給 コロンビア映画、コロンビア・トライスター映画
時間 121分
絶賛されているロバート・デ・ニーロの演技
アメリカン・ニューシネマの代表的な作品『タクシードライバー』で過激な若者を演じ、『レイジング・ブル』でアカデミー主演男優賞を受賞し、『ゴッドファーザー PART II』ではアカデミー助演男優賞を受賞するなど数々の名演技をみせてきたロバート・デ・ニーロ。
また、彼の名演を支えているともいえる「デニーロ・アプローチ」と呼ばれる、撮影前の徹底した役作りは有名。
前述のアカデミー主演男優賞を受賞した『レイジング・ブル』では体を鍛え上げボクサー役を演じた後、老いた主人公を演じるために体重を20キロ増やした。また、『アンタッチャブル』においてはアル・カポネを演じるために頭髪を抜いている。
本作での好演は1991年のアカデミー主演男優賞にノミネートされ、同年のニューヨーク映画批評家協会賞では主演男優賞を受賞している。
下記にネット上の本作におけるロバート・デ・ニーロの演技評価をまとめた。

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≪『レナードの朝』でのロバート・デ・ニーロの演技評価≫

パンフレット『レナードの朝』
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非常に悲しい終わりを迎えた本作。
ロバート・デ・ニーロの演技だけでなく、セイヤーを演じたロビン・ウィリアムズの評価も高かった。
最後に『レナードの朝』原作者で医師でもあった、オリバー・サックス氏によるロビン・ウィリアムズとのエピソードをご紹介する。
セイヤーは彼をモデルとしており、ロビン・ウィリアムズの撮影の役作りに際して二人は会っている。
2014年にロビン・ウィリアムズが亡くなった際にその時を回想したコメントをしている。
映画の役作りのためサックス氏の患者の病室を訪れたロビン・ウィリアムズが、帰りの車で行った”演技”についてである。
”「その帰りみち、クルマの中でロビンはいきなり病室の喧噪を再現する信じられないような一人芝居をはじめた。ひとりひとりの声を真似しながら、完璧な正確さをもって。およそ信じられない聴きものだった」”
患者達の様子を少し見ただけで、完璧な形態模写を行ったのである。
また、サックス氏によれば、ロビンにとって"真似"は演技の第一段階。演技の対象を瞬時に観察し再現した上で、自分の人間性を吹き込み、オリジナリティを持った役作りへと深化させているのだろうと分析している。
ハリウッドを代表する名優同士の共演。さすがの一言に尽きる。