大会前の下馬評は?
1986年、第58回選抜高校野球の大会前、優勝候補として挙げられていたのは、桑田真澄、清原和博が卒業したとは言え、高いチーム力を誇っていたPL学園。秋の関東大会を制し、後に名手として名をはせる事になる飯田哲也選手(後ヤクルトなど)らがいた拓大紅陵高校。

飯田哲也選手(高校時代は捕手でした)
更にプロ注目のナンバーワンサウスポーでしかも、強打者でもあった近藤選手(後中日)要する享栄高校。他にも池田、天理、上宮…と甲子園常連校が揃っていました。
そんな中、新湊高校は北信越大会準優勝を果たしたものの、チーム打率.291で出場校中最下位。しかもこの大会が選抜初出場。更に雪国の為、冬の期間は練習が制限される事もあり、富山県選抜大会で苦戦が続いている…という事もあり、新湊高校は苦戦が予想されていました。
対享栄戦
1回戦は、大会ナンバーワンの近藤投手率いる愛知の享栄高校。近藤投手がどのような投球を見せて新湊打線を抑えるのかという事に世間の注目が集まっていました。この試合は雨が降りしきる中での試合となりますが、近藤投手は評判通り、新湊高校をねじ伏せるピッチングで9回を1失点に抑え、12奪三振を奪う快投を見せます。

享栄高校・近藤投手
これに対し、新湊のエース酒井投手はがコーナーを突く丁寧なピッチングと雪の積もったグランドを雪かきし、長靴を履いてノックを受けることもあったという守備陣の守りにも支えられて、強打の享栄打線を2安打完封。「番狂わせ」を起こしました。ちなみに、「夏・春連覇」が注目されていたPL学園も初戦で敗退しており、大会は一気に混戦模様となっていきます。
対拓大紅陵戦
初戦で、優勝候補の享栄高校を下したとはいえ0対1の辛勝。更に言えば、秋から春にかけて公式戦から離れている期間が長い春の選抜大会の1回戦は、波乱が起きやすいとも言われています。更に新湊高校は2回戦で対戦する拓大紅陵高校は秋季関東大会を制し、この大会の本命の一つと言われていました。その評判通り拓大紅陵高校は1回戦を8-0と快勝。「2戦続いて優勝候補が相手なんて運が悪い…」と思われていました。
試合が始まると、6回表が終了した時点で4-0で拓大紅陵高校がリード。勝敗が決まりかけた6回裏、開き直ったのか新湊高校打線が繋がり出します。地元から詰めかけた大応援団の声援に後押しされ一気に6点を取って逆転。そのあと酒井選手が拓大紅陵打線の反撃を抑え、7-4で勝利。2戦続いて優勝候補を破って新湊高校はベスト8に進出しました。この時、新聞各紙に「新湊旋風」の見出しが並んだのです。
対京都西高校戦
ベスト8の対京都西高校戦も激戦となりました。1-1のまま延長戦にもつれ込んだ試合は、13回の裏、京都西の攻撃。ワンアウト3塁の場面で3塁走者が投球動作の入る前に本塁に突入するホームスチールを狙います。この時、酒井投手は冷静にプレートを外し、ホームへ送球しタッチアウト。サヨナラ負けの危機を脱したのです。
上記の最大のピンチを脱した14回の表新湊の攻撃。ツーアウト1塁3塁の場面で、京都西の佐々木投手は一塁ランナーが走ったのに気付いて、投球動作を中断してしまいます。このプレーがボークとなり、3塁ランナーはホームに生還。結局、この1点が決勝点となり、新湊高校は2-1で勝利したのです。
延長14回、200球近くを投げた酒井投手の疲労は大きく、次戦の宇都宮南戦では、宇都宮南の主将・吉永選手に満塁ホームランを許すなど3-8で敗退するのですが、8回裏に3点を返す反撃を見せた時にはまたも「まさか」の逆転があるのか!?とスタンドは大きく盛り上がりました。雪国のハンデをものともせず、富山県勢初のベスト4まで進出。後々まで語り継がれる大活躍を見せたのです。
この第58回選抜高校野球大会を制したのは、徳島代表池田高校でした。

第58回選抜高校野球大会の勝ち上がり
この年の夏の大会も甲子園まで勝ち進んできた新湊高校は、春の時とは違い、大会前から注目を集めていました。そしてこの大会の初戦の相手は、またも「優勝候補」と言われていた天理高校。「事実上の決勝戦」とも呼ばれた注目カードに大観衆が詰めかけます。
試合は酒井投手が天理高校打線につかまり8点を取られますが、9回に粘りを見せ反撃した新湊高校に大きな拍手が贈られました。(4-8で敗戦)。
この年以降、新湊高校が甲子園に出場する度、地元・富山県の方だけではなく、「あの旋風をもう一度見たい」と期待する高校野球ファンは多いのです。