結城は薫を組み伏せた。薫が抵抗して暴れても、男の結城を跳ね除けることは出来ない。
司「男の言葉なんか信用するな。いいかよく覚えとけ。男にとって行動は第二、言葉は第三の価値しかないんだよ」
薫「第一は何よ?」
司「そいつは自分で考えるんだな」
結城は謎めいた持論を薫に説くと、薫を抑えていた腕をあっさり解いた。
司「とにかく言葉にすがると傷付くだけだ。判ったか?」
司「駄目な男よ。いつかきっとお前の方から飛び込んで来るようにしてやるぜ」
こうして緊張の一夜が明けた。
朝練の高志が、鍵を開けて部室に入ってきた。
薫と結城に出迎えられて、高志は目を丸くした。
高志「君たち、どうしてここに?!」
薫「誰かに閉じ込められたんです」
薫の言葉に高志はますます驚いた。ということは、薫と結城は2人で夜明かししたことになる。
誤解を解こうと薫は高志に説明した。
薫「何にもありませんでした。この人意外に意気地がないんです」
戸惑う高志を尻目に、結城はさっさと部室を出て行ってしまった。
誰が2人を閉じ込めたのか?
鍵を持っているのが馬術部員である以上、他に犯人はあり得ない。
芝園校長は「分かりました」と言って薫に退室を命じた。
馬術大会の代表に、薫が選ばれ、先輩部員たちの反感を買ってしまう。
生徒会長で馬術部主将の磯崎高志、不良グループのリーダー格である結城司、馬術部顧問教師の大下直樹らは薫に心ひかれていく。
磯崎高志と結城司が薫をめぐって対立を深める
司「お前も結構器用だな。 恵美子ってものがありながら薫にまで。 増して、お前は磯崎の息子だからな」
『水穂薫を巡る愛の様相は、増々波乱の極に達しつつあった。 それは、アリエスの星の下に生まれた薫の宿命であったろうか』
薫と高志が抱擁を交わしていると、番長・結城がふらりと現れて2人の元に歩み寄って来た。
司「結構な眺めだぜ。磯崎、お前ほざいたな。
生涯掛けて恵美子だけを、1人の女だけを愛し抜くってな。
それがどうだ?聞いて呆れるぜ」
高志は結城に弁解した「結城、薫さんが悪いんじゃない。
僕の方からしたことだ」
結城は、これ迄何度となく高志に絡んでいた。
高志が憎い訳ではなかったが、高志の父に姉を取られたのが許せなかった。
八当りと知りつつ、結城はついつい高志に因縁を付けてしまうのだった。
結城司「恵美子も好き、薫も好き。
お前、女ったらしの親父と何処がどう違うんだよ」
この一言にカチンと来た高志は、思わず結城を殴り飛ばしていた。
結城は捨て台詞を残して高志の元から立ち去った。
司「恵美子もお前らを見てたよ。泣いてたぜ」
結城司は薫の愛馬エレクトラの世話をしていた。
いよいよ馬術大会の日が来たが・・・
薫「先生、すみませんでした。 私、出場します。 私、無理は承知でエレクトラに賭けるわ。 いいえ、出るからには勝ってみせる! 誰が何と言おうと、私は決めたわ」
エレクトラはもう限界だった。「エレクトラ、もういいの。お止め」
それでも、エレクトラは競技をやり遂げようとバーに挑み続けた。
主人の要求に答えようと、痛む脚を堪えて走り続けた。
そして、最後のバーを飛び越えたところで力尽きて地面に横倒しになってしまうのだった。
こうして、事態は最悪の結果に終った。
競技に失格しただけでなく、エレクトラには致命的な傷を負わせてしまった。
獣医師による診察の結果、エレクトラはもう手遅れだと診断がなされた。
馬がここまで脚を駄目にすると、もう生きていくことは出来ない。
いっそのこと楽にしてやった方が馬のためにもいい。
獣医師は、そう言ってエレクトラの薬殺を打診した。
涙目の番長・結城司「何が天国だ。地獄だよ。そうさ。 エレクトラはお前のために地獄に堕ちたんだ。 馬鹿野郎。馬鹿野郎!」
高志が結城に半殺しにされたという噂はすぐに学校中に広まった。
翌日の放課後、結城は磯崎の息子・高志を雑木林に呼び出して詰め寄った。
「姉貴はやっとお前の親父と別れる気になったらしい。
とは言うものの、早い話が捨てられたんだ。
何だかんだと小難しい屁理屈を並べ立てていたが、
お前の親父が姉貴を弄んで捨てたことに変わりはねえ」
結城が毒突くと、高志は言い返した。
「それで俺にどうしろって言うんだ?
親父から慰謝料でも取って来いって言うのか?
自分だけが被害者だと思うな。
親父のせいで、母は完全にノイローゼになった。
お前の所だけじゃない。
俺の家だって地獄なんだよ!」
高志が立ち去ろうとすると、結城は呼び止めて続けた。