手塚の演劇愛〜 漫画「七色いんこ」

手塚の演劇愛〜 漫画「七色いんこ」

手塚治虫の「七色いんこ」、ご存知ですか? 手塚氏自ら、僕の作品のどの系統に入れたらいいのかという変わった作品。手塚氏の演劇愛にあふれた名作です。


七色いんこの誕生

トミーは貧民街の劇場に立つ天才的芸人。
舞台だけでなく、片時もピエロのかつらとメーキャップを取らないで生活している。
陽介は頼み込んで弟子にしてもらい、「七色いんこ」という名前をもらう。
掏摸の名人で気障ったらしいそのくせ気弱な紳士泥棒—

彼とトミーのコンビは劇場を笑わせ沸かせ、トミーのきびしい指導にいんこもどうやら一人前の芸人に。

そんなとき、貧民街のホームグランド以外の舞台に立たず、立派な劇場からの引き合いも断り続けてきたトミーが、シカゴの大劇場、バーミンガム氏の劇場に舞台を受けます。
出し物はいつものドタバタではなくベトナム戦争の風刺もの。トミー自身の復讐だったのです。
名優に憧れていたトミーでしたが、戦争が彼の人生を狂わせました。ベトナム戦争で彼は、バーミンガム重工業が開発した皆殺し兵器を使う特殊部隊に配属されます。心ならずも女子どもまで大勢を殺すことに。トミーは遺族らの組織に追われ一生顔を隠して生きなければならなくなりました。一方で戦争であくどい金儲けを続け肥え太ったバーミンガム。彼は客席のバーミンガムに向けて演じているのです。観客も、もちろんバーミンガム当人も、トミーのパントマイムの名人技に語らずして理解させられます。

おそらくはバーミンガムの手の者に車ごと川に落とされたトミーといんこ。
トミーのかつらとメーキャップが流れ、素顔が晒される。

正体が明らかになったバーミンガムは、遺族組織に暗殺されます。トミーにも追っ手が。逃げ切れなかった彼は観念して組織に連れられ、殺されます。

—いんこは彼のくれたマスクをつけ、彼のかつらを被り、いつの日か父の悪事を暴くことを誓います。そしていつしか役者泥棒に。

いんこの帰還— 真相

日本を去って5年後、いんこは朝霞モモ子の消息を辿りに帰国します。しかし当時治療にあたった医師の話では、彼女は自分の名前も両親のことも事件のことも忘れてしまったのです。もちろん陽介のことも覚えてはいないでしょう。遠い親戚に引き取られ名前も変えたといいます。手がかりはただ一つだけ—。

それだけを頼りに、いんこは全国を走り回りモモ子の行方を追い、1年後、それらしき女性に辿り着きその家を訪ねて彼女の父に会います。名前を尋ねられ、男谷マモルと名乗ります。男谷マモルがいんこであったことを知り、千里刑事は驚愕します。しかし彼女はモモ子の真相を知りさらに驚きます。
いんこはモモ子の亡くなった父に変装して、スケバンのリーダーになってしまっている新しい名前のモモ子に会いに行きます。見覚えがあるような素振りのモモ子。いんこは助手のインコを呼び寄せ、確信を得ます。彼女は家族と鳶に襲われ車ごと転落したのでした。そのショックで、鳥を見ると激しい拒否反応が起こり、身体が当時の大きさに縮んでしまうのでした。
—モモ子は、千里万里子だったのです!

しかしまだ信じられない万里子。
いんこが戻ると彼に手錠をかけ運転させます。いんこは寄りたいところがある、とモモ子らが襲われた場所へ向かい、鳶に襲われた状況を再現します。

ショックのなか、ここを車で両親と走っていたこと、鳶に襲われたこと、海へと転落したこと、陽介の助けで家から逃げてきたこと—万里子は思い出す。

いんこが、マスク、ピエロのかつらを取ると、男谷マモルが現れる。さらに目を変えていたコンタクトレンズを取ると—

いんこ、“最後”の舞台

万里子、いえ、モモ子と当時の事故が鍬潟隆介の指示による殺人である裏付けを取ったいんこは、大劇場を貸し切って大宣伝を打ち、満席の客を相手に鍬潟の悪事を暴く一人芝居をうちます。
なんとしても阻止するつもりの鍬潟。しかし幕はこれから開きます。
モモ子が私服刑事を劇場に張り巡らせます。
「モモ子…きっとなにかがおこる もし…おれの身になにかあっても気にするなよな」「あいつらにはおれの芝居を止めることはできない!!この劇場に火事でも起こすか/それとも殺し屋を使っておれを消すことくらいさ」
「いんこ!!あんた撃たれてしまうよ!!」
「そしたら撃ったやつをきっと逮捕してくれ きっとだぞ!!」
「いんこ… …死なないで… …陽介くん」

〈トミー これから僕の戦いがはじまるぞ 七色いんこの命をかけた名演技を見てくれっ〉
いんこは袖から舞台へと進んでいきます—

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