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『去年マリエンバートで』（L'Année dernière à Marienbad）は、1961年公開のフランス・イタリア合作映画です。
ヌーヴォー・ロマンの代表的作家アラン・ロブ＝グリエが黒澤明の「羅生門」に触発されて書いた脚本を、「夜と霧」「二十四時間の情事」で知られるアラン・レネが監督。衣装担当はココ・シャネル。
日本での公開は1964年となります。
「昨年」の5日間の出来事と「現在」の7日間の出来事を描いたものであり、430のシーンで構成され、「昨年」と「現在」の間を往還しながら筋が進みます。登場人物Aの回想とXの回想、そして客観的視点を持つMの見る「過去」の出来事の3つの視点があり、それらが4つの脚本に書かれたうえでバラバラにされ、再構成された、という構造を持っています。出口のない迷路のような難解さから、「映画鑑賞の対象とする観客が少ない」との判断で第14回カンヌ国際映画祭への出品をキャンセルされるも、同年の第22回ヴェネツィア国際映画祭では金獅子賞を受賞しています。

バロック風の豪奢で陰鬱な、迷路のようなホテル。夜会服をまとった紳士淑女たちが、演劇やコンサートに無表情に身を沈め、いかさまゲームに興じ、人形のようにワルツを踊り、ナンセンスな会話を繰り返している。そこに、ひとりの男がやってくる。去年出会い、恋に落ち、そして１年後に駆け落ちする約束をした女をここから連れ出すために。しかし再会した女は、そのようなことは全く覚えていないと拒絶する。あなたの夢物語でしょうと。まるで、このホテルには過去など、はたまた恋や愛などという概念は存在しないかのように…

そこここに謎がちりばめられている映画です。黒澤明の「羅生門」にインスパイアされた作品とあって、真実は何か、本当のことを言っているのは誰か、が分らないまま回転扉に入って出てこられないような感覚に陥ります。とはいえ嘘を言っているのではなく、その人物の見解と、他の人物の見解は違う、ということなのですが、その言葉や回想に翻弄される感覚は、「映画」というメディアからは普段は得られない体感を、そのバロック調の麗美な城や庭の映像美と共にもたらします。全く新しい「映画」の表現をこの映画でぜひ体験してみてください。

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