シルバーコレクターでは終わらなかった。引退間際に見せた光。そして今もなお輝きを増し続けている。  ステイゴールド

シルバーコレクターでは終わらなかった。引退間際に見せた光。そして今もなお輝きを増し続けている。 ステイゴールド

 重賞もなかなか勝てないのにG1では2着、3着に健闘する小柄な馬。競馬ファンは、そんな不思議な「頑張り屋」を、いつしか馬券度外視で応援するようになっていった。しかし、そんな温かい目すら、「違うよ」と言わんばかりに、彼は競馬ファンの想像を遥かに超えるポテンシャルを示していくことになる。


ステイゴールド

競走馬として

“地味な”サンデーサイレンス産駒

 ステイゴールドの父は、1989年の全米年度代表馬で、日本に種牡馬として来たサンデーサイレンス。(サンデーサイレンスは1995年から12年連続のリーディングサイアーとなるなど、現在の日本競馬を作り上げた大種牡馬である。)
 ステイゴールドは、このサンデーサイレンスの第3世代であったが、すでに前の1歳上、2歳上の世代の産駒が目覚ましい活躍を見せており、彼にも血統的には大きな期待が寄せられていた。しかし、一方で、調教で前を走っている馬に襲い掛かっていくといった気性の激しさや、430キロ台の小柄な馬体から不安な面もぬぐえなかった。
 デビューは、1996年、阪神競馬場。レースは後手を踏み、鞍上の名手オリビエ・ペリエに追われて猛追を見せたが、3着に終わった。まずまずのデビュー戦から、早めの勝ち上がりに期待されたが、2戦目では前脚に骨膜炎を生じて戦意喪失し、最下位。復帰戦では、最終コーナーを曲がろうとせず、大きく外に逸走したうえで騎手を振り落として競走中止するなど、いきなり挫折に直面する。
 こうした中、新たなパートナーとして指名されたのは熊沢。彼により、日々懸命の調教が施され、悪癖を矯正。未勝利戦で2着2度の後、デビュー6戦目の1997年5月に初勝利を果たした。ちょうどその頃は、すべてのサラブレッドが目標とするG1レース「ダービー」を、同世代のトップホースが走っている頃。サンデーサイレンス産駒としても、先輩フジキセキ、バブルガムフェロー、ダンスインザダークや同期のサイレンススズカなどのような切れ味や派手さはなく、普通に考えれば地味な存在で終わるだろう。そんな印象しかまだなかった。

シルバーコレクター

 その後、夏の条件戦を勝ち上がり、最後のクラシックG1レースの菊花賞にはなんとか出走がかなったが、結果は見せ場なく8着。その後も、翌1998年は、中長距離路線を中心に出走し、オープン特別、1600万条件戦を連続で2着と惜敗で勝ちきれない。
 しかし、重賞戦ダイヤモンドステークスに格上挑戦し2着に入ったことで、1600万条件戦を未勝利のまま、獲得賞金でオープンクラスに昇格する。
 そして挑んだG1レース「天皇賞(春)」。人気の中心は、同世代でダービーで2,3着だったシルクジャスティス、メジロブライト。一方、ステイゴールドはろくに条件戦も勝っていない、いわゆる格下馬。14頭中10番人気も仕方のないところだったが、そんな競馬ファンの予想を裏切り、シルクジャスティスを上回る2着に大健闘した。(1着はメジロブライト)
 続くG1レース「宝塚記念」でも、9番人気という低評価。サイレンススズカ、メジロブライト、シルクジャスティスに加え、エアグルーヴらも揃っており目移りするメンバーであったのもあり、競馬ファンにとっては、天皇賞で2着したことをなんとかフロック視して馬券から外したい存在であった。しかし、今度はメジロブライトらも上回り、またまた2着に健闘する。(1着はサイレンススズカ)
 いよいよ本物か!と期待されたが、前哨戦の重賞レースではなぜか勝ちきれず。結果、人気を落としてG1レースを迎え、「天皇賞(秋)」では4番人気の評価。しかし、ここでも人気を上回る2着に食い込む。(このときはサイレンススズカがレース中に故障するアクシデントもあったが)
こんな「G1で健闘するが、G2やG3でも勝ちきれない」という不思議な特徴を持つステイゴールドは「シルバー・ブロンズコレクター」と呼ばれるようになり、競馬ファンにとってはありがたくもあり、厄介な存在でもあった。
 しかし、「いつも善戦するけど勝てない」状態がずっと繰り返され1年以上も続くと、その健気な頑張りを見た競馬ファンの気持ちは、単なる馬券の対象からを超えた親心にも似たような気持ちに変わっていく。「勝たせてあげたい」と。

念願の1勝

 28連敗中のステイゴールド。そんな彼に新たなパートナーが現れる。日本の誇る名手、武豊を鞍上に迎えたのである。
 2000年、5月。挑むのは東京競馬場で行われる重賞「目黒記念」。1番人気。
 G1よりは手薄なメンバー。普通なら勝てる。しかし、ステイゴールドには「勝てるメンバー」といった概念はない。どんなメンバーでも勝ちきれないのだから。競馬ファンは、ここでも半信半疑な部分も抱えつつ、でも「勝ってくれ」と強く願った。ステイゴールドは、そんな競馬ファンの気持ちのこもった1番人気に、鞍上の武豊のエスコートで応えた。東京の長い直線を走り終えたとき、G1レースでもない、朝から土砂降りの土曜日の重賞レースだったにもかかわらず、割れんばかりの拍手に包まれた。

引退レースで見せた真のポテンシャル

 そこからG1レースでも着順が落ちるなど年齢的な限界もささやかれ始めた2001年3月。初めての海外遠征に行く。レースは、ドバイで行われた国際G2シーマクラシック。鞍上は武豊。
 断然人気の前年覇者の地元UAEのエースであるファンタスティックライトが直線抜け出しリードを保ったが、後方のステイゴールドは直線で矢のように猛追し、ゴール寸前で鼻差かわしての優勝。何よりも驚いたのは、ステイゴールドのこれまでのレースにはなかったサンデーサイレンス産駒特有の切れ味鋭い末脚を見せたことである。
 日本に凱旋したステイゴールドは、やはりいつものステイゴールド。不運のレースもありながらやはり勝てないレースが続いた。「ドバイで見たのは幻だったのか・・・」そう思いながら迎えた引退レースは12月に行われる香港国際競走のひとつ・香港ヴァーズ (G1)。相手関係もあり、1番人気で期待も高まった。
 しかしレースは甘くない。直線を迎えても逃げるエクラールがどんどん差を広げていく。残り200メートルでまだ5馬身。致命的な距離を残し、誰もがあきらめた。しかし、鞍上の武豊とステイゴールドはあきらめなかった。武豊に「まるで羽が生えているみたいだった」と言わしめたほどのものすごい切れ味を披露し、エクラールを一気につかまえ、引退レースで念願のG1(国際G1)タイトルを手に入れた。
 競馬ファンは日本から大きな拍手を送るとともに、引退の年、引退レースでもまた新たな面を見せるステイゴールドのポテンシャルに驚愕した。

種牡馬として

受け継がれていく血

 引退したステイゴールドは種牡馬となる。しかし、種牡馬の評価である種付け料は、種牡馬としての同期にあたるテイエムオペラオー、アグネスタキオンに比べ3分の1に満たない価格といったところであった。
 だが、そんな評価もあざ笑うように、次々と名馬が生まれる。2004年産駒のドリームジャーニーが2歳G1を制覇。小柄な体ながら回転の速い走りでステイゴールドを彷彿とさせた。彼は2つのグランプリG1、宝塚記念、有馬記念も制した。また、2006年産駒のナカヤマフェスタが人気薄でG1宝塚記念制覇するなど、そのほか数々のG1馬を輩出し、父の果たせなかった国内G1制覇を次々と果していく。
 中でもやはり次の二頭だろう。2008年産駒に出た怪物は言わずと知れた三冠馬オルフェーブルである。海外にも挑戦し凱旋門賞で2度2着になるなど、あのディープインパクトをも超える成績を残した。2009年度産駒の芦毛の怪物ゴールドシップは中長距離を中心にG1を5勝した。
 結果として、ステイゴールドのポテンシャルがG1級だったことを子供たちが証明したのだ。引退前に見せたあの切れ味。あれが真の姿であったことを。逆に言えば、国内のG1を勝ちきれなかったのは「彼なりの考え」が何かあったのかもしれない、と想像を掻き立ててくれる。
 オルフェーブル、ゴールドシップは日本の競馬界の中心として君臨したが、いずれも「優等生」ではなかったところが共通している。オルフェーブルは、重賞レース阪神大賞典で第3コーナー入口でコーナーを曲がろうとせずに外ラチギリギリの所まで真っ直ぐに逸走した(その後2着で盛り返す強烈なレース)。ゴールドシップは1番人気の宝塚記念で、ゲート内で立ち上がってしまい、大きく出遅れた。つまり、デビュー3戦目で騎手を振り落したステイゴールドのDNAもしっかり受け継がれていたのだ。
 ステイゴールドは2015年に死亡したが、そのDNAはオルフェーブル、ゴールドシップらからまたその先に受け継がれていく。日本初の凱旋門賞馬を出してくれることに期待したい。あと、またいつかコーナーで逸走する馬がいたら、血統表にステイゴールドの名前がないか、きっと探してしまうことだろう。

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競馬 引退 2000年代

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