大種牡馬・サンデーサイレンスの初年度産駒、幻の3冠馬・フジキセキ

大種牡馬・サンデーサイレンスの初年度産駒、幻の3冠馬・フジキセキ

サンデーサイレンス。この馬の名は競馬をよく知らない人でも1度は聞いたことがあるのではないだろうか。日本の競馬を変えた偉大なる種牡馬・サンデーサイレンス。その初年度産駒に「フジキセキ」という名の馬がいる。ディープインパクトと並びサンデーサイレンスの最高傑作といわれる名馬である。今回はそんなフジキセキをご紹介します。


偉大なる父の船出

1992年4月15日、北海道千歳市にある社台ファーム千歳で1頭の牡馬が誕生する。父・サンデーサイレンス、母・ミルレーサーとの間に産まれた仔、フジキセキである。父によく似た青鹿毛のこの牡馬は、後に「幻の3冠馬」と呼ばれることになる。

父のサンデーサイレンスは、1989年の全米年度代表馬で社台グループが輸入した大物種牡馬である。大きな期待を持って導入されたこの種牡馬は、12年連続でリーディングサイアーを獲得し、「日本競馬に革命を起こした馬」と呼ばれた。1994年に初年度産駒がデビューするとすぐに「サンデーサイレンス旋風」が吹き荒れるが、この「サンデーサイレンス旋風」はフジキセキを抜きには語れないだろう。

同年に産まれた67頭のサンデーサイレンス産駒の中でも一番の期待馬だったというフジキセキ。牧場関係者の話によればフジキセキは牧場の中でも傑出した存在だったという。そんなフジキセキは生まれて間もなく馬主の齊藤四方司に購入され、当時社台ファーム千歳の場長だった、吉田照哉の推薦により栗東・渡辺栄厩舎への預託が決定した。

フジキセキ

デビュー戦の衝撃

2歳を迎え、育成調教が始まっても牧場スタッフからの評価は相変わらず高かった。そうして1994年6月、フジキセキは栗東・渡辺栄厩舎に入厩する。フジキセキの馬名、フジは富士山から、キセキはミラクル(奇跡)を起こして欲しい、栄光の軌跡を残して欲しいとの思いを込めて付けられたそうである。

栗東に入厩してからの調教でも抜群の動きを見せたフジキセキ。渡辺もフジキセキに大きな期待を抱いていた。しかし、父・サンデーサイレンスの激しい気性を受け継いでいたフジキセキは、デビュー前のゲート試験を5回も受けることになる。

そんな陣営が選択したデビュー戦の舞台は、1994年8月20日の新潟芝1200m。鞍上に蛯名正義を迎え、単勝2.9倍の2番人気でレースは始まった。スタートで大きく出遅れ最後方からのレースを余儀なくされたフジキセキは、直線を向くとあっさり先行勢を捉え、持ったままで2着馬に8馬身差をつけて快勝。

1200mのレースで大きく出遅れたにもかかわらず、最後は8馬身差の圧勝劇。これには場内に衝撃が走った。人々は新しいスターの誕生を予感する。奇しくもこの年はナリタブライアンという牡馬クラシック3冠に有馬記念まで制したスターホースが誕生した年でもあった。2年連続での3冠馬の誕生を期待していた競馬ファンも多かったに違いない。しかし、その期待は幻に終わる。フジキセキとナリタブライアンの夢の対決も結局実現することはなかったのである。

圧倒的なパフォーマンス

デビュー戦で衝撃的なパフォーマンスを披露したフジキセキの2戦目は、10月8日。阪神の芝1600mで行われたもみじステークス。鞍上に角田晃一を迎え、この日は単勝1.2倍という圧倒的1番人気。このレースでもフジキセキは圧倒的なパフォーマンスを披露する。レースは道中後方を追走したフジキセキだったが、直線を向くとあっさり先頭に立ち、そのまま1発も鞭を入れることなく馬なりのままレコード勝ち。他馬を子供扱いにする。このレースで子供扱いした2着馬は、翌年日本ダービーを制することとなるタヤスツヨシであった。この時点で来年のクラシックはこの馬を中心にまわると誰もが信じて疑わなかった。

幻の3冠馬

続いて迎えた3戦目は、中山の芝1600mで行われた朝日杯3歳ステークス。この日も単勝1.5倍の圧倒的1番人気に支持されレースを迎えた。そんなファンの期待に応え、レースでは道中掛かり気味に先行策をとったフジキセキが直線で楽に先頭に立つと2着のスキーキャプテンにクビ差の勝利。着差はわずかであったが、この日も鞍上の角田晃一は1発も鞭を入れなかった。恐らくどこまで走ってもその差が縮まることはなかっただろう。それほど他馬との圧倒的な力差がフジキセキにはあったのである。

レース後、角田晃一は「とにかく搭載しているエンジンが違う。加速する時なんて凄いですよ。楽勝でした。今後どのように成長するのかとても楽しみです」と語っている。

年が明けて4戦目に選んだのは、皐月賞のトライアルレース・弥生賞。中山の芝2000mで行われるこのレースは皐月賞と同じ舞台。文字通り皐月賞の前哨戦である。この日のフジキセキも単勝1.3倍という圧倒的1番人気の支持を受けていた。レースは前日までの雨の影響で重馬場の中スタートした。道中2番手を進み、3コーナーで早々に先頭に立つ。直線で猛然と追い込んできたホッカイルソーに一旦並ばれるが、そこから2馬身半突き放してゴール。このレースでもその強さを見せつけた。

この時点で2年連続の3冠馬の誕生を誰もが期待したに違いない。しかしその期待は儚く消えてしまう。弥生賞の勝利からわずか半月後、左前脚に屈腱炎を発症。復帰までには1年以上を要するとの診断が下され、関係者の協議の結果、そのまま引退、種牡馬入りが決定したのである。クラシック制覇の夢はその子供たちに託されることになった。

夢の続きは子供たちへ

引退後は社台スタリオンステーションで繋養されることとなったフジキセキ。繁殖シーズン途中での種牡馬入りとなったにもかかわらず、初年度から118頭の交配相手を集める人気ぶり。ただ初年度産駒からは目立った活躍を見せる産駒は現れなかった。その後、ダートGIを7勝したカネヒキリや芝のスプリントGIを2勝したキンシャサノキセキなどが現れたが、産駒のクラシック制覇にはなかなか手が届かない。そしてついに2014年、産駒のイスラボニータが皐月賞を制覇し、念願のクラシック制覇を果たす。その勝利を見届けるように翌年の12月28日、頸椎損傷のためこの世を去った。23歳だった。

まとめ

わずか4戦でターフを去ったフジキセキ。その秘めたる能力は計り知れない。フジキセキが幻の3冠馬と呼ばれるのは彼がレースで全力を出し切っていなかったからかもしれない。全4戦のレースでは彼が全力を出すことはなかった。全力を出した彼の走りがどれほどのものだったのかそれを知る術はもうない。だがフジキセキはその名の由来の通り、我々競馬ファンの心の中に栄光の軌跡を残したのである。

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