若松孝二
若松孝二は世間一般に知られているとは言い難い存在。言い難い存在ではありますが、その存在感は「デカイ」という、ちょっと異質な映画監督です。
若松孝二ファンも同様でしょう。マニアックというか、変わり者というか。そうしたファンに支えられている若松孝二ですが、そのファンの数は意外なほど多い。
なぜ人々は若松孝二に魅せられるのでしょうか?探ってみたいと思います。
先ずは若松孝二ご本人からのメッセージです。
なんか、これだけで尋常ではない感じが漂いまくっていますよね。若松孝二とはそういう人のようです。
高校を中退後、家出し上京。ヤクザとなり半年間留置所生活も経験しています。それだけであれば単なるヤクザでしかありませんが、その後、若松孝二は低予算でピンク映画を撮りまくるんです。そして、ついには「ピンク映画の黒澤明」とまで呼ばれるようになります。
まぁ、並みではありません。で、その後はどうなったのかというところも気になりますね。「よっしゃー」気合を入れて若松孝二の作品を振り返ってみましょう。
腹貸し女
監督作品第1作は1963年の「甘い罠」でした。ヤクザ時代に逮捕されたことが強く心に残ったのでしょう。「警官を殺すために映画監督になった」というほどで、その言葉どおり「甘い罠」ではそれを実行しています。
「甘い罠」は低予算のピンク映画ながらもヒットし、以降ピンク映画を量産していくことになります。ただ、ピンク映画とはいえ、一般的なエロ映画とは違って、そこには「怒り」や「狂気」が込められているんです。
60~70年代の作品はあまり現存しておらず鑑賞は困難なのですが、数少なく残っている1968年に公開された「腹貸し女」からも、この時代の若松作品の雰囲気は十分に伝わってきます。
音楽を担当しているのは、なんと、あのジャックスです。しかも、音楽だけではなく出演もしているんですね。スゴイ!というか貴重!

腹貸し女
それにしても「腹貸し女」とは現代ではありえないタイトルですよねぇ。しかも、それが職業名とは。知りませんでした。(笑)
天使の恍惚
70年代の若松孝二の代表作といえば、東京総攻撃を計画する過激派の革命軍を題材にした「天使の恍惚」でしょうか。
これがまた、「腹貸し女」同様に音楽が素晴らしいのです。担当したのが山下洋輔トリオですからね。
フリージャズですね。映像が観れないのが残念ですが、いかにも合ってます。山下洋輔であって若松孝二でもある。そんな感じです。強烈だなぁ。
「ピンク映画の黒澤明」とまで呼ばれているのに、この時期の作品をまともに観ることが出来ないというのは痛いですね。何とかならんものでしょうか。
水のないプール
本人は否定するのでしょうが、80年代に入るとピンク映画から一般映画へとフィールドを広げていきます。とはいえ、80年代最初の作品「水のないプール」は、内田裕也を主演にしたクロロホルムで女性を眠らせて強姦する男という実話に基づいた物語というのですから流石です。

水のないプール
まぁ、内田裕也がカッコいいこと。最近の内田裕也しか知らない若い世代にもぜひ観てもらいたい。そのカッコよさにしびれてほしいものです。
本筋とは関係ありませんが、劇中で内田裕也が「ジンジャーエール」を頼む際の言い方が最高ですよ。
キスより簡単
80年代に入って4作目、1989年の作品「キスより簡単」。おそらくこれが最も商業的に成功した作品ではないかと思われます。前作の「松居一代の衝撃」が思いっきりコケてしまい、多額の借金を背負い込むことになった若松孝二は、まさに背水の陣。
是が非でも成功させねばならなかったと思われます。だからと言うわけでもないのでしょうが、「キスより簡単」は、ヒットした石坂啓の漫画の映画化です。

キスより簡単
原作ものとはいえ、サブタイトルに「New Sex Life-Style Bible」とあるように、内容的に若松孝二好みと言う感じですね。主演は原田芳雄。いい感じです。

キスより簡単
「水のないプール」ではジュリーでおなじみの大野克夫(exザ・スパイダース)が音楽を担当していましたが、本作ではジョー山中(ex.フラワー・トラベリン・バンド)です。若松孝二って本当に音楽にこだわってますね。
第4回高崎映画祭で原田芳雄が主演男優賞を、早瀬優香子が新人賞を本作で受賞しています。
われに撃つ用意あり
1990年、正確に言えば80年代なわけですが、「キスより簡単」の翌年に90年代の若松孝二を予感させ代表作のひとつとなる「われに撃つ用意あり」が公開させます。

われに撃つ用意あり
国際都市・新宿で生きる孤高なアウトローの世界を描いた原田芳雄主演のアクション。かつて全共闘闘士だったスナックのマスター・郷田は、警察とヤクザから追われて逃亡しているひとりの外国人女性を匿うが…。
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本作が一般的に最も評価された若松孝二の作品といえるでしょう。
それを証明するように、第33回ブルーリボン賞 主演男優賞:原田芳雄、第3回日刊スポーツ映画大賞 主演男優賞:原田芳雄、第14回日本アカデミー賞 最優秀助演男優賞:石橋蓮司、第64回キネマ旬報ベスト・テン第6位、第12回ヨコハマ映画祭 第2位・特別大賞:若松孝二、原田芳雄・助演男優賞:蟹江敬三など多数の映画祭で受賞しています。
音楽は、RCサクセションのサポート・メンバーとしても有名な梅津和時です。
原田芳雄とは相性が良かったのでしょう。次作の「キスより簡単2 漂流篇」まで3作連続で主役に抜擢しています。
1992年には宮沢りえ、ビートたけし、内田裕也という異色の3人を主人公とした「エロティックな関係」をはじめ「寝盗られ宗介(1992年)」、「Endless Waltz エンドレス・ワルツ(1995年)」などを発表、2000年代に入っても創作意欲は衰えることはなく、「完全なる飼育 赤い殺意(2004年)」、「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(2008年)」、「キャタピラー(2010年)」など話題作を量産し続けます。
そして、寺島しのぶ主演「千年の愉楽」の公開を翌年に控えた2012年10月に76歳で亡くなります。
今年10月13日には、若松プロのメンバーである実在の映画人たちが多数出演し、若松孝二の生きざまを描き出した「止められるか、俺たちを」が公開されました。
決して恵まれた環境だったわけではないと思いますが、若松孝二の作品、生き方は、今なお多くの人々に影響を与え続けているんですね。