石井 聰亙
石井聰亙とは、日本を代表する映画監督のひとり石井岳龍の改名前の名前です。むしろ映画好き、音楽好きの間ではこちらの名前の方で知られているのかもしれません。何故、音楽好きの間で知られているかといえば、それはもう石井聰亙時代の映画はパンクだったからです。そう、パンクとしか言いようのない映画でした。
その時代の代表作といえば「狂い咲きサンダーロード」でしょう。

石井 聰亙
ブルース・スプリングスティーンの曲からとられたと思われるロックなタイトル。泉谷しげる が担当した美術もいかにもロック。主人公の真っ黒なコスチュームが印象的ですが、クライマックスでのバトルシーンでは石井聰亙が自ら纏って演じているのだそうですよ。
音楽好きにも熱狂的なファンを持っている石井聰亙の初期作品がまとめて観れるのが「石井聰亙作品集DVD-BOX 1 ~PUNK YEARS 1976-1983~」です。

石井聰亙作品集DVD-BOX 1 ~PUNK YEARS 1976-1983~
それでは、ご紹介しましょう。今となっては劇場ではなかなか観ることが出来ない。しかし、奇跡ともいえる素晴らしい作品ばかりですよ。
高校大パニック
「石井聰亙作品集DVD-BOX 1 ~PUNK YEARS 1976-1983~」には、「高校大パニック」「1/880000の孤独」「突撃!博多愚連隊」「狂い咲きサンダーロード」「シャッフル」「アジアの逆襲~2005 REMIX LIVE VERSION~」といった6作品が収められています。
日本大学芸術学部入学直後の1976年に自主映画として8mmで制作されたのが監督デビュー作となる「高校大パニック」です。
言ってみれば学生映画なのですが、これが注目され、1978年に日活で澤田幸弘との共同監督というかたちでリメイクされます。

高校大パニック
キャッチコピーの「数学できんが、なんで悪いとや!」が話題となり石井聰亙は注目されることになります。
このキャッチコピーがどのくらい話題となったかと言いますと、「うる星やつら」「マカロニほうれん荘」「すすめ!!パイレーツ」といった当時大人気だったギャグマンガでこぞってパロディとして使われていることからも伺えます。
肝心の映画の方は、後にトレンディドラマ女優となる若かりし頃の浅野温子のヌードが観れるということで今や違った意味でカルトになっていますね。
浅野温子のヌードはありがたい。しかし、映画は自主製作の方が面白く、日活版は「高校小パニック」と影口を言われるような残念な結果になってしまいました。
日活としては学生に監督をさせるのはリスクが高いと考え、共同監督というかたちをとったのでしょうが、裏目に出た結果といえそうです。
ビデオでは2作目となる「1/880000の孤独」と共に自主製作版の「高校大パニック」を観ることが出来ます。
「高校大パニック」では、加熱する受験戦争と管理教育に耐えられなくなった高校生のフラストレーションが爆発するという内容でしたが、2作目の「1/880000の孤独」は予備校に通う浪人生が希望が見いだせないまま悶々としてストレスを溜め込んでいくさまが不気味に描かれています。そして爆発するという。
フラストレーションやストレス。それは作家 石井聰亙の原動力なのかもしれません。
突撃!博多愚連隊
自主制作映画3作目「突撃!博多愚連隊」。1978年の作品です。内容的にもですが、泉谷しげる も登場して次に来る「狂い咲きサンダーロード」の準備が整ったといってよい作品です。

突撃!博多愚連隊
出演は志水正義、八谷富夫ほか。文句なしに面白いです。学生が撮ったとは思えません。しかしなにより既に石井聰亙の個性が確立されていることに驚きます。
物語は、偶然に拳銃を手にしたチンピラにヤクザが喧嘩を売ってくるのですが、誤ってヤクザの親分の息子を殺めてしまいます。
警察とヤクザとに追われ、逃げる為に銀行強盗まで犯すことに。裏切り、怒り、孤独。カオスと化したそれぞれの思惑が入り乱れ暴動になる。実に石井聰亙的です。
狂い咲きサンダーロード
さぁ、でました。日本を代表するカルト映画です。大学の卒業制作として1980年に作られた「狂い咲きサンダーロード」。面白すぎます。北野武が「映画評論家と映画監督が選ぶトップ10リスト」の中で、この作品を第9位に挙げているほどです。ある意味お墨付きですね。

狂い咲きサンダーロード
お墨付きといえば、第23回ブルーリボン賞や第4回日本アカデミー賞をはじめとして数々の賞に輝いていますが、卒業制作ですからね。「狂い咲きサンダーロード」は。卒業制作、インディペンデント映画、そんなことは関係なしに面白いものは面白い。低予算だったとはいえ、むしろ商業映画ではなかったからこそ出来たのかもしれません。
「狂い咲きサンダーロード」は東映セントラルフィルム配給で全国公開されています。学生が作った映画がこのようなことになるなんて。「高校大パニック」での実績があったとはいえ、卒業制作ですからねぇ(くどい)。凄いことです。
シャッフル
1981年に「狂い咲きサンダーロード」の勢いそのままに作られた「シャッフル 」。これまた傑作、大傑作です。
原作は大友克洋の「RUN」で、16ミリ、モノクロ、35分といういかにもインディペンデントな映画です。しかも内容は、女を殺したチンピラを刑事が走って追いかけるというだけのものです。2人の男のかけっこ。それだけです。それだけなのですが、これがもの凄い!
これ以降は自主映画には別れを告げ、商業映画を撮り続けることになります。
アジアの逆襲~2005 REMIX LIVE VERSION~
残念ながらと言うべきでしょう。「シャッフル」の次に石井聰亙が撮ったのはこれまた人気の高い「爆裂都市( BURST CITY)」だったのですが、「石井聰亙作品集DVD-BOX 1 ~PUNK YEARS 1976-1983~」には収録されていません。ひとつ飛ばして1983年の「アジアの逆襲」が収められています。
残念とはいえ「アジアの逆襲」もまた石井聰亙らしいパンキッシュでサイキックな映画です。人体改造と意識の拡大をテーマに描いていますが、ストーリー性はありません。その分、感性にダイレクトに響きます。
買って損なし、観て損なしの「石井聰亙作品集DVD-BOX 1 ~PUNK YEARS 1976-1983~」。どの作品も負けず劣らずの名作ばかり。大プッシュします!