3ナンバーセダンが続々出た90年前後、クラウンとは違う高級車を模索
1989年の消費税導入の一方で、自動車税が大幅に見直され、2000cc以上の3ナンバー車の税金が細分化され、実質的な値下げとなりました。その結果、3000cc以上の国産車が増加し、クラウンやセドリックといったセダンも、主力を2000ccから3000ccに移行するとともに、フルモデルチェンジとともに、ボディーサイズを大きなものにしていきました。

威圧的な顔ではないが、ボリューム感あるデザインで存在感があった初代アリスト
Pictures of Toyota Aristo (S140) 1991–97
1991年10月にクラウンは9代目にフルモデルチェンジし、ハードトップ車は3ナンバーボディーに変更。さらに上級グレードのマジェスタを初めて設定しました。マジェスタは、ライバルの日産・セドリック&グロリアの上位にあるシーマを狙ってV8エンジン搭載車を独立させたものですが、それだけでなくクラウンで初めてフルモノコックボディを採用するなど、エンジニアリングの市場調査的な意味合いも含まれていたと推察されます。
このマジェスタには、プラットフォームを共有する兄弟車がありました。これがアリストです。アリストは、クラウンよりもスポーティな高級セダンと位置付けられ、3ナンバー専用ボディーが採用されました。

空気抵抗を小さくするため、ハイデッキのトランクが設けられた。ツインターボ車のタイヤサイズは225/55R16で、7本スポークのアルミホイールを履く。
Toyota Aristo (S140) 1991–97 wallpapers
しかも、トヨタの内部デザインではなく、イタリアのデザイン会社、イタルデザインが手掛けました。同社は、スーパーカーから小型車まで幅広く手掛けたジョルジェット・ジウジアーロが設立したデザイン会社です。そのため、アリストにはこれまでの国産高級セダンにはない雰囲気がありました。

3000ccのNAエンジンを積む3.0Q。タイヤサイズは215/65R15で、間隔の細かいアルミホイールを履く。
Images of Toyota Aristo (S140) 1991–97
国産乗用車最強の44.0kgmの最大トルク
アリストが鮮烈だったのは、デザインだけではありません。搭載されるエンジンも格別でした。当初、3.0Qと3.0Vの2グレードが設定されました。
3.0Qはクラウンと同じ230PSの直列6気筒3000ccのDOHCエンジンでしたが、3.0Vにはなんと、最高出力280PS、最大トルク44.0kgmの直列6気筒3000ccのDOHCツインターボが搭載されました。これを大きなボディーのセダンに搭載し、4速ATでクールに制御するのが“新しい高級”として、バブル時代のヤングエグゼクティブ(これも死語ですね)にヒットしました。
なお、このツインターボエンジンは、1993年5月にフルモデルチェンジした2代目スープラにも搭載されました。

シンプルで高級感がある、アリストのダッシュボード。
Toyota Aristo (S140) 1991–97 images
このように個性的な成り立ちを持つ高級セダンとなったアリストですが、私自身は子どもながらにトランクがでかくて不格好だと思っていました。レガシィやボルボなどのステーションワゴンがヒットしていた時代でしたので、いっそステーションワゴンにしちゃえばいいのに、などと思っていたものです。
しかし、当時好きになった子の家がアリストに乗っていると知り、急に好きになりました。勝手なものですね(笑)。

オプションで本革シートも選択できた。
Toyota Aristo (S140) 1991–97 wallpapers
マイナーチェンジで北米仕様に似た外観に
当時のCM動画を見ると、普段はセンチュリーの後席に乗っている支社長が自らハンドルを握るクルマ、という設定がされていますが、実際、クラウンよりも自分で運転する高級車、として販売されました。
アリストにはその後、NAエンジンの豪華仕様「3.0Q-L」や、V型8気筒4000ccエンジンを搭載した4WDモデルの「4.0Z i-Four」が追加されました。

マイナーチェンジでリアバンパーの側面に反射材が加わり、テールライト周りのガーニッシュはシルバーのメッキで縁取りされた。
Toyota Aristo (S140) 1991–97 pictures
93年には北米のレクサスブランドでもレクサスGS300の販売が始まりました。こちらはNAエンジンのみで、日本ではイメージリーダーだったツインターボは設定されませんでした。
しかし、いわゆる「高級車」的な威圧感がないデザインや、販売店が高級車を扱い慣れていないオート店・ビスタ店(現在のネッツ店)だったこともあり、販売にはやや苦戦したようです。そのせいか、1994年8月のマイナーチェンジでは、フロントグリルの縦桟にメッキが施され、リアバンパーの側面に反射材が追加されるなど、北米仕様に近づけた内容の変更が加えられ、パッと見たときの高級感が増しています。

フロントグリルの縦桟にはメッキが施され、高級感が増した。
Pictures of Toyota Aristo (S140) 1991–97
さらに1995年8月には助手席エアバッグの追加、1996年7月にはVVT-iエンジンの搭載など、たびたび変更が加えられています。この間、95年8月にはクラウンが10代目にフルモデルチェンジしています。
当時では長めの6年のスパンで2代目にモデルチェンジ
アリストは、当時のトヨタ車では異例のロングライフとなり、誕生から6年後の1997年8月に2代目にフルモデルチェンジします。全体的には初代の雰囲気を残しながらも、2代目は自社で手掛けられ、楕円を多用したデザインになりました。
アリストの象徴ともいえる3000ccツインターボは引き続き搭載され、さらにフロント53:リア47という重量配分を採用して、走行性能が一層高められました。2000年のフルモデルチェンジで5速ATに進化したものの、2004年11月で生産終了しました。

2代目アリストは、ヘッドライトや側面の窓など、楕円をモチーフにしている。
Images of Toyota Aristo (JZS160/161) 1997–2004
2代目は生産終了から13年以上になりますが、今でも愛好しているユーザーを見かけます。トヨタの高級車ですから、普通に乗っていれば劣化など大してないでしょうし、このようなハイパワーセダンは、少なくとも日本では二度と出てこないでしょう。
私は池袋にあったアムラックスのタイムレンタルで運転したことがありますが、都市部で乗ったということもあるのでしょうが、パワフルさよりも意外とコントロールしやすかった方が印象に残っています。
3代目はレクサスブランドの日本初のモデルとして登場
2005年8月から日本でもレクサスブランドがスタートし、その第1弾としてアリストを継承したレクサスGSが発売されました。しかし、ツインターボはなく、V型8気筒4300ccのGS430と、V型6気筒3500ccのGS350がラインナップされました。2006年3月からは、V型6気筒3500ccと組み合わせたハイブリッド仕様も追加され、GS450hの名で販売されました。

日本でもレクサスGSとして販売された3代目。個性的だった2代目を、おだやかにまとめた印象。
Lexus GS 450h 2008–09 images
2011年にモデルチェンジをし、現在レクサスGSは4代目になっています。アリストの名は消え、モデルチェンジの度にデザインのレクサスらしさが増していますが、スポーティで自分で運転する上級セダンとしての血脈は、きちんと受け継がれています。

レクサスGSとして、北米仕様から数えて4代目、日本仕様では2代目となる2012年モデル。
Lexus GS 450h 2012 wallpapers