業界初!「歌うゲーム」『サイコソルジャー』とは

サイコソルジャーのカセットテープ(非売品)
SNK サイコ・ソルジャー ミュージックカセット ... - ヤフオク!
カプコンの『ソンソン』は西遊記モチーフのコミカルなアクションシューティングでした。
シンプルでも意外と難しいという部分はどちらも同じですが、今回紹介する『サイコソルジャー』はアイテム取得によるキャラクター強化システムや、崩壊後の世界を舞台とした退廃的な世界観を特徴として差別化を施しています。
また上記にもありますが、メインBGMに肉声によるボーカル曲を用いた「業界初の歌うゲーム」としても有名であり、歌入りビデオゲームの先駆的作品でもあります。
早速聴いてみよう
前作『アテナ』のファミコン版に付録としてついてきたカセットテープです。
歌っているのは当時のアイドル清水香織さん。
ストーリー
数千年の長き封印を解かれ、再び姿を現した異種生物・屍愚魔(しぐま)の魔の手に滅ぼされ、闇に包み込まれた世界に二人の戦士が現れた。
太古の予言に詠まれし「二人の光の戦士」に選ばれたサイコソルジャー、麻宮アテナと椎拳崇である。
その身に宿りし超能力「サイコパワー」を武器に、屍愚魔を滅ぼし世界に光を取り戻すべく、二人は果てしなき戦いに旅立つ。
ゲームシステム
8方向レバー+Aボタン(サイコビーム)、Bボタン(サイコボール)で主人公の移動・攻撃を行い、緩やかなスピードで強制スクロールするフィールド内で敵を倒しつつ進みます。
フィールドは縦に区切られた4階建てのフロア構造で、レバー上下でフロアから別のフロアにジャンプ移動できます。
フィールド上には壊せる壁が存在しており、これを破壊して中に隠されたアイテムボックス「ルーム」及び各種アイテムを出現させる事によりキャラクターの強化を行っていきます。
各ステージの最後にボスキャラが待ち構えており、ボスのいる地点に到達するとスクロールが止まってそのままボス戦に突入。
撃破すると再びスクロールが始まり、パワーアップアイテムを補給するための中間地点を経て次のエリアと進みます。
ミス時はその場復活して数秒間の待機状態となり、一定時間経過するか任意のタイミングでボタンを押すことにより、フィールドに復帰してゲームが継続されます。
待機状態中は完全無敵で敵や壁を一撃で壊せる他、地形を無視して移動する事が可能です。
前作と異なりゲームオーバー後はコンテニュー画面に移行しますが、前作同様、プレイ中のクレジット投入による残機増加が可能です。
プレイ中にクレジットを投入した後、1P・2Pボタンを押すことでそれぞれのキャラクターの残機を30人分まで予めストックできます。
ゲーム画面を見てみよう
基本的な攻撃
サイコビーム(Aボタン)
攻撃の基本となるショット攻撃です。前方に向かって電撃を放ちます。
サイコボール(Bボタン)
Bボタンで発射する必殺技です。1発に付きサイコボールを1個消費します。
一般的なシューティングで言うボムの役割も兼ねており「撃つ瞬間は無敵」という特性もあります。
パワールーム
破壊可能な壁の中に隠されており、ブロックを壊して出現させ通過することによりキャラクターの攻撃力の強化を行います。
また、壁の存在しない特定地点に自動的に出現するものも存在します。
プレイヤーキャラクター
麻宮アテナ
麻宮アテナ(あさみや-)
本作の主人公の一人であり。16歳の女子高生です。
前年に発売されたアクションゲーム『アテナ』の主人公「アテナ姫」の子孫で、彼女から超能力を受け継いでいます。
超能力はまだ不完全ですが、歌いながら行使することでより威力が高まるという不思議な特性を持っています。
変身アイテムを取った際は火の鳥に変身します。
椎拳崇
椎拳崇(しいけんすう)
アテナの相方のサイコソルジャーです。
中国生まれで中国拳法の達人です。口調はなぜか関西弁ですが(笑)。
名前は「シーケンス」のもじりです。
彼の超能力は厳しい修行の末に後天的に身につけたものだそうです。アテナ同様、超能力はまだ不完全で戦いの中で力を高めていきます。
変身アイテムを取った際は龍に変身します。
評価点と難点
先駆作との差別化がなされている点
システム自体はカプコンの『ソンソン』の模倣であるため目新しさはあまり感じられませんが、ただの模倣には終わらせず、キャラクターのパワーアップシステムの導入により「シューティングゲーム」としてのゲーム性を強く打ち出しています。
その他、8方向に融通の効くジャンプ性能と、足場が地続きでなくところどころ途切れている箇所や落下穴が存在しているなどの点でジャンプアクションゲーム的な要素も若干含まれています。
グラフィック面でも、滅亡後の世界を舞台とした退廃的なSF風の世界観にあわせ、崩壊した都会のビル郡、地下下水道、地底湖、溶岩地帯、地底の最深部と、舞台が多彩に移り変わっていき、それに伴ってステージごとの外観とBGMも変化して単調に終始しないようになっています。
グラフィックそのものも前作同様、美麗に描かれていて見栄えが良く、世界観もしっかりと表現されています。
また、大型ボスのほとんどが多関節表現で描かれており、グリグリとうねるように動きまわる様は必見です。
特にラストボスである「シグ・ド・ダビデ」はサイズが非常に大きく、画面左端に到達するほどに長い2本の首を自在にくねらせながら勢いよく暴れ回ります。
公式攻略冊子のスタッフ一覧にて本作のプログラマーが「自信作」と豪語しているだけあって、かなりの迫力があります。
「歌入りBGM」の斬新さ
本作では第1ステージと以降の特定のステージにて、本作のメインテーマであるボーカル曲「サイコソルジャー」が流れます。
筐体から歌声が流れてくるという事態に、当時のアーケードゲーマーは誰もが度肝を抜かれました。
当時はゲームにサンプリング音声を用いた作品というのもそこまで多くはなく、ちょっとしたキャラボイス程度がほとんでどでした。
そこに出てきた「サンプリングした歌声とゲーム音源による伴奏を組み合わせてBGMに用いる」という発想は、当時、アイドル歌手としてデビューしたてだった清水香織さんを起用するという、メディアミックスの走り的な展開を行った事も併せて、非常に画期的なことでした。
チラシの謳い文句で 「人気の2人同時プレイに聞く楽しさをプラス!」「TVゲーム業界に世界初歌うゲーム誕生!」 と、公式自ら大々的にアピールしており、それだけ力を入れていたことが伺えますね。こうした点から本作はビデオゲームのBGMにボーカル曲を用いた先駆的作品と認識されています。
海外版でもきっちりと歌入りBGMが流れるのですが、そちらは新たに英語歌詞をつけ直したものが使用されています。
この曲は主人公アテナのテーマとも言うべき本作を象徴する歌であり、後にKOFシリーズにおいて、サイコソルジャーチームのテーマソングとして様々なアレンジで用いられています。
ゲーム中ではインスト版で全面クリア直後にほんの少ししか流れなかったエンディング曲「傷だらけのBlue Moon」も清水女史の歌唱によって歌われており、先ほど紹介したカセットテープに主題歌のフル版と共に収録されていました。
難易度が非常に高い
強制スクロールゆえに自分のペースにあったプレイスタイルを確保し辛い事に加え、ところ狭しと敵が密集してくる局面が多いため、思わぬ形でのミスが多発しやすいです。
自機がフロア経由で段階的にしか移動できないのに対し、一部の敵はフロアを無視した軌道で飛来したり、フロアをすり抜ける攻撃を行ってきます。
更に、フロアから別フロアへジャンプ移動している間は、攻撃できずやられ判定だけがある無防備状態となる点も痛いです。
上2つの帰結として「これから死ぬのがわかっているのに回避できない」という状況に容易に追い込まれてしまうのです。アドリブ避けが通用せずパターン構築が求められますね。
移動しながらの攻撃ができないため、移動自体は8方向に融通が利くものの立ち回りはやや不自由。ブロック破壊に夢中になっている内に、敵に囲まれたり壁と画面左端に挟まれたりと、ミスの要因になりやすいです。
1度ミスすると装備が全消滅して初期化されてしまうため、ミス後の立て直しも厳しいです。
ボスも全体的に固めで、ラスボスに至っては耐久力がケタ外れな上、ガードが固くて弱点に攻撃が届き難いため残機を利用したごり押しが必須など、全体的なバランスの面でもやや難があります。
特に一人プレイ時ではかなり厳しく、攻撃力2倍でお互いをカバーしやすく、残機増加アイテムも出やすくなる二人プレイの方が難易度的には易しいでしょうか。
この時代のSNKはただでさえやたらと高難度にする傾向が強かったのですが、本作は二人同時プレイをアピールしていたため、二人同時プレイを前提としたバランス調整がなされた節があります。(無論、二人でも十分に難しいのですが…)
最強必殺技「究極奥義弾」の使い勝手が悪い
エネルギー制で1発に付き4メモリも消費し全部で5発分しか打てないため、後先考えずに連発はできません。
更にエネルギーが0になると全ての装備を失い弱体化するという大きなデメリットがあるため、ボム攻撃としては使い勝手が悪くなってしまいます。
キャラの周囲を旋回するサイコボールが高速回転するので敵弾に対する隙が小さくなるのですが、敵弾を防ぐとエネルギーが減ってしまうため、やはりデメリットにしかなりません。
総評とその後の展開、まとめ
システム面では先駆作が存在する本作ですが、パワーアップシステムの導入によりシューティングゲームとしての要素を強めたゲーム性、崩壊後の世界を舞台に展開される王道的なストーリーや世界観、そしてなんといっても「歌うゲーム」という音楽面での画期的な演出にてきっちりと差別化し、ただの模倣で終わらせない独自の個性を打ち立てています。(歌うソンソンなんて言われてもいましたが…)
一方、既存作の模倣である点に加え、当時のSNKにありがちだった極端に厳しいバランス取りゆえの高難度や事故死し易い等のストレスが溜まる点も多いため、当時としても高い評価は得られておらず、ゲーム内容よりも「筐体から歌が流れる」という一点に注目が集まってしまった感は否めませんでした。
とはいえ本作が先駆作である『ソンソン』とはまた違った面白さを持っているのは事実で、やりこむ事によりそれらの要素を実感する事が出来ます。
既存作を取り入れつつもただの模倣に終わらせず、独自の味付けを施したことは評価に値すると言えるでしょう。
稼動以降、本作に纏わる大きな展開などは特に行われませんでしたが 、KOFシリーズにて本作がレトロゲーム枠からの出典作品として選出されて以降、主人公の「麻宮アテナ」は、先祖の「アテナ姫」を凌ぐ勢いでSNKを代表するヒロインとのし上がっていき、大きな人気を集めていくことになりました。
長らく家庭用移殖がありませんでしたが、後年にPSP版にて初移殖が達成され気軽に遊ぶ事が出来るようになりました。 後に主人公らが客演を果たした『ザ・キング・オブ・ファイターズ』シリーズで初めて本作のことを知ったという方は、ぜひ、遊んでみていただきたいですね。
余談

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下記では前作に関しても紹介しています。良ければご覧下さい。
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