
茶色の四肢に濃緑のボディ。アニメ未登場のガルマ・ザビ専用ザクだ!
今回紹介するのは、前回のHGUC シャア専用ザク、量産型ザクに続く、HGUC初のMSV、ガルマ・ザビ専用ザクを、こちらもMSVキット初レビューでお届けします!
ザクⅡ 1/144 HGUC 034 ガルマ・ザビ専用 2002年9月 1050円

ガルマ専用ザクのボックスアート。背景はやはり、仮に出番があったとしたらここしかないという、第6話『ガルマ出撃す』をイメージさせるシークエンス
「テレビアニメ『機動戦士ガンダム』(1979年)本編に出たメカのガンプラだけを、紹介し続ける」と銘打ったはずのこの『ガンプラり歩き旅』。
なぜここへ来て、いきなり本編未登場の「本編終了後の設定でっちあげモビルスーツ」いわゆるモビル・スーツ・バリエーション(以下・MSV)を紹介するのか?
実はそれには2つの理由がある。

キットはシャア専用ザクの成型色替えだが、頭部にバルカン砲が装備されてるなどの違いはある
そもそもMSVとは、『機動戦士ガンダム』放映終了後に始まったガンプラ展開の大ブームを受けて、あえて「テレビには出てこなかったけれど、ジオンや連邦軍はこんなモビル・スーツも開発していたんだ!」を基本モチーフに、既存のザクやガンダム、ドムやグフをベースに、「プロトタイプ」「高機動型」「水中戦用」「砂漠戦用」「〇〇キャノン」等々、ミリタリースケールモデラーマニアたちの嗜好をベースに、模型雑誌独特の記事展開や、大河原邦男氏の新規イラストなどを軸足にしながら、『ガンダム』の続編『機動戦士Zガンダム』(1985年)放映半年前まで続けられたガンプラ長期シリーズであり、当時のガンプラモデラーであれば、「1/144 ザクマインレイヤーは、事実上1/144 ザクのリファインである」や「1/100 パーフェクトガンダムの追加装甲を外した状態は、事実上1/100 ガンダムのリファインである」などが常識で、今でも当時のガンプラファンの名残として、HGUCやMGシリーズでも商品化されている金字塔カテゴリである。

ガルマザク、造形上での唯一の変更点の頭部のアップ。バルカン砲のモールドはシャープ
しかし、大河さんの『機動戦士ガンダムを読む!』は、あくまでアニメ版『機動戦士ガンダム』の名場面再現を目的としており、後の後付け設定や上書き歴史修正などは、一切取り込まないコンセプトで成り立っている。
では、なぜここでいきなりMSVの、しかも「HGUC ガルマ・ザビ専用ザク」なのか?

フル装備状態のガルマザク。お坊ちゃん機体なのに、なぜか強そうな迫力!
一つは、実用面としてこの商品を買った理由が「このキットには、1/144 マゼラトップ砲が付属する」から、というのが挙げられる。
マゼラトップ砲とは、アニメ版『ガンダム』で登場した、ザクが使用する特殊兵器で、元々はジオン軍の陸戦戦車・マゼラアタックの砲塔部分だけをパージさせて、ザクがそのマニュピレーターで操作して撃つ武装のことだ。

今回の主役(?) 本キット付属のマゼラトップ砲
マゼラトップ砲は、劇場版映画『機動戦士ガンダムⅡ 哀・戦士編』(1981年)中盤、テレビ版では第21話『激闘は憎しみ深く』で登場し、ランバ・ラル仇討ち部隊のザクが一発だけ撃った描写のみの、まさに「一発メカ」なのだ。
しかし、そのシーンはガンダムのメカマニアの間でも認知度は高く、ぜひとも再現したいカットでもある。
なので、どうしてもマゼラトップ砲の1/144キットが必要になってくるのだが、2017年現在、1/144 マゼラトップ砲の選択肢は、実は全部で3つある。

実際の劇中でマゼラトップ砲が使用された、第21話『激闘は憎しみ深く』を再現した一コマより
まずは、旧キット、ガンプラ初期の頃の1/144 マゼラアタック(1982年6月発売)を買うと、その主砲部分が取り外せて、専用のアタッチメントを取り付けることで文字通りマゼラトップ砲に“変形・合体”するというギミック。
しかしさすがにこれは旧キットゆえ、形状も今一歩の出来で、グリップやフォアグリップなども丸棒のままだったり、差し替え可能な状態にしておくと、マゼラアタック時に砲身が安定しない等の問題が多発するので却下。

このキットには後年後付けで設定された、ガルマザク専用の大型ヒート・ホークが付属している
一方で、以前この連載で、ガンダムトレーラーを紹介したが、あの商品カテゴリEXモデルで、「No28 マゼラアタック(2006年3月)」という、まんまな商品が出ており、こちらの砲身もまたマゼラアタックに変形するのだが、こちらはEXモデルなので、価格設定が3500円とハードルが高く、また(いつもの)「解像度」的に、ハードディテールでデザインリファインされているし、メインのマゼラアタックは旧キット版がちょうどビジュアル的には見合っているわけで、わざわざマゼラトップ砲のためだけに3500円(下手をすれば再販がかかっていないタイミングだとそれ以上の対価)を払ってまで手に入れるのもバランスが悪いというのがあった。
旧キット過ぎて使えない見栄えと、最新特殊キットゆえに高価すぎて緻密過ぎるEXモデルとの板挟みにおいて、そのちょうど中間に位置して筆者の需要とピッタリマッチした形で需要を満たしてくれるマゼラトップ砲が、このHGUC 034 ガルマ・ザビ専用ザクには付属していたのだった。

こうした角度からの写真であれば、このヒート・ホークの大きさが把握できる
そもそもこのHGUC 034 ガルマ専用ザクは、HGUCシリーズ初のMSV商品でもあったわけで、MSVという存在自体が、イマドキのガンプラファンにどれだけ受け入れられるかは未知数ということもあったので、ザク本体は、ほぼその直前のHGUC 032 シャア専用ザクの金型が使いまわせる、成型色の変更と、頭部パーツの入れ替えだけで成り立っている商品仕様で様子見となった。
ガルマ専用ザクは、MSVの中でも特にメジャーメカというわけではなく、むしろ旧キット時代にすらキット化されなかったマイナーバリエーションである。
なので、今も書いたようにシャア専用ザクをベースに、必要最低限の金型改修で別商品化されたわけだが、バンダイサイドとしては、そこに何か「MSVならでは」以外のバリューも付加しておきたいと思ったのだろうか。
このガルマ専用ザクには、通常のザクマシンガンとバズーカの他に、後年改めて設定された、この機体専用の巨大ヒート・ホークと共に、誰がどう考えてもガルマ専用ザクとも、ガルマ・ザビ本人とも関係ない「いずれ発売する量産型ザクに持たせてね」と言わんばかりに、なぜかマゼラトップ砲が付属してきたのである。

ガルマ専用ザクのバックショット。バックパックはボディと同じ色
このキット付属のマゼラトップ砲は、旧キットよりもしっかりサイズやディテールが作り込まれており、かといって後に発売されるEXモデル版ほどにはリファイン過多ではないという、ちょうどよい案配であり、解像度、情報量もHGUCザクに準拠している。
オマケに(ちょっと悲しい話だが)結局「ガルマ専用ザク」という、旧ガンプラブームですらスルーされたアイテムが、ちょっとでっかい斧やマゼラトップ砲を付属させた程度で人気商品になるわけでもなかったので、今でも比較的安価で手に入る。
Amazonあたりなら数百円なので、下手をすれば旧キット1/144 マゼラアタックとコストはあまり変わらないので、イマドキハイディテール版のマゼラトップ砲を求めるのでなければ、筆者は是非にと、これをお勧めする。
余談になるが、旧ガンプラブーム時、実際に大河原邦男氏は、全身に過剰装飾が施されたドズル・ザビ専用ザクなどもデザインしており、ザビ家メンバーのカスタムザクとしては、そちらの方が認知度が高いのだが、ドズル専用ザクとして商品を作ろうと思うと、全身にエングレーブ処理をしなければならず、売れ行きに見合うだけのコストでは収まらないという算段もあったのだろう。
そのなかで、今回紹介するガルマ専用ザクもデザインが起こされ、それは通常のザクとほとんど形状自体は同じであったため、今回のHGUC化でも、ほぼ忠実に商品化されている。

大河原邦男氏が描いたガルマ専用ザクのデザイン画
元々HGUC ザクのキットは、その後のMSV展開を考慮して前腕のパーツなどが分割されていたというのもあって、このガルマ専用ザクも、肘のグレーの丸だけはシールだが、後はほぼ、往年の指定カラーリングを成型色で再現。
通常のザクとの形状の一番の差別化は、頭部のバルカン砲の設置だが、実はこの「ザクの頭部のバルカン砲」は、ガルマ専用ザク固有の設定ではなく、80年代のガンダムブームのさなかにおいて、大河原邦男氏が描いた、劇場版ポスターなどのイラストのうち何点かで、シャア専用ザクや通常のザクにも描き込まれていた武装であり(そういう意味では、元祖解像度アップ部分なのかもしれない)、だからこのガルマ専用ザクをシャア専用ザクカラーで塗れば、当時の劇場版ポスター版シャア専用ザクなども作れるわけであって、バンダイの戦略としては「そういった需要」も当て込んでのチョイスだったと思われる。

こうして立たせて設定画と見比べると、カラーリングも正確に再現されていることがわかる
しかし、それら「マゼラトップ砲付属」「80年代当時のリアルタイプザク再現可能」は、それほど求心力があるバリューとは言えず、このガルマ専用ザクもザクのバリエーション展開のフックとしては売り上げが弱く、結果、HGUC 032 ザクベースのMSVはこれのみで終わってしまい、事実上高機動ザクの初商品化となったHGUC 152 黒い三連星ザクは、2013年に新規金型で改めてゼロから作り直される形で商品化され、遅まきながらMSVザクシリーズをその金型で展開したという経緯がある。
そんなこんなで、まずは「市川大河流統一レギュレーションにもっとも近いマゼラトップ砲が安価で手に入るから」というのが、今回この商品を購入した動機の一つではあるのだが、実はひっそりと、このMSVだけには、他のMSVにはない設定特徴があるから、というのも購入動機に結びついている。
それは「存在そのものが、正式にアニメ版の中で言及されているMSV」は、後にも先にもこれ一つなのだということだ。

本編でその存在が唯一言及されたMSV!
例えるのであれば、シャアや黒い三連星用の旧ザクなどは、『ガンダム』全編を見渡せば、なるほどそういうバリエーション機体がルウム戦役の時にはあったのかもしれないという説得力は持っている(というか、後付けで現代では正式に「あった」ことにされてはいるが)。しかし、シャアが、黒い三連星が、ルウム戦役で活躍したことについてはアニメ版『ガンダム』内で言及されているが、その時に彼らが旧ザクに乗っていたかどうかまでは、明確に台詞や画では言及されていないのだ。
それは、「アニメでは全く存在が前提とされていなかった」という点では、ジョニー・ライデン専用ザクや、シン・マツナガ専用ザクのように「そもそも、お前誰だよ。アニメに出てないだろ」というツッコミや、ザクキャノンやグフ飛行試験型のように「アニメにおけるジオン軍の兵器開発の流れの中では、存在しえたかもしれないけど、少なくともアニメ版には登場していないよね」という殆どのMSVモビル・スーツと同じである。
“そういう意味”では、今回のガルマ専用ザクも、画として存在するのはアニメ終了後に大河原邦男氏が描いた設定イラストだけであり、アニメ版には出ていないという点では他のMSV機と同等なのだが。
実はアニメ版をよく見ていくと、少なくとも「ガルマは自分用のザクを自軍内に配備していた」ことまでははっきり確認ができるのだ。
それは、第6話『ガルマ出撃す』の劇中のことで、そのエピソードの中でガルマは自身専用のカラーリングのドップファイターで出撃するのだが、そのガルマ出撃を知ったシャアと、部下ドレンとの間で、以下の会話が台本で記述されている。
シャア「ガルマはモビルスーツにのったか?」
ドレン「いえ!」
シャア「そうか、……ガルマは乗らなかったか、……彼がガンダムと戦って死ぬもよし、危ういところを私が出て救うもよしと、思っていたがな……」
そう、ここで明確に、ガルマ専用ザクの存在だけは、アニメ内で明言されているのだ。
確かにこの場合、いろいろ推察しようにも、曖昧なセリフ一つしかソースがないわけだから、そもそものニュアンスが微妙で、「ガルマのモビル・スーツ」が、ザクである保障も、専用機である保障もないわけだ。
しかし少なくとも、ザビ家の末弟であるガルマがモビル・スーツを持っているとすれば、この話のタイミングでは、旧ザクはあり得ないし、事実上失敗作だった(劇中内でも、メタ的にも)グフということもあり得ないので、やはりここではザクであるという解釈が妥当であろうし、その場合ザクは、一般将校のシャアですらパーソナルカラーに塗り替えていたわけだから、ガルマが乗るザクも専用機としてパーソナルカラーに塗り替えているだろうと考える方が自然だ。
事実『ガルマ出撃す』で登場したガルマ専用ドップファイターも、ガルマのパーソナルカラーに塗り替えられて登場しており、後のガルマ専用ザクのカラーリングはむしろ、このガルマ専用ドップファイターから逆引きされたという流れがあるのだから。
なので(「歴史に『if』はない」とは分かってはいるが)、もし仮に、この『ガルマ出撃す』で、ガルマがドップファイターではなく、自分専用のザクに乗って出撃していたら? という想像は、失礼だが「もしランバ・ラルに専用のドムが配備されていたら」よりも、フラグ分岐の可能性としては天と地ほどの差がある思考実験になってくるのである。
試しに、『ガルマ出撃す』のクライマックスを、せっかくなので、このHGUC 034 ガルマ専用ザクを使って、疑似再現してみよう。


ガルマ「この化物がぁー! おちろ! おちろ!」


アムロ「茶色のザク? 隊長機か?」


アムロ「いけるか!?」



ガルマ「しまった! ガウ、聞こえるか! 後退するので援護を頼む!」
概ねの流れはアニメ版そのままに、ガルマの乗機をドップファイターから専用ザクに入れ替えると、このような案配の流れになるだろうと言える。
……とまぁ、長々講釈をたれてきたが、このザクを手に入れた動機としては「適度なマゼラトップ砲が手に入るから」だけであったことは間違いはなく、アニメ版原理主義のこの連載で取り上げるバックボーンとしては、数あるMSVの中で、メジャー、マイナーに拘らず「アニメ版にもっとも登場しやすい立ち位置だった後付け設定メカ」としては、このガルマ専用ザクだったというのが、詭弁ではあるが正論である。
市川大河公式サイト