映画『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』
1992年に公開された映画。日本での公開は翌1993年。
原題はScent of a Woman。監督はエディ・マーフィ主演の『ビバリーヒルズ・コップ』のマーティン・ブレスト。
イタリアの作家ジョヴァンニ・アルピーノの小説をもとに『カッコーの巣の上で』のボー・ゴールドマンが自身の体験も加えて脚本を執筆した。
なお、本作は1974年のディーノ・リージ監督作品『女の香り』のリメイク作品である。

『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』 DVD

基となった映画『女の香り』のディーノ・リージ監督
本作で盲目の元軍人を演じたアル・パチーノは、まったく瞳を動かさない演技を行い、主人公の孤独な心の内を見事に表現した。この演技によりアカデミー主演男優賞を受賞している。
これは彼にとって悲願であり、『セルピコ』や『狼たちの午後』などを含め、5度目のノミネートにして初の受賞となった。
2017年1月現在においても唯一の受賞となっている。
他にも同作は、多くの受賞歴があり、ゴールデン・グローブ賞作品賞〈ドラマ部門〉、最優秀主演男優賞〈同〉、最優秀脚本賞を受賞している(※助演男優賞もノミネートされた)。

『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』 Blu-ray
≪あらすじ≫クセのある退役軍人と心優しい青年の物語

フランク・スレード中佐(アル・パチーノ)

チャーリー・シムズ(クリス・オドネル)

ペンキまみれになるトラクス校長(ジェイムズ・レブホーン)

前列右がジョージ(フィリップ・S・ホフマン)。他の3人が校長にイタズラを仕掛けた。
アルバイトに来たチャーリーに対して、中佐は突然ニューヨークへ行くと伝え、サポートを強制する。学校でのゴタゴタを抱えているチャーリーは困惑するが、中佐の強引さに負けて、飛行機に搭乗する。
機内でCAと会話を交わし、出身地などを推察する。その的確さに驚かされるチャーリーだが、同時に中佐が相当な女好きだということも理解したのだった。
ニューヨークでは運転手付き高級車をチャーターし、高級ホテル、レストランで豪遊する。中佐のあまりに派手な金使いに懐事情が気になるチャーリーに対して、中佐はある”計画”を伝える。それはこの旅の最後に拳銃で自殺するということだった。

飛行機でニューヨークへ向かう二人

高級ホテル、レストランで豪遊する二人
中佐はチャーリーが思い悩む学校での一件について、ジョージに裏切られる前に友を売って自分を救えとアドバイス。
翌日、中佐の兄の家を訪ねるが、久しぶりの来訪であるにも関わらず、横柄な態度の中佐をよく思わない一家。ディナーで中佐が下品な話をし続け、ついに親族から出ていけと言われてしまうが、それでも自分の態度を軍人時代の栄光に重ねて、正当化する。時折、寂しげな表情をする中佐は、最後兄に詫びを入れ、家を出ていく。

ジョージは自身の保身と校長からの甘い話に乗る。一方で、あまり親しくないとはいえ、友人を裏切ることを拒むチャーリー
あるホテルのラウンジで、偶然近くに座った美しい女性ドナ(ガブリエル・アンウォー)。中佐は彼女に近づき、声を掛ける。男性を待っているというドナに猛然とアプローチし、会話の流れから中佐がタンゴをレッスンする展開に。そして、多くの人々に見られる中、優雅にタンゴを踊る。それは非常に美しい光景で、ゆったりとした空気がその場を包んだ。その後、ドナは待ち人と共にホテルを出て行った。
次の日、免許取り立てのチャーリーを運転手に、フェラーリに強引に試乗する。そして、なんと盲人である中佐が運転をすると言い、チャーリーからハンドルを奪う。チャーリーの掛け声に合わせ、左にハンドルを切り、コーナーを曲がり、はしゃぎまくる。しかし、運の悪いことに警察のパトカーに見つかり、違反切符を切られそうになるが、落ち着き払う中佐は嘘八百の巧みな誤魔化しで、難を逃れてしまう。
ただ、すぐに塞ぎ込むようになる中佐。その様子を不安げに見るチャーリー。
ホテルに戻り、チャーリーに買い物を頼み、部屋に残る中佐。ホテルのロビーでチャーリーは嫌な予感を感じ、部屋に戻る。すると中佐が軍服に着替え、まさに拳銃自殺を図るところだった。
チャーリーは必死に自殺を止め、もみ合いになる二人。
なんとか自殺を思いとどまらせると、二人の間には奇妙な友情が生まれていた。

ドナ(ガブリエル・アンウォー)をリードし、タンゴを教える中佐

警察官の尋問にも堂々とした態度で臨み、盲人と悟られない

拳銃を取り合う二人

いつも身なりを気にしていた中佐が髪を乱す。人生に絶望している様子が伝わるシーン
セント・オブ・ウーマン/夢の香りとは - goo Wikipedia (ウィキペディア)

突如、会場に現れ、ワンマンな姿勢を崩さない校長を、軍人らしく威厳を保ちながら”威嚇”した

中佐とチャーリーは、旅でしっかりと心を通じ合わせていた
タンゴで艶やかな女性を演じたガブリエル・アンウォー
≪プロフィール≫
1970年2月4日生まれ。イギリス出身の女優。
ゲスト出演した人気テレビシリーズ『ビバリーヒルズ高校白書』でアイススケート選手役に挑み、1991年の初主演映画『ワイルドハート/彼女は空を翔けた』では旅回りショー一座での40フィート(12.2m)の高さから馬とともにプールへダイビングするショーの花形を演じた。
1990年代には日本のLUXのテレビCMにも出演して人気を集めた。
同作でガブリエル・アンウォーは、ひとりでいる所を中佐にナンパされるが、最初はどことなく気の強そうな印象だった。しかし、中佐に少しずつ心を許し、実際には恥ずかしがり屋な女性を好演した。
アメリカでの公開時、22歳の彼女にまだあどけなさが残っていた頃で、艶やかさと少女性があいまって短時間の出演ながら心に残るワンシーンとなっている。

黒のドレスが色っぽいドナ役のガブリエル・アンウォー

ドナと中佐のタンゴシーン

恥ずかしながらも中佐に寄り添いながらタンゴを踊る

紳士的にリードする中佐
女性の香りを言い当てる中佐
劇中、中佐は女性の発する香りを言い当てるのを得意としていた。
最後の方のシーンで、チャーリーを助けるために登壇し、熱弁をふるうが、それを見てある女性が感動したと中佐に声を掛ける。そこで中佐は「あなたのつけている香水……フルール・ロカーユの香りですね。」と言い当てる。そして、「これでいつでもあなたを探せます……。」とキザに言ってのける。
ニューヨーク行きの飛行機で出会うCAのダフネが、「フローリス」のコロンをつけているのを当てたり、「ミツコ」という香水を中佐が立ち寄る兄の家で、中佐の甥の妻が身につけているが、「欲求不満な女がつける香り。」と言ってのける。
そして、タンゴを踊ったドナの香り「オグリビーシスターズ・ソープ」も言い当てた中佐だった。

「フローリス」

「ミツコ」
作品データ
監督 マーティン・ブレスト
脚本 ボー・ゴールドマン
出演 アル・パチーノ、クリス・オドネル、ガブリエル・アンウォー等
公開 1992年 ※日本は1993年公開
配給 ユニバーサル・ピクチャーズ
時間 157分

中佐はいつもジャックダニエルを煽っている

ジャックダニエル
劇中、中佐はジャックダニエルをジョンと呼ぶ。「おれとあいつは付き合いが長いからジョンでいいんだよ」。
ユニークかつ渋みのある名シーンだった。
プライドの高い元軍人が、見えない世界を生き抜く辛さを体現したアル・パチーノに哀愁を感じた一作だった。