
ムーの子どもたち
1980年に放送されたSFアニメ「ムーの白鯨」。
覚えてらっしゃいますか?
まずは筆者の耳に残っている印象深いエンディング曲をお聞き下さい。
アニメ、ムーの白鯨のエンディング曲「信じるかい」でした(よかったら実際のエンディング動画も探してみて下さい)。
もの哀しい曲ですよね、、かつて自分はいまの自分ではなく、すばらしい文明と仲間、自由な力があった。現代社会の学校やら受験やらやがては社会やら、、そんなものは本来の自分ではないのに、いまでは自由の翼をなくした現代人でしかない自分、、そんな感じですよね。
前世の夢を見た主人公たちが、その仲間たちを募るという設定の86年からはじまった漫画「ぼくの地球を守って」の影響か、
オカルト雑誌(その名も^^;)「ムー」への同様の投稿が過熱し編集部の大人たちもびびり、自殺未遂騒ぎにまでなって、作者が、飽くまでフィクションですから、と断り書きを付けたという出来事を思い出しますね、、
89年12月出版の『ぼくの地球を守って』の第8巻では、作者の日渡先生が、フィクションと現実の区別を付けるようにと注意を促しました。
http://tiyu.to/n0703sp1.html『ムー』読者ページの“前世少女”年表 - ちゆ12歳
まあもちろん、筆者をはじめほとんどの子どもたちは、そんな前世のほんとうの自分なんて、思いもしないしもちろん本気にもしない訳ですが、
いまの自分はほんとうの自分ではなくて、、なんて空想は、いつの世にも(いまもなのかなあ?)とくに子どもにはある空想ですよね、、そしてこのアニメ「ムーの白鯨」はそんな思いを哀しくつついてきます、、T^T
、、あ。オープニング曲も久しぶりに聴いてみたら、これもエンディング曲とおんなじ調子ですねf^^;
ふつう、エンディング曲は暗かったり重かったりしても、オープニング曲は元気だったり勇ましかったりが定番ですのにね。さすが、ムーの白鯨^^;
いまではすっかり、あのお歳でなおすさまじく高いテンションのアニキとしてばかり認知されているみたいな水木一郎氏が、どちらも切々と歌い上げているのが印象的ですね、、
あらすじ
さて、あいかわらず前置きが長くなりましたが、ここらであらすじをご紹介。
ムーの白鯨は、原作なしのオリジナルストーリー。
制作の東京ムービー初めてのオリジナルだそうです。
サイボーグ化によって3万年の時を経て現代へと父ラ・ムーからの使命を帯びたマドーラは、
テレパシーによって、ムーの戦士の生まれ変わりである少年少女たちをイースター島に集めます。
古代の超科学、運命(さだめ)をもって転生した主人公たち少年少女の闘い、、なんか当時の日本製ジュブナイルSFの匂いがしますよね。なんだか懐かしいSFです。
転生の戦士 —あつまった少年少女たち

転生の5人の戦士たちはみんな名字に「白」が入るのですね。ここらへんのベタさも懐かしくていいですね^^
国際色豊かな覚えがあったのですが、一人譲がブラジル出身というだけですね。
これだけでも当時子どもの筆者には印象深かったのでしょう。
白銀剣 (声:武岡淳一)
ケン。15歳。ムー戦士長・ケインの生まれ変わり。漁師町育ちの熱血漢。勇気があり、思いやりも深いが、口が悪いため誤解されることも。戦闘になると熱くなって無鉄砲な行動に出てしまいがち。しかし、やがて使命に目覚め、リーダーとして成長してゆく。
白鳥麗 (声:千々松幸子)
レイ。14歳。ムー戦士・レイナの生まれ変わり。元テニスプレーヤー。予知能力を持つ。
白城譲 (声:井上和彦)
ジョー。15歳。ムー戦士・ジョナスの生まれ変わり。ブラジル出身。元プロサッカー選手。
拗ねた態度の剣と対立することが多かった。互いに理解しあうようになり一番の親友に。
白風信 (声:鈴置洋孝)
シン。15歳。ムー戦士・シンムの生まれ変わり。思いやりのある、おっとりとした性格。動物たちと話ができる。
白川学 (声:つかせのりこ)
ガク。13歳。ムーの学者・ガラクシャの生まれ変わり。天才的頭脳を持つが、運動音痴。仲間思いの優しい性格。
マドーラ (声:吉田理保子)
ラ・ムーの娘。14歳。ムー大陸滅亡時にサイボーグ化手術を受け、3万年の時を生き抜いてきた。
ミュー (声:栗葉子)
白鯨の中に居る一角天使。白鯨のことを知りつくしている。
ラ・ムー (声:杉田俊也)
ムーの預言者、指導者。自らの脳を白鯨に移し、3万年の時を超えて蘇った。主人公たちと会話するときはスクリーンに老人の姿を投影。声が聞こえるだけということもあった。
アトランティス陣営

コンドラ (声:沢田敏子)
永眠中の夫・ザルゴンに代わりアトランティスを率いる女帝。
ゴルゴス (声:伊武雅之(現・伊武雅刀))
アトランティス第一皇子。地球派遣軍司令官
プラトス (声:古川登志夫)
アトランティス第二皇子。地球派遣軍副司令。ゴルゴスの死後は司令官。非常に誇り高く正々堂々と闘うことを信条としている。
ラ・メール (声:小山茉美)
アトランティス親衛隊隊員。プラトスとは幼馴染で、想いを寄せる。
ザルゴン (声:渡部猛)
アトランティス帝王。3万年前に力の源・オリハルコンを失ったために永眠している。冷酷な人物で、部下はおろか妻子を失うことも厭わない。
世界を巡る転戦の旅
サイボーグ化されたムーの白鯨に乗った主人公たちは、世界各地の遺跡で、迫り来るアトランティス軍と闘い続けます。
白鯨は闘いが進むに連れて、生物としての白鯨の外観から徐々に変わっていきます。

ここらも、当時子どもの筆者にとっては新鮮でしたね。
科学的な変形て感じではないからファンタジーみたいなもんだけど、でも最終的にはメカメカしい外観になったり、、いまなら「どうゆうことやねんっ」「ちゅーとはんぱやねん」(なぜか関西弁?^^;)ということにもなるのかもしれませんが、でもそのゆるさが当時のジュブナイルSF感があるような。
敵であるアトランティス陣営も、たんに「ボスとその他手下大勢」といった形ではなく、
敵にもグラデーションやドラマがありました。
冷酷だけれども、最期は命を捨てて弟プラトスを逃がした、第一皇子ゴルゴスとか。
敵だけれども美男子で正々堂々としたプラトスが、父の復活によって、アトランティスによる地球支配がはたして正しいのか疑問を持ち始めるとか。
味方にも敵にも、愛の物語
ムーの白鯨の物語が始まったとき、子どものわたしは単純に、正義の主人公チーム5人組に紅一点なのだから、ケンとレイがくっつくものと思ってましたね。
同じ日本人だし、マドーラは日本人じゃないどころかなんだかよくわからない(f^^;)ムーの、人間ですらなくてサイボーグな訳ですから、、(サイボーグはれっきと人間ですけどね、、f^^;)
マドーラは当初、人間的な感情をほとんど置いてきてしまった使命のための存在のようなものとして描かれましたし。
それがケンとの人間的なふれあいのなかで徐々に人間的に戻っていき、惹かれあうようになります。
一方、ケンとマドーラほどしっかりとは描かれませんが、レイはジョーとそういった雰囲気に。
まあそれぞれ前世でそういった関係だった、それが生まれ変わっても、というかたちになっておったのですが。

こういった愛の物語は、“いいもん”ムー側にだけあった訳ではありません。
“わるもん”アトランティス側ですが、通り一遍に描かれていたわけではないことは、先ほどもふれた通りです。
実はこちらのドラマの方が重くて深い結末になっているのです。

アトランティス親衛隊隊員のラ・メールですが、実はラ・ムーの娘でマドーラの双子の姉だったのです。3万年前、アトランティスに人質として取られ、当人は自身がアトランティス人と疑わず生きてきたのです。彼女の想いに気付き惹かれあうようになったプラトスでしたが、彼女がムーの人間だったことを知り苦悩し、それゆえ自らの地位も危うくなってきます。ついには、彼女を逃がす為に父に背き、自ら囚われの身となるプラトス。マドーラと姉妹の再会を果たしたラ・メールでしたが、やはりプラトスのもとへと戻ります。彼を庇いザルゴンの刃に倒れるラ・メール。プラトスも両目に刃を受けてしまいます。傷を負った二人は暗い海へと消えていくのでした。
わずかな光(のみ)差す結末
これらのドラマを経て、おハナシは最後の闘いへと向かいます。
ザルゴンによって地球全体が変異させられるほどの影響が与えられ、
白鯨がここまで守るべく闘ってきたにもかかわらず、地球は荒廃し人類のほとんどは滅びてしまったということが示されます。
ケンらを降ろし自らを捨て単独でザルゴンに向かう白鯨に、彼らは自分たちの力を白鯨に送り込みます。すると白鯨はメカニックな最終形態から元の鯨の姿に戻り、ザルゴンを倒すことができたのでした。
現代文明以前の姿にも似た地球に、主人公たちは復活への一粒の種となって撒かれます。闘いのなか死んだと思われたマドーラも人間の身体に戻っています。
守るべき人類がほぼ滅んでしまう結末なんて、とてもハッピーエンドとはいえませんが、この結末のビターさ哀しさ。最後までもの哀しくて懐かしい、ムーの白鯨なのでした。
みなさん、思い返されましたでしょうか?未観の世代の方々におかれましては、もし機会がありましたら、ぜひご覧下さいませ。古びない懐かしさが、あるかもしれませんよ。
