今、再び「新選組」が熱い
江戸時代末期において、京の治安を守るべく結成された浪士隊「新選組(新撰組)」。
隊旗に「誠」の一文字を掲げて動乱の幕末を駆け抜け、攘夷志士からは人斬り集団と恐れられた彼らは、今なお多くの人々の心を引き付けています。
人気の秘訣は、やはり近藤勇・土方歳三・沖田総司をはじめとして凄腕の剣士が居並ぶ強烈なキャラクター性。
そして、かつては同じ志を掲げた者同士が対立と粛清を繰り返し、やがて新政府軍によって逆賊の烙印を押されて歴史の表舞台から去っていくという、「滅びの美学」と表現すべきドラマ性でしょう。
令和においても新選組人気は衰えず、2024年4月からは手塚治虫の「新選組」が原作のドラマ「君とゆきて咲く〜新選組青春録〜」が放送中。
また2024年秋には週刊少年マガジンで連載中の「青のミブロ」がアニメ化を控えています。
今回の記事では、新たな盛り上がりを見せている「新選組」の漫画作品を、メジャーからマイナーまで幅広くピックアップしていきます。
『新選組』手塚 治虫(全1巻)
『新選組』は、手塚治虫先生が少年ブックで1963年から連載を開始した少年漫画です。
2024年には、ドラマ『君とゆきて咲く〜新選組青春録〜』の原作として注目を集めました。
父の仇討ちのため新選組に入隊した「深草 丘十郎」と同期の天才剣士「鎌切 大作」の友情を軸に、人を斬ることに苦悩し続ける丘十郎の復讐の行く末を描く本作。
当時は人気が伸び悩み、本来は戊辰戦争まで描く予定だったところを池田屋事件で完結となってしまいましたが、時代考証よりも活劇的な面白さを重視した手塚漫画らしい作風、そして主人公の苦悩を描く物語性は今なお古びることはありません。
ドラマで本作の存在を知った方も、一読の価値ありです。
『星をつかみそこねる男』水木 しげる(全1巻)
『ゲゲゲの鬼太郎』『河童の三平』『悪魔くん』など怪奇漫画のパイオニアとして知られる水木しげる先生が、1970年から月刊漫画ガロで発表した作品が『星をつかみそこねる男』です。
タイトルの「星をつかみそこねる男」が指すのは、本作の主人公である近藤勇。
本作の近藤は偉大な新選組の局長ではなく、無教養で出世欲に振り回されるどこか滑稽な俗人として描かれます。
水木しげる先生ならではのドライでシニカルな人間観を通して、運にも時代にも見放された男の悲喜劇を描いた異色の新選組作品です。
『俺の新選組』望月 三起也(全5巻)
法で裁けぬ悪を討つ警察部隊を描いた漫画『ワイルド7』で有名な望月三起也先生が、1979年に週刊少年キングで発表した新選組漫画が『俺の新選組』です。
新選組副長・土方歳三を主人公に、既存の枠に囚われない独自の解釈と、望月作品らしい大胆にして鮮烈なチャンバラアクションが印象的な作品です。
作者の望月先生は「私にとって新選組は時代劇のワイルド7」と語っており、2016年に肺癌で亡くなる直前には「人生最後の締め切りまでに『俺の新選組』の続編を描きたい」と言うほど、この作品には思い入れがあったそうです。
『あかね色の風―新選組血風記―』車田 正美(全1巻)
『リングにかけろ』『風魔の小次郎』そして『聖闘士星矢』など、数々の大ヒット作を世に送り出した車田正美先生が手掛けた数少ない時代劇が『あかね色の風―新選組血風記―』です。
1993年にスーパージャンプにて短期集中連載されました。
新選組随一の剣客として名高い沖田総司を主人公に据え、彼と新選組を取り巻くドラマを短編連作の形で描く作品。
車田漫画ならではのダイナミックな演出が光る一方で、掲載紙がそれまでの週刊少年ジャンプよりも高年齢層を対象としたものだったためか、それまでの作品よりも大人向けな描写が多いのも特徴です。
『風光る』渡辺 多恵子(全45巻)
『風光る』は、渡辺多恵子先生が別冊少女コミックにて1997年から連載を開始した少女漫画です。
その後、掲載誌を月間フラワーズに移しながらも、23年間にわたって長期連載を続けました。
主人公は、父と兄の仇を討つために男装して新選組に加入した少女「富永セイ」。
彼女と個性豊かな新選組の隊士たちの交流、そして沖田総司との恋模様を中心にしながら、激動の時代を描く大河作品です。
少女漫画で新選組といえば真っ先に名前が挙がるであろう金字塔こと『風光る』。
2020年には大団円を迎えていますので、かつて読んでいた人ももう一度触れてみるのはいかがでしょうか。
『新撰組異聞PEACE MAKER』『PEACE MAKER 鐵』黒乃奈々絵(全5巻+既刊17巻)
『新撰組異聞PEACE MAKER』は黒乃奈々絵先生が1999年から月刊少年ガンガンにて連載を開始した漫画です。
2001年に一旦完結したのち、月刊コミックブレイドにて第二部『PEACE MAKER 鐵』を連載開始し、以降は掲載誌を変更しながらも継続中です。
主人公は土方歳三と共に五稜郭まで転戦した実在の隊士「市村 鉄之助」。
鉄之助と魅力的な隊士達が逃れようのない時代のうねりに向かって突き進む壮絶なドラマ、そして美麗な作画に惹かれるファンも多い作品です。
2003年に第一部を『PEACE MAKER 鐵』のタイトルで映像化したアニメ版も有名な本作。
現在は作者の体調不良のため休載が続いておりますが、いつの日か鉄之助の物語の終着点が見られることを願うばかりです。
『北走新選組』菅野 文(全1巻)
『北走新選組』は、『オトメン(乙男)』の大ヒットで知られる菅野文先生が2003年から2004年にかけて別冊花とゆめで発表した短編、『碧に還る』『散る緋』『殉白』の三本を一冊のコミックスに収録した作品です。
新選組を扱った漫画としては非常に珍しく、収録されている三作品はどれも大政奉還後、新政府軍に抵抗しながら北へ北へと転戦していく新選組の末期を扱ったもの。
函館山に現存する戊辰戦争の死者を記念した「碧血碑」に刻まれる「忠義を貫いた者の血は碧玉と化す」という伝説を引用した『碧に還る』をはじめ、新選組の最期と滅びの美学を描いた珠玉の作品集です。
なお菅野文先生は他にも『凍鉄の花』や『誠のくに』などの新選組漫画を発表していますので、そちらも合わせてどうぞ。
『壬生義士伝』浅田次郎/ながやす巧(全13巻)
浅田次郎先生が1998年から週刊文春にて連載開始した初の時代小説『壬生義士伝』は、小説のみならず中井貴一主演の実写映画版も高い評価を得た名作です。
その『壬生義士伝』をながやす巧先生がコミカライズした漫画版は、2007年よりコミックチャージにて掲載されました。
主人公は下級武士の出身ながら北辰一刀流の使い手である「吉村 貫一郎」。
貧困に喘ぐ家族を養うべく、守銭奴と蔑まれながら金のために人を斬り続ける貫一郎の歩む過酷な生涯の悲哀と、その心のうちに秘めた彼の仁義を描く作品です。
漫画版ならではの魅力は、ながやす巧先生がアシスタントを使わず独力で描き上げた圧倒的な筆致でしょう。
浅田文学の奥深さを見事に描き切った義と愛の物語は、切々と読む者の胸を打ちます。
『青のミブロ』安田 剛士(既刊13巻)
2024年秋にアニメ化が決定している『青のミブロ』は、2021年より週刊少年マガジンにて連載中の少年漫画です。
作者の安田剛士先生は自転車ロードレースを描く『Over Drive』やサッカー漫画『DAYS』など主にスポーツ漫画の分野で活躍してきた漫画家であり、本作は時代劇を題材とした初の連載作品となります。
土方歳三の誘いによって新選組の前身組織・壬生浪士組に加入することになった白髪の少年「ちりぬ にお」の視点で、動乱の幕末で必死に足掻く少年隊士たちの激動の青春を描く作品です。
前述の通り今秋にはアニメ化も決定しており、今まさに流れに乗っている本作で令和最新の新選組漫画に触れてみるのはいかがでしょうか。
続いていく『誠』の物語
今回は惜しくもピックアップできませんでしたが、他にも新選組を扱った作品には数多くの名作が存在します。
リアル調の時代劇からアクション主体のチャンバラもの、個性豊かな隊士との恋愛もの、人斬り集団としての一面にスポットを当てたピカレスクロマン、更にはSFやファンタジーの要素を加えた作品まで、描き方は作品によってまさに多種多様。
そしてそれこそが、『新選組』が時を超えて人の心を惹きつけ続けているという証拠に他なりません。
これからも新たなる『誠』の物語が生まれてゆくことを願いつつ、漫画を通して幕末を駆け抜けた彼らに想いを馳せてみるのもいいかもしれませんね。