片桐はいりの 映画&映画館LOVE 172cmのスタイルのよいボディ、つぶらな瞳、極端に張ったエラ、オカッパ頭、奇跡の取り合わせ、唯一無二の存在感

片桐はいりの 映画&映画館LOVE 172cmのスタイルのよいボディ、つぶらな瞳、極端に張ったエラ、オカッパ頭、奇跡の取り合わせ、唯一無二の存在感

自称「映画館出身」、名前も「映画館もぎり」に改名したいというほど映画館LOVE。女優としてどれだけ売れようが、決して「もぎり」スピリッツを忘れない片桐はいり。真夜中になるとガラスの靴を履いてカボチャの馬車で姿を消すという。ウソだけど。


銀座文化劇場には、3階と地下に劇場があった。
3階は、洋画を中心に週替わりで過去の作品を上演する「名画座」
地下は、邦画中心に新作を上映する「封切り座」で、かつ地下1階は指定席、地下2階は一般席という構造だった。
もぎりの現場は、3階と地下1階にある入り口。
そこには「タカバ」と呼ばれる受付台があって、3階のタカバは半円形、地下はコの字型だった。
このタカバに入ってもぎるわけだが、入場券を切り取り線に沿って裂くのは技術を要した。
最初は机を使ってミシン目に沿って切っていたが、やがてチケットを鷲掴みにして、右手の親指の付け根をテコにして、一瞬で破れるようになった。
これができるようになり、列をなす入場者のチケットを、パシリ、パシリとリズミカルにもぎれるようになると、もぎるのが快感になった。

チケット以外にもミシン目のある紙をみる無性に切り離したくなり、切手シートなどはすぐにバラバラになった。
チケットをもぎり終わり、客が入った劇場で上映が始まると、興味がある映画なら扉を少しだけ開けてスクリーンをのぞき、ときに頭を突っ込んで扉の隙間で泣き、ときには席に座って観ることもあった。
興味がない映画のときは、3階の事務所から支配人が下りてくるのを注意しながら、タカバで本やマンガを読んだり、大学の課題を片づけたり、大量の試写会応募のハガキを書いた。
「卒業論文も、この受けつけで書いた」
居眠りしてしまうこともあり、目が覚めると切り離されていないチケットが置かれてあり、途中入場した客の優しい気持ちを感じた。

1番気をつけないといけないのは指定席。
タカバのある地下1階は、すべて指定席で、一般席は、さらに歩いて地下2階に降りなくてはいけないが、
「故意も過失も両方含めて一般券で指定席階に紛れ込んでしまうお客さんが少なくなかった」
指定席は、人気作品や土日などしか出番のないので目くじら立てる必要はないかもしれないが、片桐はいりは、
「少しの不正も許せない」
タカバから侵入者をみつけると
「こちらは指定席になっております」
と注意。
どんな恐ろし気な人でも引かずに向かっていき、1度、その筋らしき客に頭を小突かれたときは、はたき返した。
「怖いもの知らず、世間知らずの二十歳そこそこだった」

ある日、人間国宝の歌舞伎役者がやってきた。
歌舞伎座が近くにあって、その歌舞伎役者は、いつも午後の遅い時間に来て、一般券を買って邦画を観ていた。
その日も一般券を買うまでは同じだったが、その後、なぜか指定席に「颯爽と」入っていった。
タカバを飛び出し、特等席に座る人間国宝に
「こちらは指定席になっております」
と型通りに注意をしてから持ち場へ戻った。
しばらくすると人間国宝が出てきて、大声で
「いくら払やいいんだい?」
明らかに怒っている人間国宝に、
「では窓口でお直り券をお求めください」
と杓子定規に答えた。
すると人間国宝は千円札を次々に投げつけ
「てめえが買ってきやがれ」
片桐はいりは千円札を投げ返し、声を裏返しながら
「ご、ご、ご自分でお買いんなってください!」
人間国宝は1,000円札をつかみ
「帰る!」
といって階段を上がっていった。
「間違いなく、あのお方は先代の中村勘三郎丈、その人だった」

銀座文化劇場の給料は、時給450円。
1日8時間働いて3600円。
同じ銀座で夜に酒を運ぶ仕事をすれば、時給2000円以上もらえたので、決して割の良い仕事ではなかった。
しかしそれでも働きに来るのだから、仕事仲間は映画好きばかり。
仕事中も仕事後も映画の話に明け暮れた上、売店のおばちゃんたちとお茶を飲みながボリボリとお菓子を食べることができたので、時給が安いことなど苦にならなかった。
「純粋な同志との語らいながらお給料までいただける。
大学の演劇部や映研にたまっているより、はるかに効率の良い時間の使い方に思えた」

映画館の仕事は普段は暇だが、盆暮れ正月はかき入れ時。
正月出勤はお年玉として500円紙幣が入ったポチ袋がもらえて、時給450円の身にはありがたいボーナスだった。
元旦に出勤すると、すでに劇場の前に行列ができていた。
開店後の館内の賑わいはすさまじく、
「このときほどもぎりという仕事の名にふさわしいときはない」
というくらい重なるように差し出されるチケットを鮮やかな手つきでもぎりまくった。
普段映画を観ないような人まで押し寄せるため、パンフレットを無料の配布物と間違えて持っていこうとする人もいて、その手を押さえながら、指定席のシステムを知らずに2階席に行こうとする人を声を張り上げて静止。
それでも席をめぐって小競り合いが起これば仲裁に入り、ときに客A、客B、そしてもぎりの三つ巴のケンカと発展。
映画が始まり、立ち見客であふれかえる劇場で笑い声やどよめきが起こると爆風となって重い扉を押し開けた。
片桐はいりは、バフンバフンと開いては閉じる扉をみながら
「劇場が息をしてる」
と思った。

ある日、タカバで新聞を読んでいると、最低賃金という「不穏な」記事を発見。
そんな法律があったことも、自分たちの時給が最低レベルであるを初めて知らなかった片桐はいりは、その新聞を持って支配人のところへいって
「あのう、ここに東京都の最低賃金が450円に設定されたとあるんですけど・・・
これは450円もありよ、ということなんでしょうか?
なしよ、ということなんでしょうか?」
すると最低賃金という響きが嫌だったのか、翌々月から時給が480円に上がった。
「1日、240円の増収。
これに10円足せば劇場の並びにある養老乃瀧で大好物の肉うどんがはりこめた」

さらにあるとき銀座の表通りにある店でウエイトレスのアルバイトをしないかと勧誘された。
時給は600円。
タカバであぶら汗を流しながら苦手な計算をすると、映画館と同じく週3日8時間働けば、月に1万円以上の増収が見込まれた。
しかし映画館を辞めれば、タダで映画が観られなくなる。
「銀座文化の2つの劇場で、ひと月に観られる映画は6~8本。
1本立て週替わりの名画座600円。
邦画の封切り2本立て、1500円。
もし月途中で新作が公開されれば2回分観られる」
それらをお金を払って観ようとすれば5400円はかかってしまう。
さらに月初めに他の映画館の招待券2枚がもらえたので、これも3000円の価値があり、合わせて8400円。
さらにさらに試写状も、しょっちゅうもらえ、最新の映画を無料で観ることができたので、結局、1万円以上の映画を観る権利を失うことがわかり、ウエイトレスの話は断った。
「高い時給で働いて、たとえ1万ナンボ増えた現金を手にしても、わたしは決して儲からない」
少し計算高い女になった片桐はいりだった。

上映スケジュールが忙しいときは、劇場で映画を観ながら昼ご飯を食べることもあった。
客の目と鼻につかないように気をつけながら、空いている前方の席で弁当やカップラーメンを食べ、たまに紅茶&デザート。
客だけでなく支配人の目すらかすめて、近所のソバ屋から出前をとってオボンごと劇場へ突入することもあった。
逆に忙しくないときは、お昼休みはタップリもらえた。
しかし時間はあってもお金がないので、食べ物を持って日比谷公園や銀座通りに並ぶデパートの屋上にいって、のんびりとランチ。
「中でもわたしがお気に入りだったのは銀座文化の屋上。
裏通りにあるビルの上から眺める街は、地上とまるで別人の顔をしていた。
銀座のど真ん中とはいえ、それぞれのビルの上には洗濯物がつるされた屋根部屋があったり、錆びたデッキチェアやビーチパラソルが放られてたり、密かに育てられた植木が花を咲かせたりしている。
日本一の高級商店街の上空にも少しだけ暮らしの匂いが漂っていた。
それは映画で観たパリの街並みに似ていて、当地のアパルトマン暮らしをイメージしながら、フランスパンならぬ木村屋のあんパンをかじった」
忙しくないときは休憩時間もタップリあり、外に出ればお金を使ってしまうので劇場の椅子で睡眠。
畳の控室があったが、適度の暗がりと騒音がある映画館の椅子ほど寝心地の良い場所はなく
「極上のシエスタだった」
平日の昼間に入場してくる背広姿の男たちの多くが映画館を仮眠所として利用していて
「眠れる仲間たち」
と呼んでいた。

コレクターは、新しい映画が公開されると必ずパンフレットを買っていった。
中には映画を観ずに、パンフレットだけを買いに来る客もいて、
「オマケだけせしめて本体のお菓子を突き返されるようなさみしさがあった」
さらにパンフレットすら買わず、せっかくキレイに並べたチラシをゴッソリ持ち帰る「ヤカラ」もいた。
「シモン君」
と呼ばれ、恐れられていた「パンフ小僧」は、新しい映画が始まるたびにブ厚いビニールで覆われたタータンチェックの紙袋をもって現れた。
1番上に置かれたパンフレット、販売員を含む誰かが触れたパンフレットはNGで、
「触らないで!」
といいながら、手を長袖のシャツ中に引っ込めてパンフレットの山の真ん中から一部を抜き取り、上方に掲げて明りを当てて、汚れ、折れ、指紋などをチェックし、エラーがあれば取り替えた。
「読むときは手袋をするの?」
と聞くと、とんでもないという勢いで首を振りながら
「読まないですよ!」
それ以後、Q・タランティーノ監督作、クレイジー・バイオレンス・アクション映画「パルプフィクション」になぞらえ、
「パルプコレクション」
と呼ばれるようになった。

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