「星方武侠アウトロースター」とは

「星方武侠アウトロースター(以下、アウトロースター)」は1998年から放送されたアニメです。制作はサンライズ。宇宙を舞台にしたSF作品なのですが、宇宙空間にはエーテルという現実には存在しない物質が満ちていて、獣人に変身できる種族が存在したり、強力な魔術を使う者がいたり、そして大きな腕が付いた宇宙船が殴り合う……。
そんな荒唐無稽なSF(サイエンスフィクション、空想科学)アニメは子供向けだなあ、という声もありそうですが、本作はこれでいいと思うのです。だって「アウトロースター」はSFはSFでも、スペースオペラなのですから。
「スペースオペラ」とは

では、簡単になりますが、スペースオペラというものについて説明させてください。
一般的にSFと呼ばれている作品はたくさんあるのですが、例えば同じSFでも「2001年宇宙の旅」と「猿の惑星」では内容があまりにも違い過ぎますよね。
そこでSFマニアたちの間では、サブジャンルというものを作って細かく区分けしているのです。
わかり易く例えるなら「スポーツ」という大きなジャンルの下に「野球」や「サッカー」というサブジャンルがあるという感じでしょうか。
そんなサブジャンルの中のひとつが、スペースオペラです。
SFなのに科学的な厳密さはあまり要求されません。そのため非科学的だとして、軽蔑されてきた歴史もあります。しかし単純明快で娯楽性が高いものが多く、決してその人気がなかったわけではありません。定義としては「宇宙を舞台にした冒険活劇」というのが分かりやすいと思います。
1977年から公開されている「スター・ウォーズ」シリーズなどが、その良い例です。
原作者はふたり

「アウトロースター」の原作者としてクレジットされているのは矢立肇(サンライズ企画部の共同ペンネームと捉えるのが一般的)と伊東岳彦です。
伊東岳彦はマンガ家で、この前に「宇宙英雄物語」という作品を描いており、その中の設定が本作の基本となっています。
たとえば主人公ジーンが持つ、キャスターと呼ばれる特赦な銃。これはマナと呼ばれるエネルギーを装填して利用する魔法の銃です。「宇宙英雄物語」では呪唱銃(スペルガン)と呼ばれていました。
他にはグラップラー・アーム。元は荷物などをキャッチするために宇宙船に付いていたアームなのですが、戦闘用に大きくなったという設定です。これで武器を持って戦ったり、直接殴り合ったりするのです。
あらすじ

宇宙に真っ先に進出したのは華僑で、銀河系に大きなネットワークを形成しているという設定です。なので本作には、様々な所に中華風な要素があります。
ある辺境の惑星に、どんな仕事でも引き受ける「スターウインド&ホーキング修理商会」というなんでも屋がありました。ジーン・スターウインドとその相棒の少年ジム・ホーキングはある仕事を引き受けるのですが、それには裏があり、危険な宇宙海賊たちが絡むトラブルに巻き込まれてしまいます。
ジーンとジム、そして謎の多い美少女メルフィナは、手に入れた宇宙船アウトロースター号で宇宙へ飛び出すことになるのでした。
メインキャラクター

ジーン・スターウインド
主人公で20歳。真っ赤な髪で、左肩には星型の刺青がある。
過去の体験のために宇宙へ行くことを怖がっていたが、アウトロースター号を手に入れて宇宙へと飛び出すことになる。
キャスターという特殊な銃を持つ。
ジム・ホーキング
11歳。父親は伝説のハッカーで、ジム自身もコンピューターや機械などのプロである。頭脳労働専門でジーンをサポートする。
メルフィナ
美少女型の生体アンドロイド。アウトロースター号のシート後部にあるポッドに入り、そこから操縦のサポートをする。
メカニック紹介

アウトロースター号
遺跡「龍の墓標」から発見されたデータを元に、海賊と宇宙軍で共同開発されたという宇宙船。相手の船に穴を開けて乗り込むための装備「突入ボルト」などは、海賊から得た技術だと思われる。同船のメインコンピューターであるAIのギリアムは、喋ることができる。
シリーズ展開

面白い特色としては、同じ世界を舞台にした「星方天使エンジェルリンクス」というアニメがのちに作られました。世界設定にも魅力があったからだと思われます。「アウトロースター」にも出演したキャラクターが、こちらにも出ています。
他、アニメのストーリーを小説化したものとして2冊、外伝として1冊の本が発売されました。
作品の魅力

主人公が良い
主人公のジーンがやはり魅力的だと思います。アニメの主人公は熱血すぎたり、過剰に善人すぎるとか誇張されがちですが、ジーンの考え方は単純ではないし、かと言って狡猾すぎるということもありません。自由を愛し、自分の信念を曲げず、危険と隣り合わせの冒険の日々を楽しむ「アウトロー」であるということに誇りを持っており、その生き方はとても人間的だと感じました。
敵も味方も良い
キャラクター紹介のところではふれませんでしたが、敵も味方も魅力的だと思いました。
特に一緒にアウトロースター号に乗り込むことになる、ふたりの女性は物語を賑やかにしてくれたと思います。
猫耳の娘で語尾に「ゾナ」が付く、白虎に変身することができるエイシャ・クランクラン。彼女はクタールクタール帝国というところのエリートだったのですが、作戦の失敗から次第に落ちぶれていってしまいます。
木刀を持ち和服を着る、凄腕の暗殺者である美女の鈴鹿。彼女にも辛い過去がありました。
ストーリーも楽しい
「銀河の龍脈」の謎を追い求めるという大きなストーリーはあるものの、基本的に1話完結で、とてもバラエティに富んでいたと思います。笑えるものから泣けるものまで、飽きさせないのではないでしょうか。
正しい娯楽アニメ

同時期に放送されていた、同じサンライズ制作である「カウボーイビバップ」の方が人気や知名度は高くなり、その影に隠れてしまった感はあります。向こうに比べてSFとしてはやはり荒唐無稽なので、その分、子供向けだと思われてしまったのが残念です。
でもその代わり、子供から大人まで純粋に娯楽として楽しめる、とても良い作品だったと思います。