井上陽水氏が出演した伝説のテレビCM
今からちょうど30年前の1988年9月1日、日産セフィーロは発売されました。スタイリッシュなフォルムもさることながら、一番話題になったのはシンガーソングライターの井上陽水氏を起用したCMでした。
「キーワードはくうねるあそぶ」という陽水氏のナレーションが流れ、セフィーロを後ろから捉えたカメラは横に並んで併走すると、助手席の窓が開いて陽水氏が「皆さんお元気ですか?失礼します」というものでした。
井上陽水氏は、長いこと人気がある歌手で、テレビ番組やCMのBGMに楽曲が流れることは多々ありますが、ご本人がCMに出演するのは希でした。本当はご本人に運転させたかったらしいのですが、当時は運転免許を持っていなかったらしく、助手席に乗ることになりました。
さて、このユニークなCMはその後、昭和天皇の病状が悪化したため、苦肉の策でCMの音声が消され、窓を開けた陽水氏は口をパクパクさせているだけになりました。これはこれで話題を呼び、現在まで語り草になっております。
成り立ちはC33型ローレルのセダン版

カタログモデルのスポーツツーリング
Nissan Cefiro (A31) 1988–94 images
さて、今回のテーマのセフィーロですが、CMだけでなくクルマそのものもユニークなものでした。
直列6気筒2000ccエンジン、5ナンバーボディー、リアマルチリンクサスペンションという成り立ちは、同じ日産のC33型ローレル・R32型スカイラインと共通の兄弟車で、特にフロントがストラット式のローレルと基本メカニズムは共通でした(ローレルは同88年12月、スカイラインは翌89年5月にフルモデルチェンジ)。

セフィーロの後ろ姿
Nissan Cefiro (A31) 1988–94 wallpapers
実際、海外にはセダンボディーのセフィーロがローレルの後継として輸出され、中東や中南米ではローレルアルティマの名称で販売されました。
販売店はブルーバード店とサニー店で、ブルーバード店では2ドア一本になってしまったレパード4ドアの後継として、サニー店では初の6気筒エンジン車として、またシルビアのセダン版的な位置付けで取り扱われました。そうやって見てみると、初代レパードの4ドアと似ていますね。私の知り合いでも、初代レパードからセフィーロに買い換えた人がいました。

セフィーロのダッシュボード
Pictures of Nissan Cefiro (A31) 1988–94
外観は流れるような6ライトボディー、プレスドアを使用した4ドアセダンで、前面はシルビアで採用されたプロジェクターヘッドライトを採用。透明プラスチックを重ねたグリル形状で、これまでのミドル級セダンにはないスタイリッシュなフォルムでした。
内装は助手席に中折れ式のシートを採用。ステアリングは3本スポークでした。メカニズム面では、直列6気筒のRB20型エンジンを採用。SOHC・125PS、DOHC・155PS、DOHCターボ・205PSの3種類があり、いずれも5速MTと4速ATが選べました。
サスペンションは標準の前ストラット・後マルチリンクのほか、電子制御DUET-SS、4輪操舵システムのHICAS-IIの3種類が用意されました。

セフィーロのシート
Pictures of Nissan Cefiro (A31) 1988–94
装備が選べたセフィーロ・コーディネーション
セフィーロが最もユニークだったのは、先述の仕様を自由に組み合わせられたところです。「セフィーロ・コーディネーション」と命名され、バブル期のお洒落な空気感にフィットするものでした。エンジン、サスペンションは仕様ごとに名前がありました。
●エンジン
SOHC:タウンライド
DOHC:ツーリング
DOHCターボ:クルージング
●サスペンション
標準:なし
電子制御DUET-SS:コンフォート(変速機は4速ATのみ)
HICAS-II:スポーツ
●内装生地
ダンディ/エレガント/モダン(3種)
●内装色
オフブラック/ブラウン(2色)
●車体色
9色

コンフォートクルージング
Nissan Cefiro (A31) 1988–94 pictures
これらの組み合わせにより、例えばDOHCターボ+電子制御DUET-SSは「コンフォートクルージング」、DOHC+標準サスは「ツーリング」、SOHC+HICAS-IIは「スポーツタウンライド」などというグレード名になりました。この組み合わせにより、例えばスカイラインでは設定のないDOHC+HICAS-IIなんて選択もできました。
カタログにはおすすめの組み合わせが掲載されていましたが、エンジン、サスペンション、変速機、内装生地、内装色、車体色の組み合わせで、合計810通りもの選択肢になるそうです。
また、1989年8月23日から人工皮革のエクセーヌをシート生地に採用したエクセーヌセレクションが設定されました。
ネガティブ要素を潰した中期型
1990年2月1日には、オーテックジャパンから「セフィーロオーテックバージョン」が発売されました。スポーツクルージングをベースに、エンジンをチューニングして最高出力を205馬力から225馬力に強化。外装にはエアロバンパー、専用アルミホイールを装着。内装にはイギリス・コノリー社製の本革張りシートを採用する、なんとも気合いの入ったモデルでした。

角型ヘッドライトも用意された中期型
Photos of Nissan Cefiro (A31) 1988–94
CM、デザインともにインパクトのあるセフィーロでしたが、購買層として設定した33歳に対し200万円以上するセダンは高すぎたのか、それより上の年齢層にはインパクトが強烈すぎたのか、販売実績は決して好調ではありませんでした。
1990年8月のマイナーチェンジで中期型に移行。セフィーロ・コーディネーションが複雑すぎた、という意見もあったようで、このシステムは廃止されました。エンジンごとにタウンライド、ツーリング、クルージングのグレード名は残され、電子制御DUET-SS、HICAS-IIのサスペンションは各グレードのメーカーオプション(クルージングにはHICAS-IIを標準装備)という設定に変更されました。また、シートの生地と色は他社と同様にボディーカラーごとに固定の設定となりました。

セフィーロオーテックバージョン
Autech Nissan Cefiro (A31) 1990–94 wallpapers
4WDのアテーサがDOHCターボ車に設定され、DOHC車のATは5速ATになりました。また、角形ヘッドライト、中折れ式助手席のない安価なグレードがタウンライドN・ツーリングNとして設定され、各グレードのメーカーオプションとして角型ヘッドライトも選択できる設定になりました。
前期型の強すぎる個性を抑えたマイナーチェンジでしたが、なんだかパッとしない印象になってしまったのは否めませんでした。
マイナーチェンジで3ナンバーボディーに

3ナンバーになった後期型セフィーロ
日産・セフィーロ - Wikipedia
1992年5月、ローレル、スカイラインがフルモデルチェンジをする中で、セフィーロは2度目のマイナーチェンジを受けて後期型になりました。ここで2500ccのRB25DE型エンジン・5速AT車が追加され、前後のバンパーを大型化。全車3ナンバーボディーとなりました。
グレードは、中折れ式助手席や運転席パワーシートを装備する高級仕様として2500ccの25SE Mセレクション、25SE、DOHCターボのSE-T、SE-4(4WD)、SOHCのSE、さらにそれらがない安価な仕様としてDOHCのVE、SOHCのVLが設定され、VLのみ角型ヘッドライトとなりました。

2代目セフィーロ
Pictures of Nissan Cefiro (A32) 1994–98
1994年8月、セフィーロはようやく2代目にフルモデルチェンジします。しかし、ローレル・スカイラインの兄弟車から離れ、マキシマを統合した上でV型6気筒エンジンを搭載するFFセダンになりました。
広いキャビンと安価な価格設定もあり、皮肉にも大ヒット作となりました。新生セフィーロは1998年に3代目に移行するも、今度は不作。2003年にティアナにバトンを渡し、セフィーロの名は消滅しました。