
オーギュストのドライセンが、宇宙をビームアックスで切り裂く!
私、市川大河が、書評サイトシミルボンで連載している、 『機動戦士ガンダムを読む!』での、 再現画像で使用しているガンプラを、 古い物から最新の物まで片っ端から紹介していこうというテーマのこの記事。
今回紹介するのは、『ガンダムZZ』当時の旧キットの中で、トップを争う傑作になった、ドム系モビル・スーツ、ドライセンの1/144旧キットの紹介です。
ドライセン 1/144 016 1986年10月 800円(機動戦士ガンダムZZ)

ドライセン旧キットのボックスアート。当時のガンプラで横向きのパッケージは珍しかった
いきなりであるが、この連載に登場しているガンプラは、基本筆者が作った物の写真を写しているが、そのほとんどはシミルボンで『機動戦士ガンダムを読む!』を連載するにあたって、再現画像を作るために組み立てたものであり、もとからの筆者のものぐさ、モデラーとしての怠慢もあって、基本的に合わせ目も消さず、塗料はベタ塗りでアニメセル画設定塗りばかりなのであるが、中にはいくつか、シミルボン連載決定前から趣味で組み立てていたガンプラもあり、それは純粋な気分転換の趣味ゆえ、合わせ目を消したり、塗装の彩度や明度にオリジナル要素を入れてみたりしていた物もいくつか含まれる。
そういった趣味制作キットは、既に紹介し終わった例ではR・ジャジャやバイアランなどがあり、今後紹介していくアイテムでは、クエス・パラヤ専用ヤクト・ドーガ、などがそれに当たる。
なので、物によってはHGUCと重複していたり、旧キットの場合、武器だけ紛失していたりといったことも起きているが、それはそれで笑って済ませていただければと願うしかない。
今回紹介するドライセン旧1/144キットも、キットの出来の良さゆえに、気まぐれで数年前に作ったものであり、それゆえトライブレードやビームアックス等が紛失しているが、再現画像には出演させているので、貴重な「『ガンダムZZ』当時キットの傑作例」として、今回は紹介する次第である。

完成した旧キットドライセン。流れるようなボディラインとメリハリの効いたシルエット。まさに最高傑作の異名も頷ける
『ガンダムZZ』の1/144キットの展開は、確実にビジネスとして失敗した。
初動のガザD、ガルスJ、ズサ等は、ギミックもプロポーションも可動もバランスが取れていたが、「関節可動が殆ど不可能」なR・ジャジャとハンマ・ハンマと「変形合体は出来るが、どの形態にしても不安定なバウ」が重要なタイミングで大ミスをやらかしてしまい、その後はしばらく、MSVシリーズの金型流用キットで、ビジネス継続のアリバイを稼ぐという手法が続いた。
既存のガルバルディβやゲルググキャノンに、新規の肩パーツを追加して別アイテム扱いをでっち上げた1/144 ガズL/Rとリゲルグに続いて、10月にようやく、ガ・ゾウム以降2か月ぶりに完全新作金型で発売されたのが、今回紹介する1/144 ドライセンであった。

正面から見たドライセン。腰の括れが無いように見えるのはバックパックのせい。手足のボリューム感も完璧
このキットの当時評価はすこぶる高く、それまでの『ガンダムZZ』オリジナルモビル・スーツキットの平均的評価の低さを、一気に汚名返上するクオリティで登場し、続くドーベンウルフ、ジャムル・フィン、ザクⅢと、4商品続けて、今までが嘘だったかのようなハイクオリティガンプラがリリースされたのだが、時すでに遅かったというのもあったのか、『ガンダムZZ』シリーズのガンプラは、1/100完全変形合体ZZガンダムを入れても、全部で19種類で、金型流用キットを除くと13種類。多スケールで43商品展開数を誇った前作『機動戦士Zガンダム』(1985年)ガンプラ商品群と比較して、かなりビジネススケールがダウンした結果となった。

サイドビュー。足裾の末広がりがドム系の面目躍如
一方で、いずれこの連載でも扱うが、2000年代からのHGUCシリーズでは、『ガンダムZZ』からは、主にザクⅢ、ドーベンウルフ、バウ、ドライセン、ザクマリナー、キュベレイMK-Ⅱ、ジムⅢ等がラインナップされており、シリーズの初動でイメージを形作った、出渕メカのネオジオンモビル・スーツの多くは、『機動戦士ガンダムUC』(2010年)で別デザインと名前に生まれ変わってHG化され、ズサ以外はZZ版ではリファインされていない。

バックビュー。トライブレードの刃を喪失してしまって申し訳ありません
シンプルに考えれば、ドライセンやザクⅢは、当時キットが神出来でもあったのだから、リファイン自体はありがたいが、優先順位が違うような気もする。
また、『Zガンダム』『ガンダムZZ』では、ドライセン以上にディジェやガザDなど、当時キットの出来が良かったがゆえに、HGUC化されないのかと穿ちたくなるモビル・スーツもいたりする(一方で、RジャジャやガルスJのように、当時キットが酷かったのに、今になってイマドキの流行デザインにアレンジされて、派生機が生まれそっちしかHG化されていないモビル・スーツも不遇だが……)

脚部の左右開脚はここまで可能。ハンマ・ハンマやR・ジャジャはなんだったのか……
当時キットの不遇な出来を、HGUC化、新規発売で名誉挽回するのであれば、それこそR・ジャジャやハンマ・ハンマ、ガルスJ辺りが適任だと思うのだが、どうもバンダイの法則性は理解できない。
いや、むしろエンドユーザーに安易な予測をさせないことで、HGUCやMGは「次は何がキット化されるか分からないから目が離せない」状況を演出し続けられているのだろう。

前後開脚も、前方はとにかく後方はここまで曲がる。膝はともかく股間の可動領域が広い。ハンマ・ハンマとR(以下略)
さて。今回のキット紹介の1/144 ドライセンだが。
キットの発売は、シリーズも後半に入ってきた1986年の10月。
『ガンダムZZ』のモビル・スーツは、後半になるにつれ平均的に大型になっていくが、このキットも800円と、初期のガンプラの1/144キットの倍額以上の価格設定になっていた。

これぞドム! という趣きの頭部。ドム系ではおそらく初の、頭部左右可動が可能になったキット
ランナー数は3枚と、A、Bのポリキャップという仕様は変わらないが、ドライセンの場合、赤と青、そして(いわゆるドム系の)パープルと、3色でそれぞれランナーが形成されていて、パーツ分けも、バーニアは殆ど別パーツで、塗装派にも組みやすい構造になっていて、黄色やグレーを足すだけの部分塗装でも充分に見栄えのする出来上がりになる。

腕の可動。肩アーマーも独立していて肘の曲がり具合も悪くない。肩アーマー内側のバーニアノズルもしっかり再現。その上で……
この辺り、パーツ段階での色分けを追求し始める『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(1988年)キット群への布石のような物も感じられ、その後のドーベンウルフやジャムル・フィンでは2色ランナーにまた戻るので、ある意味正統派ドムの後継機という立ち位置もバリューになって、多色成型への実験商品としての色合いもあったのかもしれない。

後の最新型HGUC版でさえ差し替えだったハンドキャノンをギミック事完全再現。旧キットのアレックスガンダムのように腕部装甲がスライドする
プロポーションは、『ガンダムZZ』でジャムル・フィンと一二を争う最優秀の出来栄えであり、どっしりしたドム系特有の体形を、メリハリつけて上手くキット化しており、それでいて手や足の裾が広がるところのカーブは明確につけているという優等生的な出来具合。
さらに、バーニア、パイプなどはしっかり別パーツなので立体感も損なわない。

ハンドガン連射のドライセン! 気になる人は3連砲口をピンパイスで開けてあげるとぐっとリアルになる
可動は、肘がハンドガンのギミックを仕込みながらも90度近く曲がり、肩も脇に上げる際には、肩アーマーのサイドアーマーもしっかり可動して逃げる仕様。
また、この時期から『逆襲のシャア』へかけて、ガンプラは1/144でも手首が可動指仕様になっていくプロセスを辿っていて、本商品もその流れに入っている。
ドム系なのに、首が左右に振れること自体も驚きなら、開脚も左右へのみならず、前後の可動もかなりクリアランスが計算されていて、見た目よりも大きく足を踏み出せる仕様。

どの方向から写してもカッコいい旧キットだが、少し煽りで撮ると、本当に惚れ惚れする出来栄えである
特にハンドガンギミックに関しては、現代のHGUC版が、『ガンダムUC』版のリファインデザイン版の金型を改修してでっち上げた代物だけに、ちょうど袖口のところが造形が違っていて、それを改修してはいるが、再現度は当時キットの方が高いというオチが付く。
キット全体の可動の方は、膝や足首がガタつくが、これが当時のキットの設計段階からなのか、金型の経年劣化からきているのかは判断は付かないが、HGUC版の方がかっちりと可動するとはいえ、このキットの捨てがたさは、イマドキのガンプラファンにも理解してほしかったりする。

手首が、当時スタンダードの可動指なのは評価が別れるが、筆者的には可動指は、イマドキの「ライフルを構えているのに、手首が握り状態に穴が開いているだけ」に比べれば嫌いではない
本来であれば、付属武器としてトライブレード、ビームランサーとビームトマホークがここにつくべきなのだが(ちなみに『ガンダムZZ』本編だとバウのビームライフルを使ってる)、冒頭でも書いたように、このキットは連載用に組んだ物ではないので、付属部品はどこかへ行方不明になってしまっている(笑)
なのでまぁ、再現画像でHGUC版の付属武器を持たせて撮影するのは悪くないと思う(HGUC版はちゃんとクリアパーツだし)。
塗装の方は、合わせ目を消した組立なので全塗装で。
基本のブルーは、インディブルーにミディアムブルーを足して調色。
逆に上腕や腿のブルーは、エアスペリオリティブルーにミディアムブルーを足して双方から近寄らせ合った。
後は、ニュートラルグレーとモンザレッドとイエロー。モノアイはちゃんとピンクで塗装して、全体に艶消しを吹いて仕上げた。

決して『ガンダムZZ』旧キットはハズレしかないのではなく、傑作が後半に集中したからというのも実際の話
いろいろ書いてきたが、ガンプラはやはりこの頃でも「ドムにハズレなし」を貫いており、そりゃ塗装の手間や可動範囲などでは現代のHGUC版ドライセンの方が確実に上なのではあるが、上記の理由で実は当時キットの方がアニメ版には忠実なところもあるので、『ガンダムZZ』ファンであれば、あえて手を出すのも一興という意味では、特にこのドライセンとジャムル・フィンを推しておこう。
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