同人弾幕系シューティングゲームの金字塔
東方Project
コンピュータゲーム黎明期から登場し、今なお様々な展開をみせている人気ジャンル《シューティング》。
なかでも2000年代後半から特筆すべき人気を誇っているのが《東方Project》なる作品群である。基本的には弾幕系シューティングに分類される。
同人ゲームのためテレビCMなどで見かける機会は皆無だが、その勢いたるや凄まじいものがあり、東方Project関連作品のみを扱うイベント《博麗神社例大祭》に至っては
博麗神社例大祭とは (ハクレイジンジャレイタイサイとは) [単語記事] - ニコニコ大百科
というレベルである。
ちなみにGoogle検索で「例大祭」を検索すると最初に出てくるのが、
博麗神社例大祭
このページである。
無論《例大祭》は同人用語でもなんでもなく、神社における《祭祀》の一種である。縁日とかと近い。Google先生ぇ……。
さてこの作品群、二次創作の音楽やイラストや漫画がたいへん多く存在しており
〝原作がシューティングゲームだと知らない/未プレイだけどファンである〟
という人が珍しくない。
さらに様々な事情と理由があって〝シリーズ初期作品(通称:旧作)についてはほとんど知られていない〟
というわけで今回はそんな不遇(?)な最初期作品、シリーズ第1作であるところの「東方靈異伝 ~ Highly Responsive to Prayers」をご紹介しよう。
「東方靈異伝 ~ Highly Responsive to Prayers」
特徴1 PC-98である
《様々な事情と理由》その1にしてその最たるもの。
近頃はOSの問題から0年代にハマっていたPCゲームがプレイできない! なんて悲鳴をちらほら聞きます。
どうなんでしょう。PC-98。ヒット作は移植されたりしていますが、それでも時代的にはSFCとかセガサターンとかが中心だったりするからそろそろ……。

NEC PC-9821V166/S5C
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一時期「触っていない世代の人はPC-98のことをWindows98だと思っている」というジョーク(?)が存在していましたが、そろそろWindows98の知名度も危なくなってきたのではなかろうか。おお、こわいこわい。
特徴2 弾幕系シューティングではない
《様々な事情と理由》その2。
東方靈異伝の登場は1996年。もしこの時から現在と同じ路線で製作しており弾幕系シューティングを感じさせることができたならば、93年発売の「バツグン」、95年稼働開始の「首領蜂」などと並んで元祖弾幕系シューティングと称されることになっていたのかもしれない(それによって知名度が上がっていたかと言われると微妙だが)。

首領蜂
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しかし実際のところ東方靈異伝は《パネルめくり+α》という感じになっている。
特徴3 上海アリス幻樂団ではない
現在、東方Projectを製作しているサークルと言えば《上海アリス幻樂団》ということになっている。
上海アリス幻樂団
のだが、東方靈異伝の製作者は「Amusement Makers」というサークルだということになっている。これは東京電機大学のサークル(非公式らしい)で、現在でもゲーム作成やイベントの参加などの活動をしている。
東方Project作品群としてナンバリングが共通している東方靈異伝だが、実は《上海アリス幻樂団》のページではシリーズ6作目「東方紅魔郷」以前の作品に触れられていない。製作者が違うのだから当たり前だという見方もできると言えばできる。
このあたりも「東方紅魔郷」以前の作品が《旧作》と呼ばれており、情報の流通量に壁が発生している理由の大きなひとつではあろう。

東方紅魔郷 ~ the Embodiment of Scarlet Devil.
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特徴4 提供場所が学園祭
《特徴3》とややかぶっているが、製作サークルが大学のそれであったため、最初の提供は大学祭で行われたということである。前述の通り1996年のこと。
その後、シリーズ2作目を頒布する際に一応コミックマーケット(コミケ。C52のはず)に並んでいたことはあったらしいのだが。
特徴5 手に入りにくい
上記のような要素が集合することで、結果としてコレが発生してしまう。
いや、ここまで調べていると「ちょっと遊んでみたいな。まあどこかで手に入るやろ」という気持ちもわいてくるわけです。
で、アマゾンさんで「東方靈異伝」を検索してみたのですが〝最初に出てくるのは東方紅魔郷(シリーズ4作目)〟でした。ちがう、そうじゃない。
まあアマゾンさんは元々同人系作品をあまり扱っていない(という勝手なイメージがある)しなあ……と思って駿河屋さんのページへ。
東方靈異伝 Highly Responsive to Prayers.[PC-98専用/3.5FD1枚/説明書&イラスト付] / 上海アリス幻樂団 | 中古 | 同人GAME 3.5インチFDソフト | 通販ショップの駿河屋
品切れッスね。これとは別にイラストと説明書が欠けた状態の商品ページもあったのですがそっちも品切れでした。つまりここにも無いと。
オヤオヤと思いちょっと真面目に調べてみると、
2002年9月以降、再販が行われていないため入手困難である。 また、他のPC-98用の作品とは異なり、体験版も公開されていない。
http://dic.nicovideo.jp/a/%E6%9D%B1%E6%96%B9%E9%9D%88%E7%95%B0%E4%BC%9D東方靈異伝とは (トウホウレイイデンとは) [単語記事] - ニコニコ大百科
あやややや。
ネットショッピングに詳しくないわたくしではもうどうすればいいのかわかりませんわ――とか思っていたのですが、テキトーにやっていたら発見しました。
【楽天市場】【中古】同人GAME 3.5インチFDソフト 東方旧作5作セット[説明書&イラスト5冊付] / Amusement Makers:ネットショップ駿河屋 楽天市場店
ドエレー 〝COOOL〟じゃん・・・?
まさかの200万オーバー。これには鑑定団も依頼人もビックリ。
200万で5作品のセットということは雑に計算すると1作40万というところですか。
すぐ下のページでは先述の「東方紅魔郷」が43万7000円で売られていたりもします。
紅魔郷ってわたし持ってるんですがいつの間にかプレミアでもついたんですかね……たまげたなあ。
登場人物紹介
博麗靈夢
お馴染みの人にはお馴染みの、シリーズ通しての基本的な主人公(自機)。
現在のシリーズでは《博麗霊夢》と霊の字が簡単なほうになっている。
服装とか能力とか口調とか細かいところが結構ちがう。
SinGyoku
5面ボス。
民俗や神話に関連する登場人物が多い東方シリーズにふさわしく、陰陽師の姿になったりする――のだが、頭から角が生えた小悪魔風のビジュアルになったり、あるいは陰陽玉のようなビジュアルになったりと忙しい。
呼ばれるときは読んでそのまま「シンギョク」とされることが多いが、男性風陰陽師が《シン》、少女風形態が《ギョク》と呼ばれたりなどやっぱり忙しい。
〝SinGyokuを1キャラとして扱うべきか2(あるいは3)キャラとして扱うべきか〟
で悩んでいるファンもいるとかいないとか。
なお、この作品は5面、10面、15面、20面(ラスト)にボスが配置されているという構成なので〝主人公靈夢を除けば実質初の登場人物〟というメモリアル的存在なのだが、人気投票を見る限り注目度は高くない。というか低い。シカタナイネ。
彼(彼女)を倒すと分岐し、魔界ルートか地獄ルートかに行くことになる。
YuugenMagan
魔界ルート10面ボス。読みはユウゲンマガン。漢字にすると《幽玄魔眼》《幽幻魔眼》となる説が有力らしいが信憑性は謎。
5つの眼を持っているという強い個性を持ったキャラクター。この性質のせいでよく「ゲゲゲの鬼太郎」のバックベアード様の話題がのぼる。
Elis
魔界ルート15面ボス。読みはエリス。
二つ名《無邪気な悪魔》、金髪、とがり気味の羽、蝙蝠への変身――という属性は後の「東方紅魔郷」に登場するフランドール・スカーレットあたりを連想させる。
一方で頬の星マーク、星型ステッキ、赤いリボンなど別キャラとしての属性もちゃんと確立されている。
Sariel
魔界ルート20面ボス。ラスボスのひとりである。読みはサリエル。
二つ名は《Angel of Death》とかなり物騒。特徴としては全体的な青白さと6枚の羽であろう。
サリエルと言えば大天使のひとりにそういう名前の人物がいる――というか天使サリエルが元ネタになっていることは〝死を司る天使〟〝6枚の羽〟といった要素から確実と言って良いだろう。
――だからなんだ、と言われると特に何かがあるわけでもない。後のシリーズでも西洋的《天界》《天国》という舞台はあまり出てこないし……。
Mima
地獄ルート10面ボス。
種族的には《悪霊》である。こと靈異伝においては二つ名が《Revengeful Ghost》すなわち《執念深い悪霊》と物騒である。が、後に《悪霊さん》さらにはただの《Ghost》と性質が変化していく。
さて彼女、実は後の作品にもそこそこ登場してくるのである。旧作においては定番キャラ。必然的に設定や公式言及の量も多くなっており、ファンからは《魅魔様》と呼ばれ親しまれている。
ちなみに容姿を確認することもでき、

幺樂団の歴史 4 ~Akyu’s Untouched Score vol.4
Amazon.co.jp: 幺樂団の歴史 4 ~Akyu’s Untouched Score vol.4: ホビー
ではイラスト左上にひょっこり登場している緑髪の彼女がそれで、悪霊というよりかは魔法使いに近い印象を受ける。なお足はあったりなかったりするらしい。
一部ファンからそのカリスマ性を異常に高く評価されていたり、続編においても他キャラクターとの絡みがあることから今でも一定の人気を誇っている。
なかには、
かつて『英語版東方wiki』の内容が魅魔様だけ異常に充実していた
http://dic.nicovideo.jp/a/%E9%AD%85%E9%AD%94魅魔とは (ミマとは) [単語記事] - ニコニコ大百科
という逸話まであり、新作が出る度に「魅魔様再登場なるか!?」と期待する声がちらほらとあがる。だがその思いは今のところ届いていないようである。
Kikuri
地獄ルート15面ボス。読みはキクリ。
円盤のなかに女性の上半身部分が描かれているという特殊な見た目。どことなく《真実の口》を連想させる。
二つ名は《Hellish Moon》ということでいまいちピンと来ないが、元ネタとして、
菊理媛神 - Wikipedia
の存在が言及されている。
……もっとも、菊理媛神の方も「古事記」などで堂々と活躍するというよりかはファンブック的書物にちらっと名前が出てくる程度であり、縁結びの神様であったり冥界の神であったりイザナギとイザナミの子供であったりあるいはイザナミの別名であったり――と説が安定していない。
Kongara
地獄ルート20面ボス。ラスボスのひとりである。読みはコンガラ。
外見としては黒い髪に紅い目と紅白の和装、右手に杯・左手に刀を持ち、星熊勇儀の様に額に生えた赤い一本角が特徴的である。
http://dic.nicovideo.jp/a/konngaraKonngaraとは (コンガラとは) [単語記事] - ニコニコ大百科
と描かれている。これを本作のドット絵から察したのであれば大したものである。
星熊勇儀は後のシリーズ作品に登場する鬼。
というわけでコンガラさんも鬼なのではないか? そうすると続編シリーズに登場する妖怪の山の四天王と関係しているのではないか? という推察や二次創作が発生しているらしい。
のだが、そもそも靈異伝の知名度が高くない&設定の密度が低い等の事情のせいか公式からのフォローは無い。
元ネタとして有力視されているのは矜羯羅童子。不動明王の眷属である。
矜羯羅童子 - Wikipedia
名前を考慮すると非常に有力――というかドンピシャな推理だろう。
しかし矜羯羅童子には角や刀や盃といった設定は見当たらない。やっぱりそこまで練り込まれた設定ではない、というのが現実的な落とし所ではないだろうか。
実は性別ですら不明瞭だったりする。