『ガンプラり歩き旅』その59 ~イデオン編・7 歴代1/600 イデオン総登場!~

『ガンプラり歩き旅』その59 ~イデオン編・7 歴代1/600 イデオン総登場!~

ガンプラ! あの熱きガンダムブーム。あの時代を生きた男子であれば、誰もが胸高鳴り、玩具屋や文房具屋を探し求め走ったガンプラを、今改めて当時のキットから現代キットまで発売年代順に、メカ単位での紹介をしてきた『ガンプラり歩き旅』。 今回は全8回で、ガンプラブームと共にロボットプラモブームを牽引した、『機動戦士ガンダム』(1979年)の日本サンライズ・富野由悠季監督の次作品『伝説巨神イデオン』(1980年)のアオシマ製プラモデル群から、現代に至るまでのイデオンフィギュアを、追いかけてみたいと思います!


アオシマ版頭部。向かって左のアンテナが収容されていることが分かる

イデオンはそもそも、Aメカが左右に分離した両腕の中から頭部が出てくるギミックがあるが、これはアオシマ、バンダイともに再現は出来ていないが、出てきた頭部から、さらにアンテナが伸びる演出でイデオンの合体は完了するのだ。
こういった「頭部の角が伸びて合体完了」というスーパーロボット演出は当時から多く、ガンダム前の富野由悠季監督作品『無敵超人ザンボット3』(1977年)『無敵鋼人ダイターン3』(1978年)等では定番の演出だった。
バンダイ版は、部品の扱いや素材の強度などの問題からだろう、アンテナを頭部に固定した状態での差し替えになっているが、アオシマ版ではちゃんと頭部の2本の角が伸縮収納されるギミックが再現されていたのである。

そして二つ目は、同じくAメカの「トリッキーに可動可変する肘関節」が挙げられる。

イデオンAメカの多軸構造による変形

Aメカ肘部分は、ソル・アンバーからイデオン合体形態に変形する際に、肘関節に当たる部分が180度折れ曲がることでメカのシルエットを変えている。
しかし、樋口雄一氏のデザインの匠はそれだけでは足らず、そこから飛行メカ、イデオ・デルタに変形する際、肘関節の四角の一角だけを軸にして外側へ回転するギミックが設けられているのだ。
バンダイ版では、この変形は大胆に差し替えで再現されたが、アオシマ版では軸に金属シャフトを用いることで、複雑故に脆弱になりがちなAメカの2通りの変形を、見事に両立させて立体化していた。

そして三つ目。今度はBメカだが、ソル・バニアからイデオ・ノバへの変形は、アオシマとバンダイで一長一短とも言えた。

アオシマ版のBメカ変形ギミック

確かに上でも書いたが、アオシマ版はBメカ変形ギミックの中でも重要な「腹部に当たるボディが、ソル・バニア時に左右にスライドして広がる」プロセスをオミットしている。もっとも、バンダイの再現アプローチは、そこでもやはり「パーツ丸ごと差し替え」ではあるのだが。
しかし、双方ともイデオ・ノバ時の左右のグレンキャノンの収容こそ再現できなかったものの、アオシマ製ではまだ「両側腹部にある、グレンキャノン収容ハッチが開閉する」というギミックだけは残してある。加えるなら、Bメカがイデオン胸・腹部に変形する際も、バンダイ版はこれもまたまた大胆に「胸下はパーツごと換装」だが、両肩脇ブロックがどんでん返し変形(これは、アオシマ版もバンダイ版も再現)した後に、腹部が縮むギミックは、やはりアオシマ版では再現されている。

そして四つ目は、拘る人は拘るであろう「Bメカの後部」

Bメカ後部がフラットなアオシマ版(左)と、ボールジョイントの受けを仕込んだバンダイ版(右)

これは、個々の商品での3機分離状態を、個別の独立したメカニックと捉えるか、それとも「一つのイデオンというロボットを、三分割したメカ」とあくまで捉えるかの違いからきているのだが。
アオシマ版のBメカ後部は、アニメ設定どおりにフラットな板状で出来ていて、アニメ設定どおりイエローの塗装も可能なパーツ形状をしている。それは逆をいえばイデオン合体時には、あくまでBメカとCメカは、パーツ同士の摩擦でしか連結していないということでもあるのだが、現代ガンプラの設計や、可動範囲の需要に長けたバンダイは、BメカとCメカを、ボールジョイントで繋ぐ形で合体させることで、合体時の保持力とボールジョイントによる自由な腰の可動を両立させた。
しかし、それはあくまで「イデオンというロボットを構成するパーツ」としての話で、Bメカ単体で見た時は、バンダイ版はこの「後部に空いた丸い穴」に対しては、なんのフォローもしていない。ある意味「関節ジョイント部丸出し仕様」なのである。
単純にBメカを単体で見た時には、後部の穴は無粋であり、アオシマ版の方が設定に忠実と言えるのかもしれない。

五つ目からはCメカの話に入る。

アオシマ版の、折り畳まれたCメカのカナード翼

イデオ・バスタのカナード翼は、単純な一軸ギミックで腰に折り畳まれる変形をするのだが、バンダイ版では腰の斜め前半分を、丸ごと別パーツに差し替え換装で再現したからか、このカナード翼パーツも、一度ボディから引っこ抜いてから、もう一度違う角度でCメカパーツに刺すという無粋な手間を経なければならない。
アオシマ版では、素直にアニメの変形どおりに、普通にカナード翼は折り畳まれて収納される。

アオシマ版のCメカの脚は、ちゃんと設定どおり「伸縮」して変形する

当時の合体ロボットの変形システムなどでは、戦隊物のロボット等でも多かった「腕や脚が伸び縮みして形を変える」がイデオンでも採用されている。
肘や膝の可動を考えなくてよかった時代の合金トイであれば、腕や脚にスライドギミックを付け足すだけで再現可能であったのだが、イマドキのロボットフィギュアはプラモデルでもアクションフィギュアとしての完成度も求められる。
そこで、バンダイ版は、腿と脛の接続を、開閉できる脛の内側にある「ジョイントの差し込み口」を縮んだ状態と伸びた状態の2種類を設けて、形態ごとにジョイントを差し込む穴を変えることで、腿の伸び縮みを再現していた。
これはこれで、立案者を誉めるべきアイディアではあるのだが、一方80年代初頭のアオシマは、プラモデルの補助パーツとしては当時現役だった「スプリング」=バネを膝関節保持ピンに仕込むことによって、イデオン形態、Cメカ形態、どちらでもスプリングの力でカチッとパーツがハマった上で、イデオン時にはちゃんと膝関節が可動するという仕様を成し遂げていた。

アオシマ版Cメカの爪先部分のパーツ差し替え

写真では分かりづらいかもしれないが、Cメカの爪先部分は、ソル・コンバー、イデオ・バスタ状態ではバーニアが露出していて、イデオン合体時にシャッターが降りる演出があった。つまりCメカ単体時は、ここはバーニアが露出していなければいけないわけだが、バンダイ版ではここはシャッターのディテールしか用意されていない。
細かい拘りかもしれないが、ここも差し替えにする辺りに、当時のアオシマの「熱さ」のようなものが感じられる。

ここまで書いてきた、アオシマ版とバンダイ版の細かい差異。
バンダイ版は、劇中での変形合体プロセスの再現を殆ど切り捨て、各形態ごとでの完成度が、より高くなる方向へコンセプトを割り切った。
しかし、劇中の再現という意味合いで言うのであれば、変形合体する際に、曲がるべきところが曲がり、開くべきところが開くギミックがあるのが「本来のあるべき姿」ではないだろうか?
バンダイ版の割り切りは、評価されるべき英断ではあるかもしれないが、「ここにあったパーツがこう動いて、こういう形になる」という変形の醍醐味を完全に捨て去ったところで商品化が進められたと見受けられる(逆に、なんとしてでもこのトンデモ変形合体を、全て再現してやる、という気概が執念になって昇華したのが、超合金魂版イデオンであったともいえるわけで)。

暴論を承知で言い切ってしまえば、バンダイ版に関しては、その変形合体の殆どが差し替え、換装で変形ギミックが再現されているのだから、むしろ最初から変形や合体を前提にせず、ノンギミックでプロポーション再現や可動に特化させて、全てのメカを単体で独立させた商品にした方が早かったのではないかとさえ思えてしまうのである。

そういった点でも、アオシマ版はあの時代、あの頃の技術力で「どこまでが限界だったか」への、果敢な挑戦の記録と、輝かしい栄光として、今の時代でも評価すべきイデオンのプラモデルだと言い切ってもよいのではないだろうか?

左から、アオシマ合体版、アオシマプロポーションタイプ、やまと、バンダイの、4つの1/600 イデオン

今回の連載のメインで紹介してきた、時代、時代の「4つの1/600 イデオン」であるが、作品の時点で既に、100人の受け手が入れば100の解釈があるように、同じスケールの同じロボットの立体化であっても、100人のユーザーがいれば100の正解があってもおかしくはないはずだ。

『機動戦士ガンダム』は、あくまでガンダムを主役メカとしながらも、数多のモビルスーツが対等に向き合う「ロボットの群像劇」であったが、『伝説巨神イデオン』は、イデオンという“一人”の巨神の行く末と振る舞いが、小さな生き物・人間の魂が、億以上集まったエゴの渦を、突き進んでいく作品であった。
だからこそ、「イデオンの立体物の正解」は、万人が共有する必要はないと言える。

4体のイデオンに、それぞれ専用の(やまと版では確信犯的にマッチさせられたアオシマ版の)イデオン・ガンを構えさせた究極の図

さて、イデオン、イデプラのクライマックスはここまで。
次回は『ガンプラり歩き旅』イデオン編最終回として、とっておきのトンデモプラモのイデオンをご紹介します!


(取材協力 青島文化教材社)

市川大河公式サイト

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