「ぷりぷり県」の概要。
紙の書籍は、出版元の小学館では絶版になっているようですが、電子書籍では販売されているようですので、ご参考までに。
(中古品ストアでは紙の書籍もあるようです。)
「ぷりぷり県」第1話。

ぷりぷり県 1ページ目。
小学館「ぷりぷり県」吉田戦車・作 第1巻4ページより。
主人公「つとむ」。
この作品の一番の不条理さは、「苗字がある主人公がいない」ということにあります。
主人公は「つとむ」。
画像下を見ていただくと気づくと思いますが、部長は「静夫部長」。
つとむがあこがれる美人先輩は「よし子先輩」。
誰一人として苗字がなく、かと言って、社内での呼称は「部長」ではなくて「静夫部長」というように、必ず下の名前を付けて呼ぶという、不思議感覚満載の作品です。
故郷「ぷりぷり県」。
この作品では、日本の各県の名物が出てくるのですが、つとむの出身だけが、まだ誰も知らない「ぷりぷり県」という県です。
故郷の「県」を心から愛し、他県にムダなライバル心を燃やすつとむ。
つとむは、故郷ぷりぷり県から就職で東京都にやってきましたが、先輩社員の「出身県」に対して異様なまでのライバル心を燃やしています。
上記画像左下で、つとむは東京タワーを無言でにらみつけていますが、これも、首都東京都(東京と言わずにあえて「東京都」と書きます。)の象徴である「東京タワー」に、自分の故郷ぷりぷり県にはない華やかさを見つけ、「東京都」へのライバル心を燃やしているので、にらみつけているのです。
ありえない不条理ワールド「ぷりぷり県」。

この話では、つとむの会社の同僚たちが、各地のご自慢弁当を集めた「物産展」に出かけるのですが、同僚たちがそれぞれ自分の好きな名物弁当を選んでいると、つとむは激怒します。
「自分のふるさとの弁当業者さんが重い弁当をはるばる東京まで運んでくださったのだ。自分の故郷の弁当を選ばないとはどういうことだ!」と叫び、同僚たちを困らせます。
昼休みのわずかな時間しかない同僚たちは仕方なく、つとむの言う通り自分の故郷の弁当を選びます。
東京都出身のアキラ係長は「深川めし」、埼玉県出身のよし子先輩は「大宮盆栽すし」を買い、「故郷にはこんな弁当があるんだ」と、それなりに感心します。
そしてつとむの故郷ぷりぷり県の弁当を買おうと勇んで探したところ、ぷりぷり県の弁当は、なんと「ガガーリン弁当」・・・。
つとむが「こんな弁当みたことがなかった。」と言うと、店員さんは「人気がないのであまり作っていないんですよ。」という衝撃の発言。
なぜガガーリンの名前になっているかと言うと、ぷりぷり駅の駅弁屋の社長が、ガガーリンのファンであり、ガガーリンのイメージを弁当に表現できないかと考え、「地球は青かった」の発言を元に、ご飯に「青のり」をかけただけという、凄まじいアイデアの弁当を作ったらしいです。
大宮盆栽すしは、現在は販売されていないようです。
大宮には盆栽村というレジャースポットがあるそうですね。
ぷりぷり県の農業は・・・。

巨大なコウモリを背中にしょって、農業をするという、もはや何が何だかわからないことになっています。
こういう発想は、吉田戦車さんの不条理まんがのキモとも言えますね。
しかも「なぜコウモリを背負って農業をするか」という理由まできちんと設定してあるのです。
「悪魔みたいな農業、イヤ!」という叫びに対して。
つとむの先輩「富男先輩」の妻、フィリピン出身のクリスチーナさんは、敬虔なクリスチャン。
コウモリを背負う農業が、聖書に出てくる悪魔を想起させたのか、「こんな農業はイヤだ!」と、故郷フィリピンに帰ろうとします。
そこにコウモリを背負って飛んできた富男先輩とお義母さん。
「コウモリを背負うと、農作業が楽になるから、その分除草剤を使わずに手で除草が出来るから、冷害になっても強いコメが作れるのだ」とのこと。
今日たまたま、ニュースで、重い荷物を常時取り扱う運送業者の方のお仕事を手伝うロボットの開発が進んでいる、という特集をテレビでやっていましたが、それと同じコンセプトを、20年以上前に既に吉田戦車さんは見抜いていたわけですね。スゴイ。
まとめ。
さすがに不条理まんがだけあって、書いているうちに何が何だかわからなくなってきそうになりましたが、当時吉田戦車さんの「伝染るんです。」の崇拝者であった私は、夢中になってこの「ぷりぷり県」も読んでいました。
「県」というのは不思議なもので、特に日本人は高校野球が好きな人が多いですが、その理由は野球好きという面ももちろん強いと思いますが、それよりも、「県と県とが戦い、県が負けたり勝ったりする」という「県」そのものに特別な感情があるから、甲子園も盛り上がるのではないかと思います。
漫画「ぷりぷり県」は、その日本人の心に根付く「県民感情」を、うまく漫画でパロディ的に表現した、非常に秀逸な作品だと思います。
最強脱力不条理マンガ「伝染るんです。」の魅力的な世界 - Middle Edge(ミドルエッジ)