1986年、松田優作の初監督作品『ア・ホ―マンス』ARB石橋凌がヤクザ役で俳優デビュー!
松田優作の初監督作品である映画『ア・ホーマンス』。
脚本は「野獣死すべし」や「遊戯シリーズ」、「探偵物語」でコンビを組んだ丸山昇一との共同執筆となった。
公開は1986年10月10日。同時上映は、石原真理子が主演した実写版映画「めぞん一刻」だった。
一見、内容はヤクザの抗争ものであるが、当時人気を集めていた映画「ブレードランナー」「ターミネーター」といったハリウッドのSF映画からの影響が垣間見られた(主人公がアンドロイドなど)作品となっており、カメラワークなど松田の感性も反映された良作であった。

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実写版映画「めぞん一刻」
主演は松田優作で、ロックバンドARBのボーカリスト・石橋凌が、ヤクザの幹部役で出演している。ほとんど演技経験の無かった石橋だが、難しい役を好演。
同作の演技によって「キネマ旬報新人男優賞」、「熊本映画祭新人男優賞受賞」を受賞している。
また、同じくヤクザ役のポール牧は怪演ともされる狂気の演技をみせた。仁義を通す極道の世界において、自身の出世のみに固執し、親分の死をも利用し成り上がろうとする傲慢な男を演じた。さらにどこか不気味で、変態的な役回りであった事も怪演と呼ばれる一因となっている。

ARB「DAYS OF A.R.B. Vol.1(1978-1983)」
あらすじ
ア・ホーマンス - 作品情報・映画レビュー -KINENOTE(キネノート)

寝袋に包まっているのが、謎の男・風さん(松田優作)

大島組・山崎(石橋凌)

大島組・藤井(ポール牧)
山崎は謎の男を「風(ふう)さん」と呼び、徐々に信頼を置いていく。その後、旭会の組長を単独で仕留めた山崎は、裏切り者として藤井から命を狙われる。
一方の風も、無口で何を考えているか分からないが、自身を拾ってくれた山崎に対しては恩義を感じていた。風は大島組に単身現れ、拳銃で脅迫してくる藤井を逆に一蹴する。藤井の顎を掴み、山崎暗殺から手を引くよう凄む。周りの組員もその様子に圧倒され手出しが出来なかった。
しかし、逃走を続ける山崎だったが、ついに藤井の差し金であるヒットマンに発見され、射殺されてしまう。その場に居合わせた風さんは復讐へと向かった・・・。
原作は狩撫麻礼とたなか亜希夫による漫画作品
双葉社の「漫画アクション』で連載されていた漫画が原作となっている。
原作者は狩撫麻礼(かりぶ まれい)、作画をたなか亜希夫作画が務めた作品。
狩撫麻礼は、カリブ・マーレィ、ひじかた憂峰、土屋ガロン、椿屋の源、marginal、ダークマスターなどの別名でも活動しており、同作に続いて「迷走王 ボーダー」と「土岐正造トラブルノート ハード&ルーズ」がヒット作となった。
他にも「ルーズ戦記 オールドボーイ」と「リバースエッジ 大川端探偵社」がドラマ化されている。2018年1月7日に残念ながら亡くなっている。70歳だった。

ア・ホーマンス (アクションコミックス)
たなか亜希夫は、小池一夫の主宰した漫画・劇画製作者を養成する私塾「劇画村塾」出身。
狩撫麻礼とのコンビ作も多い。橋本以蔵原作の格闘漫画「軍鶏」は90年代後半に人気を集めた。
松田優作監督による石橋凌への「引き算」の演技指導と出演までの経緯
同作で、クールで頭が切れるヤクザ・山崎を演じた石橋凌。本格的な演技初挑戦とは思えない、見事なハマり役となった。その後、北野武の「キッズ・リターン」(1996年)では、ヤクザの組長を渋く演じるなど、俳優業も定着していった。
監督を務めた松田による演技指導は、全てが「引き算」を基本としていた。役の作り過ぎを防ぐ為に、余計なものをそぎ落とすという指導であった。役者としては素人の石橋には「演技をするな」と指導していたという。

【サントラ】ARB/AFTER '45 7inch VIHX-1696 1986年
石橋がミュージシャンとしての生き方に迷っていた20代半ば。偶然にスポーツクラブで松田優作と知り合う機会があった。以降、松田に自身の悩みを相談すると、松田側からの誘いで「ア・ホ―マンス」への出演が決まったという経緯がある。
同作では、8thアルバム『砂丘1945年』に収録されている主題歌「AFTER '45」を担当している。石橋凌の気持ちのこもった作詞が抒情的な儚い世界観を作り上げている。

しかし、演技の世界に招き入れてくれた松田が、ハリウッド進出への道半ば、映画「ブラック・レイン」を撮り終えた後に病死した事を受け、石橋は1990年にARBを解散。音楽活動を封印し、俳優業に専念した。
作品データ
監督:松田優作
プロデューサー:黒澤満、青木勝彦
脚本:丸山昇一、松田優作
出演者:松田優作、石橋凌、ポール牧、手塚理美、片桐竜次etc.
製作会社:キティ・フィルム
配給:東映
公開:1986年10月10日
上映時間:99分

「キネマ旬報1986/10」号
一般的なヤクザ映画ではなく、どこか異世界で「ターミネーター」感が強かった同作。実際に松田がターミネーターのようにしたかったと特殊メイクの原口智生に松田優作が語ったと言われている。
未見の方は是非。80年代に想像する近未来とヤクザものの面白さが両方楽しめる良作となっている。