
サイド7に侵攻する3機の量産型ザク。ここから『機動戦士ガンダム』の物語、いやガンダムというジャンルの全てがスタートした!
今回紹介するのは、前回のHGUC シャア専用ザクに続くレビューレポコラムの形でお送りする、量産型ザクです!
ザクⅡ HGUC 1/144 040 量産型 2003年9月 1000円

ボックスアートもやはり、第1話冒頭、サイド7に侵攻した3機のザクを描いている
というわけで、ようやく、というか、とうとう、というか、全ガンプラファン待望の「1/144で決定版の、アニメに登場したザクのハイグレード・リファインキット」が登場! しかも量産型で!
しかも、イマドキ後付け設定の「ザクⅡ F型」とか「ザクⅡ J型」とかにいちいち差別化せずに「ザク!」と鉈で割ったように断言した作風が、初代ガンプラファンには心地いい。
シャア専用ザクの前編でも語ったが、商品仕様としては、シャア専用ザクにはあった頭部アンテナブレードパーツが、量産型ではなくなった代わりに、脚部装着タイプの三連ミサイルポッドが追加されていて、ほどよく両者の「らしさ」を強調している。

ガンプラファンの誰もが待っていた、HGUC版量産型ザクの雄姿!
あくまでアニメ版デザインを尊重したディテールロジックで構造が築かれているため、バックパックにはバーニアすらなく、脚部にもスラスターディテールもないなど、「2000年代のザク」としては、温故知新といえば聞こえは良いが、逆に言えば野心的な作風で攻めてきており、「せっかく今の技術でザクをリファインするのだから、カトキテイストバリバリで、ハイディテールなザクが欲しいよ!」というニーズは、今回の『機動戦士ガンダム』(1979年)版ザクよりも、さらなる念には念を押して満を持し過ぎた、『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』(1990年)登場の、イマドキのザクファンにとってのシンボルザクでもある「ザクⅡF2型」が、他の『0083』登場モビルスーツよりも4年から8年遅れた2010年にキット化されたのだが、そちらがしっかりフォローしていた。
今回のザクといい、『0083』版ザクⅡF2型といい、バンダイはなにがなんでも、ザクとガンダムは、リファインできる限り出し直すが、安易な商品の新作はもう懲りたのか、近年はかなり慎重に出しどころを踏まえて商品展開をしている。

初代1/144 量産型ザクとの対比。初代、HGUC版とも、シャア専用ザクと同じ金型で作られているので、シャア専用ザクでの対比と大きな違いはない
もっとも「最初のザクの、1/144 ハイディテール版」は、ガンダムと同じく1999年から2000年にかけて、ファーストグレードシリーズ(FG)で、税抜き300円のシンプルタイプの仕様で、シャア専用ザクと量産型ザクが商品化されており、そういう意味ではこのHGUC版とはあらゆる意味でFG版とは対局ではあるが、ハイディテールのノーマルザクをお求めの方は、マテリアルと腕を蓄えて、FGの徹底制作に挑戦してくださいという姿勢は、ビジネスとしては決して悪い選択肢ではないと思われる。

第1話、ガンダムのコクピットに乗り込んでしまったアムロの前を、飛翔しつつ通過するザク!
ユーザーのスキルレベルによっては、FG版のバックパックを、HGUC版に移植するという手法もとれるわけで、そういう意味でもバンダイは、初期ガンプラで培った「ユーザー側のアイディア」を、最初からクエストのように商品に仕込む例は少なくない。
余談だが、平成仮面ライダー商品などで、バンダイから発売されたフィギュアが、番組中で乗るバイクでサイズが合うのが発売されていなかったのだが、バンプレストがプライズ商品として開発したバイクの賞品が見事にサイズがピッタリだったとか、そういう逸話には事欠かないのがバンダイなのだ。

その、アムロが乗り込んだガンダムを狙うザクのマシンガン。肩の引き出し関節機構のおかげで、正面に向けたマシンガンの両手持ちが可能に!
前回のシャア専用ザクでの解説で、HGUC版ザクのスペックはひととおり書き記したが、特筆すべき点としては、この時期逆に、ABS樹脂パーツを一切使わずに部品を構成しているというのは、やはりものがザクだけに、ユーザー側のカスタム、改造、全塗装などを踏まえての仕様だったのだろうかとも考えることも可能である。

ザクマシンガンは、身体に引き付けるように構えることも

前方へ突き出すように構えることもできる
HGUC版のザクは、アレンジリファインデザインをしたカトキハジメ氏が、極力最大公約数的に元デザインを“描き直す”職人に徹した結果、万人が認識する「テレビアニメ版『ガンダム』に登場していたザク」に、歴代1/144ではもっとも近くなっており、それはMSVシリーズピークの、1/144 ザクマインレイヤーで出した「ザクの回答」とはまた違うのではあるが(いや、正確に計測したりすれば、マインレイヤー版ザクの方がテレビアニメ版に近いのかもしれないが)、先に発売されたHGUC版ガンダムやガンキャノンなどと並べた時には、とても正攻法な「没個性の量産型ザク」を体現している。

肩関節の引き出しスウィング機構によって、このようにショルダーアタック的なファイティングポーズもとれるようになった。
ちなみに、バンダイはそこそここのHGUC ザクに自信を持っていたらしく(いや、自信をもって良い出来だとは思うけど)、シャア専用ザクと量産型ザクの発売の間の2002年9月には、なぜかいきなりMSVチックな「ガルマ専用ザク」を売り出していたけど、これが量産型ザクへのじらし商法だったのか、むしろ上手く売り上げが上がれば、同じように設定画が描かれていた、ドズル専用ザクとかも売り出す気でいたのか、今となってはそれを確認する術もなくなってしまった(これに関しては次回とりあげます!)。

本編再現画像より。ガンダムと戦いながら大気圏に落ちてしまったクラウンのザク。このポージングも、肩の引き出し関節があって出来る独特の体勢である
また、今回もシャア専用ザク同様、バンダイがガンプラのオプションパーツとして発売展開している、「HGBC 次元ビルドナックルズ(丸)」の、平手Lサイズを使用することで、ザクの手の表情付けに大きくふり幅を持たせることが出来た。

「HGBC 次元ビルドナックルズ(丸)」の平手を使うことで上手く再現できた、第1話冒頭での、ジオンのジーンの先走り暴走による、ザクの出撃シーンの再現
さてカラーリング。
キットはほぼ素組状態で、部分塗装だけで済ませる芸風はこれまでどおりだが、これまでに紹介してきたHGUCで試みてきた「グレーで成型されている関節部分を、ボディカラーと同じ色で塗装してみよう」を、ここでも敢行。
しかし、しかしである。
ここで素朴な疑問として「ザクのグリーンや、シャア専用ザクのピンクって、何色が正解なのだ?」が出てきてしまうのだ。

シャア専用ザク同様、ヒートホークは付いている。ヒートホークは独特のカラーリングなので、要塗装
HGUC 021 ガンダムの解説でも触れたが、当時の彩色セクトの問題か、フィルムや撮影の問題か、ザクやシャア専用ザクのグリーンやピンクは、エピソードごとどころか、シーンごと、カットごとに色味が違っていたりして、この「正解の無さ」加減が、100人いれば100とおりの「俺の思うザクの色」を生み出して、それはそれでガンプラ活性化に一役買っていたのも確かなわけだが。

もちろん、ザクバズーカも付属している
今のご時世では、ガンダムカラーなる塗料が発売されていて、ガンプラを塗装するのにも便利なのだが、このガンダムカラー、ガンプラ自体は数年スパンで再販されるのが常なのに、ガンダムカラーそのものは、新発売後一通り売ったら即絶版化してしまうのだ。

シャア専用ザクとの一番の違いは、脛装着用の三連ミサイルポッドが付属していること
しかし一方で、「ガンダム」「ザク」「シャア専用ザク」はそれぞれ、常に何かしらの新商品ガンプラが出回っているので、ガンダムカラーでもそれぞれの専用塗料は常に流通しているというありがたさはある。
ところが……ところがである。

本編ランバ・ラル戦で使用された、足のミサイルポッド
具体的に言及してしまうと、2002年に発売されたHGUC シャア専用ザクの成型色のピンク及び、それに合わせたガンダムカラーのシャア専用ザク用ピンクと、2010年に発売されたRGシリーズの、同じ1/144の、同じシャア専用ザクの成型色と、それに合わせたピンクでは、微妙に色味や発色が異なっているのだ。

ジャブロー攻略戦で、ドムと共に、大量にガウから降下するザクの群れ!
つまり、はい、2016年にHGUC シャア専用ザクを買いました。塗料が欲しいのでガンダムカラーでシャアピンクを買いました。という流れを経ても、いざそのシャアピンクで塗ろうとしても、それは2010年のRGシャア専用ザク用のピンクであって、HGUC シャア専用ザクのピンクとは異なるという、理不尽な現象が起きるのが、現状のガンプラとガンダムカラー界隈の問題点なのだ。

ザクと言えば雑魚(笑) 連邦におけるジムと同じように、そのやられっぷりで作品を彩った、ザクの被弾シーン
それは、今回、シャア専用ザクでも量産型ザクでも、双方同じ現象が起きた。
一応、筆者が求めるのは部分塗装であり(全体塗装をするのであれば、何も迷うことはなく、好き勝手な色を自分で作って全塗装すればいい)、しかもそれは「四肢の肘と膝の関節部分と、ビルドナックルズの手首部分」に絞り込んでいたので、ボディと四肢で色を変えてあるケースがほとんどのモビルスーツ部分塗装でも、四肢の色にだけ絞り込んで再現すればいい。
なので、一応現在売られているガンダムカラーの、シャア専用ザク用ピンクと量産型ザク用のライトグリーンをそれぞれ用意。
どちらも微妙に、HGUC版の成型色とは異なるので、長年の勘と経験値を頼りに、そこへ他の塗料を足していくことで、HGUC成型色に近い塗料へ変化させることにした。

劇場版三作目の『機動戦士ガンダムⅢ めぐりあい宇宙編』(1982年)で、量産型ゲルググなどとともに、ア・バオア・クーに大量配備されるザク
具体的に書くのであれば、量産型ザクのライトグリーンは、ガンダムカラーUG06 MSグリーンを6に対して、Mrカラーのホワイトを4で調合。シャア専用ザクのピンクは、ガンダムカラーUG10 MSシャアピンクを6に対して、オレンジ2とキャラクターレッド2の割合で配合して、キットの成型色に近付けさせた。
どちらも、そこそこ違和感のない色に仕上がっていると思う。
また、解像度を下げる目的と、アニメ版カラーリング準拠の法則で、シャア専用ザクの武器は成型色そのままだが、量産型ザクの武器は全てミディアムブルー、バックパックはそれぞれ、シャア専用ザクはキャラクターレッドで、量産型ザクはミディアムブルーで塗装しておいた。あ、ヒートホークは、ダイレクトにパープルとイエローでね。
ちなみにザクのバックパック、特に量産型のバックパックは、いつのころからか、ザクのリファインバリエーションが増えたころあたりからか、「ボディの濃緑よりも、さらにもう一段階濃いグリーン」か「濃いグレー」で塗ることが、ガンプラモデラーの定番になってしまっているが、大河さん的には「中途半端な、アニメ版『ガンダム』カラーリング至上主義者」なので、アニメ本編で描かれていたバックパックの色を確認。

ザクのカラー設定画の後ろ姿

本編『ガンダム大地に立つ』で確認できるザクのバックパック

本編『ククルス・ドアンの島』で確認できるザクのバックパック

劇場用映画『機動戦士ガンダムⅢ めぐりあい宇宙編』で確認できるザクのバックパック
ここもカットやシーン単位で色がコロコロ変わったりするので、上記したイマドキのグレーによるカラーリングでも悪くはないのだが、選出したいくつかのカットでは、どれも明確にミディアムブルーで塗装されているバックパックが多かったので、今回はそれに準ずることにした。

ミディアムブルーで塗装した、HGUC版量産型ザクのバックパック
こうして完成させてみると、確かに可動や解像度、ディティールの密度では、その後のRGやORIGIN版には劣るのかもしれないが、いやいや、なかなかどうして、アニメ版ザクの見立てとしては、HGUC版ザクは、今見ても一級のポテンシャルを保っている名作プラモデルであるといえよう。
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