
質より数だ! いけいけぼくらのジム軍団!
今回紹介するのは、『ガンダム』劇中での「ガンダムの廉価版」を、メタ的に再現したともいえる傑作キット、HGUC ジムの紹介です!
ジム 1/144 HGUC 020 2001年4月 700円

ボックスアート。初登場のジャブロー構内を見立てた背景をバックに、まるで強そうなカッコいいジムがポーズ決め!
ジム! 主人公メカの量産型=全編登場ロボットの中で最弱、を打ち立てた金字塔だよジム!
ジム! ネーミングだって、ガンダム(GUNDAM)の、最初と最後の一文字ずつでGM=ジム!
ジム! 一応連邦軍の正式量産型だからって、後付けのOVAや模型雑誌企画などで、山ほど派生型がでっち上げられるんだけど、そのたびにどんどん格好良さがインフレを起こしていって、挙句の果てにはジムクゥエルとかジムカスタムとかジムストライカーとかパワードジムとかジムスナイパーⅡとか、誰がどう見ても、後の世界を先に描いたはずの『機動戦士Zガンダム』(1985年)のジムⅡよりも、高性能にしか見えない逆転現象まで起こしたジム!
っていうか、もはや、ガンダムMK-Ⅱよりも、普通に強そうだぞ、ジムスナイパーⅡ!

実際のジム初登場時では、作画現場が混乱していたのか、ジムはいきなりガンダムのビームライフルを手にしてシャアのズゴックに向かっていった!
というわけで、『機動戦士ガンダム』に登場したジムです。
もうね、百歩譲ってジムコマンドは、デザインした出渕裕氏的には「ガンダム本編に登場したジムを、アニメ技術の進歩で解像度を上げて描いただけ」というモチベーションがあったからまだ許せるけど。
パワードジムとかジムクゥエルとか、どう頑張っても進化論的に、ジムとジムⅡの間に入らない時点で、確実に拒否反応を起こします大河さんです。

大河原アングルで立たせてみると、案外威風堂々としておりますジムの雄姿です
だってね?
みんな、ガンダムマニアの皆さん、知ってました?
ジムは、その後のOVA乱立時代に、連邦軍の主戦力としてカッコよさと強さがインフレを起こしますけどね。元々の『機動戦士ガンダム』では、劇場用映画『機動戦士ガンダムⅢ めぐりあい宇宙編』(1982年)でこそ、ジムがリック・ドム相手にサーベルで勝つシーンが2つありますけどね。テレビ版ではジムは、あれだけ大量に戦局に投入されておきながら、敵機を撃墜した描写が1カットもないんですよ!?(描かれてないシーンを含めて、戦争全体で1勝もしてないとは言っていない)

最終決戦で、リック・ドムを切り裂くジム!

同じく、リック・ドムに白兵戦で斬り勝つジム!
お前らがどんだけ歴史を上書き修正しようとも、ジムは弱いんだよ! むしろジムは、弱さが魅力なんだよ!
ショッカーの戦闘員が、全身にフルアーマー武装を着込んで、10人ライダーをぶち殺してまわる図とか、見たくない以前にあっちゃいけないだろう!?
9年連続優勝するクラウンライターライオンズとか、普通に嫌だろう!?
『3年B組金八先生』(1979年)と『夫婦道』(2009年)との杉田かおるの間に、「1990年頃は壇蜜でした」とか、それはもう入れちゃいけない時系列だろう!?

ジャブロー基地で、生産された量産型が並ぶ、当時のロボットアニメでは革新的な画であった
というわけで、ノーマルジムの1/144プラモデル化としては、たった一回の1981年4月以来、ちょうど20年の月日が流れまして発売になりましたHGUC版ジム。
一応、HGUCのコンセプトの中に「アニメデザインを極力尊重しつつ、可動領域確保のためのデザイン変更を行う」というの“も”あったらしく、それはHGUC第1号と2号の、ガンキャノンとギャンで明快にエンドユーザーにアピールされて、ズゴック、ガンタンクなどで、少なくとも初作『機動戦士ガンダム』のモビルスーツに関しては、原点回帰尊重で商品化がハイレベルで進んで商品展開が始まったHGUC。

ボール群と共に(いや、いちゃいけないロボットが何機かいるけど)大量の部隊でア・バオア・クーに攻め入るジムたち!
しかし、技術的熟成進歩をあえて待つためか。それともバンダイお得意の、脱ぎ風俗のようなじらし商法ゆえか。肝心のRX-78ガンダムが、いつまで経っても出てこない。
それはザクも一緒で、HGUC展開2年目を終えようとしても、ガンダムGP01とか、グフとかハイザックとかザクⅢとか、微妙に掠るモビルスーツは商品化されるのだけれども、肝心のガンダムとザクは、なかなか商品化されない。
むしろ、なんでか先にガンタンクまで出ちゃってる始末で、いい加減にしろよと誰もがツッコミたくなったタイミングで、ジムとガンダムの発売がアナウンスされた。

地球連邦のジム大量部隊と、ジオンのリック・ドムの大量部隊が、今正面から激突しあう!
そりゃ誰もが、ついに登場する、1/144HGUC決定版のガンダムの方に心を奪われるよね?
ここへ来て、真打登場に胸をときめかせるよね。
むしろ、露払いで直前に発売されるジムのことなんか、翌月発売のガンダムの設計や完成度を、事前に予測しておきたい層にしか求心力はないよね?
むしろむしろ、「ジムを待ってた」ガンプラファンは、一足先に量産型色替えで発売されたばかりの、シャア専用ズゴックを買っていて、“あのシーン”に見立ててジムとの絡みを再現したい人が殆どだよね?

完成したジムのポージング。撃つはビーム・スプレーガン!
いや、それでこそジムなり!
ジムは雑魚なのだ! 雑魚は雑魚らしい扱いこそが相応しいのだ!
ロボットアニメの主人公サイドの脇役のロボットの中でも、最も素敵な雑魚、それがジムなのだ!
一機辺りの雑魚指数は、『マジンガーZ』(1972年)のボスボロットやロボットJrなどもっと高い前例があったが、あれだけ大量生産されておいて、あれだけ集団で負け続けた「主人公ロボモドキ」は、後にも先にもジムぐらいのものだろう。

前掛けふんどしみたいなフロントスカートだが、可動する仕様なので、ここまで前足は踏み出せる!
そしてようやく発売された、1/144 HGUC ジムの、なんとも言えない究極のジムらしさよ!
カトキテイスト満載で、顔が小さくなって手足が細くなって、ビグ・ザムを一撃で破壊できそうな武器を装備しているジム・スナイパーⅡVer.Kaなんかじゃなくて、プロポーションはガンダムそのままのはずなのに、どこか弱々しく鈍重で、言い換えるなら「アニメの原画、動画マンが、あからさまに描きやすいように、ガンダムから線を減らしました」的な仕上がり具合、これぞジムよ、これが戦場のジムよ!(意味不明)

ジムの頭部のUP! ゴーグルはもちろんクリアパーツで再現されていて、内部のメカっぽいモールドも透けて見える気の利いたディテール!
そんなHGUC ジムの出来栄えだが、これがまた、15年前の初期HGUCだとは思えないほどに出来が良い。
この場合、出来の良さとは可動領域の広さや合わせ目の少なさだけを指すのではなく、ジムの場合は“組みやすさ”これに尽きると思う。

バックパックも、寂しくならない程度にシンプルに。シールドを背負うためのジョイント用穴もあるし、バーニアは別パーツでグレー成型
さすが“量産型”だからなのか、このジムは塗装も接着もせずに組むだけなら、15分もあれば誰にでも出来る。
もちろん、そうなると肩と腰のアーマー以外は全身合わせ目だらけになるのだが、ここで頑張って丁寧に合わせ目を消すもよし、とっとと次の別なキットを組むもよし、むしろ15分単位でさくさくジムを次々作って量産するもよし、どの選択も「ジムらしさ」に溢れた、これぞジムスピリッツ!

かなしいかな、ビームサーベルはクリアパーツではなく白成型。どうせならZガンダムのように、手首と一体成型の方が剣裁きの図が映えたかも?
それでも、このキットの指定どおりの配色にするのであれば、色分けはほぼ完璧にパーツが分割されている。
部分塗装で良いのなら、塗るべきは頭部バルカンの黄色ぐらいだし、腹部コックピットハッチの黒は、下手なマスキング塗装(筆者がその典型例)をするぐらいなら、付属のシールを貼っておく方が、よほど手間もかからないし仕上がりが綺麗。それでいいのだ、なぜならジムだから!

今回の作例ではミディアムブルーに塗った、ビーム・スプレーガン。いろんな意味で「ガンダムの量産型廉価版」だ!
肩と足首の関節が、ほぼ同時発売に近いガンダムよりショボイのと、同じくガンダムではクリアパーツで形成されていたビームサーベルが、ジムではなぜか柄と一体型でボディ色成型なのは、これはなんだ、「ジムはガンダムの廉価版」を、あえてメタネタでHGUCでも再現してみました的ななにかなのかもしれないが(まぁ実際は、プラモデルとして考えた場合ガンダムとジムは、アンテナと武装以外はほぼ同じコストで製造されることになるため、確実に爆発的な売り上げが期待できるガンダムと、そこそこの売り上げしか期待できないジムで、コストを差別化させなければいけなかったからなんだろうが)、それもまたジムよのう!

無意味にカッコよさそうなポーズをとらせてみせました! しかも煽りアングルで! ジム・カスタムごときには負けんぞぉ!
というわけで、そんな素敵雑魚プラモデルを、今回は説明書のまま組んで終了……なんだけど、一応ここでは“考えて”塗装でコンセプトを打ち出してみる。
まずは、せっかくゴーグルがクリアパーツなので、写真映えするように、裏側をシルバーで塗っておく。
塗装コンセプトのトータルコーディネートの解説は、HGUC次弾のガンダムの項に譲るが、頭部バルカンのイエローの他は、両手首を濃緑色、ビームスプレーガンをミディアムブルーで塗ると共に、グレー成型の肘、膝関節のパーツを、ジム本体の薄緑色で塗装する。
この、ジム本体の薄緑色。Mrカラーの任意の色では該当しないので、どうしてもジム専用のこの色を、持ってくるか作るかしかなくなるのだが。
イマドキは、ガンダムカラーなどという便利な塗料が売っていて、このHGUCジム専用のカラーセットなども発売されていたのだが。しかし、さすがに15年前のキットの専用ガンダムカラーは、今ではもう売っていないので、HGUCジムのボディカラー、ガンダムカラーでいうところのホワイト7を、自分で作って塗ることにする。
塗料皿に直接ホワイトを適量流し込み、そこへ爪楊枝で本当に適当に、デイトナグリーンとキャラクターブルーを数滴落とし込みよく混ぜる。ほどよくプラモデル成型色に近い案配になったらそれで完成。
この先、HGUCジムを作る理由も未来予想図も皆無なので(暴言)、これでちょちょいと両肘と両膝の関節パーツを塗って終了。
思えば旧1/144ジムを作ったのも、今から35年前のあの一回、後にも先にも一つきり以来で手を出したのかもしれない今回のHGUC。
雑魚よ。愛しき雑魚ジムよ。あぁ栄冠は君に輝かない。
市川大河公式サイト