『ガンプラり歩き旅』その21 ~「20年目の300円ガンダム」~

『ガンプラり歩き旅』その21 ~「20年目の300円ガンダム」~

ガンプラ! あの熱きガンダムブーム。あの時代を生きた男子であれば、誰もが胸高鳴り、玩具屋や文房具屋を探し求め走ったガンプラを、今改めて当時のキットから現代キットまで発売年代順に、メカ単位での紹介をする大好評連載の第21回は、ガンダム20周年を記念して発売された「最新デザインの『1/144 300円ガンダム』」!


宇宙を、翔べ! ガンダム!

私、市川大河が、書評サイトシミルボンで連載している、 『機動戦士ガンダムを読む!』での、再現画像で使用しているガンプラを、 古い物から最新の物まで片っ端から紹介していこうというテーマのこの記事。

前回までは、80年代初頭のガンプラブームの(基本その後リメイクされなかった)メカのキットを中心に紹介してきたが、 今回からは90年代以降の、いわゆる「HG」路線を中心に、1/144スケールを軸に、最初のアニメ『機動戦士ガンダム』(1979年)に登場したメカを、可能な限り全て紹介していこうと思っております!
今回は、アニメ版ガンダム放映20周年のタイミングで発売された「原点回帰の300円ガンダム」を、ガンプラ始祖の1/144 ガンダムとの徹底比較でご紹介します!


ガンダム FG 1/144 1999年7月 300円

ビーム・ライフルが、宇宙の戦場を切り裂く!

今回紹介するファーストグレード(First Grade 以下FG)ガンダムは、明確に言い切れる事実としては「『機動戦士ガンダム』(1979年)20周年を記念して(ガンプラ発売20周年とはズレているところが、まず一つ目のチェックポイント)、20年経って、技術も組み立て必要スキルも価格もインフレを起こしたガンプラという商品カテゴリを、改めて振り返り、温故知新の精神で、一度原点(First)に戻り『300円で買えて、簡単に組み立てられる1/144 ガンダム』を送りなおそう」というコンセプトがあったということは、これはまぁ異論はないであろう。

確かに、この時点で1/144 ガンダムの選択肢は、ガンプラ始祖の1980年版か、「究極」の謳い文句が多少上滑り感を起こした1990年の初代HG版しかなく、当時(あ、今もか)トレンド最先端であったカトキアレンジ版RX-78-2 ガンダムのガンプラは、1/100 マスターグレード(MG)版(1995年発売 2500円)か、1/60 パーフェクトグレード(PG)版(1998年発売 12000円)の選択肢しかなく、どちらも高額で組み立ても初心者には難しく、ハードルが高い代物だった。

完成した1/144 FGガンダム

ガンプラは、時代は1995年からMGシリーズをきっかけにして「旧作モビルスーツを、カトキハジメ氏によるリファインデザインでリメイクした商品」が主流になりつつあり、当時としては初代HGガンダムを越えるデザイン、クオリティ、ギミックだったガンダムやザクのMGが呼び水となって、かつて80年代にガンプラに夢中になった世代が、大人になってガンプラに戻ってくるという「出戻りモデラー」を全国で発生させていて、80年代後半では、まだまだ怖くて挑戦できなかった「過去の名作のメカを、デザインからリファインして新商品にする」が、確固たる市場を築きつつあったタイミング。

その上で、1/100 MGガンダムに今一歩満足しきれなかった需要を満たそうと「今度こそ究極(なんどめだなうしか)」のPGガンダムが、ガンプラ第一期ブーム頂点の象徴だった1/60で発売され、しかしそれも決定打とは言い切れず、しかもその価格が1万円を超えてしまった時点で、さすがにバンダイも冷静になり始め、「やはりガンプラのメインストリームは、1/144ではないだろうか」という原点へ発想を戻すことにした。

旧1/144と、FGガンダムのランナー状態の比較。上半分がFGで、下半分が旧1/144のランナー。FGは、ランナー枚数が旧キットの2枚から、2枚半(?)に増えている

MGやPGで(過去商品化との差別化というビジネスの鉄則もあってか)過度になり過ぎていたデザインアレンジも、少し肩の力を抜いて、アニメ登場時のデザインに今一度寄せる方向で、なおかつ、フルアクションフィギュアとして機能するための、元デザインの「二次元の嘘」を、ディテールや関節の解釈をリファインすることで折衷案とした、1/144 HGUCシリーズは、そうしてPGガンダムの翌年、1999年にスタートした。

ガンプラ最初の1/144 ガンダムの組み立て説明書に倣って、ランナー状態でキットを塗装。どこのパーツがランナーのどこに配置されているかが分かりやすい

そこでバンダイが、過去の反省を活かしたこと。
これまでのバンダイは、ガンプラでも怪獣ソフビでもフィギュアシリーズでも、当たり前だがまず主役を商品化して、売れ行き次第で脇役へシフトしていく、商売としては当然の選択肢でビジネスを進めてきたわけだが、そうなると(直前までのMGやPG同様)HGUCも本来であれば、RX78-2 ガンダムが一番手としてデビューしなければいけなかったはずであるが、HGUCに限っては、バンダイはあえてその慣例を見送った。

FGガンダムのサイドビュー。腕の曲がる角度は、これが限界

既にここまでの、1/144 HG グフカスタムの売れ行きなどから、「過去の傑作モビルスーツを、1/144でカトキハジメ氏リファインデザインでリメイクする」フォーマットであれば、どこから攻めても失敗はないと判断したのだ。
というか、このHGUC戦略の成功をきっかけに、その後2000年代からは「バンダイ商法」という悪習も定着してしまうのであるが、そこでのバンダイ商法とは、膨大な商品化候補があるシリーズ展開で、まず序盤の内に、わざと「え? こんなマイナーなキャラまで、このシリーズは商品化するのか?」と、ファンが驚くようなアイテムをピックアップしておくのだ。
そうすることにより、ファンが、今後展開するシリーズ全体像を予想する時、その範囲は膨大な物となり、期待感をいやがうえにも煽る効果をもたらす。
このバンダイ商法の一番悪しき部分は、所詮はビジネスであるが故、いざ商品展開を始めていった先で、シリーズの売り上げが期待ほどに伸びなかった時は、あっさり風呂敷を畳んで、違うシリーズを改めて立ち上げ直せばいいという、当たり前の企業論理に、どれだけファンが苦汁をなめさせられたかという積年の恨み(笑)

昭和ライダーがあと少しで揃わなかった「ソフビ魂」、ウルトラ6兄弟まで、あとゾフィだけだった「ウルトラ超合金」など、夢半ばで散っていった商品シリーズをあげ始めれば枚挙に暇がない。
だが、それもこれも、HGUCの成功があってこそ繰り返されるバンダイ商法であり、HGUCはなんとそのシリーズを、ガンキャノンとギャンからはじめたのである。

FGガンダムのリアビュー。

確かに、旧ガンプラの時代から、ウルトラ怪獣ソフビなどにも同じことが言えるが、技術や造形スキルの世界は日進月歩で、メジャーなキャラは早期に商品化される分、まだ技術やノウハウが蓄積されてない段階でリリースされるが、逆に落ち葉拾いのマイナーキャラ商品化の頃合いになると、すっかり商品化技術がインフレを起こしており、先行したメジャーキャラより商品としては優れた物になるケースが多い。
ガンプラで言えば、旧キットの時代から常に、ザクⅡはザクⅠより先に商品化されるが、プラモデルとしてのクオリティが高いのはいつも後発のザクⅠであり、ザクⅠをザクⅡにフィードバックさせてミキシングビルドするガンプラユーザーは、30年以上後を絶たない。

完成したFGガンダムと、旧1/144 ガンダムとの比較。スタイルの構成概念が全く異なる

なのでバンダイは、そういった諸事情を予め戦略に組み込み、あえてHGUCは主役級のガンダム達をシリーズ初動で商品化しなかった。
まだ「Ver.2商法」に手を出す前の話ではあるが、バンダイは初動でがっぽり稼ぐよりも、シリーズの展開を長期化させることと、充分なHGUCノウハウが蓄積されてから、満を持して主役のガンダム達の開発に着手する視野で商品展開を練り込んだのだ(結果、ガンダムの発売はテレビ版『機動戦士ガンダム』(1979年)DVD-BOX発売に併せるタイミングの2001年、Zガンダムは2003年、ガンダムZZは2010年、νガンダムは2008年となった)。

新旧ガンダムの脚の可動範囲の差。自立できる前提でのポージングだと、この程度しか違わない

しかし、そうなると、1/144で、最新の技術とマテリアルを投入したガンキャノンやギャン、ガンタンク、グフなどが次々揃うものの、出戻りモデラーにとって、それらと並べるべき主役ガンダムが、旧1/144と、旧HGの2択しかないというのも、商売上良手とはいえない。
かといって、RX-78-2 ガンダムは究極のドル箱なので、迂闊に商品化を急いで、結果的にシリーズの中で、のちのち相対的にクオリティが低くなってしまっては、旧HGの二の舞を踏んでしまう。

FGにはスリッパ部分の開脚機能がないので、あえて寝かせた状態で開脚範囲を比較してみた。上がFG、下が旧1/144キット

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