平均視聴率28.4%、最高視聴率31.5%だった『あぐり』
1997年上半期(1997年4月7日~10月4日)に放送された、NHK朝の連続テレビ小説『あぐり』。吉行あぐりのエッセイ『梅桃(ゆすらうめ)が実るとき』を原作として、田中美里演じる「望月あぐり」の半生が描かれた本作は、平均視聴率28.4%で、最高視聴率31.5%。社会現象と言っても過言ではない人気を博しました。

NHK連続テレビ小説『あぐり』
set36 連続テレビ小説 あぐり 総集編 全4巻 田中... - ヤフオク!
ヒロインのモデルは、日本最高齢の美容師・吉行あぐり
主人公「あぐり」のモデルとなったのは、2015年1月5日に肺炎のため享年107歳で死去した美容師の吉行あぐり。作家の吉行エイスケの妻、小説家・吉行淳之介、女優・吉行和子の母としても知られ、2005年に東京・市ヶ谷駅前の吉行あぐり美容室をたたむまで、長らく「日本最高齢の美容師」としても活躍していました。

吉行あぐりさん
「あぐり美容室」とともに 元気の秘訣は、一生懸命と好奇心 - 電子書店パピレス
当時新人だった田中美里が、主人公・あぐりを演じる
そんな主人公のあぐりを演じたのは、当時芸能界デビューしたばかりだった20歳の田中美里。劇中におけるあぐりのライフイベントに合わせて、女学生⇒人妻⇒母親と、目まぐるしく立ち位置が変わる中、懸命にヒロインを演じようと努めていました。

ヒロイン・あぐりを演じた田中美里
Amazon.co.jp: TVサントラ, 岩代太郎, 矢部達哉 : NHK連続テレビ小説あぐりオリジナル・サウンドトラック - ミュージック
このドラマの大ヒットによって、田中は一躍、人気女優の仲間入りを果たします。翌1998年には、『WITH LOVE』(フジテレビ)、『お熱いのがお好き?』(日本テレビ)と立て続けにヒロイン役に起用されるなど、民放でも地位を確立。2003年には、韓流ドラマ『冬のソナタ』(NHK)におけるチェ・ジウの吹き替えで、声優としても高い評価を受けました。

『WITH LOVE』(1998年・フジテレビ)
Amazon.co.jp: WITH LOVE(1) [VHS]: 竹野内豊, 田中美里, 及川光博, 藤原紀香, 伴一彦: ビデオ
淳之介、和子、理恵…あぐりの子供を演じた俳優たち
全員が芸能・芸術の分野でひとかどの成功を収めている、あぐりの子供たち。芥川賞作家の長男・望月淳之介(吉行淳之介)を演じたのは、後に『水戸黄門』の格さん役にも抜擢された俳優の山田純大。また、淳之介の幼少期は、当時ジャニーズJrだった生田斗真が演じました。

生田斗真
ひっさしぶりに『あぐり』観たくなって観てたら子役時代の生田斗真が出てきたΣ(д*)昔からイケメン君だったのね〜〜#NHK連続テレビ小説#あぐり#田中美里#野村萬斎#エイスケさん#AGRI#生田斗真# - 111akingyo111

山田純大
山田純大オフィシャルブログ Powered by Ameba

吉行淳之介
吉行淳之介 - Wikipedia
長女で女優の望月和子役には、幼少期から成人期にかけて、実に4人の子役と女優が順を追って配されていきました(新穂えりか → 楯真由子 → 浜丘麻矢 → 馬渕英里何)。
同役のモデルとなった吉行和子も、あぐりが運営する美容院の常連客(作家)役として出演。あぐりが和子を妊娠した際、「次は女の子だと思うわ」という、自身の誕生を予言するサービスシーンも挿入されています。

馬渕英里何
馬渕英里何(マブチエリカ) | ホリプロオフィシャルサイト

吉行和子
テアトル・ド・ポッシュ 公式ウェブサイト
次女で詩人・小説家の望月理恵役は、碇由貴子⇒前田未来⇒藤原まゆか、という3人の女優が担当。なお、モデルとなった吉行理恵は、2006年5月に甲状腺がんのため、66歳で亡くなっています。

吉行理恵
Fear by Yoshiyuki Rie (怖れ / 吉行理恵) – Entry No. 1
里見浩太朗や松原智恵子、草笛光子らが脇を固める

里見浩太朗
サマーパーティ2013 里見浩太朗スペシャルディナーショー-イベントプラン
あぐりの夫・望月エイスケ役の野村萬斎が大人気に!
そんな出演俳優の中でも、絶大な人気を誇ったのが、あぐり最初の夫で作家の望月エイスケを演じた野村萬斎です。
モデルとなったのは、新興芸術派の小説家・吉行エイスケ。この人、「ダダイスム」という1910年代半ばに起こった秩序の破壊・攻撃を良しとする芸術的思想を持ち、それを体現するタイプの作家であったため、かなり破天荒な人物だったといいます。
特にひどかったのが女性関係。浮気などは当たり前で、時には、あぐりとの間に出来た子供を連れて不倫相手と旅行に行ったりもしていたとのこと。晩年は作家業を辞めて株式に手を出した挙句に失敗し、あぐりに生活費を頼っていたというから、ろくでもない男だったと考えて間違いありません。

吉行エイスケ
吉行エイスケ―作品と世界 | 吉行 和子 |本 | 通販 | Amazon
劇中で急死した際は、助命嘆願が寄せられた
望月エイスケも、本物さながらのクズっぷりを、ドラマの中で度々披露してみせます。しかしながら、萬斎の演技が軽妙洒脱だったこと、「ダメ夫だけど、本当は妻のことを一番に想っている」という人物設定だったこともあり、何故か憎めない、不思議な魅力を帯びたキャラへと確変。
最終的には、史実に則して急死する展開となるのですが、放送終了直後「生きていたという設定にしてくれ」などの助命嘆願がNHKに寄せられるという、『朝が来た』の五代友厚(ディーン・フジオカ)と同様の現象を巻き起こすほどの、人気を博すようになったのでした。

望月エイスケ(野村萬斎)
Junno chan6 2 - YouTube
以上のように、さまざまな登場人物が織り成す、激動の昭和史を舞台にした人間ドラマが魅力だった『あぐり』。野村萬斎や田中美里がブレイクしたきっかけの作品として、今後も語り継がれていくことでしょう。
(こじへい)