
今、ソロモンから出撃するドズル中将の機動ビグ・ザム!
今回は、ガンプラのターニングポイントになった、モビル・アーマーの登場です。
ビグロ 1/550 1981年9月 300円

ビグロ 1/550 1981年9月 300円
1981年の夏休み映画で『機動戦士ガンダムⅡ 哀・戦士編』(1981年)が公開され終わった直後の9月、ガンプラは、主要モビルスーツの殆どの1/144キット化を終えて、残る選択は、モビルアーマーと戦艦、サポートメカと人物キャラの模型化だけになってしまった。
実際は、そこに時代のあだ花、1/250 情景模型シリーズが挟まったわけだが、この9月の、1/144でのボールから、1/550ジオンのモビルアーマー2種を挟んでの、1/144 Gアーマーという新商品の流れは、初期ガンプラが初めて迎えた試練時期であったとも言える。

独特のシルエットを忠実にキット化した傑作ガンプラ!
安定した、人型ロボットの安価な可動プラモデルというカテゴリから脱さなければ新規商品開拓が続かないと判明したビジネスは、やがてそこに「実際には映像には出てこなかったが」という、魔法の呪文を唱えることで、モビルスーツバリエーション(MSV)という解決策を生み出すのだが、しかしこの頃のバンダイはまだまだ『機動戦士ガンダム』(1979年)という作品に対しては真摯で、放映中は視聴率とスポンサー対策から、苦肉の策で生み出したモビルアーマーという「ロボットアニメ伝統の、一回限りのヤラレメカ」を、丁寧に1/550統一スケールでラインナップしたことは、直接的にはガンプラのラインナップとしては道を切り開かなかったが、後の時代に『機動戦士Zガンダム』(1985年)1/300 サイコガンダム、『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(1988年)1/550 αジール等の模型化の可能性を切り開いた。

アームの可動は、プラ製ながらイマドキのHGUC並みにフレキシブルに動く。ちなみに、爪の開閉は選択式
最初の『機動戦士ガンダム』に登場したモビルアーマーは、人型をしていない代わりに、人体の一部だけを奇形的肥大化させた意匠が特徴であり、ザクレロ(顔)ビグ・ザム(足)と対比するように、グラブロとこのビグロは、大きなボディに対して、「腕」だけを肥大化させたデザインが印象的な機体である。

ボディのパーツ分割は秀逸。モノアイスリットの段差を使って、パーツの合わせ目が目だない工夫も
グラブロとビグロは相似形ともいえて、水中用のグラブロをそのまま宇宙用に開発しなおしたのがビグロだという解釈は安易だが、そのプロセスにおいて、マッシブなストラクチュアをしていたグラブロの腕を、まるで骨格標本の腕のようにアレンジしなおしてしまう辺り、モビルアーマーならではのフリーキーさが醸し出されている。
『機動戦士Zガンダム』に登場した可変モビルスーツ、バウンド・ドッグの変形モビルアーマー形態は、グラブロかビグロがモデルだろうと思われる。

背面。シンプルな構成ながら、アニメ設定を忠実に再現している
だから、というわけではないだろうが、ビグロのアームは肩の付け根で回転、2か所の肘で可動が可能になっており、モビルアーマーのキットの中では、ビグ・ザムと並んでポージングの幅が広い完成度に仕上がっている。
また、クチバシ(?)に当たるメガ粒子砲発射口は、開いた状態と閉じた状態の選択式であるが、今回は『機動戦士ガンダムⅢ めぐりあい宇宙編』(1982年)での、編隊飛行シーンを目指したので、閉じた状態で完成させている。

蟹のような、腕だけに特化したデザインは、グラブロにも共通している
塗装は、機体の緑はキットの成型色をそのままに、アームをニュートラルグレー、爪をライトグレーFS36495、モノアイは白で(同じ“モノアイがなぜか白”でも、量産型ズゴックに関しては、歴代キットはずっと指定がピンクなんだけど、この1/550 ビグロだけは、ちゃんと塗装指定が白)、後部ロケットノズル内やボディのあちこちの穴をミディアムブルーで、それぞれを塗装して墨入れをした。
ビグ・ザム 1/550 1981年9月 400円

ビグ・ザム 1/550 1981年9月 400円
「兄貴! 戦いは数だよ!」
いや! ドズル中将! 仰ることはまことにもって当然ですが、その「戦局を左右するのは数だ」の、ジオン軍総戦力の主力量産型モビルスーツのリック・ドム30機のうち、12機をたった3分でガンダム1機に壊滅させられたコンスコン少将は、確かあなたの直属の部下でしたよね!?
そんな矛盾を叫ぶから、ほらみなさい。結局最前線でドズル中将に与えられたのは、数でも質でもなく「でかさ」でありましたよ、という出オチの巨大モビルアーマー、ビグ・ザムでしたというのが今回のお題。

シルエットは、少しスリッパが小さいが、概ねアニメどおり
ビグ・ザムは、ビグロと共に、モビルアーマーのプラモデル化第1号(ジオングが先だけど……アレは一応、モビルスーツ扱いでいいんだよね?)。
1981年の9月といえば、劇場用映画『機動戦士ガンダムⅡ 哀・戦士編』(1981年)公開直後だけに、次の三作目での宇宙戦闘編を視野に入れた商品開発だったのかとも考えられる(ビグロは劇場版では、その他大勢兵器扱いだったけれども)。

複雑な形状の巨大な頭部もしっかり造形。パーツ同士の合わせは少し厳しい部分がある
もっとも、この時点で、『機動戦士ガンダム』(1979年)登場の、基本的なモビルスーツの1/144プラモデルは殆ど出揃っていたので、ようやく「『宇宙戦艦ヤマト』で売れた戦艦」でもなく「『機動戦士ガンダム』のメインビジュアルであるモビルスーツ(人型ロボット)」でもない、モビルアーマーの商品化に手を付けたかという印象。
もうバンダイ自身、出せばなんでも売れるガンプラ社会現象の中、じゃあネタ切れしたモビルスーツの次は何を出せばいいのかすら分からなくなってて、今でこそ当たり前になった「アニメキャラクターのフィギュア」でもある、キャラクターの固定ポーズプラモデルフィギュア「キャラコレシリーズ」を、同時期に展開し始めていた。

脚の可動軸は良好……。だが金型劣化で、保持性が殆どゼロ……
ガンプラの流れ的には、この時期は、既存の金型を使って、成型色だけ変えて、量産型をシャア専用にしたり、シャア専用しか出てなかった機体を量産型にしなおしたりの水増し商法や、今ではもう、誰も覚えていないだろう、1/250「ガンダム情景模型シリーズ」という、中途半端なミニプラモのジオラマセットなどを売り出していた頃で、モビルアーマー発売は、それらと同程度には「売れるかどうかわからない」要素だったのかと、今にして思えば理解できる。

廃墟と化したソロモンの闇に、光る単眼と、巨大な砲口!
もっとも、むしろバンダイの模型設計基礎技術は、その頃からハイレベルではあったので、可動や人型プロポーションに縛られない、艦船やモビルアーマーの模型化のクオリティは、この時点で既に半端なくレベルが高く、90年代以降の一部の完成品フィギュアやプライズアイテム等を除けば、1stガンダムで登場したモビルアーマーは、正規ガンダムプラモデルシリーズでは、まだ一度も、リメイクもリファインもされた機体はない。ある意味では幸せな現象ではある。

ハッハッハッ! 舐めるなよ! このビグザムは長距離ビームなどどうということはない!
実際、1/550モビルアーマーで、改修しようと思いつくのは、ビグロやグラブロやザクレロの関節可動の増設の他は、プロポーションやディティールでケチを付けられるのは、せいぜい、このビグ・ザムの足の爪(対空防御兵器が、なぜか足の爪先についている)を、もう少し大きくした方がいいのではないだろうか?ぐらいのものだし、今思えばその印象も、劇中で足の爪が印象的な使われ方をしていたというのと、アニメでは巨大さを演出するために、見上げるカットではパースが付けられていたので、足が実際よりも大きく見えただけという可能性も高く、実際、設定画と比較するとあまり問題はないように見える。
欲を言えばこのビグ・ザムも、足の可動はポリキャップかボールジョイントの方が良かったかなぁとは思いつつも、劇中でそこまでアクティブなアクションをおこなうメカでもないので(ビグ・ザムがスピニングバードキックとかやったら、嫌すぎる(笑))、今回はおとなしくキットのまま製作。
ブラウ・ブロほどじゃないけれど、パーツ同士の接着面の接合がタイトで困った(汗)
脚のパーツの組み合わせ方が独特で、グレーの膝アーマーだけ脛から独立しているので、塗装派には嬉しいパーツ分割……と、誉めようとも思ったけれども、ボディの上下合わせを、脚完成後に挟みこみで接着しなければいけないって段階で、塗装派を殺しにきてるんだよなぁ……これ。
まぁ、大河さんは合わせ目消しもブラシ塗装もしないんで、いいっちゃぁいいんですけれども。

ある意味「元祖オールレンジ攻撃」! 周囲360度に向かって放たれる驚異のメガ粒子砲!
組みあがったら、お次は塗装。
基本的にはいつものように、メインカラー2色はキットの成型色をそのまま生かす(というか、別な言いをするなら「手を抜く」)。
ボディをぐるりと回るベルト部分と、股間の3連ち〇こバーニアは、Mrカラー16 濃緑色で塗装。膝はニュートラルグレーで、対空防御(笑)の爪はパープルで、それぞれ部分塗装した。
後は、ビグ・ザムの場合、モノアイを光らせる塗装にするかしないかが悩みどころなのだが、まぁ無難な選択としては、プラモデルそのものにはモノアイなんてむしろ描かないでおいて、画像を作るときにフォトショで描きこむ方が、便利だし楽だしいいんだけど、そこは気分だよねという謎のエクスキューズで、中央にピンクで描く。
後はボディのあちこちの黒を、艶消し黒で細かく描きこんでいき、最後にモノアイだけマスキングしてから艶消しスプレーで仕上げ。
「やらせはせん! やらせはせん、やらせはせんぞぉ!」
まぁ、ジムやサラミスの群れ相手には無敵のままだったとは思うけど、しょせんは対ビームバリアでしかなかった防御なんで、スレッガーさんが特攻死をかけて、ガンダムが白兵戦を挑むまでもなく、意外とボールやパブリク突撃艇の実弾一斉射撃攻撃で撃沈していた可能性は大きい(的としても大きいし)っていうのは、ドズル兄さんの名誉のために内緒だ!
市川大河公式サイト