天才は止まらず 昭和将棋の軌跡と加藤一二三

天才は止まらず 昭和将棋の軌跡と加藤一二三

個性的な言葉と動きで注目されている加藤一二三九段。彼の本業は将棋指し――棋士である。 将棋界においてだれと戦い、なにを成したのか。 昭和という時代、将棋界には何が起こっていたのか、ご存知だろうか……。


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 時代は貪欲に才能を求めている。

 1972年に奪取して以来、中原の名人を奪うべく大内延介、米長邦雄、森雞二、桐山清澄らが挑戦していくが、中原はすべて防衛に成功する。
 中原はただの名人ではなく大名人であろうという評価がすでに定着していた。

 そんななか、1982年に珍しい男が名人戦の舞台に現れる。
 すでに40歳を超えすっかりベテランとなっていた加藤一二三であった。

時代を変える男 加藤一二三十段、そして

 加藤は大山が去り、中原時代が到来していくのを指をくわえて傍観していたわけではない。

 1968年には大山康晴を破り初のタイトルとなる十段を獲得。
 73年には昇格規定によって八段から九段に昇っている。
 76年には大内延介より棋王を奪取。翌77年にこれを防衛。78年には王将位を獲得。
 中原名人への挑戦者として名乗りをあげた時も十段のタイトルを防衛していた。

 中原誠名人対加藤一二三十段。
 すでに何度かタイトルのやりとりをしている組み合わせであるが、中原は時代の主である。

 ところが加藤一二三というのは波のある男で、デビューから名人挑戦まで一切止まらなかったあの頃の勢いが失われた気配は無い。
 では加藤なのか?
 いややはり中原なのではないか?

 勝者予想は荒れに荒れた。


 実際の名人戦はそれ以上の大荒れを見せることになる。

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 1局目、双方の王将が敵陣に入り込み、勝負がつかない形になってしまったので持将棋(引き分け)が発生した。

 続く2局目は中原が勝ち先制するも3局目に加藤が取り戻す。
 実力伯仲とはこのことで、4局目に中原がリードすれば5局目は加藤が再度タイに持ち込んだ。

 6局目。同一局面が複数回発生したことによる千日手指し直しが発生。
 その後の7局目は加藤が3勝目で名人位そのものに王手をかける。

 しかし8局目は中原勝ち。
 追い込まれ簡単に折れるようでは大名人はつとまらない。
 勝ったほうが名人となる大一番中の大一番。
 第9局目でまたもや千日手が発生する。

 通常7番勝負である名人戦はこの年、《名人戦十番勝負》という尋常ならざる事態が発生していた。


 季節は移り、すでに夏に入っていた。
 勝ちを決定づける手を発見した男は、思わず大きく声をだしたという。

 数手の後、頭を下げたのは中原誠であった。


 加藤一二三名人誕生の瞬間であった。

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加藤一二三名人、そして。

加藤名人に限った話ではないが、その人物が、勝敗が後にどのような結果をうみだすのかすべてを知ることはできない。
 だが振り返ってみれば加藤名人誕生後、昭和将棋の男たちそして将棋界には小さくない変化が発生する。


 1983年。加藤名人は谷川浩二の挑戦を受け、敗退してしまう。
 谷川浩二は加藤以来2人目の中学生棋士であり、この時21歳。
 中学生でデビューし、20歳で名人に挑戦し、大山に止められて以来20年かけて取った名人位は、昔の自身に似た男に奪取されることになった。

 そして今度は谷川が時代を築いていく。
 80年代後半には昭和55年組と呼ばれる若手が登場。高橋道雄、島朗、南芳一、塚田泰明といった面々であり、新タイトル「王座」が誕生するなど華やかさが増した。

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1989年。大山に変わって二上達也が将棋連盟会長になった。翌90年に棋士としては引退する。
 1992年。大山康晴が現役A級のまま死去する。90年にも66歳で南芳一棋王に挑戦した、最後まで勝負強い男だった。
 ちょうどこの頃から羽生世代が活躍し始める。
 羽生善治もまた天才のなかの天才と呼ばれる男で、大山や中原がつくりあげた記録を破り、更新していった。
 タイトル7つを羽生善治が独占したのは1995年のことである。
 03年。二上に続いて中原が将棋連盟会長となる。現役でありながらの会長職であったが、中原は08年対局中に倒れてしまう。脳内出血であった。一命はとりとめ、翌09年引退。
 05年。中原につづき会長職に就いたのは米長邦雄だった。
 米長は1943年生まれ。加藤と同世代であった。棋士と将棋ソフトとの対局を企画するなど多才な人物だったが、2012年に亡くなっている。69歳だった。
 2016年。二上達也が84歳で亡くなる。
 また新名人として佐藤天彦が登場。1988年生まれの若手である。羽生善治と森内俊之以外の名人が登場するのは、2001年の丸山忠久以来の出来事であった。

羽生善治

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二上達也は羽生善治の師匠でもある。

棋を楽しみて老いるを知らず

 同じく16年10月。史上5人目の中学生棋士として藤井聡太四段が登場する。
 デビュー戦の相手は60以上年上の加藤一二三九段であった。
 加藤は彼に64年前の自分の姿を重ねただろうか?

 2017年4月現在、加藤一二三九段は現役として戦い続けている。
 規定により引退が決定しているが、引退したとしても加藤一二三九段が自分を失うことは無いだろう。
 最後に彼自身の言葉を引用しておく。

加藤一二三九段

加藤一二三|棋士データベース|日本将棋連盟

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