世界名作劇場の主題歌の魅力

世界名作劇場の主題歌の魅力

『赤毛のアン』『あらいぐまラスカル』の主題歌の歌詞から考えてみた作品の魅力を引き出す主題歌の魅力を考えてみました。


歌を聴くだけで広がるイメージ

キャスト
【声】:山田栄子、槐柳二、北原文枝、高島雅羅、井上和彦 ほか
制作年
1979年初放送
話数
全50話

[世界名作劇場]赤毛のアン

[世界名作劇場]赤毛のアン HDリマスター版【一挙】 || ファミリー劇場

『世界名作劇場』という呼び名で親しまれ、スポンサーやアニメ制作会社が変わっても、日曜日の夜7時半にアニメで世界の児童文学に触れた時間枠では、数々の名作アニメが生まれてきました。

幼い頃に見て、まだ家庭用録画機が一般的に普及されていなかった時代、再放送がなければ、一回しか見ることがなかった時代は、あまりにも幼い時に見た作品の内容は覚えてなくても、カセットテープで買ったアニメ主題歌の中にあった主題歌を何度も聞いて覚えていた人も多いのではないかなって思います。

『世界名作劇場』の枠は1969年虫プロ制作の手塚治虫先生原作の『どろろ』のアニメから始まるカルピス一社提供の『カルピスまんが劇場』と呼ばれるアニメ枠が元になっています。
同じ枠のアニメでも、『どろろ』は『世界名作劇場』には数えません。
では、どの作品から数えるかというと、人や時代によって変化しているようです。

『どろろ』の後番組で始まった1969年10月からの放送の『ムーミン』(企画ズイヨー映像、制作東京ムービー26話まで、27話から虫プロ)から名作劇場と数えたりする人もいるようですが、一番多いのは1974年の『アルプスの少女ハイジ』(ズイヨー映像制作)を『世界名作劇場』の1作目と数える人が多いようです。

でも、1975年の『フランダースの犬』以降にこの枠を最後まで制作した日本アニメーションの公式では、地上波で放送された作品は1975年以降の『フランダースの犬』から1996年の『家なき子レミ』までの23作品と2007年にBSフジで放送された『レ・ミゼラブル少女コゼット』、2008年『ポルフィの長い旅』2009年の『こんにちはアン』の3作品、計26作品を『世界名作劇場』としています。

ちなみに、正式に『世界名作劇場』という名前が使われたのは、1979年の『赤毛のアン』からになります。
1986年の『愛少女ポリアンナ物語』からは、スポンサーのハウス食品の名前が『世界名作劇場』の前につき、1994年の唯一のオリジナル作品『七つの海のティコ』の9話まで、『ハウス食品世界名作劇場』という名称が続いた後、『世界名作劇場』に名称が戻りました。

アンの持つ想像力への誘い

私の記憶で一番古い本放送で見た記憶のある作品は1978年の3歳~4歳の時に見た『ペリーヌ物語』ですが、話の内容、主題歌、終わりの歌をはっきりと映像で覚えているのが1979年の『赤毛のアン』です。

『赤毛のアン』は小学校に上がって子ども向けに翻訳された児童書で読みましたが、この時にアニメ『赤毛のアン』がかなり原作に忠実だったと感じました。空想好きで、何気ない風景をメルヘンの世界にしてしまうアンの持つ想像力、それは既に主題歌の歌詞から漂っていました。

問いかける言葉から始まる出だし、馬車に立ってのって道を走っていくアンの姿。その後に続く

とつながり映像のアンと馬車が駆けていく森の木々のトンネルの風景、空へと跳んでいくアンと馬車、移り行く四季、雪景色と歌詞と映像の相乗効果で作品への期待が高まります。
『赤毛のアン』の主題歌のタイトルは『きこえるかしら』作詞者は岸田衿子さんです。題名と歌詞を読む、聞くとアンが空想、想像した世界、その世界から生み出されてくる音が、あなたの耳に届いていますか?と問いかけている感じがします。

少し横道にそれて私事で恐縮ですが、私の家庭教師の先生は、『赤毛のアン』の世界を理解出来ないと言っていました。
多分、アンのもつ空想壁、つまらない日常を楽しくする想像力についていけなかったのかと思います。
つまり、主題歌を作詞された岸田衿子先生は、そんなアンのなんでもない風景、日常を楽しく考える空想、想像する力を主題歌に思いを寄せて、問いかける形で『きこえるかしら』を作詞されたのではないか?と思うのです。

これは、全く私個人の想像に過ぎないのですけれども。また、『赤毛のアン』の終わりの歌『さめない夢』もアンの世界を大事にされた作詞だと思います。

歌に物語があり、それが難しくない言葉で作品のイメージが広がっていく『赤毛のアン』の歌詞。それは、岸田衿子さんが『赤毛のアン』の世界を熟知されていて、また言葉を多く知っていたからだと思います。

岸田衿子さんについて

岸田 衿子(きしだ えりこ、1929年1月5日 - 2011年4月7日)は、日本の詩人・童話作家。『櫂』同人。

岸田衿子(1953年)

岸田衿子 - Wikipedia

岸田衿子さんは、詩人であり、童話作家、絵本作家でもあり、翻訳家でもありました。
父親は劇作家岸田國士(きしだ くにお)先生、従弟に俳優の岸田森さん(きしだ しん)がいます。
岸田森さんは、私と同じ世代の方には『太陽戦隊サンバルカン』(1981年)の嵐山長官役を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
または、『怪奇大作戦』(1968年)の牧さん、『帰ってきたウルトラマン』(1971年)坂田さんシルバー仮面』(1972年)の津山博士、『傷だらけの天使』(1974年)の辰巳を思い浮かべる人も多いと思います。
岸田衿子さんの1歳年下の妹は女優の岸田今日子さん。
岸田今日子もさんもた『傷だらけの天使』に綾部役で出演されていましたが、1969年と1972年の『ムーミン』で主役のムーミンを演じたことでも有名です。

父親、妹、従弟と有名なすごい人達が並びますが、岸田衿子先生自身も素晴らしい功績を残されています。
幼児、児童向けの童話、絵本を数多く発表し、中でも1966年に発表された絵本『かばくん』が有名です。
海外の児童文学の翻訳も数多く手がけています。
その翻訳された海外の児童文学の中に『赤毛のアン』がありました。

出版社: 福音館書店 (1966/12/25)
発売日: 1966/12/25
岸田 衿子  (著), 中谷 千代子 (イラスト)

かばくん (こどものとも絵本)

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1979年のアニメ『赤毛のアン』が参考にした翻訳本は神山妙子先生の訳の本ですが、岸田衿子先生も1969年4月に学習研究社(学研)から『少年少女世界名作全集9』で『赤毛のアン』の翻訳本を出されています。
つまり、少なくともアニメ『赤毛のアン』の作詞をされる10年前には、『赤毛のアン』の世界を充分熟知されていたわけです。
だからこそ、アンの飛躍すする豊かな想像力の世界に入り込める入り口になるオープニング主題歌の歌の出だしを問いかけの形から始めたのだと思うのです。

赤毛のアン―フォトロマン | モンゴメリー, 西川 治, 岸田 衿子 |本 | 通販 | Amazon

赤毛のアン―フォトロマン 単行本 – 1982/8 モンゴメリー (原著), 西川 治 (写真), 岸田 衿子 (翻訳)

『赤毛のアン』だけじゃない

岸田衿子先生が作詞をされたのは、『赤毛のアン』だけではありませんでした。

他に『アルプスの少女ハイジ』の主題歌『おしえて』終わりの歌『まっててごらん』、『フランダースの犬』の主題歌『よあけのみち』終わりの歌『どこまでもあるこうね』、『あらいぐまラスカル』の主題歌『ロックリバーへ』終わりの歌『おいでラスカル』も作詞をされました。
どれも歌がすぐに浮かび、作品の内容が思い浮かぶことの出来る歌ばかりです。

さて、子どもの頃に『あらいぐまラスカル』の主題歌の最初の出だしを歌おうとして苦労された経験はありませんか?英語を習った後ならば歌詞の意味が分かっても、耳で聞くと少し早くて聞き取りにくいってことはなかったでしょうか?私はそうでした。

「Like the wind」には「風のように速く」という意味があり、「Come with me」には「僕についてきて、一緒に並んでおいで」という意味があります。
つまり最初の出だしは主人公のスターリングが小さいラスカルに向かって「僕のところに早く(風のように)来て、一緒に並んでいこうよ、ここだよ、ラスカル」って、語りかけていると受け取れます。
『あらいぐまラスカル』の物語で親のアライグマを殺された赤ちゃんアライグマ、ラスカルを育てた話『はるかなるわがラスカル』を原作にしていて、作者スターリング先生の少年時代の実話です。
スターリング先生はアメリカ合衆国の中西部で生まれました。
20世紀初頭の話です。

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岸田衿子先生が、歌の出だしで使った「hidy」の言葉は「howdy」「hello」と同じ意味で、アメリカ中西部の方言だそうです。
作者であり、主人公のスターリング先生がアメリカ中西部が故郷であることから、あえて方言の「hidy」の言葉を最初の呼びかけになる歌詞に選んだのかもしれません。
それを頭に入れて、スターリング先生が中西部の出身だと思うと、より最初の英語の部分のラスカルへの呼びかけが、スターリングのものとして受けとめることが出来ると思います。
その後に木の穴から出てきて、スターリングに運ばれ、スターリングが漕ぐ自転車の籠に入って、スターリングと走り、一緒に遊ぶラスカルのオープニング映像を見ていると、スターリングとラスカルが築いていく友情の大きさが伝わってきます。

作品の主人公に思いを重ねて、見ている子ども達に語りかけ、あるいは作品の『アルプスの少女ハイジ』だったら、おじいさん、『フランダースの犬』だったら、パトラッシュ、『あらいぐまラスカル』だったら、ラスカル、『赤毛のアン』だったら、想定だけど視聴者の子ども達への作品の世界を大事にした作詞を入りやすく分かりやすい言葉にのせて、物語性を持たせ、歌を歌うだけで作品の世界が目の前に広がる作詞をされた岸田衿子先生の豊かな表現と、しっかりとした作品への知識の深さを感じて、改めて、その素晴らしさを感じてしまいます。

ちなみに岸田衿子先生は『世界名作劇場』の歌の他にTBS系列で1978年~1979年に放送されたアニメ『まんがこども文庫』(『赤い鳥』で発表された童話のアニメ化)の主題歌『よんでいる』を作詞されています。
また『まんがこども文庫』は、妹の岸田今日子さんが一人で何人もの登場人物を演じていました。姉妹でこの作品に岸田衿子先生は主題歌の作詞で、妹の岸田今日子さんは声優で参加されたのです。

主題歌を『よんでる』を歌ったのは、ミッチことアニメ歌手声優でお馴染みの堀江美都子さん。
堀江美都子さんは『世界名作劇場』では、1986年の『愛少女ポリアンナ物語』で主役を演じていました。
『よんでる』は2014年に島田歌穂さんと江草啓太と彼のグループがカバーされていて作曲された宇野誠一郎の作曲作品を集めた『宇野誠一郎ソングブック1』に収録されています。

また、作詞は岸田衿子先生ではありませんが、宇野誠一郎先生は、『世界名作劇場』の前身にあたる『カルピスまんが劇場』で放送された1969年の『ムーミン』の主題歌『ねえ!ムーミン』、1971年『アンデルセン物語』の終わりの歌『キャンティのうた』1973年『山ねずみロッキーチャック』の主題歌『緑の陽だまり』の作曲もされていて、同じ『宇野誠一郎ソングブック1』に収録されています。

宇野誠一郎ソングブックI

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長い歴史を持っていた『世界名作劇場』名称の変遷もありましたが、今でも思い出せる歌と共に、物語やその作品を見ていた子どもの頃を思い出せます。
今回、岸田衿子先生が『赤毛のアン』を翻訳されていたことを知ってから、改めて岸田衿子先生が作詞された『赤毛のアン』の主題歌の歌詞を振り返り、子どもの頃に意味不明だった『あらいぐまラスカル』の歌詞の意味を調べてみて、馴染み易い言葉で頭に残る歌詞が持つ作品への深い気持ちが込められているのだなと感じました。
主題歌や終わりの歌、挿入歌は、作品を見た記憶を思い出す引き金になり、大きく思い出をまた広げてくれるのだと思います。

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