タブーとされる事をあえてやる! 他のバンドの逆を行く! それが本当のパンク精神!!
Xを語るうえにおいて"ヘヴィメタル"というカテゴライズが常についてまわります。
しかし、既存ジャンルの物差しでは、彼らの魅力の核心にまで迫る事は難しい。
既成文化にアイデンティティの拠り所を求める権威主義的な価値観は、Xの本質を
知るためには捨てるべき。
当時、型破りな音楽性とパフォーマンスで活動を続けていたXでしたが、彼らを受容する
土壌や形容する言葉はまだなく"ヘヴィメタル"として扱われていました。
しかし、YOSHIKIはヘヴィメタルとカテゴライズされる事を嫌っていたのです。
当時のXは評論家などから「イロモノバンドだ」「ロックとはこうあるべきだ」
「メタルとはこうあるべきだ」「歌謡メタルなんて邪道だ」といった批判を受けていました。
今や日本を代表するメタルバンドという評価を受け、批判的だった評論家も手のひらを返し
絶賛している状況。
当時を知らない人からすれば、にわかには信じがたい話かもしれないが本当の話。
そういった批判に対してYOSHIKIは「ロックは受験勉強か?タブーとされる事をやる、
それが本当のパンク精神だ」とアンチテーゼを唱えていました。
凝り固まった固定観念を持った当時の大人たちが、Xに対し否定的だったのも致し方ない
のかもしれません。
当時の音楽性について「TAIJIはアメリカンロックから影響を受けていて、僕はパンクスで
ハードコアに傾倒していた、そこにhideが不思議なセンスを持ち込んで、ごちゃ混ぜになったのが
Xなんです」とYOSHIKIが語るように、Xとはメタルとハードコアのクロスオーバーから生まれた
全く新しい存在だったのです。
Xのスタイルは唯一無二のメタルコアサウンド!!
1985年にリリースされたシングル「I'LL KILL YOU」の広告には"衝撃のメタルコア登場"と
記されていましたが、まさにその通りXのスタイルは、唯一無二のメタルコアサウンド!
メタルの構築美とハードコアの暴力性。
YOSHIKIのジャパコアをさらに過激にしたような激走ドラムスタイル。
クラシック要素・耽美世界。
これらを軸に、究極のバランスでVanishing Visionの世界は成り立っています。
HIDEはグラマラスなロックンロールセンスをXに持ち込み、80年代パンクシーンを
彷彿とさせる危うい雰囲気をXに与えました。
横須賀サーベルタイガーでは生肉を食いちぎり、マネキンを破壊するといった
パフォーマンスをおこなっていたのだとか…。
また、HIDEのシアトリカルかつサイケなパフォーマンスは、寺山修司的アングラ演劇世界を
展開していたオートモッド辺りの雰囲気も醸し出しています。
"Xの飛び道具"と称されていたのも頷けますよね!
そういった要素もサブカルチックにならずに消化しているのは、HIDEの絶妙なポップセンスの
なせるわざと言えます。
横須賀サーベルタイガー「SADISTIC EMOTION」をリメイクした、HIDE作曲
「SADISTIC DESIRE」はそういったHIDEのセンスが詰め込まれており、YOSHIKIの世界観を
より極彩色のものにしています。
フュージョンなどの要素も取り込んだ、TAIJIの天才的なプレイも全編を通し冴え渡り、
このアルバムのオープニングを飾るインスト曲「DEAR LOSER」では作曲TAIJIのセンスを
いかんなく発揮しています。
TAIJIは他のメンバーの非メタル宣言とは反し、Xは純粋なメタルだと発言しています。
しかし、そういったTAIJIの王道HR/HM要素はXをただの破天荒なバンドで終わらせず、
上質なロックサウンドとして成立させています。
またTAIJIは、YOSHIKIとHIDEに勝るとも劣らない強烈な存在感を放っていました。
バッドボーイズロッカー然とした、華やかでワイルドなスタイルに憧れた者は多いはず!
職人気質なPATAのプレイと存在はバンドに調和とバランスをもたらし、Toshlがもつ
天性の歌声と卓越したヴォーカリゼイションが、その世界を完璧に紡いでいます。
画家の西口司郎氏にによる衝撃的なジャケット、若さゆえの演奏の荒さと勢い、
当時のレコーディング技術による音質も、全てがプラスに作用し、このアルバムには
革命前夜ともいえるあの時代の空気感が、完全にパッケージングされているんですよ!
X - Vanishing Vision
01. DEAR LOSER
02. VANISHING LOVE
03. PHANTOM OF GUILT
04. SADISTIC DESIRE
05. GIVE ME THE PLEASURE
06. I’LL KILL YOU
07. ALIVE
08. KURENAI
09. UN-FINISHED
新たな時代の到来を告げるファンファーレ!!
この時代、NHKでは「パンク対ヘヴィメタル」という番組も放送されるなど、
パンクとヘヴィメタルの対立構造がありました。
しかし時代は動いていきました。
この日本でもパンクとヘヴィメタルの垣根は無くなりはじめ、クロスオーバーの
波が押し寄せていったのです。
もちろん言うまでもなく先導したのはXでした。
前時代的になりつつあったインディーズシーンを塗り替えたXは、このアルバムのリリース後、
活動の場をメジャーへ移すこととなります。
やがて、既成ジャンルではカテゴライズすることが出来ないXをはじめとした異端児たちは
"ヴィジュアル系"と呼ばれ、日本独自のミクスチャーロックを完成させ新時代を築いていきます。
『Vanishing Vision』、それは新たな時代の到来を告げる気高きファンファーレであった
といえるのです!