少女漫画「彼氏彼女の事情」を庵野秀明がアニメ化!

「彼氏彼女の事情」は1996年に漫画雑誌「LaLa」で掲載されていた、津田雅美先生原作の少女漫画です。単行本で全21巻になる作品ですが、この前半部分をアニメ化したのがあの庵野秀明監督です。2019年3月には初となるBlu-ray BOXが発売され、今再び注目を集めています。
庵野秀明監督といえば「新世紀エヴァンゲリオン」で一躍時の人になりました。アニメは社会現象を巻き起こし、今も映画の続編を待ち望む声は絶えません。そんな庵野監督がアニメシリーズの「エヴァンゲリオン」を終了した後にアニメ化したのがこの「彼氏彼女の事情」です。制作ももちろんガイナックスでした。
どうして庵野監督が少女漫画をアニメ化しようと思ったのか気になる所ですが、原作の漫画も本当によくできており名作です。登場人物がコンプレックスを乗り越えようと葛藤する姿や、続きが気になる衝撃の展開の数々。読むと鬱になると言われつつも、読者からの支持は圧倒的です。
アニメはほぼ原作通りだけど違う点も?
原作とアニメの内容はほぼ同じ進行ですが、時々間に挟まれる総集編と第25回で放送された「これまでと違うお話」の内容は原作にありません。この回では主役が主人公・雪野の妹である花野になっており、完全オリジナルストーリーです。
あと、アニメの放送中はまだ漫画の連載が終わっていなかったので、最終回の内容ももちろん違います。アニメはかなり中途半端に終了しているので「打ち切りになった」と思っている方も多いようですが、最初から全26話の予定だったそうですよ。
「彼氏彼女の事情」の主な登場人物とあらすじ
大雑把にいえばあらすじはこんな感じです。
高校では優等生キャラを演じている主人公の雪野。とにかく負けず嫌いで他人に賞賛されたいという本性を隠しつつ、頭脳明晰で文武両道な優等生・有馬をひそかにライバル視しています。ひょんなことから有馬に雪野の本性がバレてしまい、まるで脅迫まがいの扱いを毎日受けるように。
ある日、遂に雪野が有馬にキレて本気で向かい合い事態は一転。実は有馬は雪野が好きでついつい意地悪をしていたことが判明します。さらに有馬も本当は雪野と同じように本性を隠しており、優等生の仮面をかぶっていたことから打ち解けます。そしてお互いどんどん惹かれ合っていきます。
そんな主人公二人の恋を中心にストーリーは展開していくのですが、周りのキャラもいい味だしてるんですよね。どのキャラも表向きとは違って葛藤を抱えていたり、心に傷を負っていたりと一人一人が実に奥深い作品です。
主な登場人物

宮沢雪野(みやざわ・ゆきの)
主人公。愛称はゆきのん。他人に評価されること、賞賛されることに快感を覚え、そのためだけにあらゆる努力を怠らず容姿端麗・文武両道・品行方正な優等生を演じ続けていた。家の中では素に戻るため、外面とのギャップが激しい。
有馬に本性を知られ、優等生の仮面をあっさり捨て去る。本性を出してからは友人も増え、負けず嫌いの性格はそのままだが同級生からの印象も変化していく。

有馬総一郎(ありま・そういちろう)
もう一人の主人公。愛称はありま。容姿は眉目秀麗、全国模試は1位、剣道の腕前もインターハイで優勝するほどの実力を持ち、まさに文武両道。
複雑な家庭環境で育ったことから家庭でも学校でも優等生を演じ、他人に心を許すことができず孤独を抱えている。雪野と出会い自身が変化していく中、闇は深まってしまう。

芝姫つばさ(しばひめ・つばさ)
主人公たちの同級生で、小柄な美少女。同級生からも可愛がられるいじられキャラだが、本人はぶっきらぼうで人見知りが激しい。
中学の頃から有馬のことが好きで告白するも撃沈。高校入学後すぐに事故で入院していたが、退院して戻ってきたら有馬と雪野が付き合っておりショックを受ける。そのため何かと雪野につっかかるが雪野が本気で向き合ううちに仲良くなる。
早くに母親を亡くし、父一人子一人の家庭で育つ。父が再婚する際に猛反発するが、再婚相手の息子に会い話をするうちに心に変化が起きていく。

井沢真秀(いさわ・まほ)
主人公たちの同級生。実家は老舗の和菓子屋でクールビューティーな少女。
中学時代はトップクラスの成績だったが、勉強でも運動でも雪野に勝てず、プライドの高さから嫉妬する。さらに雪野が優等生を演じていることを見抜き許せず、クラスメイトを煽ってシカトしたり嫌がらせをする。
結局、雪野の負けず嫌いもあって嫌がらせは破綻。その後は打ち解け行動を共にするようになり親友になる。

他にも有馬の良き理解者である浅葉、復讐心を胸に別人のようになって帰ってきた元いじめられっ子の十波、雪野の妹である月野と花野などなど、たくさんの個性的なキャラクターが登場します。
「カレカノ」が鬱アニメといわれる理由とは
「彼氏彼女の事情」は原作の漫画もですがアニメも「鬱になる」と定評があります。いまだにトラウマだという声が少なくありません。先にも書いた通り、アニメの前半はラブコメ要素強めで純粋に楽しめるのですが、後半では鬱展開が多くなり進行もややグダグダになります。
その鬱展開というのが有馬の過去が判明していく辺りです。
有馬は爽やかなイケメンで学力も高く剣道の腕もインターハイで優勝するほどで、さらに人当りもよく誰にでも優しい完璧すぎる青年です。しかし、そこにはが悲しい過去が関係していました。
有馬は実の両親に育てられていません。実の父親は医者の名家である実家を捨てて失踪しており、一族から息子の有馬まで白い目でみられています。さらには幼少期、実の母親から受けた激しい虐待。この虐待がトラウマになり、有馬は誰のことも信じられず愛せないのです。
それでも愛情深く育ててくれた養父母である伯父夫婦に恩返しをするため、優等生を演じ続けます。虐待のトラウマ、父親のせいで辛く当たった一族への復讐心をひた隠しにしながら。

この辺りの有馬がかなり病んでいて鬱展開です。雪野に惹かれれば惹かれるほど、本性を知られる恐怖心が大きく膨らんでいくんですね。
この鬱な展開と、庵野監督独特のアニメ手法が見事にマッチします。アニメに実写の映像や原作の漫画のカットを盛り込み、「劇メーション」という個性的な描写も使用されました。視聴者の中には「このアニメなんか怖い」と感じた方も多いのだとか。「見たくないけど見たい」という不思議な気持ちになったそうです。
「カレカノ」はロボットが出てこない「エヴァ」!?

制作スタッフからはこんな声もあがっていたそうです。「ロボットの出てこないエヴァンゲリオン」、たしかに「彼氏彼女の事情」と「エヴァンゲリオン」には似ている点がたくさんあります。
まずキャラクターの描き方として似ているのは、優秀であろうと戦う少年少女たちという点でしょう。「エヴァ」の登場人物アスカもかなりの負けず嫌いで常に優秀であろうとします。口が達者で利発そのものですが、実は幼少期に悲しい思いをしておりトラウマを抱えています。
主人公のシンジも自分を捨てた父親に認められたくてエヴァに乗り戦おうとしますね。過去のトラウマ、それを消したくて優秀であろうとする…そんな心模様がどちらも似ています。そしてアニメ終盤にいくほど鬱展開になる辺りもそっくりです。
アニメの手法としてもやはり似ており、そこは庵野監督ワールド全開といえます。時折流れるクラシック、信号機や風景を使ってキャラクターの心象を表現するところなど。キャラクターが悲しい心情を淡々と語ってる時なんかに、バックが夕暮れの風景だったりすると余計切なくなるんですよね。「エヴァ」でもシンジが悩んでる時によく使われていて印象的でした。
だって制作スタッフもそのまま同じメンバーだし
何より、「彼氏彼女の事情」の制作スタッフが「エヴァンゲリオン」のスタッフそのまま同じメンバーだったのが一番でしょう!
というのも本当は「エヴァ」終了後、鶴巻和哉監督の新作アニメがガイナックスで制作されるはずだったんです。しかし企画が難航してスタートできず。「エヴァ」で集結したスタッフをそのまま留めておくために急遽持ち上がったのが「カレカノ」のアニメ化だったのです。
そんな訳で時間がなくオリジナル作品は難しかったので、庵野監督としては初めて漫画原作の作品をアニメ化したのだとか。そのせいで「エヴァ」の雰囲気が色濃く残っているのかもしれませんね。パロディも多々見受けられます。
最終回で「は?」ってなる所もそっくり
「エヴァンゲリオン」の最終回の詳細は省略しますが、とりあえず「おめでとう!」で終了しましたね。日本中が「は?」となった訳ですが、「彼氏彼女の事情」のアニメ版も最終回で見事に視聴者を驚かせました。
漫画が連載中だったから仕方ないのですが、最終回は「雪野への想いが強すぎて、有馬が精神崩壊…つづく」「完」です。仕方ないけど衝撃的すぎて、意味が分からなすぎて視聴者はもちろん混乱しました。
原作では雪野が高校生で妊娠!
原作の漫画版では、なんと雪野が高校生で妊娠します。それも病んだ有馬が図書館で半ば無理やり行為に及んだのが原因という衝撃的な展開です。
とはいえ、割と本人たちも周囲も「高校生で妊娠、出産」という事態を好意的に受け入れてくれることで暗い終わり方にはなりません。雪野は高校卒業後いったん勉強の道は諦めて主婦になりますが、第二子である双子を出産したあと医大に進学しています。
有馬も過去を清算し、雪野と結婚。子どもにも恵まれ高校卒業後は警察官になり、幸せを掴んでいます。アニメでは曖昧に終了しましたが、原作ではハッピーエンドだったのが救いですね。