
漆黒のキュベレイと、似つかわしくない天真爛漫系ニュータイプ美少女、エルピー・プルと、なぜかチョコレートパフェ!?
私、市川大河が、書評サイトシミルボンで連載している、 『機動戦士ガンダムを読む!』での、 再現画像で使用しているガンプラを、 古い物から最新の物まで片っ端から紹介していこうというテーマのこの記事。
今回紹介するのは、『ガンダムZZ』を象徴する人気キャラとなり、今でもファンが多いニュータイプ美少女・プルの搭乗する、漆黒のキュベレイMK-Ⅱの旧HGUCキットを紹介していきます。
エルピー・プル専用キュベレイMk-Ⅱ 1/144 HGUC 011 2000年6月 1500円(機動戦士ガンダムZZ)

キュベレイMK-Ⅱのボックスアート。こちらの方は、プルの可愛さには一切触れず、禍々しさを強調している
今回紹介するキュベレイMK-Ⅱは、HGUC 004で、1999年9月に発売されていたキュベレイの成型色替えキットであり、ハマーン・カーンのキュベレイの旧HGUCは、価格は同じ1500円で発売されていた。その金型流用キットとしてMK-Ⅱが発売されるに当たって、成型色を変えるだけではなく、肩のバインダーに彩られたジオンマークの転写式ガンダムデカールが追加された仕様で発売された。

完成したHGUC キュベレイMK-Ⅱ
まずは、このキットの元となった、HGUC 004 キュベレイの解説からはじめなければならない。『ガンダムを読む!』再現画像でハマーンの白いキュベレイは、2015年に発売された、このキットの上位商品、HGUC 195 REVIVE キュベレイを使用するからだ。

ジュドーのコア・ファイターを宇宙で追いかける無邪気なプルの、漆黒の悪魔モビル・スーツ!
「1/144のキュベレイ」それは『Zガンダム』『ガンダムZZ』、いや榊原良子女史が声を当て命を吹き込んだ、ハマーン・カーンというキャラに魅了されたガンダムファンと、その優雅で気品のあるシルエットと独特のディテールを持った「永野護式『モビル・スーツ版エルメス』」に魅了されたガンプラ・メカファンの悲願であった(実際、キュベレイの右肩の裏には「L-MESⅡ」と刻印されている)。

正面から見たキュベレイMK-Ⅱ
しかし、『Zガンダム』本放映時代は、キュベレイの登場が終盤ということもあり、それでも人気が高かった機体だったため、1/220では発売されたが、あの優美なシルエットラインを当時の1/220で再現するのは到底無理で、爪の先まで伸びた平手が一番似合う手首も拳状だけで造形され、結果的に「キットが出ただけジ・Oよりはマシだった」で終わっていたキュベレイ。

サイドビューとバックビュー。キュベレイ独特の曲線ラインを、ハイレベルで再現していることが、個別の角度から見ていると分かる
HGUCという商品枠は、特に初期はこういった「当時キットが出来が悪かったり、当時にはキット化されなかったり」といった、不遇の名機をハイレベルな仕様で商品化することで一気に絶大な支持を集めたわけだが、ザクⅢ改や百式、ギャンやガンダムGP01等は、まさに個々のモビル・スーツファンからすれば、HGUCが救世主のように思えるラインナップといえた。
だが、商品化枠も200を超える頃合いになると、既存のモビル・スーツを片っ端からリメイクするしかなくなっていき、ついにはVer.2やREVIVEとして、HGUC内で二度目のキット化で、いわば「1/144版MG」のように変節していった経緯がHGUCにはあるが、このキュベレイもそういった意味で、二度目はさらに進化したスペックで商品化されている。

邪悪なルックスの黒いキュベレイが、純真無垢な美少女との組み合わせで襲ってくる!
本家、ハマーンの純白のキュベレイは、入手しやすさ、ディテールや可動領域の広さ、値段などから、最新のHGUC 195 REVIVE版を使用することに決めたが、プルツーの赤キュベレイMK-Ⅱはともかく、プルの漆黒キュベレイMK-Ⅱ(以下・プルキュベレイ)はどうしようかと悩んだときに、確かにHGUC 195 REVIVEでも漆黒プル版は発売されているが、プレバン限定商品だったために今はプレミアがついており、例えばAmazonで比較すると、今回紹介するHGUC 004版のプルキュベレイが1000円近くで手に入るが、同じプルキュベレイでもHGUC 195 REVIVE版を買おうとすると3倍以上高値になっている。
大河さんとしてもここはうーんと考え、「プルキュベレイであればそれほど出番はない」「HGUC 004版でも、充分見栄えは劣っていない」「ハマーンキュベレイとプルキュベレイを、新旧2つのHGUCで使い分ければ、ミドルエッジ連載で比較が出来る」「安い方に越したことはない」という身も蓋もない理由含めで(笑)プルキュベレイはHGUC 004版を使うことにした。
キットのポテンシャルの解説に移るが、ハマーンキュベレイと色以外は全く同じと思って構わない。

両肩のバインダーを展開させたプルキュベレイ
前回紹介したリック・ディアスより開発と発売は早く、HGUCシリーズもまだ発足して4商品目ではあるが、いきなりこのキュベレイは(当時的には)満点に近い出来を誇っている。
写真を見れば分かる通り、華奢な関節と複雑な曲面構成、そして巨大かつ自在に動く羽根バインダーという要素を、まだHGUC4番目ながら、このキットは高次元で融合させている。

腕の可動範囲
腕は、肩は水平近くまで上がり、肘の曲がり角度も90度ジャスト程度。これ以上曲げるには、REVIVE版のように、肘関節のデザイン自体に手を加えて構造を変えなければいけない。個人的には、この程度曲がるのであれば、劇中の殆どのシークエンスを再現できるとは思うのだが……。

開脚可動範囲

脚部前後可動範囲
下半身の可動は、正直もうちょっとがんばってくれてほしかったところ。もちろんREVIVE版は、そこを解っていて、今度は変態的なまでに下半身も可動するのだが、どうもバンダイは案配を知らないとしか思えない(笑)
開脚自体は、体操選手でもないのだからこの程度でも構わないかなとは思うのだが、脚の膝関節は、せめて90度は曲がって欲しかったところ。

腰のひねりはこの程度
正直いつも思うのだが、人の形をしているのだから、人が出来る可動以上を、ロボットがやってみせても気持ち悪いと受け止めるべきか(そういうトリッキーな動きを、原作のロボットがやっているならともかく)、それともどんなガンダムでもアッガイでも、「『ガンダムSEED』決めポーズ」がとれなければ価値がない、全ての可動領域は、物理的限界を目指すべきだと考えるか、そこは人それぞれだとは思うが。
大河さん的には、目的はガンプラをブンドドしてめでることでも、変態ポーズをとらせてTwitterで画像をバズらせることでもなく、あくまで「劇中の活躍を再現」なので、劇中でとれていたポーズが再現できなければ不満だし残念だが、一通り劇中の(アニメにありがちな「二次元の嘘」をどう受け入れるかで変わってはくるが)動きが再現出来れば、それ以上は求めないというスタンスであったりする(え? 連載も長いし、もうみんな知ってた?)

ピンぼけ失礼(汗)首はメモリアルアクションとして、大きく上へ向けて顎を上げることが可能
なので、ここ(機体の上向き可動)はREVIVE版でさらにインフレを起こすのだが、キュベレイ特有の、バインダーを羽ばたかせて蝶のように舞う姿を再現するための、頭部や胸部に上へ向く可動軸を仕込むギミックは多いに賛成だし、その上で、可動の為に複雑緻密な「永野ディテール」が犠牲になっていないこと、これも重要な評価ポイントだろう。

これぞ永野護メカ!感が、ジュドーのZZに迫りくる!
手持ちの武装がサーベルだけなのはハマーンキュベレイと一緒だが、今回のキットでは柄も含めてクリアイエローのパーツで構成されている。
バンダイがガンプラのビーム・サーベルを柄とビーム部分にパーツ分割して、その上でビームパーツを規格化して、SBナンバーを割り振る時代はまだこの先で、この時点ではまだまだ、キットごとに一体成型の試行錯誤の時代であった。

ビーム・サーベルを構えるプルキュベレイ
この時期は、柄の色に合わせた不透明パーツでサーベルが全部出来上がっているか、むしろガンダムMK-Ⅱのように、握った拳ごと一体化というコロンブスの卵みたいなアイディアもあり(大河さん的には、これはこれでアリだと思っている)、サーベルと柄、どちらに成型色を用意するかで、確かに不透明パーツにビームの色を塗るよりは、クリアパーツに柄の部分だけ塗装する方が、仕上がりがぐっと違ってくるのも道理といえて、この「柄まで1パーツでクリア成形」も、当時のコスト的戦略としては悪くなかった。

ビーム・サーベルを振るうプルキュベレイ
またこのキットの「力の入れよう」は、キュベレイ主武装のファンネルが、背部ファンネルコンテナに10個全部装着できるという仕様からも窺い知れる。

ファンネルが全部脱着可能なファンネルコンテナ
アニメでは、ファンネルはコンテナのピンクではなく濃紺で成型されているのだが、キットの方ではコンテナと同じランナーで成型されている(そこはREVIVE版でもなぜか同じ)。

バインダーのスリットの中はシール
色分けは、この時期まだまだ技術論的に今ほどではなかったため、REVIVE版ではスリットの中や模様のピンクの殆どが別パーツ化されているが、このHGUC 004版ではさすがにそこまでは無理で、ホイルシールで補うように仕上がっている。

下半身のスリットのピンクも全てシール処理
むしろ、全てのスリット部分を補えるだけ、シールが用意されていることへの拘りも、時代を考えれば充分に好感が持てる要因とも言える。それはツインアイのモノアイスリットの内部にも言えて、それら付属のシールを駆使すれば、このキットで追加塗装が必要な部分は殆どないと言ってよい。

プルキュベレイの場合、左肩バインダーのジオン紋章もしっかりシールで補完される
また、巨大な肩のバインダーの内部ディテールは、アニメ設定時には詳しく決められていなかったため、当時のアニメ設定を参考に、カトキハジメ氏が新たに細部をデザインしなおしたディテールで埋められている。

肩バインダー内部のディテール
このディテールは、統一公式をガンプラでアリバイ化させたくなかったためか、キュベレイがキット化されるたびに少しずつ変えられていて、REVIVE版とも違っているので比較してみると面白いかもしれない。

「貴女は私なのよ!」半壊したキュベレイMK-Ⅱで、プルツーのサイコガンダムMK-Ⅱへ向かって突撃するプル
今回は再現の都合上、半壊した状態にもしたわけだが、キットの性質上、無理にキットを壊さずとも、両肩バインダー、右前腕、両脚腿下の各パーツを外すだけで充分にクラッシュした状態に見立てられた。
ちなみにこの漆黒のMK-Ⅱと、プルツーの深紅のMK-Ⅱは、メタリックカラーVer.が2000年の9月に2500円で、またハマーンのキュベレイ版も『Zガンダム』劇場公開記念として特別にキュベレイ エクストラパールVer.が2006年3月に3000円で、それぞれ限定発売された。また、REVIVE版の仕様でのプルとプルツーの専用カラー版仕様も、プレバン限定品として発売されている。

この時期のガンダムシリーズお約束の「悲劇のヒロイン」枠だったプルの愛機なので、ファンなら旧版であっても手に入れておいて惜しくはない出来
塗装は、バインダーがなくなった後の、プルツーとの決戦時のアニメのカラーリングに準じて、成型色(というかアニメの元設定では)上腕と同じピンクだった肩関節ブロックを、機体のメインカラーに一番近かったブルーFS15044で塗ったのみ。
「1/144でキュベレイを」は、ファンのみならずバンダイサイドにとっても積年の願いでもあったのか、このキットはREVIVE版が発売されてなお、選ばれる価値のある一体に仕上がっていると言っていいだろう。
市川大河公式サイト