『ガンプラり歩き旅』その35 ~何があったか? 今はゆるキャラ、アッガイたん!~

『ガンプラり歩き旅』その35 ~何があったか? 今はゆるキャラ、アッガイたん!~

ガンプラ! あの熱きガンダムブーム。あの時代を生きた男子であれば、誰もが胸高鳴り、玩具屋や文房具屋を探し求め走ったガンプラを、今改めて当時のキットから現代キットまで発売年代順に、メカ単位での紹介をする大好評連載の第35回は、ジオン水泳部で、なぜかここ37年で一番の出世頭・アッガイのHGUCです!


ファンシーなビジュアル(?)とは裏腹に、連邦軍の監視拠点を、その爪で一撃で破壊するアッガイ!

私、市川大河が、書評サイトシミルボンで連載している、 『機動戦士ガンダムを読む!』での、再現画像で使用しているガンプラを、 古い物から最新の物まで片っ端から紹介していこうというテーマのこの記事。

今回紹介するのは、ジオンの水陸両用モビル・スーツ群の中で、近年萌えキャラ化され「アッガイたん」とまで呼ばれるようになった(なぜだ?)、アッガイの1/144 HGUCをご紹介します!


アッガイ 1/144 HGUC 078 2007年4月 1400円

やはりメインの活躍の場となった、ジャブロー構内を背景に、右腕のクローを伸ばして攻撃するアッガイのボックスアート!

ジオン水陸両用モビルスーツの後期にして、落ち葉拾い的な立ち位置のアッガイ!
腕が伸びるぞダダンダーン!なアッガイ! けれども、磁石の力じゃないぞ、アッガイ!
今の公式設定では、どう見てもテレビや映画の頃よりも巨体で設定されていて、なんでも、どこぞの設定では、内部にザクが丸々内蔵されていて、つまり、ザクが潜水服を着込んだような構造なのだと、まことしやかに語られているアッガイ!

『機動戦士ガンダムⅡ 哀・戦士編』(1981年)において、テレビ版『機動戦士ガンダム』(1979年)第30話『小さな防衛線』での、チビちゃん三人組の冒険で、アッガイの頭部の上を、そうとは知らずに渡るシーンを、アニメーションディレクターの安彦良和氏が、ちょっとしたお遊びで、映画パンフレットの背表紙に、コミカル調な、体育座りのアッガイと、その頭部を渡るチビちゃん三人組というイラストを描いたものだから、すっかり「体育座りキャラ」の座を36年間ホールドし続けてしまったアッガイ!

黙って立っているだけならば、武骨な印象すら与えかねない、ジオン水陸両用モビル・スーツの猛者・アッガイ

なんか知らないけど、ガンプラアニメ(むかぁーしの『プラモ狂四郎』みたいなやつね)『模型戦士ガンプラビルダーズ ビギニングG』(2010年)で、美少女キャラがこのHGUC アッガイを使って、テディベアみたいな「ベアッガイ」ってゆーのを作っちゃったところから始まって、猫のニャッガイとか、白熊のシロクマテナッガイとか、「プチッガイ」なるキャラの無限増殖とか、もはやナンデモアリの、ゆるキャラベースにされちゃって(確かに初期のガンプラブームの頃から、冨野由悠季監督曰く「アッガイは女子には人気がある」とかコメントされていたらしいが)、完全にもう、くまモンとかふなっしーとか、『銀魂』のエリザベスとか、“そっち”の世界の住民にされているんだけれども、アッガイ!
しかも、既にネットではガンダムマニアからは、ほぼ公式で“アッガイたん”とか呼ばれて、挙句の果てには、アッガイの「腕だけ」の枕クッションが売られていたりとか(これ、本当なんですよ、奥さん)、もうこれ、水陸両用とか軍事兵器とか関係なくね!?

というわけで、HGUC版アッガイの紹介ですが。
なんというか、このキットを「うーん」と捉えるか、「これぞ新時代のHGUC!」と称賛するかで、その人がHGUC、ガンプラに、何を求めているかが分かる、リトマス試験紙みたいな立ち位置のキットに仕上がっている。

劇中再現より。シャア専用ズゴックと共に、ジャブローに潜入せんとするアッガイ!

いや、出来は良い。
手放しでこのクオリティは、確かに新時代のHGUCを思わせるだけのポテンシャルを有している。
素組でも、モノアイ以外は完璧にパーツ分割で表現されている色分け。
内部メカ構造に、外装を被せていくという、それまで1/100 マスターグレード(MG)でしか出来なかったストラクチュアを、1/144サイズで見事に成し遂げた設計。
モノアイを、完全レール可動にして、その上にクリアパーツを被せる方式で、いつでもカバーを取り外してモノアイを可動させられるギミック。
パーツの合わせ目が殆ど露出しない分割構造などなど。
確かに、このHGUC アッガイを転換期として、HGUCがネクストステージに上がったというのは、なるほど非常に説得力を以て頷ける。

劇中再現より。しかし、撤退戦を余儀なくされたアッガイは、伸びるクローを巧みに使って逃げるも、61式戦車の砲火の餌食に!

しかし、と筆者は「あえて」物申す。
このキット、「『機動戦士ガンダム』のアッガイ」に見えて、実は非常に微妙に似て非なる、別作品の別メカのプラモデルである側面を持っているのである。
それは具体的に言えば、四角い構造だったはずの脚部がなめらかな曲面構成になっているところや、バックパックの形状や、全身のプロポーションバランスなど、これはやはりアッガイが登場した、後のOVAガンダムアニメ『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』(1996年)版に沿ってアレンジが施されているらしい(実際、筆者はそのOVAを観ていないが、そのOVAに登場した時のアッガイの破損状態に、差し替えられるダメージパーツが、オプションでHGUCキットには付いている)。
というか、今回のHGUC アッガイは、可動のための関節構造やクリアランスの関係などで、逐一08MS小隊版アッガイをベースに設計がされており、最終的には可動に関係ないバックパックのデザインまでも、08MS小隊版となっているのである。
これを『機動戦士ガンダム』版として売るのは、果たしてビジネスとしてどうなのか?

「元のモビルスーツの解像度を上げた」でもいいし「元のモビルスーツとは違うバリエーション機体である」でもいいのだが、パッと見て分かる差別化がないとはいえ、じっくり見ればいろいろ異なるデザインの差異が、どれもこれも08MS小隊版として偏った選択をされている商品形態なのに、ブランドとしては『機動戦士ガンダム』版で売ってしまわれているHGUC アッガイ。

ならば、アッガイも、ちゃんとゲルググMやザクⅡ F2型のように、08MS小隊版のアッガイを別機体に設定して、個別にキット化すべきであろう。

同じく、ガンダムのビーム・ライフルに仕留められる、逃走中のアッガイ

まぁ、ここまでならまだ「いつものHGUCアレンジが、どうせなら、で08MS小隊版と融合しちゃったってことで」で腹の虫を治めることも出来なくもないが、上で書いたようにこのキット「1/144 HGUCに、1/100 MGのコンセプトを凝縮させる」を裏コンセプトにしているものだから、キットの出来的にも、実験要素が仇になった弱点が、いくつか散見されるのである。

HGUCアッガイの、右腕を伸ばした状態。ものすごく分かりやすく、アームが重力に負けている

まず一つ目は、このHGUC アッガイが、ゲルググに続いて「ABS樹脂がやらかしてくれました」典型例のキットなのであるということ。
伸縮する腕のボールジョイントや内部メカなどの殆どがABS樹脂製。
そのため、特に伸びた腕の7つある関節は、ヘタレやすく、まっすぐ前に伸ばしてもだらんと垂れ下がりやすい。
ABS樹脂製パーツは、関節と内部メカに集約されてはいるが、一部露出する関節や内部メカは、塗装派には逆に有難迷惑な仕様。
しかも、内部メカはマスターグレード(MG)を意識したのか、妙に適当なモールドがディテールされているが、外装パーツを被せてしまえば、MGキットのように関節可動と外装パーツが連動するギミックがあるわけでもなし、外装パーツを外したシチュエーションに需要があるわけでもなく、完全に設計、バンダイ側の自己満足で終わってしまっている。

肩の基部に上手く重力を逃せば、腕ごとこうして上に向けて上げることは可能

その他、関節の問題で言えば、発売直後からネット各所で大問題化した、首関節のボールジョイントの外れやすさのトラブル。
これは明らかに設計のミス(というか、組み立て説明書のミス)で、説明書どおりに組み立てると、胴体首部のボールジョイントが、頭部側の受けのポリキャップにしっかりはまらず、すぐにすっぽ抜けてしまうというもの。
先に原因を言えば、首部のボールジョイントと頭部のポリキャップが、お互いパーツ単位で完成した後だと角度的にしっかりはまり込めないため、頭部が外れやすくなってしまうのだ。その状態になってしまってから、力業で頭部をはめ込もうとすると、頭部内部のポリキャップが、はめ込みの反動で頭部内部で外れてしまい、いつまで経っても頭部が首部にはまらないという状況が続いてしまうのである。

顎を上げた頭部のUP。顎の蛇腹は今回はボデイと同じ色で塗装した。ここの首と頭部の接続が、webで問題になっていた

これに関しては、対策を立てている人たちのアイディアがネットのあちこちで見かけられ、簡単な対処法としては、先に首部を作ってしまって、そこにポリキャップをはめた頭部下部パーツを先にしっかり接続してしまってから、残りの頭部上部を作っていく方法。
もう一つは、組み立て説明書どおりに作っていく過程で、頭部下部パーツの首部受けボールジョイントを、パテなどで上から押さえ込んで固定してしまい、後で下からボールジョイントはめ込みのテンションがかかっても、容易にポリキャップが外れないようにしておくという方法。
今回筆者は、これら二つの方法を同時に行ったので、むしろ逆に力任せに引っ張っても、首が抜けることはなくなった。
一応このように、対処さえすれば完成品には影響を与えない方法はある。今はネットがあるので対処法を見つけるのは簡単とはいえ、ここは明らかにバンダイ側のケアレスミスだろうと思われる。

アッガイのクロー展開状態。両手をミサイルポッドの仕様にすることも可能

また、設定身長のアニメ版時のミス定義からか、全体のボリュームや身長が、『機動戦士ガンダム』を見慣れた者からすると、それでも大きすぎるという点は、HGUC版のミスとしてカウントするかどうかは悩むところ。
確かに、設定頭頂高とキットの大きさのズレの問題は、他でもHGUC ゲルググなどでも発生していたが、このアッガイの大きさはさすがに頭を捻ってしまう。「アッガイは、ザクが着込んだ潜水服だ」などというギャグも、元々の設定に「ザクのジェネレーターやパーツを流用して設計された」というのもあったからか、笑えないレベルの大きさに、HGUCは出来上がっている。

腕と脚の関節。膝関節はやはりボディ色で塗装。ここまでは曲がるのだが、体育座りはさすがに無理だった

それゆえに、基本関節可動範囲はHGUCの中でもトップクラスを誇るが、そもそもアッガイに、そんなに多彩なポージング能力が必要なのかという問いかけと共に、では、アッガイのイメージビジュアルである「体育座り」が出来るのかというと、膝関節も股間関節も頑張っているのだが、結局体育座りは出来ず、その「体育座りをするアッガイ」の座は、2005年に先行して発売されたMG版が成し遂げているが、それの縮小版というわけにはいかなかったというのが現実か。

体育座りの顛末を改めて考えても、今にしてこのHGUC アッガイを見つめなおすと、HGUCも80作目辺りに近づき、当初の「初登場アニメ作品時のデザインを尊重しつつ、1/144スケールでできる範囲のギミックを仕込む」HGUC基本コンセプトが、マンネリ化が進むと同時に、逆にMGの側での技術革新が進み、それをフィードバックした、1/144版MGにしたいという欲が出てきた頃合いではなかったかと思われる。
その欲自体は決して悪いものではないが、1/100には1/100の、1/144には1/144の、それぞれスケール、サイズに見合った情報量やシリーズの役目という住み分けが大事であり、安易に1/144が1/100のダウンスケールになってもどちらもデメリットしかないだろうと思うのが、筆者の私見である。

可動軸を仕込みづらい関節に、可動アクションをくまなく仕込んだ設計の仕事っぷりは、賞賛すべきである

いろいろ文句を書き連ねてきたが、このアッガイは1/144 HGUC屈指の傑作キットであることは間違いはない。
クリアパーツを使ったモノアイレールの可動は、HGUC ドムのモノアイ可動の発展形ともいえるし、ほぼ全ての色分けがパーツ単位で完成しているところも手放しで称賛したい。
なので今回は、毎度お馴染み「関節を四肢色で塗る」に徹し、腕部は改めて塗装する場所がない代わりに、大きくポージングに影響して露出する首関節と、膝の関節を艦底色で塗装した。
モノアイは、シールを紛失したので、ピンクで塗装(笑)
ジオン水陸両用モビルスーツの中では、HGUC随一のクオリティのキットであろう。

市川大河公式サイト

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