
一年戦争開戦! シャアのザクが無数の量産型ザクを率いて連邦軍に襲い掛かる!
今回紹介するのは、ガンダム、ジオングに続いて真打登場の、シャア専用ザクのHGUCです!
ザクⅡ HGUC 1/144 032 シャア専用 2002年7月 1000円

ガンダムとの対決を背景に、こちらをにらみつけるシャア専用ザクのボックスアート!
ザクだザク!
いちいちザクⅡとか、後付けの名前で呼ぶな!
ザクはなぁっ! ザクザクっとくるからザクなんだよ!(意味不明)
ザクはあくまで、どこまで行ってもザクでしかないからザクなんだよ!(意味不明)

大河原立ちのHGUC シャア専用ザクの全身像
確かにザクは、最初に登場した『機動戦士ガンダム』(1979年)でも、量産型ザクの前期型としてプロトタイプのザクも出てきたが、今じゃあっちがザクⅠでこっちがザクⅡとか、わけわかんねぇ呼び方してるけど、あっちは“旧ザク”で、こっちが“ザク”でいいんだよ!
時系列的にそもそも当時のネーミングがおかしかったんだよとか言うな! こっちゃ37年間、その名前で呼んできたんだ! 今さら、帰ってきたウルトラマンのことを、ウルトラマンジャックとか呼べるかよ!(分かる人だけ共感してください)

シミルボン『機動戦士ガンダムを読む!』で再現した、シャア専用ザクのガンダムへのドロップキック!
だいたい、MSVから始まって、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』とかの後付け設定の山のせいで、今じゃテレビに出てくるザクの前に、どんだけの種類のザクがいたってことになってるんだよ。もうⅡとかってレベルじゃねーぞ! それともなにか? WindowsとかiOSみたいに「ザクVer.1.87.342」とか、そういう「まだまだ、何が何でもⅡは名乗らせませんよ!」みたいな、技術開発者の意固地なこだわりとかあるのかよ!

22年の時を経て、初代1/144 シャア専用ザク(左)との比較
というわけで、少し冷静になろうと思う。
実は、ガンダムやガンプラに疎い方は驚かれるかもしれないが、1980年に発売展開が始まったガンプラの世界において、1/144で、ガンプラシリーズ開始当初に出た1/144ザク(シャア専用ザク&量産型ザク)が、ザクFZでもザクⅡ F2型でもなく「ザク(紛らわしいんで、最初の『機動戦士ガンダム』アニメ版に登場したザクは「ザク」としか呼ばない)」として新製品として発売されたのは(色プラとかの、仕様代えを除くと)、1980年から次は、いきなり1999年のFG(=ファーストグレード)であり、その間の20年近くは一度もリファインがなかったという、結構意外な事実が浮き彫りになるのである(『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』(1996年)に登場した1/144 MS-06 J ザクⅡ(1998年4月発売)HGキットは、あくまで「『08小隊』でデザインリファインされたザクのキット」ということで、MSVと同じくザクのバリエーションとして扱われると思うため、1stガンダムのザクのキット化としてはカウントしない)。

肩関節の引き出しギミックの恩恵で、ザクマシンガンを正面に向けて両手で構えられる
例えば、ガンプラが映像世界を脱した1983年頃、商品展開がピークだったモビルスーツバリエーション(MSV)という企画の中で発売された、1/100 パーフェクトガンダムの外部装甲を外した状態は、紛れもなく「新規に造形された1/100のガンダムそのまま」であり、1/144 ザクマインレイヤーなるプラモデルも、ザクの金型自体は完全新規製作で、マインレイヤーバックパックとは別に、ノーマルザクのバックパックも入っていたのでザクに組むことも出来、それぞれを今でいう“Ver.2.0”として解釈することも可能だし、実際当時のユーザーたちはそう解釈していたが、しかし商品的にはあくまでも、パーフェクトガンダムはパーフェクトガンダムであり、ザクマインレイヤーはザクマインレイヤーであり、ガンダムやザクの「出し直し」ではなかった。

HGUC ザクの頭部UP。モノアイはシールで処理。成型色以外での量産型との差別化の指揮官ブレードアンテナは、こちらのシャア専用ザクにしか付かない
要するに、『機動戦士ガンダム 0080 ポケットの中の戦争』(1989年)における、出渕裕氏のアプローチと、商品化の際の差別化のバランスを、予め前提においた上での、「『機動戦士ガンダム』一年戦争中から後にかけての、番外編映像作品」と、「そこに登場する、デザインが新たに描きおこされたザクやガンダムを、既存のザクやガンダムとは別型という設定で模型化する」という関係に寄るビジネスが、しばらく根付いてしまったという流れがまずある。

ザク・バスーカを構えるシャア専用ザク!
それはそれで、ザクがザクのまま改変されないという意味においては、まぁ懐古厨としてはありがたい措置でもあるのだが、反面、解像度云々の話以前に、いつのまにやら次世代ガンダムファンの間では、立体でも商品でも、『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』(1991年)でカトキハジメ氏がデザインした「ザクⅡ F2型」という、ザクとは非常に似て非なるロボットが、我らがザクのふりをして、その後しばらくの間、派生作品などで自己増殖を繰り返し、ガンダム世界と商品展開に居座っていた時代が長かったのである。

ザクの格闘戦用武器、ヒート・ホークを構えるシャア専用ザク
そういう意味では、上記したFGガンプラのガンダムとザクは、原点回帰とカトキ氏作風との折衷であり、そこからもう一振り「ここまでガンプラの技術力が上がったのだから、もう一度アニメのデザインのザクにチャレンジしてみようよ」が、今回のHGUCなのである(というか、ザクに限らずガンダムもガンキャノンもゲルググも、HGUCには“そういうコンセプト”が共通して流れている)。

武器持ち手の穴は大きめに作られているので、ザクマシンガンも、ある程度の角度を変えて、持ち方に表情をつけることも可能
さてさて。
そんな紆余曲折を経て、36年ぶりに手を出した1/144 HGUC ザクですが。
キットの発売順が、ファンの複数買い対象としては当然量産型ザクが先だろうに、まるで1980年当時のガンプラ商品展開初動をなぞるかのように、まずはシャア専用ザクから出したという辺りが実に興味深い。
むしろ、2015年以降は『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』のおかげで、ザクはシャア専用ばかり出るようになってしまったが、それまではザクと言えば量産型。量産型ザクを何機も買うのがガンプラの基本!であった。

HGUC シャア専用ザクのバックショット。バックパックはアニメ版に準じて深紅のモンザレッドで塗装
HGUCシリーズも、ここまで実売商品とそれへのフィードバックを伴い、技術もノウハウも蓄積してきた。
そして2000年には、ようやく劇場版三部作の映画版のDVDが発売に漕ぎつけた(今に伝わる、ファンには悪名高い「特別版」である)。
今回の一連の、『機動戦士ガンダム』HGUCキットが020番台前後に集中しているのは、技術ノウハウの蓄積のための時間と経験値を溜め込むスパンと、劇場版DVD発売タイアップとの、二つの側面が伺える。

ガンダムへ向けてマシンガンを放つシャアのザク!
HGUC版ザクキットの出来は、ずっとザクⅡ F2型のバリエーションばかりで食傷気味だったイメージを、がっつりアニメ寄りに戻してくれて、その上で可動領域確保のための、最低限の現代的アレンジと改修が成されている良作。
確かに、今や15年前のキットだけに、昨今のRGやORIGIN版と比較すると可動範囲は心もとないが、しかしRGやORIGIN版は、なんていうか「解像度を上げ過ぎて、見たくもない毛穴までアップで見えちゃった」みたいな、実相寺昭雄監督の美空ひばりショーみたいな代物にも思えて(ネタ分かる人、これ、いる!?)、まぁRGやORIGIN版でも不都合はないのだけれど、なにぶん、あの辺のイマドキ過ぎるガンプラは、解像度が上がり過ぎて、もはや装飾過多に陥っているという印象は否めない。
なので、再現画像を作るにおいても、さまざまな時代やシリーズから、ベストなアイテムを選んできて並ばせるというコンセプトを考えると、RG版やORIGIN版のガンダムやザクは、せめてギャンやシャア専用ズゴックのように、RG版かREVIVE版が出ている物となら同じ画面で絡ませやすいが、RG版のザクをHGUCのガンタンクと絡ませたり、ORIGIN版ガンダムの脇にHGUCのジムが並んでいたら、やはり絵面として不安定なわけで。その上で「どちらがよりアニメ画面に近いか」で比較してしまうと、好き嫌いは抜きにして、この時期のHGUC版が一番バランスが良いのだ。

ザクマシンガンを受け付けないガンダムに向かって、シャアはザク・バスーカを撃つ!
さすが、このHGUC版ザクはツボを押さえている。
全ガンプラファン、隠れ出戻りガンプラモデラー待望のザクだけあって、肩のスウィング、腰アーマーの自然な分割、足首の三段構えジョイントによる設地性などを取り入れつつ、全身のプロポーションはほどよくどっしりアニメ版体型。
足の長さなどは、むしろ往年の初代1/144 ザクの方が長いほど。
パーツ分割も、この時期の他のHGUC同様、合わせ目が必要最小限で済んでいて、色分けもほとんど完璧なので(ここは後編で解説)、ニッパーとアートナイフさえあれば、20分前後で完成度の高いザクが組み上がる。
付属武器は、マシンガン、ヒートホーク、バズーカと、アニメ版のザクの基本武装は一通り入っているので安心。
ちなみに、シャア専用ザクには、シャアザクの象徴ともいうべき、額の中隊長用ブレードアンテナが付属しているが、量産型ザクには付属していないので、『機動戦士ガンダムⅢ めぐりあい宇宙編』(1982年)のあの“迷シーン”を再現するには、シャア専用ザクを量産型ザクのカラーで全塗装しなおさなければいけない。
その代わり、量産型ザクには、ランバ・ラル戦でザク部隊が装備した、両足脛のミサイルポッドが付属しているので、まぁそれなりの差別化としては成功している。
また、その他の部分での差別化でいえば、武器関係が、シャア専用ザクは濃いミディアムブルーで、量産型ザクは濃いグレーで成型されている辺りが明確な違いである。

HGUCで同一の金型を使った、量産型ザクを従えての2ショット
可動範囲はそこそこ。確かに「アニメデザインに忠実なザクの立体フィギュア」で、「劇中の様々な名場面を再現しよう」と思うのであれば、ガンプラでうろうろせずに、1999年にバンダイがギャクギレのネタのように発売した『可動戦士ガンダム』シリーズがあるのでそれを使えばいいという意見もあるのだが、あれはガンダムとザクぐらいしかラインナップがない上に、やたら「アニメ版です!」をいやらしく売り文句にするためだったか、ザクなどは下半身の股関節が、脱臼しているレベルで離れすぎていて、もはや人間の体型をしていなかったり、可動させたときの無理が、全部関節部分から丸見えになったり、アレはアレで喜んだ人も多かったとは察するが、筆者にはアレは「ホラ、アニメ版デザインまんまで可動を要求しちゃうと、こんな代物になっちゃうんですよ?」という、バンダイの嫌味にも受け止めてしまえて、今一歩素直に喜べなかったくちなので、今回はとことん、「ガンプラで」を貫き通したいのだ(一部例外はあるが)。

ガンダムに向かって、攻撃を放ち続けるシャア!
むしろ、イマドキの超絶可動ガンプラとは比較しちゃいけないという意味で、可動範囲以外でこのキットの唯一の難点を挙げるとすれば、やはり1/144ガンプラお約束の弱点・手首だろう。
このザクに限定して言及するのであれば、ライフルかバズーカを構える専用の手首がキットには左右両方付いてくるが、それ以外は両手ともまるで1980年の1/144への原点回帰かのように、「丸い穴の空いた拳」があるだけ。
それでもまだ、昨今の今風ザクの華奢な手首よりかはマシなのだが、これではどうにも表情が付けづらい。
そこで今回は、武器持ち手だけはキット付属の手首を使いつつ、平手や握り拳は、バンダイが2016年7月に発売した「HGBC 次元ビルドナックルズ(丸)」という、いわゆる「手首だけのガンプラオプションパーツ」を使用することにした。

バンダイ「HGBC 次元ビルドナックルズ(丸)」パッケージ
この次元ビルドナックルは、ガンプラの手首だけが、S、M、Lの3種の大きさで、握り拳、平手、武器持ち手の3種類、合計9個が×左右×2セットになっている商品で、歴代、可動指だったりポリ製だったり、迷いと試行錯誤の繰り返しだった「ガンプラの手首」に、一つの回答を導き出した良アイテム。
しかも、Zガンダム系以降の角ばった指をイメージした「(角)」と、『機動戦士ガンダム』の頃のモビルスーツの丸い指をイメージした「(丸)」の2種類が発売されており、各々のイメージとコンセプトで使い分けられる仕様。
今回は、このビルドナックルズの「(丸)」を用いて、ガンダムにはMサイズを、あえてザクにはLサイズを当てはめることで、放映当時のシルエットのバランスの微調整役として使用してみた。

シャアピンクで塗装してみた、「HGBC 次元ビルドナックルズ(丸)」のLサイズ平手

実際のHGUC シャア専用ザクに装着。同じ物は量産型ザクにも用意した
うん、悪くない、悪くないぞ、この大きさと形。
というわけで、なかなか理想の形に近いぞという感じになってきたHGUC ザク。
塗装に関してとか、その他、続きは次回、HGUC 040 量産型ザクⅡの解説で触れる。ということで、この続きはまた来週です!
市川大河公式サイト