アニメ化のリメイクで声優が一新されてしまうことがあります。
聞き馴染んだ声が変わってしまうのはショックでしたが、演じていた声優の方々も替わられる側、替わる側でそれぞれに複雑な感情を持って、役を演じていらっしゃいます。
ここでは、子どもの頃に馴染んだアニメ作品のリメイク等で声が変わった『怪物くん』の怪物くん役や『ゲゲゲの鬼太郎』の鬼太郎役を演じた野沢雅子さんの著書『ぼくは、声優。』を元に、白石冬美さんから怪物くんを受け取った思いと、鬼太郎を後輩の戸田恵子さんに託した野沢さんの思いと、白石さん、戸田さんの間にあった役を巡っての交流を紹介します。
新旧『怪物くん』
1974年生まれの私は1980年にシンエイ動画でアニメ化されテレビ朝日で放送された『怪物くん』で野沢雅子さんの演じた怪物くんを思い出すのですが、私よりも年上の方々には、1968年東京ムービーで制作され、TBSで放送された白黒の『怪物くん』で白石冬美さんが演じた怪物くんを思い浮かべる人達も多くいます。
1980年に『怪物くん』がアニメ化される時に、改めてキャスティングオーディションがあり、レギュラーメンバーは替わりましたが、一人旧作レギュラー声優が新作に戻ってきました。
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一人、戻ってきたオオカミ男はフランケンに
それは、旧作でオオカミ男を演じた兼森信吾さん。新しくフランケン役になった2代目相模太郎さんが50歳の若さで急死されたために、1968年版でオオカミ男を演じていた兼森信吾さんがフランケン役を引き継ぎます。
つまり、旧作『怪物くん』のオオカミ男は、新作『怪物くん』のフランケンになりました。
怪物くん役の交代をめぐって
新たなオーディションで主役の怪物くん役に決まったのは、野沢雅子さんでした。怪物くん役に決まった野沢さんは、それまで怪物くんを演じていた白石冬美さんに会って話をされたことを、ご本人の著書『ぼくは声優。』の中で書かれています。
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野沢さんが、役を替わられるつらさ、替わるつらさを書いた背景に、自分に代わって3作目の『ゲゲゲの鬼太郎』で主役の鬼太郎役を演じた後輩の戸田恵子さんへの思いがありました。次は、鬼太郎役についてです。
初めての野沢雅子さん以外の鬼太郎
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『ゲゲゲの鬼太郎』で主役の鬼太郎を最初に演じたのは、野沢雅子さん。1968年の最初のアニメ化の時も、1971年にカラーでリメイクされた時も野沢雅子さんが鬼太郎を演じました。1971版は再放送もあり、長く鬼太郎の声は野沢雅子さんの声で定着していました。
1985年、3回目の『ゲゲゲの鬼太郎』のアニメ化が決まったとき、鬼太郎はこれまで聞き馴染んだ野沢雅子さんではなく、戸田恵子さんが演じることになり、その時、戸田さんは鬼太郎を演じることを野沢さんに話されたことが、野沢さんの著書『ぼくは、声優。』に書かれています。
戸田さんに鬼太郎が決まった後で、アニメ雑誌に『カムバック野沢さん』と特集記事を見た野沢さんは、かわいがっていた後輩の戸田さんのことを思い、気の毒に感じたといいます。
その後、『ゲゲゲの鬼太郎』のリメイクでは、4作目(1996年)は松岡洋子さん、5作目(2007年)高山みなみさんが演じられていますが、最初の鬼太郎役の交代に対してのファンの抵抗は大きく、それゆえに、当時の戸田恵子さんのプレッシャーは大きかったのだなって思います。
3回目の鬼太郎を演じていたら孫悟空はなかった?
もしも、野沢さんが3度目の鬼太郎を演じていたら、『ドラゴンボール』で孫悟空を演じることはなかった、と『ぼくは、声優。』の著書の中で述べています。
3作目の『ゲゲゲの鬼太郎』が始まる前には、その後、『ドラゴンボール』がアニメ化されることは、分かりませんでしたが、結果的に鬼太郎を戸田さんが演じていたことで、新しく始まる『ドラゴンボール』の主役孫悟空を野沢さんが演じられる機会が巡ってきたわけで、本当に野沢さんのおっしゃる通り、何が幸運になるか分からないなって思います。
もしも、孫悟空を野沢さんが演じられなかったら、悟飯も悟天も違う声優の人が演じていたかもしれませんね。
ファンが知る前に野沢雅子さんから戸田恵子さんへ受け継がれた役
野沢雅子さんが演じた、演じる予定だった役が戸田恵子さんへ変更した役は、鬼太郎以外にもあります。それは、NHKで放送されたアニメ『子鹿物語 THE YEARLING』(1983年)のフォダウィング役。
この変更は、放送される前の変更であるために、当時のファンが知るものではなく、私も子どもの頃に『子鹿物語』は見ていましたが、最初から戸田さんが演じた役として記憶していました。
当初は、前日まで野沢雅子さんに決まっていましたが、野沢さんの仕事のダブルブッキングで演じられなくなり、急いで戸田恵子さんに交替されました。戸田さんが演じることになったのは、野沢さんと声質が似ているため。野沢さんの著書『ぼくは声優。』に書かれています。
野沢さんは、少し謙遜されて「汚い声」とご自身の声について評価されていますが、礼儀正しい正義感の強い少年の声は端正で嫌味のないすっきりされた声だと私は思います。やや、やんちゃな面があっても、決して過度に下品にはならないのが野沢さんの声で、それは戸田さんが演じる少年役にも通じるものを私は感じます。
戸田恵子さんが初めて演じた雨森始は、野沢雅子さんの代表作の一つ星野鉄郎に似てる
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ちなみに戸田恵子さんが初めて少年役を演じたのは、『新竹取物語 1000年女王』(1981年)の雨森始役ですが、この雨森始は、野沢雅子さんが演じた『銀河鉄道999』(1978年)の星野鉄郎によく似ています。戸田さんの初めての少年役が野沢さんの思い入れの深い、代表作である星野鉄郎に似た雨森始であるのも、不思議な縁といいますか、後にこれもまた、野沢さんの代表作である『ゲゲゲの鬼太郎』の鬼太郎を戸田さんも演じていく未来を暗示していたように思います。