J-WALK『何も言えなくて…夏』
1980年9月に結成されたJ-WALK(ジェイ・ウォーク)。
1981年6月にアルバム「Jay-Walk」、1stシングル「ジャストビコーズ」をリリースし、デビューを果たした。
本稿で特集する『何も言えなくて…夏』は、1991年7月にJ-WALKの18枚目のシングルとしてリリースされた。
ちょっぴり切なくて、思いっ切り泣ける名曲として、言わずと知れたJ-WALKの代表曲である。

J-WALK『何も言えなくて…夏』
1991年7月にリリースされた同曲だが、実はヒットまでには時間を要している。
約1年後の1992年夏頃から徐々に売り上げを伸ばし、翌1993年1月11日付のオリコンで初めて10位にランクインするという超スローペースだった。
ラジオでのパワープレーや、有線におけるリクエストなどが後押しとなった。
最高位の7位はその2週後と3週後に記録している。

裏面。時代を感じる8cmCD!懐かしくて何も言えねえ!!
1992年には有線大賞、日本レコード大賞「ゴールドディスク」などを受賞。翌年にはNHK「紅白歌合戦」にも出場した。
オリコンでは、1992年度に年間32位、1993年度に年間64位となっている。
ちなみに同曲は、1990年12月にリリースされたアルバム「DOWN TOWN STORIES」収録の「何も言えなくて」を基にした楽曲である。
リリースが夏だった為、サマーバージョンとして歌詞を変えている。
元々歌詞にあったメリークリスマスやサンタクロースといった冬を想起させる言葉を、ギターで作詞者の知久光康が書き換えた。
失恋を歌った名曲『何も言えなくて…夏』
イントロから叙情的なギターの音色が心に響く『何も言えなくて…夏』。
同曲の魅力には、繊細な男心を歌った歌詞の秀逸さもあると思う。
楽曲から歌詞を引用すれば、冒頭「綺麗な指してたんだね 知らなかったよ」から始まり、「こんなに素敵なレディが俺 待っててくれたのに」と別れた彼女を思い起こさせる内容となっている。
また、失って改めて気付かされた彼女の魅力を、未練の漂う歌詞にのせ、切なく歌い上げている。
続いて「”私にはスタートだったの あなたにはゴールでも”」と涙ぐみながら、彼氏にあえて非情な言葉をもって、別れを伝える女性の哀しみを描いた。
だが、男という生き物にとって彼女はいつまでも”自分の女”なのである。
同曲に登場する彼氏は、別れを告げられても現実を受け入れられず、ただただ「何も言えない」のである。
愛した女性を失ってしまう事、別れが現実になった事。そうした事実に男は鈍感であり、現実を認めようとしない。何故なら、それでも「まだ愛してたから・・・」なのだ。

綺麗な指してたんだね 知らなかったんかい!
そうした喪失感を享受しつつも、さらには「時がいつか 二人をまた 始めて会った あの日のように導くのなら」と、つい未来に希望を見出してしまう。
こうした恋愛における”現実逃避”は、なにも同作の彼氏だけではないだろう。筆者も男、いや漢である。彼の気持ちがよく分かるから泣けてくるのである。
男の辛い胸の内を見事に代弁し、約4分間の楽曲に歌詞を落とし込んでいる。共感を得られるのも当然だ。
なんとアンサーソングがあった!
2008年には『何も言えなくて…夏』のアンサーソングとして制作されたシングル「もう一度…」がリリース。
制作に至ったきっかけには、90年代の名曲が数多く収録されたコンピレーションアルバム「R35 Sweet J-Ballads」の存在があった。
ボーカルの中村耕一(現在は脱退)は、このコンピのリリースをCMで知ったそう。「自分たちが働きかけていないところで、曲が愛されていることはうれしいこと」と、名曲のひとつとして収録された事を素直に喜んでいる。
また、約100万枚を売り上げたコンピの影響により、同曲に登場する男女の”その後”を聴きたいとの要望が強くなり、アンサーソングの制作を提案された。

J-WALKのボーカルを務めた中村耕一
作詞は原曲同様、知久光康が担当。曲の出だしは「乗り換える駅 間違えただけ」とまたも掴みはオッケーな歌詞で、リスナーを物語の中へと誘う。
別れた二人が、長い年月を経て、何かのきっかけで出会うというのは、原曲の頃からおぼろげにイメージしていたそうで、それがついに具体化した。何年経っても不器用な男が描かれている。
メンバーには「身近で愛される曲。(聞き手が)歌いたいと思える歌を作りたい」という強い想いがあったそうで、レコーディングはツアーの合間だった事もあり、10月に始まり、2月まで掛かったそう。
メンバーだけでなく、スタッフも含め何度も修正を行い、完成させた。そうした曲作りは初めてだったが、中村は非常に楽しかったとコメントしている。
なんと様々なバージョンがあった!!
『何も言えなくて…夏』が時代を超えて愛されれば愛される程、同曲には様々なバージョンが生まれていくようだ。
前述した1990年12月リリースのアルバム「DOWN TOWN STORIES」の「何も言えなくて」を1曲目としたら、2曲目が本稿で特集した『何も言えなくて…夏』となる。
以降、
・1991年11月21日の「何も言えなくて…夏 (ORIGINAL LONG VERSION)」
・1991年12月16日の「何も言えなくて (winter version) 」
・1994年4月2日の何も言えなくて・・・ 夏 ※ライヴバージョン
・2006年7月19日の「何も言えなくて・・・ 夏 ※セルフカバー」
・2007年11月28日の「何も言えなくて…冬 ※オリジナル曲のリミックスバージョン」
・2008年3月26日の「何も言えなくて・・・ 夏 2008」
・2008年11月5日の「何も言えなくて (アコースティックver.)」
・2012年9月12日の「何も言えなくて…夏 (2012 Mabuchi Hidemasa Version)」
・2012年11月21日の「何も言えなくて~WINTER MIX~」
などのバージョンが存在する。これらを全て聴き尽くし、コンプリートした方は真のジェイ・ウォーカーである。

バージョンが多いんだね 知らなかったよ!
カラオケの定番である『何も言えなくて…夏』。
前述のコンピがリリースされた2007年頃には、同曲のカラオケチャートは280位から80位台に浮上し、コンピ収録曲のメドレーも配信された。
筆者も友人とカラオケでよくマイクの奪い合いをする。必ず歌いたい一曲。絶対負けられない奪い合いがそこにはある。
夏だけでなく、年中歌いたい名曲を特集した!