ジュディ・オング『魅せられて』翼のような優雅な衣装と歌詞の謎について

ジュディ・オング『魅せられて』翼のような優雅な衣装と歌詞の謎について

1979年のレコード大賞を受賞したジュディ・オングの代表曲『魅せられて』。翼みたいな衣装を選んだ理由や、多く人が勘違いしたサビの歌詞、この曲がヒットした背景について、動画や画像を交えて紹介する。


1979年のレコード大賞を受賞したジュディ・オング『魅せられて』

『魅せられて』はジュディ・オングにとって、28枚目のシングル。
ジュディ・オングのエキゾチックで妖艶な雰囲気とマッチした幻想的な歌は、女性下着メーカーワコールのCMソングとして流れるや、全国から有線とラジオの電話リクエストに火が付いた。

1日で10万枚の注文が入るなど、爆発的な売れ行きをみせ、オリコンチャートで9週連続1位に輝き、1979年の年間シングルチャートでは第2位を獲得した。
累計では200万枚以上売れている。

なぜ『魅せられて』は翼のような衣装で歌うになったのか?

ジュディ・オングが『魅せられて』を歌唱する時は、両手を手を広げると裾から手首まで袖が扇状に広がる白のドレスを着用した。

羽を広げたようなこの衣装は強いインパクトを与え、人気番組『8時だョ!全員集合』内で志村けんがパロディーを演じ、当時の小学生はカーテンやテーブルクロス、シーツやバスタオルなど、あらゆる布を使って学校や自宅でモノマネしていた。
この衣装は小林幸子や天童よしみらにも影響を与えたと言われている。

手を広げると扇状に広がるスクリーン・ドレスのアイディアは、この曲のプロデューサー酒井政利とジュディ・オングの会話がヒントになったという。
酒井が占い師の王麗華に「あなたの守り神は孔雀明王です」 と告げられた話をジュディにしたところ、 「中国でも、孔雀は神聖な鳥として、人々の畏敬の対象なんです」と盛り上がり、そこから孔雀の羽のように広がるあの衣装が決まったのだという。

そして、このドレスにはエーゲ海の映像を映すための「スクリーンドレス」としての役割が決定していた。
しかし、発表時に映像が間に合わなかったので実現できなかったと後に明かされている。

現在でもジュディ・オングが「魅せられて」をステージで歌唱する際に必ずこの衣裳を着用している。

扇状の袖の先を中指に引っ掛けるタイプであった。

当時の衣装

現在では、手首に芯を取り付け、袖に筋を入れて鳥の翼のように大きく広がるものにバージョンアップされたもの(通称:スーパー魅せられて)が使用されている。

現在の衣装(スーパー魅せられて)

2009年12月31日に放送されたテレビ朝日の年越し特番『年越し雑学王』で、年越しのカウントダウンと同時にこの曲を生放送で披露。
2010年になったと同時に衣装に『あけましておめでとうございます』のメッセージ入りの映像が映し出される演出が行なわれ、初めてスクリーンとして使用したと語っていた。

遂にスクリーンドレスとして使用される!

『魅せられて』が官能的な歌詞になった理由

『魅せられて』の作詞は、阿木燿子。
歌詞は男女のきわどい関係を歌詞の随所にちりばめている。

刺激的な歌詞と、妖艶に「Uhー Ahー Uhー Ahー」とややあえぐように歌うジュディ・オング。
なぜ『魅せられて』は、こんなにエロティックな歌になったのか?

それはこの曲がタイアップを前提としたものだったからである。

当時、池田満寿夫が官能的な小説「エーゲ海に捧ぐ」で芥川賞を受賞。
この小説の映画化を配給することになった東宝では”エーゲ海ブーム”が作れないかと考え、広告代理店・電通は直接企業が結びついたタイアップでキャンペーンではなく、間接的に違う業種の企業同士が一つのブームを作り出す仕掛けを発案。

それに賛同したのが下着メーカーのワコールだった。
ワコールは、映画「エーゲ海に捧ぐ」に出演したイロナ・スターラ(芸名:チチョリーナ)をCMに起用。
そして、CMソングとして作られたのがジュディ・オングが歌ったワコールのイメージソング『魅せられて』であった。
映画「エーゲ海に捧ぐ」と直接的なタイアップではないが、テーマである『エーゲ海』とストーリーを連想させる官能的なフレーズは、こうした計算によって生まれた産物であった。

なお、『魅せられて』のB面に収録されている『クレタ島の夜明け』もエーゲ海の風光を題材にした曲であり、歌詞にもエーゲ海 (Aegean) が登場する。

ローマで絵の勉強をしている学生ニコスは下宿の女主人エルダと肉体関係があったが、画廊経営者の娘アニタとも男女のつきあいをしている。ギリシャの別荘行きをアニタから誘われたニコスは、エルダの妹リーザを同行してエーゲ海に臨むその地へ赴くが……。
製作は熊田朝男。版画家であり、芥川賞作家である池田満寿夫が、自らの小説『エーゲ海に捧ぐ』と『テーブルの下の婚礼』を基に、初めて脚本・監督を担当。

【映画】エーゲ海に捧ぐ

イメージキャラクターには映画「エーゲ海に捧ぐ」に出演したイロナ・スターラ(芸名:チチョリーナ)。
CM映像には映画「エーゲ海に捧ぐ」のシーンが使われていたことがあった。

ワコールの宣伝画像

サビの英語詞は何と言っているのか?

語学堪能なジュディ・オングの発音が良すぎて、サビで出てくる英語の詞は何と言っているのかわからない人が続出した。
(ジュディ・オングは、母語である台湾語のほか、日本語、英語、中国語、スペイン語の5言語を話すことができる。)

「Wind is blowing from the Aegean」を訳すと、「風はエーゲ海から吹いてくる」である。
Aegean=エーゲ海
発音はイヂィーアン(ヌ)

台湾出身のジュディ・オングが歌っていることもあり、Aegeanの部分をアジアンと誤解されていた。
いまだに勘違いしている人が多く、サビの英語は何て言ってたっけ?と聞けば「なんたら~ほにゃらら~アジアン~」と答える人が3人に1人はいるはず。

ジュディ・オングにとっての『魅せられて』

当初、歌手がジュディ・オングであることは明かされていなかった。

『魅せられて』は詞がまず上り、それに合わせて曲が作られた。
ジュディ・オングに歌わせることは、「彼女の暖色とでもいうのだろうか、どこか南の国を連想させるような声が好きだった」 という理由プロデューサーの酒井が決めた。

スポンサーであるワコールは曲を気に入ったものの、ジュディ・オングの起用には難色を示した。
当時、時代劇に多数出演していたのと、身長が153cmと小柄だった為、商品のイメージに合わないというのが原因だったという。
ワコールは、歌を入れないインストゥルメンタルの楽曲で行きたいと主張。
協議の結果、CMには英語のサビの部分だけ流し、歌手名のクレジットを入れないことで決着した。

だが、CM放映が始まると、問い合わせが殺到。
リリースされた『魅せられて』は、3日間で15万枚を売り上げ、あっという間にヒットチャートを駆け上った。

ジュディ・オングは、「この歌を出した時期、曲、詞との出会い、すべてタイミングがピタリと一致した。スタッフにも恵まれ、CMの話があり、映画(エーゲ海に捧ぐ)の宣伝イメージソングにもなった。人生と同じ、タイミングが大事」と当時のインタビューで答えている。

想定をはるかに超える大ヒットで生活は激変。

『魅せられて』のヒットにより、ジュディ・オングはベストテンなど歌番組の出演が相次ぎ、雑誌の取材にCM、グラビア、主演テレビドラマ、果ては全国交通安全運動の1日警察署長まで務めることにもなった。

体調管理のため1日8時間睡眠を徹底していたが、忙しさのあまり半分の時間に。
体調を崩して病院に担ぎ込まれることもあったという。

そして、ヒロインとしての出演がほぼ決まっていた映画「将軍」の出演を製作発表当日に辞退することに。
この曲で悲願の日本コード大賞受賞を狙っていた所属のCBSソニーは、かなりの日数を拘束される映画撮影を避け、歌手活動を続ける戦略に出たのだった。

三船敏郎も出演したハリウッド大作映画の出演を見送ってまでの選択はレコード大賞受賞という形で報われ、ジュディ・オングは「いつもはみかんを食べながら家で見ていた」紅白歌合戦にも初出場した。

『魅せられて』がヒットした翌年の1980年には台湾の国民栄誉賞・海光奬彰を受賞。(王貞治に続き2人目)

ジュディ・オングにとって、『魅せられて』はその後の芸能活動のみならず人生を大きく左右する一曲になった。

戦乱の世が終わった1600年ごろの日本を舞台に、大閣秀吉亡き後の諸大名の動行と、漂着した1人のイギリス航海士が旗本になってゆく過程を描く。製作総指揮・原作は「大脱走」の脚本で知られるジェームズ・クラベル、製作・脚本はエリック・バーコビッチ、監督はTV『自動車』のジェリー・ロンドン。

ジュディ・オングが演じる予定であったヒロインは島田陽子が演じることになった。

将軍 SHOGUN

意外な人もカバーしている『魅せられて』

昭和歌謡史に燦然と輝く名曲『魅せられて』

200万枚以上を売り上げ、昭和歌謡史に燦然と輝く『魅せられて』。

当時は知らなかったこの曲の誕生ストーリーや、意識することなかった歌詞の意味などを理解しながら聴くと、また違った味わいが感じられる。

ジュディ・オングの人生を変え、その後の日本歌謡界における衣装にまで影響を与えた名曲は、きっと次の世代以降も魅了し続けるに違いない。

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