手と手を結びあって大きな輪に!「平成のKOキング」坂本博之さんが子供たちに届けたいこと。

手と手を結びあって大きな輪に!「平成のKOキング」坂本博之さんが子供たちに届けたいこと。

不動心を背負い「平成のKOキング」「和製デュラン」の異名でファンを魅了したプロボクサー坂本博之さん。2000年の畑山隆則(横浜光ジム)に挑んだWBA世界ライト級王座戦は、結果として敗けたとはいえファンにより同年年間最高試合に選ばれています。ボクシングに惹かれボクサーとして生き抜き、そして今彼が目指しているものは何か――編集部がインタビューしました。


ジムを作ろうと思うようになったのは引退してからです。



僕は引退してから3年間は角海老ジムでトレーナーをやったんです。その前の現役時代、僕は児童養護施設の子供達の関わりってのは、僕の出身である福岡の和白青松園の子供達との関わりだったんですよ。引退してトレーナーになってからは僕にも時間が出来てくるじゃないですか、日曜祭日とか。だから、引退した年からその休みを利用して全国の施設の子供たちを訪問したんです。



夢を叶えるためにはどうしたらいいか、夢がまだ見つかっていない・わからない子に対しては、どうやったら夢を見つけていけるのかを、その経験者・当事者として、先輩として伝えたくて回り始めようと思って、引退してから全国の施設に行き始めたんです。今まで北は北海道、南は沖縄の児童養護施設を訪問しています。

編集 全国津々浦々ですね!

ちょっと見ますか(と、写真集を見せてくださる坂本さん)。



これは現役時代、児童養護施設の子たちが作ってくれたチャンピオンベルト(の写真)です。僕、全国の施設を回って、準備体操とか色々をするんですが、僕ひとりではできないので、手伝ってくれるみんなと行くんです。僕のジムから生まれたプロ第一号の選手は鹿児島の施設出身で、彼も手伝ってくれます。ただ、こういう活動は、今のジムができる前までは僕の自宅でやっていたんです。で、色々な子供たちと出会っていく中で「ああそうだ、だったら拠点となるジムを作ろう」と。



この全国の児童養護施設の子供たちを訪問する活動の名前が「スカイハイリングス」と言うんです。スカイハイリングス。スカイハイっていうのは高いという意味、リングスは輪です。エス(複数の意味)を付けることで「輪になって、団体になって繋がっていく」という意味を込めました。



荒んだ気持ち、ウジウジした気持ちを空高くぐんと高くあげていこう、そして人間は輪になって生きていくんだ、手と手を結びあって大きな輪にしていこう、という願いをこめて「スカイハイリングス」。この活動を通していろんな子たちをうちのジムで受け入れたい、そうであれば、坂本ボクシングジムとか僕の名前じゃなくて、「スカイハイリングス」のアルファベットをとって「SRS」、これが最善だと。



そうやって9年前にSRSボクシングジムを作りました。この子たちをプロデビューさせるためにもジムをつくってプロ加盟して。そうこうしながら、プロ一号になる子も出て。こうやって、この子たちの笑顔を止めない。続けていく。繋がっていこうという気持ちです。

ジムでの練習風景

不動心をいまも背負う

編集 これもまたボクシングのリングとは違うけど同じ「リング」ですね。

施設に入る子供たちには色々な、様々な理由があります。全国の施設の園長さんの話を聞きますと本当にそうなんです。そういう子供たちに対して「確かに君たちのことを傷つけたのは大人、人かもしれない。けれども、その傷ついた気持ちを受け止めるのも大人、人なんだよ」と。「こういう笑顔を引き出していくのも人なんだ」と、だからリング「ス」だと、みんな繋がっていくんだと、手と手を結びあっていくんだと。そういうことをこの活動の中で、ジムで伝えていけたらなと。この、子供たちの笑顔は、止めない。



子供って、年齢関係なく、想いを込めて言葉に出して相手に伝えることが難しい。我々大人でもそうじゃないですか、意思を相手に伝えるのは難しい。例えば嬉しかったこと、悲しかったこと、怒ったこと・・・そういうのをイチから説明するのってすごく難しいと思うんです。



だから僕は子供たちにはもう一言、「年齢関係なしに、君たちのこれまで生きてきた人生の中で一番嬉しかったことを頭の中で考えてごらん」と聞いています。「嬉しいことなんか無いや」って言われたら、「じゃあ今日おじちゃんと出会ってどうだい?」って聞くと、笑うんですよ。だから「その思い出で良いよ」って。



「ごはんの時に好きなものが出たらちょっと嬉しい、それで良いよ」と。で「一番悲しかったこと辛いこと、忘れたいこと・・・色々なことがあるけど、その思いは説明しないで良いよ」と。それを言う必要はないよ、と。「怒ったことは説明しなくていい。それを拳でめいっぱい打ってくれ」って、するとその子はすっきりした気持ちをした顔になるんです。



そりゃ本当は誰かに伝えたいし、キャッチボールしたいんですよ、言葉に出してね。でも言葉に出さなくてもキャッチボールはできる、その行動で相手に伝えることはできる、と伝えたくて。傷つくのも人だけど、受け止めるのも人なんだよ、と。



自分がされて嫌だったことは人にしない人間になれば、辛い連鎖は自分で止められる。逆にされて嬉しいことは周りにしていこう、と。そうしたらその良い連鎖は止まらない。僕はそういうことをボクシング精神を通して話しています。

編集 子供さんもですが、この活動に関わる子供さんも大人たちも、みんな笑顔になりますね。

そうなんです! 手伝ってくれる人の中には現役時代の時はライバル同士だった人もいます。お互いリングを引退して今は友達として一緒に手伝ってくれます。また、ボクサーだけじゃなくて、僕の周りにいるボクシング以外の方々も手伝ってくださって。



「私に出来ることは何ですか」と芸能人の中川翔子さんなども言ってこられて。だからボクシングが苦手な人のために「じゃあ歌を招待してほしい」と。ザ・ぼんちさんは漫才芸を披露してくださいました。みんな出来る範囲で色々です。腕相撲とかね、抱き締めたりとか、色々です。



最後の時、僕、子供たちが作ってくれたチャンピオンベルトをリングにあげて引退試合したんです。これもこの活動ですね。SRSです。ボクシングセッションですね。言葉で説明することはしなくていい、拳ひとつの想いを相手に伝えるんだ、と。

杉浦貴選手(プロレスリングノア)やS-KEEP PROMOTIONの神谷亨代表なども「輪」に。

幅広い交流もリングスに繋がっています

プロレスリング・ノアの生き字引!「中年の星」杉浦貴選手の素顔に迫ります!! - Middle Edge(ミドルエッジ)

総合格闘技ジム&マッサージ S-KEEP |東京都世田谷区尾山台

編集 年間の取り組みは。

今年ももう何か所も行っていますね。児童養護施設訪問だけじゃなく、映画の上映会に施設の子を招待したり、成人式にも。施設の子たちの成人式にも。

編集 数えきれない回数ですね!

はい。行ける限り伺っています。

編集 子供たちの人生そのものも繋がって、また、それを見守っていく大人の皆さんも。

例えば学校の教職員の皆さんもそう。これ、僕、小学校などでも講演しているんですよ。そうしたら、先生たちから「僕たちに出来ることは何ですか」と言ってこられて、先生としてではなく当日のスタッフとして手伝いにきてくださっています。この活動は僕ひとりじゃできないんです。みんなで作るんです。



これ以外には、少年院にも訪問しています。これからの人生で自分がしてきたことを背負っていく子供たちもいるわけです。忘れたくて忘れられなかったり、それを気持ちの中で引っ張ってしまって。ひとりで我が道を突っ走ってしまうと良くない。



「わが道を行く」という言葉はカッコいいけど、人との輪の中で我が道を進むなら良いけど、「ああもう関係ねえや」ってひとりで行ってしまうと、それによって誰かが困ったり泣いたりするし、何より、その一本道には行き止まりがあるんですよ。そうなると誰も支えてくれない。



でも「人との輪の中でわが道を行けば、その輪、リングスの中には行き止まりはないだろう?」と伝えています。「その人その人が手と手を結びあって大きな輪にしていく、この輪の中にお前もいるんだぞ」と。「そうやって社会は成り立っているんだ。だから、これをやったからもう終わり、ではなくてこれからの生き方次第なんだよ」と話しています。

編集 ほんとうにリングス、繋がる輪ですね。

その活動ですから。あと、「こころの青空基金」という取り組みもしていて、これはこの活動のために使われる基金です。子供たちに持っていくオヤツやミットとグローブなどを購入するためだったり、試合に招待したり、うちのジムに来るための予算だったり。



それに、僕だけではなくボクシング界も協力をしてくれる。社会貢献の一環としてボクシング協会の人たちが試合に招待してくれるんです。これもみんな仕事としてじゃなく、利害じゃなく、気持ちです。

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